では、どうぞ!
俺━━ロイが屋敷に戻ってからさらに二日。
俺は屋敷を離れて人間界の駒王学園に来ていた。といっても、格好もラフなもので任務ではなく休暇できているのだ。
来ているのは俺だけではなく、兄さんと父さんも来てはいるが今は別行動をしている。というよりは、二人して盛り上がっていて、一緒にいて恥ずかしい。
俺は体育祭で盛り上がる学校の敷地内を歩きながら、少しでも見やすそうな場所を探す。前にも来たが、やっぱり広いなこの学校。
俺が周囲を見渡しながら歩いていると、正面から体操服姿の短めの黒髪にメガネをかけた女の子が歩いてくる。かなり周囲を警戒しているようで、かなり大人びた雰囲気ではあるが、誰かはもうわかる。
俺はその女の子に軽く右手を挙げながら声をかける。
「ソーナ、久しぶりだな」
「………ッ!ロイ様ですか、お久しぶりです」
一瞬体をビクッとさせて驚かれたが、俺は構わずに続ける。
「誰か探しているっていうよりは逃げているって感じか?誰から逃げているかは、だいたい察しがつくけどな」
「………お姉様はどこにいるかわかりますか?」
やはり、セラから逃げているようだ。あいつはまじでシスコンだからな。体操服姿のソーナに会ったら、興奮して大変なことになりそうだ。
俺は首を横に振りながら答える。
「悪いな、セラは一緒じゃないんだ。あいつのことだから来てはいると思うんだが………」
俺は周囲を見渡す。人が多すぎて姿はわからないが、セラはどこかに………。
俺はある一点に目が行った。普通の格好の親やついてきた兄弟姉妹に紛れて謎のコスプレ少女がチラチラ見えるのだ。
俺がじっと見ていると、その少女が俺とソーナに気づいたのか笑みを浮かべて大きく手を振りながらこちらに走ってくる。
「ロイィィィィ!ソーナちゃぁぁぁぁん!」
「ソーナ、俺が抑えておくからおまえは仕事行け。久しぶりに戯れとくさ」
「あまりやりすぎないようにお願いします」
「わかってるさ。ほら、さっさと行った」
ソーナは「ありがとうございます」と言って足早にその場を去っていき、俺にセラが抱きついてきた!
「ロイッ!」
「おっと!久しぶりだな、セラ」
「もう!昨日とかに会いに来てくれてもよかったんじゃない?」
頬を膨らませて不機嫌そうに言ってくるセラ。俺は苦笑しながら返す。
「ちょっとは休ませてくれよ」
「それもそうだけど………」
俺から離れる様子はなく、俺の胸に顔を埋めるセラ。
「ロイの匂い………ロイの匂い………」
ボソボソと何か言いながら鼻息を荒くするセラ。まあ、久しぶりな再会で喜ぶのはわかるけどな。
俺は優しくセラの頭を撫でる。
「とりあえず、話は後でのんびりしようぜ。今は━━」
俺はちらりと校庭の方に目を向ける。先程まで寝込んでいたであろう兵藤一誠がアーシアと二人三脚を走ろうとしていた。
「応援してやろう。そのために来たんだからな」
「それもそうね☆」
俺のオフはこうして過ぎていった。まぁ、平和なのはいいことだと思う。せっかく十年かけて勝ち取ったんだからな…………。
その日の夜、冥界グレモリー城。
夕飯を済ませた俺は自分の部屋に戻ってきていた。兵藤一誠にも声をかけたかったが、あの後アーシアとどこかに行ってしまったのでまた今度にした。
それはそれとして、
「♪~♪~」
「セラ、何でここに?」
セラが待ち構えていた。鼻歌混じりで笑っているあたり、俺が戻ってくる時間を把握していたに違いない。
俺の質問にセラは笑みを絶やさずに言う。
「何でって、ロイが言ったんじゃない☆『話は後でのんびり』ってね☆」
「あー、そう言えば」
俺はその事を思い出しながらベッドの端に腰を降ろす。すると、セラが俺と対面するように膝の上に座ってきた。服越しとはいえセラの太ももと尻の感覚が伝わってくるのだが…………。
「あの、セラ?」
「いいから、動かないで」
上半身ぐらいしか動かせないが、俺は特に何かすることはなくセラの言うとおりにする。
俺はまっすぐとセラの目を見ていると、セラは顔を真っ赤にして目をそらして体をモジモジさせ始める。そんな事されたら色々とヤバイんだが………!
