地上の敵を片付け、俺は再び上空に飛び出した。
右手に直刀を握り直進する俺に、一人の堕天使が立ちはだかる。
「仲間の仇だ!」
堕天使は光で剣を生成し、大上段から降り下ろしてくる!
俺は直刀で真正面からそれを受け止め、お互いの得物から火花を散らしながらその堕天使と睨みあう。
俺は左に受け流すようにして堕天使の体制を崩させる。前のめりになるように体制を崩した堕天使の腹部に鋭く左拳を打ち込む!
「かっ!」
肺の空気を吐き出す堕天使。が、すぐに歯を食い縛り堪えると、体制を整えて剣を再び大上段から振って俺を攻撃してくる!
先ほどよりもいい動きをする堕天使に関心しながら、その一撃を直刀で下から上に弾き、袈裟懸けに体を斬る!
「貴様………何者だ………!?」
血を吹き出しながら息を絶え絶えにして言ってくる堕天使。俺は真剣な表情で━━━、
「ただの悪魔だ……」
そう返した。
同時に直刀でその堕天使の首をはねる。糸が切れた人形のように動かなくなった堕天使は、重力に従って落下していく。
俺はゆっくりと息を吐き、力を抜きながら周りを見る。
殺気立った堕天使十人が俺を囲んでいた。一人一人が異物を見るように俺を睨んできている。
「何なんだあいつは………!」
「そんな事はどうでもいい!ここで殺す!」
ある堕天使の声に応答しながら、堕天使が一斉に突っ込んでくる!
右から来た最初の堕天使がその勢いのまま剣で突きを放ってくる。
俺はスウェーして避け、突きの勢いで突き出た両腕に右手で持っていた直刀を振り上げ、その両腕を落とす。
左から二人の堕天使が来るが、両腕を斬った堕天使の頭を強引に掴み、体が横になるように二人の堕天使の方に投げつける。
堕天使二人ははとっさに受け止めるが、その隙に一気に近づき直刀に魔力を込める。そして、
「フッ!」
直刀で水平に一閃した!その一撃は投げられた堕天使、受け止めた堕天使二人の計三人をまとめて切り裂いた。
バラバラになりながらも落下していく堕天使を一瞥し、残り六人を睨む。
「ちくしょうが!」
「おい、待て、落ち着け!?」
一人の堕天使が槍を片手に仲間の制止を聞かずに俺に突っ込んでくる。さっきの堕天使とは大違いだな。
俺は溜め息を吐きながら直刀を消し、両手にナイフを生成。堕天使の左からの水平斬りを左のナイフで止め、
「舐めるな………」
右のナイフで喉笛を貫き、左のナイフで剣を弾いて腹を刺す。堕天使は言葉ににもならない苦悶の声を上げるが、構わずに腹を何度も刺して殺害する。
あと、五人か………。
残りの数を確認しながらふと血に汚れた戦闘服を見た。
先ほど以上に血まみれになり、そう簡単には落ちなそうだ。後で洗うことを考えて思わず苦笑してしまった瞬間、堕天使が言った。
「あ、あいつ、笑っているのか………?」
「イカれてる………。あの野郎、殺しを楽しんでいやがる!!」
「『
化け物を見るような目で見てきやがって、こちとら服を見て笑ったんだよ!それに、戦いを楽しむ……か。否定は出来ない。心のどこかで俺は━━━。
俺はそこまで考えると頭を振ってその考えを捨てる。今は、戦闘に集中しないと。
俺が思考を切り上げようとすると、残っていた堕天使に突如、紅の球体が襲いかかった!
俺に警戒していた堕天使たちは不意打ちの球体に飲み込まれ、塵も残さずに消滅する。
「ロイ!大丈夫か!?」
俺よりも上空から兄さんが降下してきた。目を見開き、驚愕の表情を浮かべている。
「ロ、ロイ!?血まみれじゃないか!?」
「俺の血じゃありませんから、大丈夫です」
俺は平然とそう返し、周りを確認する。すると、セラもこちらに向かってきていた。
「ロイ!?その血━━」
「俺のじゃない」
セラが言いきる前に返す。まぁ、いきなり降下していなくなった奴が血まみれで戻ってくれば心配して当然だろう。
顔についた血を拭いながら兄さんに訊く。
「兄さんがここにいるということは、優勢みたいですね?」
「ああ。堕天使たちは撤退を開始した。この街はそのうち復興するだろう」
「頑張ったかいがあったわね☆」
三人でそんな事を話していると、俺たちの耳元に連絡用の魔方陣が展開された。
『堕天使は完全に撤退、この街を放棄した。諸君、我々の勝利だ!』
俺はそれを聞いてホッと胸を撫で下ろした。街のあちこちから勝どきが聞こえてくる。
セラと兄さんも少し緊張が解けたのか、深く息を吐いていた。
とりあえず、勝ち、か。だが、こんなのがいつまで続くことやら………。まだ始まったばかりだと考えると、面倒だな………。
俺がこれからの事を考えていると、セラがいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「珍しくロイが真剣な顔をしているわね」
「そうか?俺はいつだってマジメだが………」
「そうかい?ロイは時々抜けているからね」
兄さんも苦笑しながら俺に言ってきた。俺が抜けているって、俺、何かしたか?
