英雄派の構成員とアンチモンスターを蹴散らしながら、俺━━兵藤一誠は二条城前の駅ホームにたどり着いた。
そのまま二条城の東大手門に向かうと、他のメンバーも集まっていた。俺が最後のようだ。
「わりぃ、遅れ━━━」
「ぐぼあっ!」
「はぁ………はぁ………」
謝りながら近づいたら、ロイ先生がロスヴァイセさんに殴られていた。ロイ先生の両方の頬が真っ赤になっている辺り、何回か殴られているのかもしれない。
そうなる過程を見ていたであろうメンバーは、何とも言えない複雑な表情になっている。
俺と
「ロスヴァイセ、もう一回だけでいい!頼む!」
「嫌ですよ!いきなりどうしたんですか!?」
綺麗な一礼をして頼むロイ先生。ロスヴァイセさんは顔を真っ赤にしながら怒りを隠そうともせずに続ける。
「さっきからことあるごとに『おっぱいを触わせろ』って、レヴィアタン様に怒られますよ!?」
「セラはセラ、おまえにはおまえの良さがあるんだよ!わからないのか!?」
「胸に関してはわかりたくありません!」
ど、どうしてしまったんだ、ロイ先生は。おっぱいを触らせろって、普段どころかどんな状況でも絶対に言わないようなセリフを何の躊躇いもなく………。
俺は首をかしげながらも皆の状態を確認する。服とかは破けているけど、目立った怪我はしていないようだ。
「がはっ!」
再び殴られたロイ先生を除いて。本当にどうしたんだろう。
それはそれとして、ゼノヴィアのデュランダルが装飾された鞘に入っていることに気がついた。攻撃的なオーラが漏れていないし、異空間にしまわなくても大丈夫なようだ。
あれが、例のデュランダルのオーラを抑える術ってやつなのか。
俺は横目でロイ先生とロスヴァイセさんを見ながら木場に訊く。
「それで、ロスヴァイセさんとロイ先生は……」
「よくわからないけど、ロイ先生がロスヴァイセさんの胸を触ったらしいんだ。戦闘中の偶然ではなくて、故意に」
木場も困惑した様子だ。本当にどうすればいいのか。これだと戦闘どころじゃない。
「あーもう!いい加減にしてください!」
ロスヴァイセさんの叫び。それと同時に響き渡る打撃音。ロスヴァイセさんの渾身の拳がロイ先生に突き刺さったようだ。
吹っ飛ばされるロイ先生を眺めていると、俺の足下に何かが転がってきた。これは、赤い宝玉?
俺がその宝玉を拾い上げると、ドライグが何かに気づく。
『これは………』
「どうした、ドライグ?」
俺は皆にも伝わるように声を出す。何かの形で力になってくれそうだからだ。
俺たちの横では、
「ハッ!俺は、何を………?」
「知りません!」
「あぶなっ!?」
ロイ先生がロスヴァイセさんの拳を回避していた。表情は本当に焦っているものだ。先程までの謎の
『相棒、これはおまえから飛び出していった可能性だ』
な、なんだって!