俺が俺と戦っているとセラが大きく息を吐いて「よし!」と呟くと覚悟を決めたような表情になる。
「ロイ、いいかしら?」
「うん?」
俺が切り替えてセラを見ると、セラの両手で後頭部を押さえつけられ、そのままセラとキスをする!
「んぐッ!?」
驚愕する俺をよそにセラの舌が俺の舌と絡みついて湿った音をたて始める。
俺とセラの唇が離れると、セラは熱っぽく火照ったような表情で俺を見てくる。
その表情を見た瞬間、俺の中の何かが崩れかける。
俺はセラの両肩に手をやり、お互いの体の位置を換えるようにしてベッドに押し倒す。
「セラ………いいんだな…………」
ギリギリ残っていた理性でセラに訊くと、セラはゆっくりと頷く。
「いいよ、ロイの好きにして………」
その一言で、俺を支えていた何かが完全に崩れ去った。
その晩、俺とセラは体を重ねた。お互いの想いを再確認するように、無くした時間を取り戻すように………。
次の日の朝?
いや、何時に寝たのかもわからないから次の日というべきなのかわからん。
俺は俺の腕の中で眠っているセラの寝顔を眺める。心底安心しきっているような、油断しきっている表情だ。簡単に言うと、すごいかわいい。
俺が微笑して頭を撫でてやろうと腕を動かすとセラが重そうに目に開ける。
「うーん………?」
「ああ、悪い。起こしちまったか?」
「いいえ、大丈夫よ」
セラは眠そうに目を擦りながら笑う。俺は改めて頭を撫でてやるとセラが頬を赤くしながらも笑みを崩さずに言う。
「もう、もっと優しくしてよ。私、魔王だけど女なのよ?」
「悪いな、加減は苦手なんだ」
俺は一応だが謝っておく。あの状況で手加減は出来なかった。次があったら気をつけよう。
それを聞いたセラが言う。
「それじゃあ、謝ったついでにお願い聞いてくれないかしら?」
「責任なら全力でとるぞ」
「そうじゃなくて!いえ、それもだけど………」
「で、なんだ?」
顔を真っ赤にしながら俯くセラに訊く。するとセラは体を起こして手元に魔方陣を展開、そこからチェスの駒を取り出した。
それはそれとして、その……胸とかその先端が丸見え何だが……今さらだな。
俺はそんな事を思いながら体を起こす。同時にセラが言う。
「ロイ、私の眷属になってくれないかしら?」
「俺は構わないが、父さんたちに一応の確認はしとく。俺の立場が面倒だからな」
「それなのよね。私は結婚したいのに!」
不機嫌そうに言うセラ。俺もそうしたいが、現実は難しいもので、現ルシファーと現レヴィアタンが義理の兄妹になってしまうというのは厳しいそうだ。
そんなわけで俺とセラはなかなかゴールインできないでいる。そこでセラは俺を眷属にしようとしたわけだ。
それもそれでどうこう言われそうだが、セラのことだ、無理を通したのだろう。
俺がそんな予想をたてていると、セラは俺の頬にキスをしてベッドから降りる。そして、魔力で素早く服を着た。
その格好が魔女っ子なのはセラの趣味だ。任務の前から好きだったからな。
「それじゃあ、また後でね☆待ってるわ☆」
「ああ、すぐに行く」
セラは頷くと転移魔方陣でいきなり消えた。あれでも魔王、仕事が多いのだろう。
俺は父さんたちに『決定事項』を言いに行くために魔力で服を着て二人がいるであろう部屋に向かう。まぁ、あの二人のことだから大丈夫だとは思うがな。
数分後、魔王領のレヴィアタン執務室。
俺はセラが展開した魔方陣の上に立って目を閉じていた。
あれから父さんたちに話をしたが、二人して、
「ロイの自由にしなさい」
と満面の笑みで言ってきた。なので、俺は好きにすることにしたわけだ。あの二人、あの様子から察するに俺が何を言うかわかっていたようだ。
俺はなんて事を思ったが、セラの呟きで思考を切り上げた。
「うーん、おかしいわね?」
「どうかしたか?」
俺が訊くと、セラは『
「反応はするけど、眷属にできないのよね………」
「………セラ、あれじゃないか。駒価値に合ってない的な」
「そうかもしれないけれど、あとは『
「たいして変わらないか………」
「ええ」
俺とセラはお互い首をかしげた。俺がセラの眷族になれないとなると、セラが何をしでかすかわからない。
俺は嘆息しながらもセラに言う。
「なぁ、セラ、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「あら、何かしら?」
「俺を━━━━」
━━━━
俺━━兵藤一誠はいつもの通り放課後のオカルト研究部の部室に来ていた。
本当の事を言うと、オカルト研究部は表向きの活動で裏では悪魔稼業をしているのだ。まぁ、今は部活動の時間なんだけどな。
さて、現実逃避はこのくらいにして、俺たちは目を丸くして驚いていた。俺たちの眼前には、
「さて、何だかんだで教師になったロイだ。よろしく頼む」
スポーツウェアに身を包んだロイさんが軽く挨拶をしてきていた。見た感じだと、体育教師?
