俺が転生してから早くも二三年。
俺も一端の悪魔になることが出来た。が、ある問題が起きた。俺個人のものではなく、悪魔という種が全て絡む大問題だ。
冥界のある森の中、俺は『戦闘服』に身を包み、多数の悪魔に紛れていた。
ボケッと冥界特有の紫色の空を見上げ、小さく溜め息を吐く。本当、あのMs.神様を一発ぶん殴りたい気分だ。
「ローイ!見つけたわよ☆」
そんな俺に『戦闘服』を着たセラフォルーが駆け寄ってくる。俺たち男はいいとして、あんな体のラインが出るような格好、恥ずかしくないのか?
俺はその疑問を飲み込んでセラフォルーに右手を軽く挙げながら答える。
「セラ、相変わらずだな」
「もちろんよ☆」
横チョキをしながら答えるセラフォルー、もとい『セラ』。かなり前の呼び捨てやタメ口の流れで、俺はセラフォルーをあだ名で呼ぶことになった(されたとも言う)。
「緊張感ないな、まったく」
俺が嘆息するようにセラに言うと、いつもの笑顔で返してくる。
「こういう時こそいつも通りがいいのよ☆」
本当に大丈夫だろうか。俺と同様の心配をしたのか、セラに視線が集まっていたが、セラはそれらを特に気にすることなく続ける。
「サーゼクスちゃんは別の場所なんだっけ?」
「ああ、確かその筈だ。まあ、向こうで合流できるだろ」
「そうね」
兄さんは俺たちとは別の場所にいる。目的地は同じ筈だから後で会えるだろう。
俺とセラがそのやり取りを終えると、俺たちよりも年上の悪魔(以下隊長)が言った。
「これより『堕天使』に占領された街を奪還する!我々は悪魔として、奴らを殲滅するだけだ!いいな!」
『はっ!』
その悪魔の声に周りの悪魔たちが答える。そう、俺たちはこれから『戦争』に行く。
堕天使とは、己の欲のために堕ちた天使のことだ。彼らは本来の住処である天界を追われ、俺たち悪魔のいる冥界に逃げ込んだ。これは俺が生まれるずっと前の話だ。その悪魔と堕天使はよく小競り合いが起こっていたそうだが、ついに本格的な戦争になってしまった。
悪魔と堕天使による戦争。大量の死者がでることは間違いなく、下手をすれば悪魔が完全に滅ぼされるかもしれない。
そんな不安を感じつつ、俺は内心でこうも思っていた。
━━俺は死んでからも戦争に関わるのか━━━。
悪魔の俺はこれが初陣であり、セラフォルーもそうだ。兄さんは年齢の関係で少し前から戦争に参加していた。
「ふぅぅぅ……」
俺は自分を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。今度こそ、死んだら終わりだ。慎重にいこう。
そんな俺を見て、緊張していると思ったのかセラが言ってきた。
「ロイ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。少々面倒だが、何とかなるだろ」
「そうね」
そう言いながらセラが俺の右手を握ってきたが、俺はあることに気づいた。
「セラ、震えてるぞ」
「……うん」
セラの手が震えていた。俺がその事を言うと、セラは俯きながら頷いた。そして、セラはいつもの元気なものと違い、小さく呟くように言った。
「これから、戦争に行くんだから、本当は怖いわよ……」
セラはそう言いながら俺の右手を握る手に力をいれる。
「私、ロイほど大人っぽくないから、不安なの……」
セラが俺の前で初めて言ったかもしれない弱気な発言。俺はセラから出た言葉に頷きながら、セラの手を握り返す。
「セラ、心配すんな。何かあったら俺が守ってやる」
その言葉を聞いて顔を上げるセラ。少し顔が赤いような気がするが、俺は頬をかきながら構わず続ける。
「不安なのは誰だってそうさ。俺だって内心怖いしな。だが……」
俺は言葉を区切り、セラに笑顔を向けてやる。
「今の俺にはなくしたくないものがたくさんあるからな」
それを言い終えると俺は顔を真剣なものに戻す。セラは先ほどよりも顔を赤くしながら頷き、訊いてきた。
「ロイ、あなた……自覚ある?」
「は?何の?」
俺が聞き返すとセラは急に手を離してそっぽ向いてしまった。
「知らない!」
なぜか怒らせてしまったようだが、どうにか元気にさせられたか?
