テロリストとの戦いから一日経ったとある休日。
俺━━ロイは兵藤宅のリビングでコーヒーを飲んでいた。それはそれとして、
「おまえら、尾行なら辞めておけよ」
『ッ!?』
玄関のほうに忍び足をしていた朱乃以外のオカルト研究部女子に警告した。
先ほど一誠と朱乃はデートのために出掛けたため、その二人を尾行、あるいは妨害しようとしているのだろう。
「デートぐらいのんびりさせてやれよ。気になるなら今度連れていってもらえ」
俺は嘆息気味にそう言ってコーヒーに口をつける。女子たちが何も言ってこないが、頷きあうと玄関のほうに向かってしまった。警告の意味はなかったか………。
数時間後。
俺は玄関前で困惑していた。原因は俺の前にいるヒトたちだ。リアスたちはいい、問題は、
「バラキエル、なんでおまえが………」
「アザゼルから聞いていないのか?」
見るからにガタイのいい男性堕天使━━バラキエルが増えていることだ。アザゼルの野郎、何も言っていなかったぞ!
「いや、聞いてないが………」
俺が首を横に振るとバラキエルの後ろから長いひげが特徴の爺さんとスーツ姿の銀髪の女性が現れる。爺さんの方には見覚えがあった。
「オーディンの爺さんっ!?なんでここに!?」
久しぶりに間抜けな声を出してしまった。ひげの爺さんは北欧神話の主神であるオーディンだったのだ!なんでこんな地方都市にいるんだ!?
俺が困惑しているとその銀髪の女性が言う。
「細かくお話をしたいので、あがらせてもらってよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。それもそうだな」
こうして、俺たちは兵藤宅最上階のVIPルームに移動することになった。
「改めて、訪日したぞい」
オーディンは楽しそうに笑いながらそう言った。話を聞いた限りだと、日本に用事があり、ついでにここに来たようだ。正確には、警備が厳重でそれなりに安全なこの町に身を寄せたの方が正しいだろう。
それはそれとして、帰ってきてから朱乃の機嫌がよろしくないな。バラキエルを嫌っているというか、避けているようだ。バラキエルもバラキエルで視線を合わせようとしていない。二人の間に何が…………。
「どうぞ、お茶です」
そんな朱乃に代わってリアスがオーディンに応対していた。
「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」
リアスと朱乃の胸を見ながらそんな事を言うオーディン。そういえば、セラからオーディンはセクハラ親父って聞いていたんだった。触ったら、外交がどうなろうが触った腕を落とす。
俺がオーディンを冷たく睨んでいると、銀髪の女性がどこからか取り出したハリセンでオーディンの頭を叩く。
「もう!オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです!こちらは魔王サーゼクス様の妹君、もっというと実の兄の目の前ですよ!」
オーディンは頭を擦りながら半眼になっていた。あいつ、慣れてるな。いつもこんな感じなのか………。
「まったく、堅いのぉ。あんなグラマーなら胸も見たくもなるわい。と、こやつはわしのお付きのヴァルキリー。名は━━」
「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります」
銀髪の女性━━ロスヴァイセが自己紹介をした。年はリアスと同じ、いや、少し上くらいか?見た目のわりに仕事ができそうな雰囲気を感じる。
「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」
オーディンがいやらしい顔で追加情報をくれた。それを聞いたロスヴァイセは酷く狼狽える。
「そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁぁっ!わ、私だって、好きで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね!好きで処女なわけじゃなぁぁぁぁぁいっ!」
その場に崩れ落ちて床を叩き始める。なんか、年相応に見えてきた。
俺はロスヴァイセの肩に手を置いてうんうん頷きながら声をかける。
「そっちも苦労してるんだな」
「わ、わかりますか!」
「ああ。昔はあれをやれこれをやれ、あっちに行けこっちに来いって感じで大変だったからな」
「………今は?」
「割りと平和に生きてる。そのうちおまえにも余裕ができるさ」
「そう、ですかね?」
「ああ」
俺なりにフォローを入れておいた。俺と落ち着いた様子のロスヴァイセを見ていたアザゼルが苦笑しながらも口を開く。
「爺さんが日本にいる間、俺たちで護衛をすることになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員で、ロイ、おまえは悪魔側のバックアップ要員だ。よろしく頼むぜ」
「了解だ。いきなりで面倒だがな………」
俺は溜め息混じりにそう返す。だが、リアスたちも手伝ってくれるだろうから大丈夫だとは思う。
「それにしてもアザゼル坊。
━━━━ッ!
