Extra life01 意外な客
修学旅行から帰ってきた俺━━ロイは休日をのんびりと過ごしていると、不意にインターホンが鳴った。
俺は足早に玄関へと向かい、それに対応する。
「はーい、どちら様?」
「ご、ご機嫌よう」
金色の髪を頭の両端でドリルのような縦ロールをした女の子が玄関の前に立っていた。白いワンピースを着ている。
この
「ご機嫌よう、キミはレイヴェル・フェニックスだな」
「は、はい。あの、あなたは?」
俺を見て首をかしげるレイヴェル。俺は咳払いをして改めて名乗る。
「ロイ・グレモリーだ。ヴィンセントから話を聞いていないか?」
「あなたがロイ様なのですね!お話は伺っております!」
急にテンションが上がったレイヴェル。ヴィンセント、どんな話をしたんだよ。
俺はかつての相棒に訊きたいことを思いながらレイヴェルに言う。
「町を見に来たのか?だったら、おい!リアス!お客さんだ!」
「ロイお兄様、お呼びですか?あら、レイヴェル。ご機嫌よう」
家からリアスが顔を出してあいさつする。レイヴェルもそれに返す。まったく、来るなら言っておいて欲しかったぜ。
俺が息を吐いていると、レイヴェルが恥ずかしそうにしながら口を開く。
「実は、兄のことについてご相談がありまして………」
どうやら、町の見学は後回しになりそうだ。
レイヴェルを家に上げて、俺たちはリビングに集合した。少々長くなりそうだからな。
朱乃がレイヴェルにお茶を出していた。
「ライザーについて?」
リアスが訊くと、対面に座るレイヴェルが頷く。
「はい。兄があの一件以来、ふさぎ込んでしまったのはお耳に届いていると思うのですが………」
あれか、一誠が婚約パーティーに殴り込んでリアスを連れ出したって話。任務から帰って来て早々に聞いたな。その話の延長線上の話のようだ。
まあ、その殴り込まれたライザー・フェニックスは初めての敗北と、リアスを連れていかれたことが相当ショックなことであったらしく、酷くふさぎ込んでしまったとのこと。
リアスとレイヴェルの会話を聞きながら、俺はため息を吐いた。
ライザーよ、そこは頑張ろうぜ?男なら挫折なんていやってほど味わうことになるんだからよ………。
「ライザーか。話には聞いているが………」
「どういう人なの?」
「えーと、フェニックス家の方で………」
面識がないと思われるゼノヴィアとイリナにアーシアが説明していた。
「上級悪魔の世界は複雑ですね。けれど、貴族社会に憧れます。玉の
何やら企むロスヴァイセ。修学旅行の一件で一時期無視され続けていたが、どうにか話をしてある程度まで仲を修復した。
「妹自らの訪問……。本当に困っているのかも」
もう少ししたら同じ学校に通うことになる小猫は心配していた。若干顔が不機嫌なのは気のせいだろうか。
それはそれとして、レイヴェルは色々なところで解決策を探していくうちに『リアス様のところに行ったらどうか?』という意見を多数受け取ったそうだ。
「それで、どうして私のところへ?」
リアスの質問にレイヴェルはハッキリと答える。
「兄を立ち直らせるためには、リアス様の眷属が持つ『根性』を習ったほうがいいのでは?と、判断したのですわ」
リアスと一誠は間抜けな顔になるが、俺を含めた数人が一誠を見ながら苦笑する。根性か、確かにそれは一誠の管轄だろう。その判断は正しい。
一誠はその視線を受け止めながらレイヴェルに言う。
「そういうことなら俺に任せろ。何とかしてやるよ」
その発言の後、一誠は頬をかきながら続ける。
「俺が最終的にやっちまったことだから、立ち直らせるのもやらなきゃいけないと思うんだ。『根性』だろ?任せてくれ。根性と言えば俺だ」
「まあ、おまえはいい意味でも悪い意味でも根性の塊だからな」
俺の笑い混じりの一言に一誠は自信ありげに頷いて続ける。
「はい!俺にいい考えがあるんです!」
珍しく作戦を立てたようだ。まぁ、修学旅行の時も俺やアザゼルがいない時に臨時の王として頑張っていたらしいし、期待させてもらおう。