「ちょっと待て!俺が何をした!?」
「今さら知らないふりですか!?ふざけないでください!」
「だから危ないって!」
ロイ先生とロスヴァイセさんの攻防を無視して俺はドライグに訊く。
「で、どんな感じだ?」
『…………………』
急に黙りこむドライグ。何か危険なものでも見つけてしまったのだろうか。
「ドライグ、教えてくれ」
『あ、ああ。よく聞け。箱の中身、おまえの可能性は……様々な人間と一人の悪魔の体を使って旅をしていたようだ。あ、相手の、ち、乳に触れながら』
「な、なんだって………?じゃ、じゃあ、最近頻発していた痴漢騒ぎやロイ先生がおっぱいを触ろうとしていたのって……」
『俺たちのせいだな』
俺が気まずそうにロイ先生の方を見ると、
「わかったから!悪かったって!だから勘弁してくれ!」
「許しません!」
いまだにロスヴァイセさんから逃げて回っていた。ロイ先生なら取り押さえられると思うけど、そこはロスヴァイセさんを気遣っているのかもしれない。
「とりあえず、どんな
『まだわからんな。力は高まっているのはわかるが。しかし、胸を触って力を高めるとは、これでいいのか、おまえの可能性は………』
「言うな!俺だってリアクションに困ってんだよ!」
俺がドライグとあーだこーだ言い合っていると、ふいに俺の肩に手が置かれた。
「一誠………」
俺の背後にはボロボロのロイ先生が。ロスヴァイセさんは肩で息をしながらも落ち着いた様子だ。今の話を聞いていたのかもしれない。
それはともかく、
「ロイ先生、ごめんなさい!」
「後で覚えてろよ。アーシア、ちょっと頼まれてくれ」
「あ、はい!今やります!」
素直に謝ったら死刑宣告が返ってきた!こ、これは覚悟を決めておかないとダメかもしれない。
とりあえず、ロイ先生のダメージをアーシアが回復させると、鈍い音と共に巨大な門が開いていく。
回復が終わったロイ先生が吐き捨てる。
「ったく、こんな演出まで用意しやがるとは、舐めやがって」
さっきのこともあったから、余計にキレている様子だ。だが、ロイ先生は自分を落ち着かせるように息を吐き、俺たちを見渡して頷く。俺たち頷き返すと、二条城の敷地へと歩を進めた。
━━━━━
「僕が倒した刺客は本丸御殿で曹操が待っていると言っていました」
俺━━ロイは木場の言葉に頷くが、それ以外のことを考えてしまう。
ロスヴァイセの胸を触ったって、俺はどうしちまったんだ?本能を理性で抑えるのは慣れているが、やはり修行不足か?いかん、何をしたのかうろ覚えになっている。
俺は首を振り思考を切り替える。ここからは死線になる。一瞬の油断が命取りだ。
二条城の敷地内を進み、二の丸庭園を抜け、本丸御殿を囲む水堀が見えてくる。そして本丸御殿に続く
そして、到着したのは日本家屋が立ち並ぶ場所だった。庭園から何まで本物そっくりだ。
一誠たちが英雄派の気配を探っているが、俺は庭園の一ヵ所に視線を送る。
「演出まで行き届いているな、小悪党が………」
「そう言われると、この空間を用意したかいがあります」
俺の言葉に返しながら、その男は姿を現す。
「俺たちの中でも下位から中堅の使い手でも、
槍を手に持った青年━━曹操がそう言う。あいつが英雄派のトップであり、最強の
曹操に続いて構成員と思われる複数人の影が建物から現れる。そいつらを一瞥すると、あの男、小次郎に目が止まった。小次郎もそれに気づいて不敵な笑みを浮かべる。
それにしても、あいつだけ浮いているな。英雄派の制服ではなく
「母上!」
九重が叫んだ。九重の視線を先にはあの絵画で見た女性が佇んでいた。あの人が
「母上!九重です!お目覚めくだされ!」
九重の声に八坂は反応しない。瞳も陰っており、感情というものを感じられない。
九重は曹操たちを睨みつける。
「貴様ら!母上に何をした!」
「少しばかり我々の実験に協力してもらうだけですよ、小さな姫君」
曹操はそう言うと、槍の石突きで地面を軽く叩く。その瞬間、
「う………う、うあああああああっ!」
八坂が悲鳴をあげはじめ、様子が激ていく!体が光り輝き、その姿が変貌していく!どんどん大きくなり、九本の尻尾も膨れあがっていく!
オオォォォォォォンッ!
夜空に響く九尾の咆哮。俺たちの眼前に巨大な狐の怪物が現れた!フェンリルと同じぐらいの大きさだな。
フェンリルもフェンリルでヤバイと感じたが、こっちもこっちで危険な臭いがプンプンするぞ!
「曹操!おまえ、何をするつもりだ!?」
曹操は槍の柄で肩を叩きながら答える。
「簡単なことですよ、ロイ殿。この都市の九尾の力を使い、この空間にグレートレッドを呼び寄せる。本来なら龍王を使いたかったのですが、それはさすがに無理でしたので、代用させていただきました」
「グレートレッドを呼び寄せてどうする?オーフィスが邪魔だと思っているとは聞いたが、おまえらじゃ殺せねぇよ」
「確かに、我々のボスはグレートレッドを排除しようと考えていますが、確かに我々では殺せない。だから、とりあえず調べてみようと思ったのですよ。謎の多いあのドラゴン、その謎がひとつでも解ければ大収穫だ。『
なんだ、
聞いたことのない単語に俺は首をかしげるが、ひとつだけ曹操に言う。
「よくわからねぇが、ろくでもないことになるのは確かだな。ここで止める…………ッ!」
俺の言葉と共に、ゼノヴィアがデュランダルを曹操に向ける。今さらだが、デュランダルがずいぶん変わっているな。鞘がついたのか?まぁ、話には聞いていたがな。
デュランダルの鞘の各部が部位がスライドしていき、変形していく。
鞘のスライドした部分から聖なるオーラが噴出し、刀身を覆い尽くすと、極太の刃と化していく!
