グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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Extra life03 面倒からは逃げられない

ある日の放課後。

オカ研の部室に珍しく客が来ていた。その客は駒王学園初等部の制服に身を包んだ元気そうな男の子。若干生意気そうな目つきだが、男の子なんてだいたいこんなもんだろう。

その男の子は緊張しながらも、元気はつらつにあいさつをしてくれる。

 

「は、はじめまして!俺、火照(ほでり)幸彦(ゆきひこ)っていいます!駒王学園初等部六年!ソーナ・シトリーさんのご紹介でグレモリーさんのご厄介になります!よろしくお願いします!」

 

元気に頭の下げる幸彦。初等部からの客なんて、俺が来てから初めてじゃないか?

俺は会話のテンポを切らないようにその疑問を飲み込み、話の流れを見守ることにした。

 

「ええ、ソーナから話は聞いているわ」

 

朗らかに対応するリアス。すると、イッセーが俺に訊いてきた。

 

「今、会長の本名を言いましたよね?それって、俺たちのことを知っているってことですか?」

 

一般生徒は俺たちが悪魔だということを知らない。ソーナも『()(とり)(そう)()』と名乗って人間界では活動しているのだ。

俺はひとつ頷いて、イッセーに返した。

 

「幸彦は、霊剣、神剣の類たぐいを収集、それらを保管する一族だ。俺らのことは、知っていてもおかしくない」

 

「初等部にもその手の関係者がいるんですね」

 

「まあ、探せばいるもんだな。俺もざっくりとしか知らないが……」

 

ざっくりと、と言ったのには訳がある。俺が基本的にはその手の『異能関係者』とは極力関わらないでいるのだ。

その理由ってのは、ここはあくまでもリアスの縄張りだからだ。俺はそこにいる客分に近い。ここで何かをする人たちは基本的にリアスに相談することが多く、会う機会がないからだ。

一応、名前ぐらいは把握しているが、そこまで重要じゃないって思っているのも大きい。

 

「火照幸彦くん、ソーナから聞いた話だと、いわゆる『デビュー』がしたくてここを訪ねてきたのよね?」

 

リアスからの問いに、幸彦は頷く。

 

「俺の家、十二歳になると、通過儀礼として実戦をするんです。その実戦の相手というのが異形の者━━━妖怪だったり、悪魔だったりするんです。兄や姉も俺と同じ歳の頃にはその儀礼をやったんですけど、なぜかうちの両親は俺の番になって消極的になりまして………。俺だけはやらないって言いだして………ッ!」

 

歳の割に口調が丁寧だと思ったが、その言葉にはかなりの怒気を感じることが出来る。これは、相当溜まってるな。

 

「で、幸彦の兄と姉は神職か何かになっているんだな?」

 

俺が訊くと、幸彦は頷いた。

 

「はい。兄も姉も立派に働いております。ただ……」

 

そこまで言うと、不満顔で口を尖らせる幸彦。

 

「俺、末っ子なので、家からも『世間様にご迷惑をかけなければ好き勝手に生きていいよ』とほっぽり出させまして………。通過儀礼もお金がかかるからやらないと言われたんです………。俺の時だけどうでもいいって、酷いと思いませんか?いくら上の兄姉が優秀だからって……酷いっス!」

 

言葉使いが年相応な感じになってきたな。

だが、俺もいきなり『好きに生きろ』なんて言われたら混乱するだろうな。

また、実際に『自由にしろ』と言われて自由に生きてるんだが……。

なんてことを思っていると、幸彦くんが持ってきた竹刀袋が目についた。

 

「幸彦、その竹刀袋はなんだ?」

 

「あ、これですか?」

 

幸彦はそう言いながら、竹刀袋を取り払った。

その中に入っていたのは一本の刀剣だ。なんとなく古代の刀剣っぽい感じがするが、ひとつ気になることがあった。

あの剣からは、異様なオーラを放っていた。そう、聖剣とか聖槍とかに近い、悪魔的には絶対に食らいたくないタイプのオーラだ。

 