オーディンの突然の発言に俺たちは驚いた。いきなりその話になるとは思ってもいなかった。やはり、あの影使いのあれは
俺が後悔の念を感じているうちにアザゼルが話を進める。
「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、恐ろしく強引な方法をしてやがるのさ」
「なんだ、その強引な方法ってのは」
俺が訊くとアザゼルは答える。
「おまえらの予想通りだよ。
「人道的とかそんな話じゃないな。百死んでも一当たれば良しって感じか?」
「そういうことだ」
俺は溜め息を吐く。さすがはテロリスト、人道的とかは問題ないってことか。
「
「それは調査中だ」
俺とアザゼルが真剣に話している間にも普通にお茶を飲んでいた。まあ、この爺さんなら数きても問題ないだろう。
真剣な顔をしていたアザゼルは咳払いをするとオーディンに訊いた。
「それはここでどうこう言っても仕方ない。爺さん、どこか行きたいとこはあるか?」
オーディンはその言葉を受けていやらしい表情になり五指をわしゃわしゃさせる。
「おっぱいパブに行きたいのぉ!」
「ハッハッ、見るとこが違いますな主神どの!よっしゃ、いっちょそこまで行きますか!俺んところの若い娘っこどもがVIP用の店を開いたんだよ。そこに招待しちゃうぜ!」
「うほほほほっ!さっすが、アザゼル坊じゃ!わかっとるのぉ!」
「よっしゃ、ついてこいエロジジイ!おいでませ、和の国日本だ!」
「たまらんのー、たまらんのー!」
二人が勝手に盛り上がっていると、アザゼルが俺の首根っこを掴んで引きずり始めた!え?ちょ!?なぜだ!?
「アザゼル!なんで俺を引きずってやがる!俺は休日をのんびり満喫したいんだが!」
見るとリアスたちは俺を助けようか助けないかで迷っている様だ。そこは迷わずに助けてもらいたいが、リアスたちにも予定があるのだろう。
俺は開き直って語気を強めにアザゼルに言う。
「あー!わかったよ!行けばいいんだろ、行けばよ!こうなったら付き合ってやるよ!」
「そうこないとな!おまえも遊びを知れ!」
俺たち三人がそんな事をやっていると、見かねたのかロスヴァイセが追ってくる。俺は助けてもらえるかと期待したが、ロスヴァイセの口から出た言葉は━━、
「わ、私もついていきます!」
だった!なんでそうなる!てか、これから行く場所わかって言っているんだよな!?
俺が引きずられながら困惑していると、オーディンが嘆息気味に言う。
「おまえは残っとれ。アザゼルとこやつがおれば問題あるまい。この家で待機しておればいいぞい」
「ダメです!行きます!」
そんなやり取りをしながら、俺は引きずられ続けたのだった。
………で、
「「はぁ…………」」
俺とロスヴァイセはほぼ同時に溜め息を吐いた。俺たちの視線の先にはグラマーな女性堕天使と戯れるアザゼルとオーディンの姿。楽しそうでなによりだ。
俺は声をかけてくる女性堕天使を適当に流して飲み物だけもらう。本当、なんでここに来ちまったのかな。
横に目をやればロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら目を泳がせている。こんな所に来たのは初めてで、どこに目をやればいいか迷っているようだ。
一応、俺の横につかせてはいる。そうすれば俺に女性堕天使が群がってこないからだ。
俺は懐からタバコを取り出して一本を口にくわえる。そして、いつものように火をつけようとしたら━━、
「ストップです!」
俺がくわえていたタバコをロスヴァイセが奪い取る。そのまま半分に折って近くのゴミ箱に捨てる。
「何しやがる………」
俺が軽く怒気を込めて言うと、ロスヴァイセは説教するように言い返してきた。
「いいですか?タバコは体に悪いんです!ニコチンをはじめ、危険な物質が━━━」
「はいはい。最低限吸う場所は考えてるさ。副流煙のほうをリアスたちに吸わせたくないからな」
「そこは評価しますが、それがわかっているなら吸わないでください!」
やれやれ、面倒だな。タバコを控えろって、今さらな気がするが、まあ、気づかいには感謝するか………。
俺はタバコを吸うことを諦めて飲み物をいただく。アルコールも体に悪いと思うが、気にしだしたらきりがない。
「まったく、面倒なことになったな………」
奥で遊んでいるアザゼルとオーディンを見ながら俺は漏らす。それに続くようにロスヴァイセも小声で、「本当、忙しいです」と漏らした。
存外、こいつとは気が合うかもしれないな。
俺は苦笑しながらそんな事を思い、もう一杯飲み物に口をつけた。
これから、今まで以上に面倒なことになりそうだな………。
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