リトルアーモリー Lust Bullet   作:早坂 将

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銃が欲しい


Mission:6

翌日、集合場所であるバス停に向かうと既に俺以外は全員揃っていた。

思っていたより暗い雰囲気はないことに安堵して、小走りで皆の元へ。

 

「さーせん、遅れましたー」

 

「全然大丈夫。気にしないで」

 

暑い中待たせてしまったというのに、先輩は花が咲いたような笑顔でそう言ってくれる。それだけでも来た甲斐が有るってもんだ。

 

「女の子を待たせるなんて、周紀先輩、彼女できませんよぉー」

 

「OK未世。そんなに俺に訓練されたいなら今ここでつけてやる」

 

ニヤニヤしながら茶化してきた未世のデコに渾身のデコピンを食らわすと、短い悲鳴を上げて俯いて静かになった。

 

「…先輩と未世、昨日から随分仲良くなりましたね…?」

 

相棒である白根さんが、少し眉間に皺を寄せて呟く。その背後には『痛いですぅー…』と言いながら額を摩る未世がこっちを睨んでる。

 

「未世だけじゃなくて、お前達も希望するなら訓練なり何なり付き合ってやるから連絡しな」

 

昨日は未世だけに言った事を改めて1年生に伝える。先輩は1年生達の後ろで俺らのやりとりを静かに見守っている。

 

「訓練だけじゃなくても、救援が欲しい時とか、助けが欲しい時はいつでも呼べ。力になってやる」

 

「それは私にも言ってるのかしら?周紀君?」

 

なんか先輩からも名前呼びされたんだけど。何で?

 

「私たちにはまだ経験も実力も足りません。昨日は援護ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 

豊崎さんが暑苦しいほど礼儀正しく言葉を繋いで頭を下げたのに続いて、1年生達が全員頭を下げた。

 

「ちょ、お前達、そんな畏まらなくていいから」

 

最後に先輩がテンパリ気味に頭を上げさせる俺に、声をかける。

 

「彼女達だけじゃなくて、私も感謝してるのよ?昨日の任務は周紀君がヴォイテクを引き付けてくれたから照安さんが撃つことができたの。たとえ周紀君が稼いだ時間が一瞬だったとしても、その一瞬が私達の命運を分けたと言っても過言じゃないわ」

 

手放しで褒められて、だんだん気恥ずかしさがこみ上げてきた。最近は問題ばかり起こしていたから、嬉しい反面、むず痒くもある。

 

「俺はいつも通りやってるだけです。武学高校の連中と任務に行った時も、大体こんな感じですよ」

 

先輩達の目を見てられなくなって、堪らず視線を逸らす。

横目で見ると、先輩はともかく、1年生達には最初に感じられた俺に対する緊張感が無くなり、代わりに信頼感を感じられた。そんな純粋な目で俺を見ないでくれ…。浄化されそう…。

 

「あれあれ?周紀先輩照れてるんですかぁー?少しは可愛いところあるんですねぇー」

 

懲りずにまたもや茶化して来る未世。この野郎…。

 

「おい未世。てめぇプールに沈めてやるから覚悟しろよ?」

 

「きゃーこわーい!先輩!周紀先輩が虐めてきます!」

 

「だめよー周紀君。女の子虐めちゃ」

 

未世はわざとらしい悲鳴をあげて、今度は先輩の背後に隠れた。

先輩も便乗して笑いながら俺を叱ってくる。

他3人も便乗しだしてしまい、正直こうなった女性陣は止められない。

騒がしくなった女性陣から逃れたかった俺は、タイミングよく到着したバスに逃げ込む選択肢を選んだ。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

それぞれで入場料金を払って施設に入った後、別れて更衣室に入り、脱いで着るだけの俺はさっさと着替えを済ませて、更衣室前の丸テーブルを囲むようにして置いてあるベンチに座る。

至って普通のトロピカルカーキの水着に、化繊のスポーツシャツをあわせているが、普段外でこんな薄着をしないため、かなり落ち着かない。同行者5人も容姿が良い事も考えると尚更。望月達が戦闘とは違う緊張で少しソワソワしてる今の俺を見たら何と言うか。揃って爆笑するに違いない。そしてその後殴ってきそうだ。『リア充爆発しろ!』って言いながら。