見ないうちにずいぶん変わったな。デュランダルのオーラが無駄なく攻撃に回されている。横にいる俺たちには被害なしだ。
「ロイ先生の言うとおりだ。あいつらは危険だ、ここで屠る」
ゼノヴィアの宣戦布告に木場も続く。
「確かに、ゼノヴィアに同意だね。彼らは危険だ」
「同じく!」
イリナも応じながら光の剣を作り出す。
「学園の皆とダチのためだ!ヴリトラ、行くぞ!」
匙の言葉と共に、腕、足、肩に黒い蛇が出現し、体を這いだした。全身に黒い蛇をまとわせる匙の足下から黒い大蛇も姿を現す。
よく見たら左瞳が赤くなっており、まるで蛇の目のようになっている。
なかなかのプレッシャー。アザゼル、なかなか無茶をしたようだな。
匙の足下から現れた大蛇はとぐろを巻き、そして低い声音で匙に訊く。
『我が分身よ。獲物はどれだ?あの聖槍か?それとも狐か?どれでもよいぞ』
ヴリトラの意識が回復してやがるのか。匙の意識が持っていかれないことを祈る。とりあえず、あいつの能力は相手を捕らえるものが多い。八坂の相手を頼むか。
俺がそう判断した矢先、ゼノヴィアがデュランダルのオーラを解放しながら天高く掲げていた!天を突く勢いで十五メートルをゆうに越える聖なるオーラの刀身が発生している!
「ゼノヴィア、おまえ、何をするつもりだ!?」
「いやなに、少しばかりこのデュランダルを試そうと思ってな。とりあえず初手だッ!」
ゼノヴィアはそう言いながらデュランダルを振り下ろした!巨木が横倒しになるように、デュランダルの一撃が曹操たちに向かっていく!
その一撃は曹操たちだけでなく、本丸御殿の家屋を丸ごと吹き飛ばし、遥か前方の風景まで飲み込んでいく!
俺たちはそれを見ながら足を踏ん張る!下手に動いたら消し飛びかねない!
攻撃が終わると、眼前には崩壊した本丸御殿と奥の町並みが。なんて攻撃力だ!俺の全力を軽く越えてるぞ!?
「ふー」
ゼノヴィアは一仕事終えたように額の汗を拭っていた。
「ゼノヴィア、飛ばしすぎだ。後でバテるぞ」
「開幕の一撃は必要だろう?」
「やれやれ……」
そういえば、ロキの時も似たようなことをしていたような。まったく、こいつに言葉は届かないか。
「安心してくれ、加減はしてある」
加減してこれって、全力はどうなるんだよ。ったく、もう少しテクニックのことも考えて欲しいな。まぁ、その話は後だな。
「デュランダルとエクスカリバーの同化、想像以上のパワーだな」
「何ですかそれ!?」
一誠が驚いていると、イリナが挙手して解説を始める。
「簡単には言うと、デュランダルの刀身にエクスカリバーを被せたの。エクスカリバーで覆うことでオーラの漏れを防いで、二つの聖剣の相乗効果で破壊力も底上げされているのよ!」
「デュランダルの強すぎるオーラをエクスカリバーで抑え、いざってときはそれを解放できるってことだ。わかったか?」
「は、はい!何とか………」
俺がさらに簡単にまとめて一誠に教えた。本当にわかったのだろうか。
「なるほど、二つの聖剣を一つに、か。なかなか面白いことを考えるものよな」
突然の声。だが、この声は━━━!
「佐々木小次郎!」
「おうさ。よい一撃であったが、少々遅いな。避ける暇があったぞ」
俺が吐き捨てるように名を呼ぶと、小次郎は当然のように頷きながら言った。
その言葉が合図になったのか、地面から英雄派のメンバーが出てくる。体は薄い霧で覆われている。見た目は無傷、あの霧で防いだようだ。
とりあえず、ここからが本番ってことだな。
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