「見ればわかると思うが、科目は体育だ。実際に始めるのは来週からだけどな」
軽い感じで続けるロイさん。まさか、このヒトまで教師になるとは………。
俺たちが黙っているとアザゼル先生が言う。
「まさか、『
「その呼び方は辞めろ、あんまり好きじゃない」
「そうか?まあ、確かに呼びにくいかもな」
「だろ?だったら辞めろ」
「確かにそれが合理的だ。━━━だが断るッ!」
「何だと!?この『
「だぁぁああああああっ!?それは言うんじゃねぇ!」
「なら辞めろ、いいな?」
「チッ!」
な、何かまったくついていけない会話が繰り広げられている。戦争の頃からロイさんは嫌われていったって聞いたし、このお二人にも何か因縁があるのかもしれない。
ロイさんが置いてきぼりの俺たちに改めて言う。
「まあ、これからよろしく頼むぜ。何かあったら言ってくれ、鍛えてやるよ」
『よろしくお願いします!』
ロイさんの最後の言葉に俺は少し興奮を覚えた!このヒトが鍛えてくれるなら、俺たちはもっと強くなれる!
こうして、俺たちの学園生活はより賑やかになって過ぎていくのだった。
━━━━
リアスたちにあいさつを済ませたすぐ後。
「そういえば、ロイ」
「アザゼル、今さら何か用か?」
「いや、話があるだけだ。部屋を変えるぞ」
俺はアザゼルに呼ばれて部屋を移動した。その部屋で俺とアザゼルは一対一で向かい合うように座る。
「それで、ディオドラについてだが………」
「生きて捕まったろ?」
「ああ。リアスたちからは眉間を撃ち抜かれたと聞いたんだが………」
俺はあの任務から持ちっぱなしの銃剣を異空間から取り出してアザゼルに見せる。
「一応、バレないように非殺傷モードで撃った。端からは即死するように見えるからな」
「便利なもんだな……」
「だろ?だが、これはやらんぞ。存外気に入ってるんだ」
「そうか………」
残念そうに言うアザゼル。少し興味があったようだ。俺は銃剣をしまってから言葉を続ける。
「旧魔王派は終わったが、まだまだ敵は多いな………」
「ああ、今のところ一番危険なのは英雄派だ。だが、今広げている各神話勢力との協力体制。それをよしとしない奴もいるだろうからな。だからここに来たんだろ?」
「わかったか?」
俺はわざとらしく笑いながら言う。アザゼルは溜め息を吐いて頭に手をやった。
「本当、おまえもサーゼクスも妹に甘すぎるぞ」
「ここには妹たちがいるからな、守りたいさ」
「そうかい、まぁ、頑張れよ」
「お互いにな」
こうして、俺の教師生活が始まることになる。リアスとリアスの眷族たちを鍛えながらやるのは面倒だとは思うが、これは大事なことだ。
俺は自分にそう言い聞かせて部屋を後にする。これからも頑張らないとな!
今回は幕間の話を挟んでやっていきます。
なので次は幕間編①となります。今回はのんびりとやっていく予定です。