 

(あいつらも、俺みたいに演習メンバーで遊びに行ってんのかな)

 

なんて事を考えながら、頬杖付いてプールを眺めていると、

 

「わあ……、な、なんだか遊園地みたいですね……」

 

聞き覚えのある声を聞いて更衣室を見ると、着替え終わった女性陣が揃って出てきていた。

 

「おーい、こっち」

 

椅子から立ち上がり手を振りながら全員を呼ぶ。

真っ先に気付いた先輩が先頭を歩き、話しながらゾロゾロと歩いてくる。

途中、数人の男が先輩達を見て顔を輝かせ、進行方向にいる俺を見て恨めしい視線を送ってくるが、全て無視だ。

 

「お待たせ周紀君、待たせちゃったかしら?」

 

「いえ、全然。揃いも揃ってよくお似合いで」

 

照安さんが真っ先に顔を真っ赤にして、他の3人も気まずそうに顔を逸らす。先輩は何と言うか、余裕そうである。皆個性的で魅力的な水着を着ているが、白根さんは…、きっと調達が間に合わなかったんだろう。そういうことにしておこう。

 

「ありがとう。周紀君も似合ってるわよ。さあ、とにかく、みんな着替え終わったんだし、早く準備運動して泳ぎましょ」

 

微笑みながら言う先輩にこちらも礼を言う。

セクハラ発言をした未世が水着の価値観で白根さんに撃沈されたりしているのを見かねて先輩が急かす。

ウォータースライダーを指さした先輩の、『アレに乗りましょうか』という提案に俺は真っ先に乗っかる。

 

「お2人共、ああいうの好きなんですか?」

 

「ええ、もちろん好きよ。絶叫系のアトラクションも大好き」

 

「気が合いますね。俺も大好物です」

 

未世の問いかけに、俺と先輩は顔を見合わせて答える。

他の1年生達も先輩対して意外がるが、俺にはというと、

 

「谷岳先輩は…、何となく分かります」

 

「確かに、好きそうですよねぇ」

 

「おいそれはどういう意味だ?先輩が大人っぽいって事は、俺は子供っぽいってか?」

 

白根さんと未世のコメントに食いつき睨むと、未世が慌てて弁明する。

 

「そ、そういう意味じゃなくてですねぇ…、えーと、その」

 

「しどろもどろになってる時点でもう答えは出てるじゃねぇーか!」

 

デコピンの刑に処すべく未世を捕まえると、

 

「そういうところじゃないでしょうか…」

 

という豊崎さんの呟きで我に帰った。

ハッとして豊崎さんを見て未世を解放すると、そそくさと先輩の所に逃げて背後に隠れる。

なんというか、このトムとジェリーみたいなやりとりが、今後も続くような気がする…。

 

「とにかく、俺と先輩はアレに行く事は確定だけど、お前達は来ないの?」

 

俺は〇〇するけどお前はしないの?的な煽りをかまして、未世と照安さんはその場でノッてきたが、豊崎さんは無言の圧力をかけてようやく動き出した。白根さんは最初から付いてくる気だったようで、豊崎さんが動いたのを見てクスりと笑いあとを追ってきた。

 

「なんだかんだで豊崎さんが1番楽しそうだったな」

 

滑り終わって最初に思った事をそのまま口にする。

 

「先輩、うるさいです」

 

余計なこと言うなとでも言いたげな顔でそう言う豊崎さんも子供っぽいと思います。口には出さないけど。

 

「あれ…、凛さんはどこに行ったんでしょう……?」

 

照安さんがキョロキョロしながら言う。確かに姿が見えんな。

疑問に思ったのもつかの間、すぐに姿を表した。

 

「きゃっ!?」

 

反射的に避けたが、白根さんが持っている水鉄砲から出た水は、未世の眉間に見事命中し、その顔面を濡らす。

奇襲に成功した白根さんは大いに満足そうである。

どうやら水鉄砲は無料で貸し出されているらしく、他にも手榴弾として使うのか、水風船まで持っていた。

豊崎さんが白根さんから水風船を受け取り、投げた先には先輩がいて、顔面にクリーンヒットして弾けた水風船は先輩の顔を未世の比じゃないレベルで濡らす。

応戦のため貸出受付に走り出した先輩と未世を見送り、俺も遅れてオロオロしてる照安さんを連れて受付へ向かう。

プールサイドを舞台に2人づつのペアで始まった水銃撃戦は、一般客からしたらそこそこ面白い見世物になったようで好評だった。ただし男共の俺への目線は険しいものだった。悔しかったらお前らも銃を取れ。

