グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life03 謎の力

俺━━ロイがヘラクレスを倒し、朱乃たちがジャンヌと戦っているなか、この場に残ったゲオルグを睨む。

まぁ、曹操と小次郎がいつ現れるかわからないから、油断もできねぇ。

遠目で朱乃たちが戦っている場所を見てみると、極大の雷光と聖なるオーラが飛び交っているのがわかった。向こうは激闘を繰り広げているようだ。

で、問題はゲオルグだが、無傷のリアスたちと治療を済ませたソーナたち、そして俺がいるから、苦戦をしてもどうにかなるだろう。

ゲオルグは倒れるヘラクレスを一瞥し、苦笑する。

 

「強い。これが戦争を生き抜いた悪魔か。小次郎は、よくこんな奴と正面から戦えたものだ…………」

 

確かに、あいつ何者なんだよ。いちおう考えはあるが、勝てるかは半分博打だ。

俺がそう思慮していると、ゲオルグは続ける。

 

「グレモリー眷属も力を増している。この調子では、そちらの猫又やヴァンパイアも情報通りにはいかないか」

 

小猫とギャスパーを見るゲオルグ。二人はまだまだこれからだが、成長が楽しみですしょうがない。きっと強くなるぞ。

俺がそんな期待をしていると、ギャスパーの表情が青ざめていることに気づく。

 

「ギャスパー、どうかしたの?」

 

リアスとそれに気づいたようで、怪訝そうにしていたが、ギャスパーは表情を崩していき、涙を流し始める。

どこか怪我でもしたか?いや、流れ弾も全て処理したはずだ………。

 

「すみません、皆さん。………僕………僕!グリゴリの施設に行っても………強くなれなかったんです!」

 

………そうか、ダメだったか。だが、まずは強くなりたいって気持ちが大事だと思うぞ。

俺はゲオルグに警戒しながら、嗚咽を漏らすギャスパーの言葉に耳を傾ける。

 

「皆さんのお役に立ちたかったから………強くなりたかったのに!『今のまま』では、これ以上は強くなれないって!」

 

その場に崩れ落ちるギャスパー。だが、『今のまま』だったら、何かが足りないってことだ。禁手(バランス・ブレイカー)に至るためには、劇的な変化が必要になる………。劇的な変化…………。

俺が考えを巡らせていると、ゲオルグはギャスパーを見てつまらなそうに息を吐く。

 

「亡き赤龍帝も、この後輩の姿を見たら浮かばれないだろう」

 

その一言を受けたギャスパーは、きょとんとした様子で周辺を見渡す。景色とリアスたち、ソーナたちを見て、弱々しく言葉を発する。

そうか、劇的な変化か…………!

 

「………イッセー先輩は…………?イッセー先輩がいないのは、あの大きな怪物を止めにいっているからじゃないんですか…………?」

 

「ギャスパー、イッセーは━━━」

 

リアスが真相を伝えようとするが、俺はリアスに視線を送って首を横に振る。リアスもそれを確認して口を閉じた。

俺たち兄妹のやり取りに気づいていないゲオルグは口もとを笑ましてギャスパーに話し始めた。

 

「赤龍帝は俺たち『禍の団(カオス・ブリゲード)』と戦い、戦死した。俺たちもその場にいたわけではないから詳しくはわからないが、死んだことは確かだ」

 

おかげで俺もキレているわけなんだが、妙にリアスたちが落ち着いているように見える。何かいい知らせがあったのかもしれない。

それを伝えないことをリアスの眷属たちも気づいたようで、一様に口を閉ざしている。

俺たちのやりたいこともわかってくれていると助かるが………。

ゲオルグの言葉は続き、それを耳にしたギャスパーの表情は死んでいく。仲間の絶望しきった表情ってのは見ていて辛いが、今は耐えるしかない。

 

「悔やむことはない。いかに赤龍帝であろうと、サマエルの呪いには勝てない」

 

ゲオルグはそう告げると、軽く笑う。

 

「………イッセー先輩が………死んだ?」

 

呆然とするギャスパーの頬を涙が伝っていく。全身が震え、視線もおぼろげになっている。あいつの尊敬するイッセーの死を受けて、あいつの思考は絶望に染まっているはずだ。顔を伏して、沈黙し続ける。

少し前のリアスたちみたいになっているギャスパーに、耐えきれなくなった小猫が近寄ろうとしたときだ━━━。

ギャスパーはふらついた体を起こし、少しずつ顔をあげていく。

ギャスパーの表情からは一切の感情を感じない、生気の抜けきった状態だった。だが、俺の第六感が告げている………。

あいつは、危険だ…………!

