俺━━ロイは外見年齢を元に戻してジャージに着替えると、非常階段の踊り場に向かった。
隠れてタバコを吸うわけでもなく、仕事をサボっているわけでもない。ここにも仕事をしに来ているのだ。
━━━っと、来たようだな。
「ゲェッ!?ロイ先生ッ!?」
「来たか、一誠。これは警告だ。今のうちに引き返せ。おまえじゃ俺には勝てん。いいか、俺は面倒が嫌いなんだ」
階段から降りてきた一誠に、俺はそう告げた。一誠は目を見開いて驚いていたが、すぐに表情を引き締めた。
俺はここで一誠が覗きに行くのを阻止しなければならない。最初はロスヴァイセが行こうとしていたが、こいつを女性が相手するのは少々厄介だ。だから、面倒だったが俺が代わった。
俺は変わらず睨んでいたが、一誠は覚悟を決めたように言う。
「いくらロイ先生でもこれは譲れません。━━俺は女風呂を覗きます」
「たいした度胸だ。だったら、力ずくで通ってみろ!」
俺は手首をスナップさせて脱力するように構え、対する一誠は籠手を出現させて強張った様子で拳を構えた。
お互いの拳が届かない距離から様子を探り、俺は笑いながら一誠を見る。
「どうした?ビビっているわけでもないだろ。入浴時間終了までこうやって睨みあっているか?」
「━━━ッ!おりゃぁぁぁぁぁッ!」
俺の言葉に焦ったのか、一誠が飛び蹴りを放ってきた。俺は溜め息を吐き、一誠が前に突き出した足を下に払い落として態勢を崩した瞬間に一誠の首を掴む!
少し苦しそうな表情になるが、それを無視して一誠を壁に叩きつける!
「ガッ!」
一誠がうめき声を上げるが、再び無視して腕を極め、再び壁に叩きつける。
それでも脱出しようともがく一誠に言う。
「残念だが、この下には生徒会も待機している。突破は無理だ」
「くそ!少しは見逃してくださいよ!同じ男でしょ!?」
「同じ男として言うが、裸を見るならお互い同意の上でだな━━」
「それは彼女がいる人の意見です!いない俺には貴重なものなんですよ!」
「相変わらず、自覚なしか」
「何か言いましたか!?」
「いいや」
時々、リアスが「部長」と呼ばれて悲しげな表情になることがある。多分だが、こいつがいつまでたっても名前で呼んでくれないからだろう。あいつは、一誠のことを━━━。
俺は拘束の力を緩めずに一誠に続ける。
「とりあえず、欲を溜めとけ。彼女ができたら解放すればいい」
「それもそれでどうかと思いますよ!?」
「うるせぇな!そういうことだから、とりあえず気を失ってもらうぞ」
「ちょっ!?それはヤバイです!」
俺が首を極めようとすると下から誰かが昇ってくる気配を感じた。一誠の拘束を緩めずにそちらに目を向けると━━━、
「おまえら、楽しそうでなりよりだが、下まで聞こえたぞ」
アザゼルだった。呆れたような目で俺たちを見てきている。
「マジか」
「マジですか!?」
俺は軽く返し、一誠は驚きながら返した。今の会話を聞かれていたのか。まあ、別にどうってことでもない。
俺たちのリアクションを受けたアザゼルは苦笑しながら続ける。
「俺とおまえらに呼び出しがかかった。近くの料亭に来てくれだとさ」
「よ、呼び出しですか………っ?い、一体、誰から?」
極められながら一誠が訊くと、俺を見ながらアザゼルは口元を笑ました。
「そいつの彼女━━魔王少女様だよ」
俺とリアスの眷属たち、イリナはホテルを抜け出してアザゼルの先導で料亭に到着していた。
「料亭の大楽。ここにセラがね………」
俺は腕を組ながら息を吐いた。ここも結構高級料亭だと思うのだが………。
中に通され、和風な雰囲気の通路を抜けると個室が現れる。俺が戸を開けると━━━、
「ハーロー!ロイ、それに皆!皆とはこの間以来ね☆」
着物姿のセラが座っていた。髪も服に合わせて結ってある。俺は少しその姿に見とれていたが、咳払いをしてセラに言う。
「で、どうかしたのか?急な呼び出しとはな」
「話をする前に、座って座って」
セラに急かされるまま俺たちは座る。それと、今さらだが、
「匙たちもいたのか」
「どうせ俺たちはおまけですよ………」
「いや、その、悪いな。日本語は難しい」
俺は苦笑しながら謝る。何てことをしながら運ばれてきた料理に手をつけていく。なかなか美味いな。
「それで、何かわかったのか」
俺は単刀直入にセラに訊いた。セラは箸を置いて少し表情を陰らせる。
「どうにも、大変なことになっているみたいなのよ」
「大変なことってのは?」
「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が行方不明らしいの」
「だから、一誠たちが襲われたのか」
俺は一人で納得していた。一誠も横でなるほどと頷いている。
そんな状況では、よそ者である一誠たちが狙われるのは当然といえば当然だ。俺はセラがいたから大丈夫だったのかもしれない。
アザゼルは酒をあおると言う。
「十中八九、関与しているのは『
「十中八九?十割だろ。タイミングを見ればな」
俺は右足だけ三角座りの時のようにし、そこに右腕を預ける。楽な座りかたになったところで言葉を続ける。
「まったく、どこでも面倒事は起こるもんだな。テロリストどもが………」
俺がそう吐き捨てると、セラは口を開く。
「どちらにしても、まだ
「了解。ったく、ロイじゃないが、京都に来てまでこうなるとは、面倒だな」
「ああ、まったく面倒だ」
アザゼルと俺が毒づいた。修学旅行の時ぐらい平和に過ごさせてくれよ。まったく………。
「あの、俺たちは………?」
一誠が恐る恐る手を挙げながら訊いてきた。俺は苦笑しながら一誠に言う。
「とりあえず、俺たちが動くから旅行を楽しめ」
「え、でも………」
遠慮がちの一誠にさらに言う。
「何かあったら頼るさ。だが、貴重な修学旅行だからな、楽しい記憶を増やしとけよ」
「そういうこった、俺たちに任せとけ」
アザゼルが続き、ようやく一誠は頷いた。
こいつ、すぐに手伝いたがるからな。少しは普通の高校生として過ごしてもらいたい。
「そういうことだから、皆は京都を楽しんでね。私も楽しんじゃう!」
「おまえは仕事しろ」
俺はセラにツッコミを入れながら苦笑する。まったく、こいつが一番楽しもうとしているだろ。
ともかく、リアスたちにはまだ連絡しない方向でいこう。あいつらにも面倒をかけさせたくない。
まあ、一誠たちにも面倒をかけさせないように頑張るしかないがな。
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