life01 首都防衛戦
あの脱出作戦から二日。俺たちはグレモリー城にいた。
シャルバの外法により生みだされたデカブツたちは、シャルバの思惑通りに冥界の重要拠点や都市部に進撃を開始していた。
足が速い奴は今日中、遅い奴でも明日には都市部に到達してしまうはずだ。
さらに厄介なのは、奴らは進撃しながら小型のモンスターを生み出していることだ。こちらは一体一体が人間より少し大きいぐらいだが数が多く、被害を大きくしている。
奴らが通った場所には何も残らない。そう言うしかないほど酷い状況だ。
その魔獣たちの中で一番大きいのが魔王領の首都『リリス』を目指している奴だ。これを冥界政府は『
昨夜、『
その事実が余計に民衆の不安を煽ることになってしまった。
そして、それに加えて旧魔王派が各地でクーデターを起こしている。この状況はあいつら的には計画通りであり、そちらの対処にも人員を
さらにこの混乱に乗じて上級悪魔の眷属も暴れだしていると報告を聞いた。前に言ったように、主への復讐をしているのだろうとすぐに考えられた。こちらにも人員を
この状況を裏で手引きしたのは冥府の神ハーデスなのだろうが、英雄派の連中の動きにも警戒しなければならない。
冥府も英雄派も何をしてくるかわからない以上、神や魔王を下手に前線に出せない。ハーデスがいつ
兄さんが中心となり、民衆の避難を最優先させているため大きな死傷者が出ていないことだけが幸いと言える。
「……………くそ」
俺は一人、リアスの部屋を前にしてそう漏らした。
リアスたちがイッセーの死を知ってしまってから、言い方が悪いが、まるで『抜け殻』のようになってしまった。大丈夫なのは、かなり無理をしている木場ぐらいだろうか………。
俺は時々リアスたちをどうにか励ましてやろうとは思ったが、できなかった。いや、どう励ませばいいかわからなかった。
前世でも今世でも、俺はヒトの死に関わりすぎている。つまり、「受け入れろ」という言葉しか思い浮かばなかったのだ。
すまねぇ、冷たい兄で…………。
俺は口には出さず、リアスに謝りながら別のフロアに移動しようとすると━━━━、
「ロイ様」
「ソーナか………」
ソーナがリアスに会いに来ていた。
俺は息を吐き、リアスに聞こえないように小声で話す。
「すまねぇ。こんな時に使えないな、俺は………」
「ロイ様の言葉に耳を傾けないのなら、私でも━━━」
「いや、そうじゃねぇ………」
俺は首を横に振り、ソーナの言葉を遮る。
「それは、どういうことでしょうか?」
「俺は兄失格だ。こんな時に『受け入れろ』って言葉しか思い浮かばねぇ………」
「━━━ッ!」
俺の言葉にソーナは一瞬驚愕の表情を浮かべるが、小さく咳払いをして言う。
「私もこんな時になんと声をかければいいか、わかりません。リアスの気持ちはリアスにしかわかりませんから」
ソーナはそう言うとリアスの部屋の扉を、その奥にいるであろうリアスを見つめ、言葉を続ける。
「けれど、ここで終わるほどリアスは弱くないと信じています」
断言するように言うソーナ。そう、だな。今は、リアスたちが立ち直ってくれると信じるしかない。
俺にもやらなきゃならねぇことがある…………。
俺が息を吐くと、ソーナが薄く笑いながら言った。
「念のため、こういうときにうってつけの相手を呼んでおきました」
「………本当、何から何まですまねぇ」
俺はソーナに礼を言いながら、俺の仕事、『首都リリスの防衛、都民の避難誘導』のため、移動するのだった。
冥界の首都リリス。
転移魔方陣で即移動した俺は、高層ビルの屋上にいた。
いつもなら気持ちよく感じる冥界の風が、妙に気持ち悪く感じるのは、『
その風に乗って聞こえる爆発音。旧魔王派か、英雄派の連中が派手にやっているようだ。
俺は深く息を吐き、両手に直刀を生成する。銃剣は曹操の一撃で砕け散ってしまったからな。
さて、
俺は屋上から飛び降り、重力に任せながら落下。高層ビルの半分ほどまで落下すると、悪魔の翼を展開、一気に加速し敵を探すために飛び立った。
数十秒後。
敵と思われる複数の人影を発見。怯えながらの避難ではなく、警戒しながら物陰をこそこそと移動していた。
そいつらが大きめの通りに出た瞬間、俺はそいつらの前に降り立つ。
俺を見た瞬間、そいつらは驚愕すると共に殺気立ち始める。
「き、貴様は!?」
「ジャック、いや、ロイ・グレモリーか!」
「裏切り者が!ここで死ねッ!」
そう言いながら連続で魔力弾を放ってくる悪魔。
こいつら、旧魔王派か。ピーピーうるせぇな…………。
俺は飛んできた魔力弾を体捌きだけで全てを避け、そいつらを睨みつける。
「………今の俺は機嫌が悪い。理不尽に思うだろうが、この際言っちまっていいだろう?」