ギャスパーは小さく口を開き、呪詛のように一言だけ呟いた。

 

《━━━死ね》

 

その瞬間━━━。

まばたきもする暇もない一瞬でこの区域すべてが暗黒に包まれた。まるで、電気の点いていた部屋の明かりを一気に消されたように、景色がわからないほど真っ暗になった。

だが、その中でも確認できたことが一つ。

ギャスパーの体から、この一帯を包み込んだ暗黒がにじみ出てきているのだ。

 

「………なんだ、これは…………ッ!」

 

突然の現象にゲオルグは驚き、周囲を見渡す。

それに倣うわけではないが、俺も周囲を見渡す。一面が暗黒一色であり、ヒト以外何もない。

なんとなく、あのMs.神様に会った場所を思い出してしまった。

それはそれとして、

 

禁手(バランス・ブレイカー)とは違う、暴走でもない。なんなんだよ、これ。桁違いだぞ………」

 

俺はぼそりと漏らす。何か起こることは予定通りだ。だが、予想をはるかに越えてきた!

暗黒の領域の中央で、さらに深い闇に包まれた人型の何かが、ゲオルグに近づいていく。首は明々後日の方向に折れ曲がり、肩を痙攣させ、足を引きずりながら一歩ずつ、確実にゲオルグに詰めよっていく。

その双眸は赤く、不気味に鈍く輝いていた。

 

《コロシテヤル………ッ!オマエラ全員、殺シ尽クシテヤル………ッ!》

 

ギャスパーの声じゃねぇ!まるで、呪詛だと怨念だと、ヤバイもん全てを孕んだような声だ!

俺は困惑しながら、本気でリアスを心配しながら言う。

 

「切っ掛けがあれば何かが起こるとは思ったが、ここまでとはな…………。リアス、ギャスパーに失礼だが、こいつ、何者だ…………?」

 

「………ヴァンパイアの名門ヴラディ家がギャスパーを(ないがし)ろにしたのは、これを知っていたから……?恐怖から………城から離れさせた…………?」

 

リアスは声を震わせながらそう漏らす。

黒い怪物となったギャスパーが、手と思われる部位を前に突き出す。

ゲオルグが反応して魔方陣を展開するが、その魔方陣が闇に食われていく。

 

「………ッ!なんだ、これは!魔法でも、神器(セイクリッド・ギア)でもない!どうやって、我が魔方陣を打ち消した!?」

 

ギャスパーの行動に驚愕するゲオルグは、距離を取って攻撃魔方陣を展開。そこからあらゆる属性、魔法術式が入り乱れたフルバーストをギャスパーに放つ!あれを食らえば、さすがに大ダメージになる!

暗黒の世界にいくつもの赤い目が出現し、妖しく輝いた。

刹那、撃ちだされた攻撃魔法が全て停止した。

停止の邪眼のようだが、いつもと規模がまるで違う!視界外のものまで止めやがったぞ!

停止した魔法が闇に喰われていく…………。

ゲオルグの表情から余裕が消え失せ、恐怖に彩られていく。

歩みを再開するギャスパー。生き物とは思えない存在感と動きでゲオルグに近づいていく。

ゲオルグは霧を操り、ギャスパーを包み込もうとする!だが、闇はそれさえも喰らい尽くしてしまう!

 

《………喰う………くう………クウ………喰ってヤッた………おマエの霧モ魔法も………全部………)

 

本当にギャスパーなんだよな………?言動がまったく違うぞ…………。

神滅具(ロンギヌス)を完全に封じきり、魔法も効かない。ゲオルグが、まったく相手になっていない!

ギャスパー、こいつ、何になっちまうんだ!?悪魔でもドラゴンでも、ヴァンパイアなのかさえわからねぇ!

ゲオルグは必死に抵抗をしていくが、全てが停止され、闇に喰われていく。

ゲオルグの周囲の闇がうごめき、獣のような何かが形作られていく。狼のようであったり、ドラゴンのようであったりするが、口が二つあったり、目が一つだったりと、どれも正しい形しているわけではない。

それらの生物がゲオルグを囲み、不気味な唸り声をあげる。

あれも、ギャスパーが作り出したのか………?

 

「くっ!霧が、魔法が効かぬ!なんだ、こいつは!いったい、なんだというんだ!?」

 

ゲオルグの表情からは絶望しか感じない。この戦い、いや蹂躙ももうすぐ終わるだろう。

 

「これが、ギャーくんの本当の力………」

 

呆然と眺める小猫を口からそれだけを絞りだした。友達の変化に困惑している様子だ。

 

「ここは、退くしかない…………!」

 

ゲオルグは抵抗を諦め、逃げの一手に出るために転移魔方陣を展開した!

野郎、逃げる気か!まぁ、俺でも逃げるしかねぇけどな!

俺が阻止するために飛びだそうとした矢先、ゲオルグの体に黒い炎が絡みついた!

あれは、匙か!