レイヴェルはそれを聞いて明るい表情を浮かべるが、一度咳払いをして一誠に言う。
「し、仕方ありませんわね。それではイッセー様に頼んで差し上げてよ?せいぜい上級悪魔のために励んでくださいな。………い、いちおうお礼を言ってあげますわ」
多分だが、レイヴェルも一誠に惚れているな。リアス、これから大変になるぞ………。
俺の心配をよそに、リアスは息を吐いて頷いた。
「わかったわ。イッセーを中心にして、ライザー立ち直り作戦ね」
「なら、面倒だが俺も動くかね」
俺の一言にリアスは首をかしげる。
「ロイお兄様もですか?今回は私たちだけでも……」
「リアス、言ってなかったが、俺はヴィンセント・フェニックス、つまりライザーの兄と親友なんだ。その親友の妹が直接頼みに来たんだから、少しは手伝わせろよ」
俺の言葉にリアスは一瞬意外そうな表情を浮かべる。
「もしかして、ライザーと私の婚約話って………」
「そうかもしれないから、責任とらせろ」
俺はそう言ってリアスに頷いてみせる。本当に、もしかしたら俺とヴィンセントのせいでその話が出たかもしれないからな。
俺のリアスのやり取りを見ていたレイヴェルが言う。
「それでは、ロイ様にもお願いいたします。どうか、私の兄を………」
「ああ、任せとけよ」
こうして、俺たちはライザー・フェニックスを立ち直らせるために行動することになったのだった。
後日、俺たちいつものメンバーはフェニックス城に来ていた。城の大きさとしてグレモリー家のものと同じくらい。要するにデカイ。
城門が重い音を立てながら開いていき、俺たちは中に進んでいく。
庭園を抜けて、居住区と思われる場所に出た。豪華な造りの扉の前にドレス姿のレイヴェルと使用人数人、そして、
「よっ!ロイ!久しぶりだなぁ!」
「ヴィンセント!?おまえ、何だってこんなところに!?」
「『何だって』っておまえな!ここは俺の家でもあるんだぞ!親友が来るなら休憩時間を使って顔を出すぐらいするって!」
金髪ロン毛の男性━━ヴィンセント・フェニックスもいた。あいつ、メディア系の仕事で幹部しているって聞いたんだが!?
勝手に話す俺とヴィンセントを見て、リアスたちはポカンとしていた。
それに気づいたヴィンセントが咳払いをする。
「これは失礼。ヴィンセント・フェニックスです。以後、お見知りおきを」
「なんか気持ち悪いぞ、おまえ」
「うるせぇ!やることはやっておかないと、後で母さんたちがうるさいんだよ!」
「おまえも大変だな………」
俺とヴィンセントが盛り上がる中、レイヴェルが言う。
「あ、改めまして。ご機嫌よう、ようこそフェニックス家へ」
「ご機嫌よう、レイヴェル。ライザーはこの区画に住んでいたわよね?」
「ヴィンセント、話が進んでるぞ」
「あ、ああ、そうだな。聞いてやってくれ」
俺は意識をレイヴェルに戻すと、レイヴェルの先導で中を進んでいく。
それにしても、広い家だ。高そうな絵画や像があちこちに飾られている。
進むこと数分。俺たちは火の鳥らしきレリーフが刻まれた扉の前に到着した。
「ここか?」
「ああ。ここに
俺の問いにヴィンセントが頷くとレイヴェルが扉をノックする。
「お兄様、お客様ですわよ」
「ライザー、たまには顔だしたらどうだ?」
「レイヴェルと兄上ですか?申し訳ありませんが、今日は誰とも会いたくないのです。とても嫌な夢を見たのです」
それを聞いたレイヴェルとヴィンセントはため息を吐いた。しかし、レイヴェルは気を取り直して告げる。
「━━リアス様ですわ」
一拍開けて、中から何かを落とす音が響いてきた。
『━━っ!………リ、リアスだと…………?』
酷く狼狽したような声だ。リアスが来たのは予想外だったのだろう。
リアスが扉の前に立ち、言葉を投げかける。
「ライザー。私よ」
『……今さら何をしに来た?俺を笑いにでも来たのか?それとも、赤龍帝との仲睦まじい話を聞かせに来たのか?』