程々に疲れたタイミングで着替えてまた集まる。

未世と白根さんと照安さんが売店を見に行って、程なくして照安さんが豊崎さんを連れて行った。

その際、照安さんが『しばらく先輩の注意を反らせてくださいっ!』と小声で言われ、何となく察して目線で了解を伝える。

照安さんに手を引かれ駆け足で売店へ向かう豊崎さんを見送って、言われた通り先輩の注意を引くために話しかける。

 

「先輩、今日はありがとうございました。そしてすいません」

 

「急にどうしたの?」

 

突然お礼と謝罪を言われてキョトンとする先輩に微笑みかけ続ける。

 

「普段俺の周りにいる奴らは“出来る”奴らなので、正直メンタルケアについて気にしたことが無かったんです。俺も考えてやらないといけなかったのに、ほとんど先輩に丸投げしてしまったので」

 

そこまで説明すると先輩も何が言いたいか分かったようで、

 

「今までずっと外回りで、内回りの勝手を知らなかったのだから仕方ないわよ」

 

と微笑みながら言ってくれる。

 

「それでも、あいつらが1年生だって事を少し考えれば、簡単に思い至る事ですから、その辺の配慮が足りなかったです」

 

荒療治で無理やり慣れされる外回りと、労りながら慣れていく内回り。

イクシスの脅威から守るべきものを守るという、共通の目的があるものの、その道のりは違うものなのだ。

 

「先輩がいて下さって、本当に助かりました。もし、このチームの上級生が俺一人だったら、こんないい空気にはならなかったでしょうね」

 

少々自虐的な言い方になってしまい、外回りで起こった事を思い出す。

PTSDになる者や、そのせいで学校を去った者。

“生き物を殺す”という事を躊躇い逆に殺された者や、そのせいで仲間を死なせてしまった者。

それらを振り払うため目を瞑り頭を振って、先輩に向き直る。

 

「実戦経験を積むことばかりに気を取られて、他の事が疎かになっていた事に気づきました。正直な話、名簿を見た時、面倒臭い事になったと溜息をつきましたが、今はもう、そんな事は思っていません」

 

俺は真剣な顔で、対する先輩は見た人を安心させるような、優しい笑を浮かべて。

 

「これから演習も始まりますが、改めてよろしくお願いします」

 

無帽の敬礼(10°の敬礼)をして頭を上げる直前。

 

「あなたの噂は、名簿が配られる前から聞いていたけど…」

 

変わらない笑顔のまま、先輩は俺の目を見て続ける。

 

「初めは怖い人かと思ったわ。噂だけ聞いてれば、当然ね。でも実際に会って話して、任務に行って、こうやって一緒に遊んで、あなたは少し不器用だけど、仲間や後輩想いの優しい子だってよく分かったわ。今みたいに自らの至らない点を認める事も、純粋な証だもの」

 

ここまで言って、先輩は手を差し出す。

 

「朝も言ったけど、このチームにあなたがいてくれたお陰で本当に助かったわ。こちらこそ、改めてよろしくお願いします」

 

「ありがとうございます。先輩と俺で、あいつらを“強く”してやりましょう」

 

差し出された手を握り返し、俺も笑を返す。すると、

 

「愛って呼んで」

 

「え?」

 

「前から思ってたのだけど、朝戸さんだけ名前呼びなんて、何となく壁を感じるわ」

 

「そう…ですか?」

 

「そうなの。だから、私の事も名前で呼んで?」

 

俺はあまり、人を名前で呼ぶことは無い。

別にこだわりがある訳じゃないのだが、何と言うか、違和感があるのだ。

だが、先輩がここまで言うのなら、断る事はできない。

 

「……分かりました。愛さん」

 

「うん!よろしく、周紀君!」

 

先程よりいい笑顔になった先輩に釣られて、俺も笑う。

 

「先輩方!お待たせしました!」

 