俺が微笑していると、セラが俺に背を向けながら、なぜか体をモジモジさせながら言ってきた。
「ありがとう……。ちょっと勇気出た」
セラはそう言うと振り向き、珍しく真剣な表情になっていた。
「私も、私が守りたいヒトを守る!」
セラは俺に宣言するように言うと、先ほどの隊長が叫んだ。
「よし!行くぞぉぉぉぉぉッ!」
『オォォォォォォッ!』
隊長の叫びに答えるように、周りの悪魔たちが叫び、次々と蝙蝠のような翼を生やして飛び立っていく。
俺も翼を展開して、彼らに続いていく。セラも遅れないように俺の横についた。今の俺は普通に飛んでいるが、昔は慣れなくてまっすぐ飛べなかったが、そこは練習してどうにかした。
そのセラは俺の事をじっと見てきているが、特に気にすることはなく、戦闘地域を目指して進み続けた。
━━━━
私、セラフォルーはロイの横を飛びながらある疑問を抱いていた。
さっきロイは、
「今の俺には無くしたくないものがたくさんあるからな」
『今の』……私とほとんど同じ年なのに、まるで昔は何もなかったみたいな言い方。
ロイにも生まれた頃から家族がいるし、サーゼクスちゃんもいる。ロイ、何か隠してるのかな?もしかして、子供の頃に何かあったのかな?
━━━━
俺、ロイの視界にボロボロの街が写った。あれが今回の目的の街なのだが、妙に静かだ。
俺が言い知れぬ不安を抱えていると、耳元に連絡用の魔方陣が展開された。
『各員、警戒しろ。何か変だ』
隊長も何かを感じたようで、俺たちに警戒を促した。それを聞いて周囲を警戒し始める周りの悪魔たち。セラも周囲を見回しながら飛行を続ける。
そして、街の上空に入ろうとした時、
『避けろッ!』
隊長のとっさの叫び。それと同時に街から数十という光で出来た槍が飛んできた!
「ッ!」
俺たちは散開するようにして光の槍を避けていくが、弾幕は薄まることを知らず、逆にどんどん濃くなっていく!
俺は飛んでくる槍を避けながら街を注視する。槍を飛ばしている堕天使は、うまく壊れた建物に隠れながら攻撃してきている。だが、だいたいの場所はわかった!
ナイフを生成し、両手に一本ずつ握る。そして、ゆっくりと息を吸い、そして、
「フッ!」
息を吐くと同時に翼を駆使して一気に突っ込む!独断専行した俺は槍の集中砲火を受けるが、右に左に避けながら高度を落としていく。
ついに、建物の二階に隠れていた堕天使の一人と目が合った。同時に堕天使が驚愕の表情を浮かべていることが確認できた。
驚愕しながらも接近してくる俺に至近距離で槍を投げようとしている堕天使に、逆に速度を上げて懐に飛び込むように突っ込む!
槍を投げるよりも早く俺のタックルが当たり、うめき声を上げて後ろに転がる堕天使。勢いを殺しきれなかった俺は床で前転するように体制を整え、素早く立ち上がり、遅れて立ち上がった堕天使の喉笛に右手のナイフを突き刺す!