「これは神霊剣『十束剣(とつかのつるぎ)』です。いわゆる聖剣の類なんですよ」

 

なるほど、日本製の聖剣か。嫌なオーラを感じたわけだ。俺が頷いていると、その剣を見て協会三姉妹が反応する。

 

「なるほど、聖剣サムライボーイだな」

 

「それ、日本語が変よ、ゼノヴィア」

 

「おサムライさんを見るのは初めてです!」

 

ゼノヴィアがよくわからない言葉を使い、それにイリナがツッコミ、アーシアは感動していた。外国育ちのアーシアには新鮮かもな。ところで、なんだ、聖剣サムライボーイって。

 

「日本の聖剣といえば、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)が有名どころか?」

 

「ええ、そうですわね」

 

俺と朱乃がなんてことを言っていると、幸彦が言った。

 

「叢雲ですか?噂だと、何かの事件に巻き込まれて真っ二つに折れたらしいです。修復するために関係者が奔走しているそうっス」

 

折れた!?マジか!エクスカリバーもそうだが、伝説の聖剣って、簡単に折れるものなのか!?

俺は内心の同様を隠して、幸彦に訊く。

 

「十束剣も割りと有名だが、そんな物をキミに持たせて良かったのか?」

 

「はい。なんでも『悪用したり、盗まれなきゃ問題なし』って父母に言われました。仮にそうなっても自己責任なので、命懸けでどうにかしろってことみたいです」

 

なんか、自由な一族だな。結構大事な物だよな、あれ。もっと厳重に保管した方がいいんじゃないのか…………?

心の中で困惑していると、ロスヴァイセがリアスに訊いた。

 

「結局、火照幸彦くんの依頼である『通過儀礼』はどうするのですか?」

 

ナイスタイミングだ、ロスヴァイセ。かなり依頼の話から脱線してしまっていた。

てか、依頼ってことは何かしらの対価をもらうってことだ。こんな小学生から何かもらうってのも酷なもんだな。

 

「お礼ならうちの霊剣やらで良かったら差し上げますよ。さすがに十束剣はあげられませんけど」

 

なんて軽く言った幸彦!そんなあっさりと霊剣をあげていいのか!?

リアスはその返事をうけて、あごに手をやりながら、首を少し傾けていた。

 

「うーん、お礼はきっちりといただくつもりだけれど、肝心のその通過儀礼とやらをどうやって果たそうか、少し考えないといけないわね」

 

確かに。異形の者との戦闘が通過儀礼ってことは、ここにいる誰かと幸彦が戦うってことだ。だが……。

 

「リアスたちの誰かと言われても、幸彦には荷が重いな。多分だが、実戦は初めてだろ?」

 

俺が訊くと、幸彦くんは素直に頷いた。それを見てオカ研は皆して困り顔になる。

仕方がないことだろう。俺含めてリアスたちは修羅場を潜りすぎなのだ。一人一人が強すぎる。失礼だが、幸彦くんでは相手にならない。

 

「………アーシアに頼むか?」

 

俺が迷いながらアーシアに視線を向ける。

 

「はぅぅっ!わ、私が聖剣使いの方のお相手を、ですか!?」

 

仰天するアーシア。彼女には悪いが、本当にそれしか思い浮かばなかった。

ゼノヴィアがうんうんと頷きながらアーシアの肩に手を置いた。

 

「アーシア、これも若い剣士のためだ。私たちが相手ではあの子も自信を失うだろう。年上としての力の見せどころだ。なに、フリをすればいいだけだと思うぞ」

 

「確かにアーシアさんとなら、良い通過儀礼になるかもしれないわね!ああ、アーシアさんの自己犠牲の精神は(しゅ)もきっとお喜びなってくださるわ!安心して!危なくなったら、私とゼノヴィアが助太刀するから!」

 

「ああ!任せておけ!」

 

何故かやる気のゼノヴィアとイリナ。言われたらアーシアはハラハラと当惑しながら涙目になっていた。な、なんか、悪いことをした気分だ………。

 

「俺が全力で手加減してやるってのは?」

 

俺が助け船を出したが、リアスがそれを制してきた。

 

「これは私たちへの依頼です。お兄様にもお手伝いを頼むと思いますが、出来るだけ私たちだけで何とか━━━」

 

リアスがそこまで言った瞬間、部室の扉が開け放たれた!

