あれから数日。
いつも通りの教師仕事を終えた俺━━ロイは、いつも通りにオカ研の部室に来ていた。
そして、アザゼルから重大なことを伝えられたところだ。
「総督を更迭、か。ま、そうだよな」
アザゼルが総督を辞職したのだ。俺たちを無断でオーフィスに会わせたことへの責任を取ったとかなんとか。
アザゼルは耳をほじりながら嘆息する。
「『ま、そうだよな』って、ずいぶんと軽いな。仕方ねぇだろ。うるさい連中に黙ってオーフィスなんざを連れて来たんだからよ」
「で、おまえの肩書きはどうなった?」
俺が訊くと、あれからは考え込むように首をひねる。
「うーん、この地域の『監督』ってところだな。グリゴリだと『特別技術顧問』って感じになっている」
監督で技術顧問か。なんか………、
「……変わったような、変わらないような」
イッセーが苦笑しやがらそう漏らした。俺も同じ事を考えていたところだ。
「ま、そういうことだ。今の総督はシェムハザになった。副総督はバラキエルだ。あー、さっぱりした!こう堅苦しいのは頭の堅い連中の方がお似合いだ。これで安心して趣味に没頭できる」
なんか、見たことがないほど開放的な表情をしているんだが!?こいつが余計に自由にやりだしたら、俺やロスヴァイセだけじゃ止められねぇぞ!
などと思いつつ、俺は魔方陣から封筒を取り出す。
「話を変えるが、昇格試験の結果が出た。そんなわけで、監督、頼んだ」
そう言いながらアザゼルに封筒を渡す。
「監督呼ぶな。いきなりからかいやがって」
アザゼルは愚痴りながら封筒を受け取り、中から書類を取り出す。まぁ、アザゼルは既に結果を聞いていると思うがな。
顔だけ驚くイッセーをよそに、アザゼルは発表する。
「まず、木場。合格だ。おめでとう」
「ありがとうございます」
木場は書類を受け取り頭を下げる。
「次に朱乃お前も合格だ。バラキエルに言ったら男泣きしてたぞ」
「もう、お父様ったら。ありがとうございます」
顔を赤くしながら書類を受け取る朱乃。
そしてラスト一枚、イッセーのものになった。
「最後にイッセー」
「は、はい!」
名前を呼ばれ緊張気味に返事をしたイッセー。イッセーは何とも言えない表情をしていた。
やってみて可もなく不可もなくって感じだったんだろうな。
そんなイッセーのことを知ってか知らずか、アザゼルは早々に告げる。
「お前も合格だ。おめでとさん」
「…………や、やったぁぁぁぁ!」
イッセーは万歳をしながら大声を上げていた。
一応アザゼルが言ってないことを伝えておこう。
「で、三人とも。正式な授与式は後日連絡があるから気を付けろよ」
「は、はい!」
「わかりました」
「わかりましたわ」
「ならOKだ。それとイッセー」
俺はイッセーに指を突きつける。
「な、何でしょうか?」
「お前の復活劇はもう上役の語り草になってる 。現魔王派の対立派閥はお前に畏怖し始めてるぐらいだ」
「な、なんでですか?」
「殺しても死なないからだよ。最強の
「そうだぞイッセー!お前どんだけだよ!本っ当におかしいぞ?もはや存在がな」
言われてるイッセーはわかってない感じになってるが仕方ないか。ま、中級悪魔だが頭が少し、なぁ?