「かっ………あっ………」
人間以上の生命力を持つ俺たち異形の者はこの程度では即死しない。ただ苦しいだけだ………。
堕天使は苦しみながら俺に手を伸ばしてくるが、俺は左のナイフをで眉間を突き刺し、楽にしてやる。
まず一つ……。
俺がナイフを引き抜くと同時に堕天使の喉笛から血が吹き出し、俺の顔に少しかかる。
それに構うことなく俺はナイフを消して窓から飛び降り、駆け出す。裏道を使い、なるべく攻撃にさらされないように、見つからないようにしながら先ほど見つけた堕天使の元を目指す。
大通りに差し掛かる前、曲がり角に隠れながら顔を出す。通りの向かいの建物の二階から槍が飛ばされている。先ほどの堕天使が死んだことがわかっていないのか、俺に気がつく様子も下を警戒する様子もない。
俺は気配を殺してその通りを突っ切ると、堕天使が隠れている建物に潜入し、ゆっくりと二階に上がる。案の定、俺に気がつかずに無防備な背中をさらしている堕天使。俺は警戒しながらも近づいていき。ナイフを生成、魔力を使ったことで堕天使が気づき、振り向き様に光の槍を右から水平に振ってくる!が、右のナイフでそれを止め、逆に左のナイフで腹部を刺す!
「ッ!?」
刺された堕天使は苦悶の表情を浮かべると体制を崩した。
その隙は見逃さねぇ!
俺は右のナイフで光の槍を弾き、左のナイフを抜いて、刃を水平にしながら再び刺す!そして、右のナイフでも同じように腹部を刺す。
「き、貴様………っ!」
「二つ………!」
言うと同時にナイフを左右に振り抜き、堕天使の腹を裂く!内臓が体から飛び出し、床と俺の戦闘服を汚していくが、気にしない。
俺が再び窓から飛び出そうとすると、光の槍が大量に飛んできた!
俺は素早く窓から飛び降りて建物の陰に隠れる。空を見ると、堕天使と悪魔が乱戦をしていた。
━━━セラは大丈夫か?
そう思った俺の視界の先には、堕天使に得意の氷の魔力で応戦するセラの姿が見えた。援護するために移動しようとするが、再び槍が飛んできてそれを阻む。
物陰から少しだけ顔をだして確認すると、俺を睨むように四人の堕天使が通りの中央を陣取っていた。
近くに高い建物がないため飛ぶことも出来ず、堕天使からしたら正面から来るしかないと思っているのだろう。
だが、ここは本来なら悪魔の領地だ。地図は細かいものをもらっている。
俺はナイフをその場に置き、気配を殺して建物を回り込むように移動を始める。ナイフをあの場に残しておけば魔力がそこに残留する。少しだけなら俺があそこから動けないでいると誤解させられるだろう。
気配を殺して裏道を移動し、先ほどの堕天使たちの後ろに出る場所に移動が完了した。
そこから様子を伺うと、堕天使二人が先ほどの場所を確認に、残りの二人が周辺を警戒しているが、俺には気づいていない。
俺は駆け出すと同時に両手にナイフを生成、同時に投げる。それは吸い込まれるように周辺を警戒していた堕天使二人の頭を貫き、即死させた。
四つ………。
確認に向かっていた堕天使のうち一人が俺に気づいて振り向き様に光の槍を投げてくるが、飛び込み前転のように避けて懐に飛び込み、生成した両手のナイフで滅多刺しにする。
そいつよりも少し奥にいたもう一人の堕天使も俺に気づくが、ナイフで滅多刺しにされながらもまだ息がある堕天使を盾にするように左腕で首を締め、攻撃を受けないようにする。
「お、俺に構わず……こいつを………!」
俺に拘束されている堕天使が息を絶え絶えにしながらそう言うと、残りの一人が覚悟を決めたように頷いて槍を投げようとしてくる。
俺は盾にしていた奴の首をそのまま折り、軽く跳躍。同時に両手に諸刃の直刀を生成する。
堕天使も俺を追うように上を向き、槍を連続で投げてくるが、うまく体を捻りながらそれらを避け、落下の勢いのまま両手の直刀を大上段から一気に振り下ろし、堕天使の両腕を落とす。
肉が斬れる鈍い音と共に血が大量に吹き出し、地面を汚す。堕天使は錯乱するように叫びながら倒れ、のたうちまわる。
俺はその堕天使に近づき、直刀で眉間を貫いて止めをさす。
六つ………。
滅多刺しにしたやつと密着したせいで服に血がベットリとついている。
俺は通りに転がる死体を一瞥、血がついて真っ赤に染まった戦闘服を見て溜め息を吐くと、翼を展開して上空の乱戦に参加するべく上昇を開始した。
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