俺が首をかしげたが兄さんはそれ以上何か言うことはなく、「さて、戻ろうか」と言って先に飛んで行ってしまった。
俺も後を追おうとすると、セラが俺の手をとってきた。
「どうかしたか?」
俺が訊くとセラは目に涙をにじませて俺を見てきた。
「ちょっ!?どうした!?どこか痛むのか!?」
俺が焦りながら聞いたらセラは首を横に振り、そして口を開いた。
「怖かった……急にロイが降りていっちゃうんだもん」
「あー………」
俺は頬をかいた。さすがにあれは急すぎたか?
俺が次の言葉を探しているとセラが続けた。
「守るって言った矢先に置いて行っちゃうんだもん」
言われてみると、そんな事言っていたな。
俺はセラの目を見ながら言う。
「その、ごめんな。今度から気を付ける」
「………うん」
俺が謝り、セラが頷く。たったそれだけなのになぜか安心できた。セラが生きていることに心から安心している。
「そんじゃ、行こうぜ。兄さんが待ちくたびれちまう」
「ええ」
今度はしっかりセラのペースに合わせて並走する。今度はしっかり守ってやらないとな。
こうして、俺の初陣は、セラを守るという覚悟と共に、勝利によって幕を閉じた。
数分後、悪魔勢力の前線基地のシャワールーム。
俺は体についた血を落としながら前世の事を考えていた。
『ば、化け物が!』
『来るな!来るなぁぁぁぁっ!?』
『お前、人を殺して、何も感じないのか………?』
様々な言葉を残して死んでいく人々。その言葉の殆どが脳裏にこびりついている。
シャワーを浴びながら、俺は自分の右手を見る。先ほどの血は落としたが、この手は真っ赤に染まっている。
俺がそんな事を考えながらシャワーを浴びていると、誰かが入ってくる。
「失礼するよ」
「……兄さん」
兄さんがいつもの笑顔で入ってきて俺の横のシャワーを使う。気まずい無言の時間が流れるが、突然兄さんが口を開いた。
「あの堕天使の言葉、本当か?」
珍しく厳しい声音。堕天使たちの言葉は兄さんにも聞こえていたようだ。
「笑いはしましたけど、血が気持ち悪かったからですよ」
「…………」
「…………」
無言で俺を見てくる兄さん。俺も兄さんをまっすぐ見る。すると、兄さんはフッと笑った。
「ロイはやっぱり変わっているね。戦闘中にそんな事を気にするなんて」
「少しならいいですけど、さすがにあの量は気になります」
俺が苦笑しながら返すと、兄さんは思い付いたように言った。
「ロイ、場所にもよるけど、僕にもタメ口で構わないよ」
「いいんですか?」
「ああ」
俺の確認に頷く兄さん。なら、そうするのが礼儀というもの。
「わかった。場所にもよるが、タメ口でいかせてもらう」
「あはは……だいぶ変わるね」
「敬語は苦手なんだ。面倒だしな」
「面倒も嫌いだよね……」
「気にするな」
お互い苦笑しながら会話を続けているうちに血は落ちきっていた。
「そんじゃ、先にあがるかね」
「そうか。また後でね」
「ああ」
それを最後にシャワールームを出ようとすると、
「ロイ、いいか?」
兄さんに呼び止められた。
「?」
俺は疑問符を浮かべながら振り向くと、再び兄さんは真剣な表情になっていた。
俺が兄さんの言葉を待っていると、兄さんは訊いてきた。
「セラフォルーのこと、どう思っている?」
「セラのこと?」
俺は聞き返しながら考えた。セラは昔は苦手だった。だが、今はそこまで嫌いじゃない。
「昔よりはいいと思っているが、あんまり変わらないな。昔から変わらない、いい『友人』だ」
言葉の通り、セラはいい友人だ。いや、幼なじみか?まあ、セラはこれから戦友になるかもしれないがな。
「………そうか」
兄さんは少し残念そうに呟いた。俺はその呟きに首をかしげたが特に理由は聞かずにシャワールームを今度こそ後にした。
━━━━
僕━━サーゼクスは、ロイにセラフォルーをどう思うか確認してみた。多分だが、セラフォルーはロイに惹かれている。けれど、ロイはあまり気にしていない様子だった。
僕は溜め息を吐きながら弟に恋する幼なじみの事を考える。
「これからも大変だな、セラフォルー」
そして、同時に疑問を抱いた。ロイは何かを隠している気がするのだ。ロイとは昔から競いあい、切磋琢磨してきた。だが、あの戦闘で見せた動きは、『戦闘に慣れた』ものに見えた。
「ロイ、あの動き、一体どこで……?」
僕の呟きは誰かに聞こえることはなく、静かに消えていった。だが、僕がやるべきことは決まっている。
━━僕は、ロイが何者であろうと信じる。━━
父様や母様もきっとそう思っている筈だ。ロイは、僕の弟なのだから………。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。