それはそれとして、デカブツこと『
この事は一般の悪魔には知らされていないことだ。要らん混乱が生まれそうだからな。
俺がそうこう思っていると、アザゼルが話を続けていた。
「ここまで来たらあれだ。世界中にいる悪い奴はお前が倒せ。そしたら俺たちが楽できる」
「確かに、俺は面倒は嫌いなんでな」
俺たちの意見を聞いたイッセーはすごくイヤそうな顔をしていた。
仕方ないだろう、イッセーの夢は平和にハーレムを作ることだからな。ま、もう出来ているような気もするがな。
「ところでアザゼル先生、ロイ先生。英雄派のその後は?」
イッセーの質問に俺が答える。
「気になるか?ハーデスや旧魔王派の横やりがあってか、正規メンバーのほとんどがやられた。拠点への襲撃も止んだし、俺が殺したと思っていたヘラクレス、ジャンヌ、小次郎を含めた何人かを生け捕りにできた。英雄派は終わったようなもんだな」
「それに曹操たち
俺に続いてアザゼルも答えてくれたが、何とも言えんな。
あいつらの事だから生きてるんだろうが。
俺はあいつらが生きているとどこかで確信していた。理由はわからないがそんな気がする。
アザゼルはどこか合点がいかない表情をしている。
「奪われた、ってことはないのかしら?強力な
リアスの意見を聞いたアザゼルは頷いていた。
「まあ、そうなるよな。そうだとしたら俺が考える最悪のシナリオが今後起きないことを願うばかりなんだが……」
アザゼルの奴、スゲエ険しい顔しているな。
また戦争はゴメンだぜ。本当に、生き残れるかわからん。
俺が心中で心配しているとアザゼルが苦笑し始める。
「ま、あいつらの失点はお前らに手を出したことだな。よく言うだろ触らぬ『神』に祟りなしってな」
「この場合は触らぬ『悪魔』に祟りなしじゃないか?」
俺の訂正にイッセーが噛みつく。
「腫れ物のように言わないでくださいよ!」
「だがなイッセー!お前ら、そのうち伝説になるんじゃないか?奴らにケンカを売ったら生きて帰れないってな!」
アザゼルがふざけて言っているんだろうが、マジでそうなりそうで怖い。ま、俺もその一員かもしれないが。
「ま、その伝説になってくれれば、俺も楽ができる」
それを聞いたリアスは嘆息していた。
「私たちは悪霊や怨霊ではないのですから、変な風に言わないでください」
「けれど、実際襲われたら、やっちゃうしかありませんわ」
朱乃がイヤな笑みを浮かべていた。
あの笑顔はあれだ。Sっ気が強い奴の笑みだ。
朱乃の笑みを知ってか知らずか、アザゼルは続ける。
「だかな、『
魔法使いの派閥とかもあったな。そいつらもイッセーたちを狙うか………。
俺はそんな事を考えつつ部屋の隅を見る。
「だが、元ボスがこっちにいるからなぁ」
俺が言うとイッセーたちもそっちを見る。
視線の先にはボケーっとしているオーフィスがいた。
イッセーと目が合うとオーフィスは口を開いた。
「我、ドライグと友達」
そういえば、イッセーがそんな事を言っていたな。
「俺は兵藤一誠って名前があるんだよ。友達はイッセーって呼ぶんだ」
「わかった。イッセー」
即答で返すオーフィス。本当、イッセーは懐かれているようだな。
リアスたちがしようとする事を見様見真似でやったりしているし、イッセーが言ってた通り、純粋なんだろう。
「俺の呼び方はそれでよし」
呼ばれかたは解決したらしいが念のために言っておくか。
「イッセー。オーフィスは眷属にできないからなわかってるな?」
「はい、オーフィスはここにいないことになってるからですよね」
「ああ、元とはいえ、テロリストの親玉だったやつだからな。今も封印を何重にも掛けて強すぎるドラゴン程度にしてあるぐらいだ。それに神格クラスは転生出来ないからな。半神のヴァルキリーはいけたが」
俺が解説を終えると木場が口を開いた。
「彼らに奪われたオーフィスの力がどうなるか、それが気になりますね」
確かにそうだ。英雄派がその力を使って新たなオーフィスを作りそれを傀儡にしようとしていたらしいが、その英雄派が潰れたわけだからな。
