「ロイ!召集がかかったわよ!」
「あ、ああ。悪いな………」
セラに頭を叩かれて起こされた俺━━ロイはゆっくりと体を起こす。かなり休ませてもらえたな。
俺が周囲を見渡すと、三大勢力の選手たちの空気が妙にピリピリしているような気がするが………。
「セラ、何かあったのか?」
「いいえ。障害物競争で魔物が暴れただけよ」
「なるほどな………」
俺はそう返しながら心の中でため息を吐いた。魔物が暴れりゃ、緊張感も高まるだろうよ。
俺は立ち上がり、セラに礼を言う。
「とりあえず、ありがとうな。また世話になるかもしれないが………」
「何回でもいらっしゃい!待ってるわよ☆」
座りながら横チョキするセラ。また俺が倒れる前提で発言しているんだが、セラに自覚はないんだろうな。
とりあえず、またあのパンを食わされることがなければそれでいいか。
集合場所に到着すると、先に一誠が到着していた。
一誠が俺に気づくと心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「ロイ先生!だ、大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと頭がいてぇが、問題ないはずだ」
と、強がってはみたが、今にも倒れそうだ。もう少し休ませてもらいたかったな。
なんてことを思った矢先に競技がスタート。今回の出番は中盤のため、初見殺しのトラップには対策できる。まぁ、見た感じだと普通そうだ。
俺がホッと息を吐いていると俺の番になる。今さらだが、一誠も俺と同じレースだったようだ。
『位置について、よーい………ドン!』
合図に合わせてダッシュ!と同時に胃から何かが上がってくる………!
「うっぷ………」
吐き気に襲われた俺は一気に減速、そのまま最下位になってしまった。意外とダメージが残っているみたいだ………。
そんな俺を実況が煽ってくる。
『おーっと!パン食い競争
それどころじゃねぇっての!レースが終わったら一回吐いた方がいいかもしれないな。
って、ゴールしたの俺だけかよ!?俺が頑張った意味は!、
俺は必死に足を動かしてお題の入った封筒を拾う。他の選手を見てみるが、お題が難しいのか苦戦をしている様子だ。
「うっ………」
俺は他の選手だけでなく、吐き気と戦いながら封筒を開けて中身を確認する。
俺のお題は『銀髪の女性』だ。それなら
俺はキョロキョロと周囲を見渡すがまったく見つからない。あのヒトのことだから裏の仕事をしているのかもしれないな。
俺は必死に目を凝らし銀髪の女性を探す。すると、ある女性が俺の視界に映る。そうだ、あいつも銀髪だったな。
俺がその女性の元まで走ろうとすると、
『兵藤一誠選手がゴォォォォォルッ!ぶっちぎりの一位でゴールだぁぁぁぁぁぁッ!』
興奮した様子の実況が頭に響いた。一誠が頑張っているってのに、俺がリタイアなんて笑えねぇ。俺も頑張らないとな………!
俺は覚悟を決めてその女性に一気に駆け寄る!その女性は俺が目の前に来たことに驚いていたが、俺はお題の紙を見せながらその女性に頼む。
「ロスヴァイセ、ちょっと付き合ってくれ」
「わ、私ですか!?わ、わかりました」
俺はロスヴァイセの手を引いてゴールを目指す。だが、他の選手の方が一歩速いか。
「ロスヴァイセ、悪いな」
「え?」
俺はロスヴァイセに先に謝っておき、彼女の返事を待たずにお姫様抱っこをした。
「え?え!?」
急に抱えられたロスヴァイセは驚愕するが、顔を真っ赤にしながら抵抗はしなかった。いや、急すぎてできないのかもしれない。
俺はそのまま一気に加速してゴールに突っ込む!
『ロイ・グレモリー選手、二着でゴールだ!序盤の遅れを一気に巻き返したぞぉぉぉぉぉッ!』
叫ぶ実況を無視して、俺は出来るだけの笑顔でロスヴァイセを見る。
「ロスヴァイセ、ありがとうな」
「は、はい………」
ロスヴァイセの顔を赤くしながら頷いた瞬間、急に足に力が入らなくなった。
「━━━━━ッ!」
「きゃっ!」
俺はロスヴァイセを抱えたままうつ伏せに倒れこんでしまう。ちょうどロスヴァイセに覆い被さるような形になってしまった。
俺はどうにか離れようとするが、体に力が入らない!てか、お姫様抱っこの態勢から転けたからなのか、ロスヴァイセの胸が俺の体に密着しているんだが!?ジャージ越しでも柔らかさが伝わってくる。…………って、俺は何を考えてんだ!?
「わ、悪い!すぐに
俺が謝りながら動こうとするが、相変わらず力が入らない。
この際ロスヴァイセに吹っ飛ばしてもらうように頼もうとすると、
「ロ、ロイ先生………。あ、案外
何を言おうとした!?てか、退きたくても退けないんだよ!
俺がそれを伝えようとすると、
「何やっているのよぉぉぉぉぉッ!」
「ギャァァァァァァッ!」
横っ腹を誰かに蹴り飛ばされた!空中で何回転もしながら地面に叩きつけられる!
「グハッ!」
地面に叩きつけられ、俺が蹴られた横っ腹を押さえていると、再びの声が聞こえる。
「ロイ!まったく、何をしているのよ!」
声の主はご立腹のセラだ。立ち上がったロスヴァイセの横で腕を組ながら俺を睨んできていた。
俺は腹を擦りながら立ち上がり、セラに説明する。
「なんか、急に力が抜けちまったんだよ。変な気持ちはねぇ」
「………本当に?」
「本当だって!そこは信じてくれよ!」
セラは息を吐くと組んでいた腕を解いた。
「わかったわ、とりあえず戻りましょう。ロスヴァイセちゃんも」
「了解」
「わ、わかりました」
こうして、俺たちは応援席に戻ることになった。その途中で俺は一誠が落としたと思われるお題の紙を見つけた。
それを拾い上げて見てみると、そこには『シスコン』とだけ書かれている。
一誠が連れてゴールしたのは兄さんだ。
俺はそれを確認をしたと同時に納得した。シスコンね、そりゃ兄さんに行くよな。
この事実を俺は墓場まで持っていく覚悟を決める。こんなことで一誠と兄さんの仲を引き裂きたくないからな。まぁ、今さら引き裂かれるようなものではないか。
余談だが、俺はこの後、思い出したようにトイレに直行して出すもの出してスッキリしてきた。これで次の競技は大丈夫なはずだ。
こうして、俺の参加する個人種目は全て終了し、残るは団体種目だけとなった。
個人戦ならともかく、これからの競技は団体戦。どんなことが起こるのかはだいたい想像がつく。
怪我人が出過ぎないことを祈りながら、俺は応援席に戻ったのだった。
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