 

「話は聞いたぜ!俺に任せておけ!」

 

意気揚々と登場したのは白衣姿のアザゼルだ。見たことがないほど輝いた顔をしている。てか、俺でも気配が探れなかったぞ!気配遮断能力が高まっているな!

アザゼルはずかずかと部室に入ると、力強く言ってきた。

 

「俺にいい考えがある!」

 

「「「却下」」」

 

半眼の俺、リアス、朱乃が異口同音で即否定した。こいつが何かするといいことが起こらない!てか、関わった俺たちが痛い目にしかあわない!

 

「どうせ、また酷いものでも作ったんじゃないですか?」

 

イッセーが溜め息をつきながら訊く。

アザゼルはその言葉を待っていたかのような表情になると、何かを取り出した。

 

「見ろ!これぞ『アザゼルクエスト』の企画書だ!悪魔サイドのゲームフィールド技術を使って、ロールプレイングな空間を制作中なんだよ!悪魔の技術者も嬉々として参加していてな。サーゼクス経由でアジュカ・ベルゼブブ側の関係者から技術提供もしてもらっている!」

 

イッセーはその企画書を受け取り、パラパラと読み進めていっていた。

今の説明を聞いた感じだと、プレイヤーがレーティングゲームの空間を使用して、冒険するってことか?

それだけ聞けば楽しそうだが、アザゼルが関わっている以上、絶対にろくなことにならないだろう。

てか、兄さんもしれっと協力しないでくれよ!俺たちに被害がくるんだからよ!

アザゼルは企画書をもうひとつ取り出して幸彦に差し出した。幸彦はその中を見て、顔を明るくさせている!食いついちまったようだ!

 

「わっ!いいですね、これ!すっごい楽しそう!魔物とも戦えるんですよね?」

 

「もちろんだ!仲間と共に旅をして、悪の龍王を倒す体験型RPGだからな!」

 

「俺!これで通過儀礼を果たしたいと思います!皆さん!どうか、これに参加させてください!」

 

すっごい輝いた表情してやがる。純粋無垢な眼で企画書を読みまくっているし、これはやるしかない感じだな。

アザゼルが幸彦の肩に手を置いて訊く。

 

「では、少年!後日、このゲームをプレイということでいいかな?」

 

「はい!お願いします!」

 

「よし!仲間にしたい三人分の職業をこの企画書から選んでくれ!こっちで手配するからな!」

 

「はい!うわー、仲間かー!戦士に魔法使いに僧侶に……」

 

ハハハ………はぁ………。また企画書を読み始めちゃったし、話が勝手に進んじまっている。ま、いいか。ここまで来たらやらなきゃダメなんだろうし、こうなったら………!

 

「てなわけで、イッセー。おまえが中心になれ」

 

「ええ、イッセー。任せたわ」

 

俺とリアスはそう言って、同時に溜め息をついた。イッセーを生け贄にして、俺たちは助かろうって腹積もりだ。

 

「ええええっ!?マジっスか!またですか!?」

 

俺たちの言葉にはイッセーは仰天しているが、これはもうお約束的なものであり、俺はこんな面倒は嫌だ。

こうして、アザゼルが開発したというゲームに、イッセーは強制参加となったのだった。

多分、これで俺が参加することはないはずだ。ま、がんばれ、イッセー!

 

 

 

後日、俺がそのゲームに参加することになることを、その時の俺は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 




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