「それは意見がわかれてるところだ。だが、何かしらやってるってことは一致している。そのうち会うだろうから覚悟を決めとけ」
俺の発言でイッセーはうなだれていたが、リアスが話題を変える。
「それも大事だけれど当面の目的は三つね。一つはギャスパーのこと」
それを言われたギャスパーはあわあわしていたが、例の話だろう。一人でゲオルグを倒したあの力………。
「今まで事情が重なって静観していたんだけど、いい加減『ヴラディ家』に、いえヴァンパイヤの一族にコンタクトを取るわ。ギャスパーの力をきちんと把握しないと」
「す、すいません」
それを聞いてギャスパーは恐縮していたが他にも色々ありそうだな。
俺は嘆息するように言う。
「また面倒に巻き込まれそうだがな………」
「ヴァンパイヤも内部でもめているからな。要らない戦いに巻き込まれるかもだが」
「ご、ご迷惑おかけします……」
俺とアザゼルの呟きにギャスパーが謝る。別にギャスパーが謝ることでもないと思うんだが、あまり深くは言及しないでおこう。
そして、リアスたちの話題は魔法使いとの契約に変わる。
魔法使いとの契約は悪魔にとっても、その魔法使いにとっても有益なものになる。一応、俺も契約はしているが、まぁ、あまり気にすることでもないな。
俺が一人、そんな事を考えているとアザゼルが大きめのアタッシュケースを取り出した。
「アザゼル、なんだそれ?」
「ふふふっ。ロイ、おまえへのプレゼントだ」
アザゼルは邪悪に笑いながらそう言うと、アタッシュケースを開けて中身を見せてくる。
「━━━━ッ!これは!」
「お兄様、どうかなさいましたか?」
「ああ、これは………」
俺はその中身を持ち上げ、感覚を確かめる。少し軽いがこの重さ、形、まさに………!
「銃剣じゃねぇか!曹操に砕かれたやつだ!直った、いや、新しく作ったのか!?」
俺が興奮気味に言うとアザゼルは頷き、説明を始める。
「ロイが案外気に入っていたと聞いたんでな。アジュカから設計図をもらって作ってみた。ついでに構造を単純にしたり、素材の合金をいじったり、いろいろと改良してみたんだ」
俺は二挺の銃剣をまじまじと見つめながら、変形させて剣モードにしてみる。うん、手にフィットする。
そんな俺にアザゼルが言う。
「両剣モード、だったか?それはオミットした。使わないだろ?」
「ああ、あったから使っていただけだからな。無くても問題ない」
剣モードから銃剣モードに戻し、セーフティーをかけて引き金を引く。『カチッ』と心地いい音が耳に届いた。
アザゼルは続ける。
「それと、どっちのモードでも刃に魔力を込められるようにしておいた。魔力量や形状変化をすれば、いろいろとできるだろうよ」
「こいつはいい!最高だ!」
いつになく生き生きとしている俺に、イッセーが訊いてくる。
「ロイ先生って、それがなくても、いや、ないほうが強い気がするんですけど………」
「そうか?まあ、なしで戦うことも多かったからな」
「なんで使っているんですか?」
俺は右手に直刀を生成し、左手の銃剣の刃に魔力を込める。
「直刀だと、柄の部分を作るのに無駄に魔力をくうが、銃剣なら刃だけで済むからな。少しだけだが燃費がいい」
「なるほど………」
「それに━━━」
「それに?」
俺はドヤ顔をしながらイッセーに言う。
「なんかかっこよくね?」
「…………そうですね……………」
周りから珍しく軽蔑するような、呆れたような視線が向けられる。
こ、こいつら、ロマンってやつがわからねぇのか!?
「ま、割りとまともなロイにだって、少しはおかしなところもあるってことだな」
『なるほど』
アザゼルのまとめに頷く面々。お、俺が変な奴だと思われているのか!?
「『なるほど』じゃねぇよ!俺はどこもおかしくねェェェェェェェェッ!」
俺の叫びがむなしく旧校舎に響き渡る。だが、こうやってふざけられるだけで、リアスたちが楽しそうで俺は満足かな。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。