「黙れッ!」
遠距離は無理と判断したのか、一人の悪魔が手に魔力を込めながら飛び出してくる。
そいつのストレートを避け、直刀で腕をとばし、勢いのまま首をはねる。
肉を断ち切る感覚が腕に伝わり、帰り血が少しかかる。ああ、戦争の時を思い出す。
力なく地面に突っ伏した悪魔の死体を一瞥し、残った悪魔どもに言う。
「降伏は許さん。最期まで抵抗してみろ、叩き斬るがな………」
体から紅のオーラを発しながら直刀を握り直し、切っ先を悪魔どもに向ける。
久しぶりに、『
数時間後。
「…………………」
俺は無言で自分の体を確認する。
五体満足。怪我は擦り傷程度。行動に問題なし。だが、
「気持ち
額を拭いながらそう漏らした。
いつかみたいに、全身血まみれだ。まぁ、全部返り血だけどな………。この見た目のせいで、避難誘導しようとしたら、様々なヒトから怖がられた。
あれから何十人かの悪魔と英雄派と思われる奴を斬ってきたが、肝心の曹操と小次郎は見当たらなかった。
あいつらを倒しておかねぇと、今後面倒なことになりそうだ。
俺がそう思慮していると、近くの上空に龍王となった匙を確認できた。あっちのほうは、まだ行っていなかったな。
俺は悪魔の翼を展開、そちらを目指した。
━━━━━
僕━━木場祐斗は、部長たちを連れてアジュカ様にお会いした後、その足で首都リリスに来ていた。
アジュカ様のおっしゃったことを信じるのであれば、イッセーくんは魂だけの形で生きており、見つけることができればどうにかなるとのことだ。
途中、ジークフリートとも遭遇したけど、部長たちと共にどうにか倒すことはできた。
そして、僕たちとは別れて行動していたメンバー(ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん、ギャスパーくん)と合流し、龍王となった匙くんの姿が見えた場所を目指していた。
そこに降り立つと、僕たちの視界には大きく破壊された道路や建物だった。
「グレモリー眷属!」
聞き覚えのある声に引かれそちらに目を向けると、タイヤが外れた一台のバスを守るようにして囲むシトリー眷属の姿があった。バスの中には大勢の子供たちが乗っている。
「状況は?」
部長が
「このバスの先導中に英雄派に出くわしまして………。バスは攻撃を受けて機能を停止してしまったのでここで応戦するしかなくて………会長と、副会長と、元ちゃんが…………っ!」
涙交じりにそれを言う巡さん。匙くんがどうしたっていうんだ!?
「あれを!」
ロスヴァイセさんが右手側を指差す。ショップが立ち並ぶ歩道で、英雄派のヘラクレスが匙くんの喉元を掴んでいた!
匙くんは体中が血だらけとなっており、意識も失いかけている様子だ。その近くには倒れるソーナ会長と、ジャンヌと戦っている真羅副会長の姿が目に入った。
ヘラクレスはつまらなそうに匙くんを放り捨てると、倒れているソーナ会長の背中を踏みつける。
「ぐぅっ!」
悲鳴をあげるソーナ会長!………倒れた女性を踏みつけるなんて、やり方が許せない!
ヘラクレスは嘲笑い吐き捨てるように言う。
「大公アガレスに勝ったっていうから期待してたのによ。こんなもんかよ」
「ふざけないでッ!子供の乗ったバスを執拗に狙ってきたくせに!」
真羅副会長が涙を流しながら激昂していた。普段、会長よりもクールな真羅副会長がそこまで表情を露わにするなんて………。
その理由は、ヘラクレスが子供たちの乗っているあのバスを狙ったから………?そんな卑劣なことをして、会長と匙くんを…………!
僕が内心で怒りを爆発させようとしていると、ジャンヌが嘆息する。
「私はやめておけばって言ったけど?まぁ、止めることもしなかったけれどっ!」
ジャンヌが周囲に聖剣を発生させ、副会長の足場を破壊する!
体勢を崩した副会長のもとにジャンヌが斬りかかる!
僕は瞬時に飛び出し、抜刀したグラムでその一撃を防ぐ!
「いい加減にしてくれないかな」
僕が低い声音で告げると、ジャンヌはグラムを見て仰天する。
「………グラム!?まさか、ジークフリートが!?」
「ああ、僕たちが倒した。グラムは僕を
ジークフリートが使っていた魔剣『グラム』『バルムンク』『ノートゥング』『ディルヴィング』『ダインスレイブ』が僕を
いつなにが起こるか、本当にわからないよ。
「へっ!こんな奴らに負けるなんて、あいつもたかが知れていたってわけだ」
ヘラクレスはそう嘲笑う。………彼らに仲間意識みたいなものは薄いのかもしれない。
「じゃ、おまえもその程度ってことだな………」
「━━━━ッ!」」
突然聞こえた第三者の低い声。
背後からの声に驚き、ヘラクレスが勢いよく振り向く。そして━━、
グシャ!