2人だけの空間のように話して笑いあっていた所で、未世が介入してくる。

 

「谷岳先輩、時間稼ぎお疲れ様ですっ!」

 

「時間稼ぎ……?」

 

先輩が崩れた敬礼をした照安さんが言ったことに疑問を浮かべて、首を傾げる。

 

「……これを先輩達に」

 

白根さんが俺と先輩に一つづつ紙袋を差し出す。

どうやら、未世の発案で奢ってもらったり助けてもらったお礼にプレゼントをしようということになったらしい。

驚きの声と表情を浮かべる傍らで、俺は予想外すぎて真顔になる。

 

「これまで奢って頂いたり、助けていただいたことに比べれば、全然安いもので申し訳ないですが……」

 

白根さんが謝るが、先輩が礼を言い開けていいかと聞く。

俺も同じように聞いて、全員の返事を確認してから開ける。

先輩にはアニメのステッカーが4種類。

俺にはデフォルメされたシャチ、サメ、クジラ、イルカのキーホルダーだった。

正直、涙こそ流さなかったが、ちょっと涙腺にクルものがあった。

先輩のチョイスは例のガンケだと思うが、俺のチョイスはどんな基準で?

 

「周紀先輩は、シャチみたいに賢くて、サメみたいに強くて、クジラみたいに力強くて、イルカみたいに可愛いところがあるって意味を込めました!」

 

未世の解説で理解したが、最後はどうにかならなかったのか。でもまあぁ…、

 

「そうか、ありがとな」

 

嬉しさ6割、照れ4割の声と表情で全員に礼を言う。

 

「ありがとう、みんな……。なんだか感動しちゃった」

 

微笑みを浮かべて喜ぶ先輩。

 

「や、やだなあ、先輩、そんな大袈裟な……。いくらもしませんし……」

 

未世言葉に3人が同調するが、俺が返す。

 

「値段の問題じゃない。気持ちの問題だ」

 

「その通りよ。あなた達の気持ちが嬉しいの」

 

昨日の任務は最高の成果だったという先輩の言葉に続いて、それぞれが反省点を冷静に見極めている事が分かった。だからといって自身を失わずに、しっかり前を向けている事を知って、こいつらが演習の後輩で良かったと心から思えた瞬間だった。

 

「それと周紀先輩、この際よそよそしいのは無しにしましょう?」

 

「どういうこっちゃ?」

 

先輩だけでなくこいつらからも似たようことを言われて少し考える。そんなに距離を感じるような態度だっただろうか?

 

「…私たちのことも名前で呼んで下さいってことです」

 

「この際、私ももう気にしないことにしました。名前で呼んでくださって結構です」

 

「わ、私もっ、鞠亜で構いません!」

 

信頼、諦め、羞恥。

三者三葉の態度だが、今日集合した時に感じた視線は、間違いじゃなかった事が証明された

 

「そうか。じゃぁ、遠慮なく呼ばせてもらうからな」

 

「さあ、もう今日は帰りましょうか。豊崎さんも、もう眠いんじゃないかしら」

 

見守るような暖かい目で成り行きを見ていた先輩の一声と豊崎さんの眠気を鑑みて帰宅が決まる。

帰りのバスの中は静かなものだったが、安心感がある静寂で、とても心地のいいものだった。




はーい、早坂でーす。

朝早起きしないと行けないのに、遅い時間まで執筆して翌朝眠気と格闘って事をたまにしています。マネしないでね☆

土曜日にアウルの森という動物カフェに行ってきました。
カピバラが歩き回ってオウムとフクロウが飛び回る楽しい所でしたが、カフェとは名ばかりに自販機とアイスがあるだけで期待外れでした。
でもフクロウとハリネズミとフクロモモンガが可愛かったので満足です。

来週辺りは3度目の正直で遂に銃を買いたいです。
車もバイクも許可されてないので、往復6000オーバーのタクシーで買いに行かないといけません。
沖縄のタクシーの運転手はナビを基本使わないので住所を言っても「分からない」と言われます。東京と同じ感覚で使うと苦労します。そもそもナビが付いてないタクシーが半分くらいあるので、何か目立つものを目印にした方がいいです。

次回は演習前の望月チームの戦闘回です。お楽しみに!

ではまたーノシ

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