俺は匙の方に目を向ける。治療を済ませて意識が回復した様子の匙はゲオルグを睨み付けていた。

 

「……逃がさねぇよ。おまえら、俺のダチをやったんだ。━━━ただで済むわけねぇだろ!」

 

ドスの利いた声音で匙が言うと、ゲオルグを捕らえる黒い炎が大蛇のようなシルエットを作りながら、怨嗟の呪法でゲオルグを捕らえ続ける。

黒き龍王の炎。捕らえたものの命を吸い尽くし、体を焼き尽くすまで絡みつくと言われている。

ゲオルグは懐からフェニックスの涙を取り出すが、それさえも黒炎が飲み込んでいく。

 

「………ヴリトラの……呪いか………ッ!」

 

声を絞り出すゲオルグ。追い詰めたと思っていた男からの反撃、か。

完全に動きを封じられたゲオルグに、闇から生み出された獣たちが襲いかかっていく━━━。

俺たちを散々苦しめてきた霧使いは、静かに闇に喰われていった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇が晴れ、元の首都リリスの風景に戻ったとき、ギャスパーは路面に横たわっていた。

ゲオルグはいない。完全に闇に喰われたか………。

俺はギャスパーに近づき、顔を覗きこむが、すやすやと寝息を立てているだけだ。さっきので消耗しすぎたのか、今は寝ているが、本当に、何だったんだろうか………。

俺の横に来たリアスが気かを優しく抱き寄せて髪をそっと撫でる。

 

「……この子について、ヴァンパイアに訊かなくちゃならないことができたわね。けれど、ヴラディ家が質問に答えてくれるかはわからないわ………」

 

ヴァンパイアは悪魔を、いや、ヴァンパイア以外を嫌う。話を聞いてもらえないのは当然なのかもしれない。

ロスヴァイセが口を開く。

 

「ヴァルハラに戻ったとき、興味深い話を聞けました。━━━なんでも、とある吸血鬼の名家に神滅具(ロンギヌス)所有者が生まれ、吸血鬼同士で争いが勃発してしまった、と」

 

なかなか物騒なこときなってきたな。これは、また面倒事の予感だ。

俺がため息を吐くと、背後から気配を感じた!

 

「あらら、ヘラクレスがやられてしまったようね。ゲオルグも………?これはまいったわ」

 

現れたのはジャンヌだ!満身創痍の様子だが、小さな男の子を脇に抱えている!

 

「待て!ジャンヌ!」

 

「子供を人質にするなんて、卑怯よ!」

 

「…………やられましたわね。逃げ遅れた親子連れがいたなんて」

 

ゼノヴィア、イリナ、朱乃が苦渋に満ちた表情で合流した。

察するに、ジャンヌはあの子供を人質にして逃げてきたようだな。

対峙する俺たちとジャンヌ。ジャンヌは手に持つ聖剣の切っ先を子供の首もとに突きつける。

悪魔の俺が言えた義理じゃねぇが…………。

 

「卑怯だな。英雄が聞いて呆れるぜ」

 

ジャンヌはそれを聞いておかしそうに笑う。

 

「悪魔が言うものではないのかしら?━━━とりあえず、曹操と小次郎を呼ばせてもらうわ。あなたたち、強すぎるのよ」

 

「そこの子、怖いだろうが、しばらく我慢してくれ。必ず助ける」

 

俺は怖がっているであろう男の子に声をかける。

俺としては、小次郎から来てくれるのはありがたい。が、曹操まで来られると辛いものがあるな………。

すると、男の子は存外平気そうに答えた。

 

「ううん。ぜんぜんこわくないよ。おっぱいドラゴンがもうすぐきてくれるんだ」

 

一切の怯えも不安もない、安心しきった表情だ。最近の子供って、肝が座ってんな………。

男の子は続ける。

 

「ゆめのなかでやくそくしたんだ。おっきなモンスターをみてこわいっておもってねていたら、ゆめのなかにでてきてくれたんだよ」

 

夢?イッセーが夢に出てきたのか………?

男の子は元気そうに語る。

 

「もうすぐいくから、ないちゃダメだって。まほうのじゅもんをとなえたら、かならずもどってきてくれるっていったんだよ!」

 

男の子は人差し指を突き出し、宙に円を描いていく。

 

「こうやって、えんをかいて、まんなかをゆびでおすの!ずむずむいやーんって、これをやればかならずもどってきてくれるって!みんなもおなじゆめをみたんだよ!」

 

皆、同じ夢を見た?イッセーの夢を子供たちが………?

疑問の尽きない俺たちの前で子供は空に向けて歌を歌いだした。

 

「とあるくにのすみっこに~、おっぱいだいすきドラゴンすんでいる~♪」

 

その時だ。俺たちが待ち焦がれた、あいつのオーラを感じ取れた。

そうだ、おまえが簡単に死ぬわけねぇよな。そうだろ、イッセー!

英雄の帰還が、間近に迫ってきていた!

 

 

 

 

 

 

 

 




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