紅の残光が走り、バツ字に体を斬られたヘラクレス!そのままその誰かに蹴り飛ばされて向かいの建物に突っ込んでいった。
その誰かは体中を血で真っ赤に染めており、表情はどこまでも冷たいものだ。
「ロ、ロイお兄様………」
部長が困惑するようにその誰かの名前を呼んだ。そう、その血まみれの誰かはロイさんだったのだ。
ロイさんが顔の額を拭いながら言う。
「俺の血じゃねぇから大丈夫だ」
大丈夫に見えないのですが、怪我をしているようには見えない。
ロイさんは続ける。
「ゲオルグ、だったな?この
ゲオルグは既に確認を終えていたのか、苦虫を噛んだような表情になる。
『あらかた』って、一体何人を斬ってきたんですか………。
僕たちが驚愕していると、ロイさんはこちらに目を向けて言う。
「さっさと子供を逃がせ。ここからは見せられねぇ」
静かに紅のオーラを発しながら、ロイさんはゲオルグとジャンヌを交互に睨む。
二人が体を強張らせていると、ゼノヴィアとイリナさんが前に出る。
「ロイ先生、悪いが私も参加させてもらおう。せっかくデュランダルを鍛え直したんだ、暴れさせないとダメだろう」
ゼノヴィアはそう言うと、修復されたエクス・デュランダルを構える。
七本のエクスカリバーとデュランダルのハイブリッド、スペックは凄まじいものがあるだろう。
「私もいいものをもらってきたんだから!」
イリナさんが帯剣していた剣を抜き放つ。
今まで気づかなかったけど、あれは聖魔剣だ!
ロイさんもさすがに驚いていた。血まみれの顔で目だけを見開かれると、その、怖いんですが………。
現にバスの子供たちも怖がってしまっている。
それに構わずイリナさんは続ける。
「木場くんが天界に提供してくれた聖魔剣から作り出した量産型なの!これは試作品なんだけどね!」
なるだか、あの時の聖魔剣がこんな形で帰ってくるなんて、成長した子供が帰って来たように思える。
ロイさんは言う。
「まあ、それはいい。で、どっちだ?」
ロイさんは滅びの剣の切っ先をジャンヌとゲオルグの順に向ける。
横に並んだゼノヴィアは迷うことなくジャンヌに切っ先を向ける。
「ジークフリートに借りがあったんだが、木場や部長たちが倒してしまったのなら、仕方がない。━━━イリナの借りを返すとしよう」
ゼノヴィアの発言にイリナさんも同意する。
「そうよそうよ!あのときの借りを返すわ!」
イリナさんはそう言うと、ロイさんとゼノヴィアを真似て聖魔剣の切っ先をジャンヌに向けた。
「あらあら、じゃあ、私も参戦していいかしら?手は多いほうがいいわ」
朱乃さんも相手をするようだ。相手が相手だ、油断はしないほうがいいだろう。二人だけだと不安というわけではないが、後衛がいたほうがいいだろう。
朱乃さんは両手のブレスレットを金色に輝かせると、背に六枚の堕天使の翼を出現させた。
アザゼル先生が用意したと思われるあのブレスレットで、朱乃さんは堕天使とての力を最大限発揮できるようになる。
ロイ先生が感嘆の息を吐き、ジャンヌの相手をする三人に言う。
「それじゃ、任せる。俺はゲオルグを殺るさ」
ジャンヌはジリジリと距離を離していき、背後に聖剣によって作られたドラゴンが出現させた。
手早く
「私の相手は悪魔に天使、堕天使だなんて!私はモテモテね!」
ドラゴンは背に
ゼノヴィア、イリナさん、朱乃さんはジャンヌを追いかけて空中に飛び出していった。
ロイさんはそれを見送るとゲオルグに言う。
「で、いちおう英雄派の連中に聞いたが、なんだったけな………。ああ、そうだ。おまえらはあのデカブツを見に来たんだったな」
デカブツ━━『
僕たちの疑問に答えたのはロイさんだった。
「バスを狙ったのは、ついでか。いや━━━」
ロイさんは向かいのビルに目を向けると、
「この野郎がっ!舐めやがって!」
斬られた体から血を流すヘラクレスが瓦礫をどかしながら現れた。
ロイさんは嘆息して興味なさそうに言う。
「あいつが煽ったか。無抵抗の子供を狙うとは………英雄?笑わせる………」
ロイさんが肩をすくめながら皮肉げに言うと、ヘラクレスは吼える!
「だったらおまえが戦え!子供を狙われたくねぇだろ!?」
ロイさんは息を吐き、ヘラクレスに向き合う。
「いいぜ、かかってこい。『あいつ』の前にいい準備運動だ」
『あいつ』、京都で戦った小次郎のことだろう。
それを聞いたヘラクレスはこめかみに青筋を立て、ギチギチと拳を握る。
対するロイさんは静かに滅びの剣を握り直した。
僕たちの前で、ロイさんとヘラクレスの戦いが始まろうとしていた。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。