通常のものがどの程度かわからないが、声のトーンは低いように思える。それどころか、恨めしいと思っているような声音だ。
「……少し、お話をしましょう。顔を見せてちょうだい」
リアスがそう言うが、ライザーの返答は、
『断るッ!振った男に何を話すと言うんだ!それに、俺はあの時のことを思い出したくもない!』
これは重症だな。開ける気配はおろか、話を聞く気配もない。
「やれやれ、仕方ない。開けてくれないのなら、面倒だが、こじ開けるまでだ」
俺が漏らすとすかさずヴィンセントが、
「修理代はおまえ個人に請求するからな」
「わかってるよ。おまえら、ちょっと下がっててくれ」
俺は全員を下がらせるように言って扉の前に移動、リアスが下がる前に扉の向こうに向かって叫んだ。
「ライザー!扉から離れなさい!」
『いきなり何を言い出すんだ?外で何を━━』
「いくぜ!」
俺は扉に向かって後ろ回し蹴りを叩き込む!凄まじい音と共に扉が開け放たれるが、
「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁッ!」
扉の前にいたのかライザーも吹っ飛ばされていた。フェニックスだから死にはしないだろう。
俺は開け放たれた扉から中に入る。
「い、いきなり何をっ!それよりも貴様は誰だ!?」
「髪もボサボサでだらしねぇ格好だな、まったく」
「悪いな、こんな弟で」
俺の言葉に、俺に続いて入ってきたヴィンセントが返す。
そのヴィンセントにライザーが訊く。
「兄上!こいつは━━━」
「俺の親友のロイ・グレモリーだが?前に話してやっただろ?」
それを聞いたライザーは驚いたように俺を見てくる。
そして、急に立ち上がって俺の肩に勢いよく手を置いてくる。
「あ、あなたがロイ様だったのですね!お話は兄上から聞いております!」
「あ、ああ。よろしくな」
「よろしくお願いします!」
俺が手をどけながら言うと、ライザーも勢いよく頭を下げた。俺は困惑気味にヴィンセントを見ると、
「おまえの武勇伝を色々と話してやったんだ。レヴィアタン様を助けたとか、現ルシファー様とその
「あの任務はおまえも関わっていただろうが。その話は?」
「はぁ?あんなこっぱずかしい話できるかっての」
「そうかよ」
俺とヴィンセントが話していると、リアスたちも部屋に入ってくる。
ライザーもそれを確認し、一誠を見た瞬間にライザーは、
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
情けない声を出して
俺とヴィンセントはため息を吐き、ライザーに言う。
「ライザー・フェニックス。今さらだが、おまえは完全に包囲されているぞ」
「そうだぞ、ライザー。おまえ、本人から話を聞きたいって言ってただろ?ちょうどいいじゃねぇか」
「そうなのか?いいぜ、話してやるよ。だからさっさと出てこい」
ライザーは俺たちの言葉を受けてベッドから出てくる。
「わ、わかりました。着替えてまいります」
怯えながらも奥の部屋に入っていった。とりあえず、第一ステップはクリアか?
そんなことを思った俺にヴィンセントが言ってくる。
「あんな感じだが、悪い奴じゃないんだ。よろしく頼む」
「まあ、任せとけ。一誠に考えがあるらしいからな」
「着替えてまいりました。お話はどこでいたしましょうか?」
スーツに着替えてきたライザー。そのスーツもちゃらく着崩しているが、今はどうでもいいことか。
なんとなく元気になっているような気がするが、いや、必死に一誠と視線を合わせないようにしているのか。
「そんじゃ、とりあえず外に出るか。新鮮な空気を吸いに行くぞ」
「わかりました」
こうして、俺たちのライザー立ち直り作戦の第一ステップは完了した。
あとは、一誠の考えたプランを実行に移すだけだ。
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