俺━━兵藤一誠の上級悪魔昇格式から時は流れ、ついにリアスたち三年生組の卒業式となった。
今は、式が始まる前のちょっとした時間を使ってリアスの様子を覗きに来たんだけど……。
「頑張った甲斐があったわ。今日を楽しみにしていたのだから」
「………」
リアスが紅いスーツに身を包んだ女性に絡まれているところに遭遇してしまった。
だけど、その女性には見覚えがあるというか、何か既視感があるというか……。
俺が困惑していると、その女性がこちらに気づいたのか、爽やかな笑みを浮かべて小さく手を振ってきた。
「あら、イッセー。ごめんなさい、リアスを借りてしまって」
女性は申し訳なさそうに言うと、再びニコッと笑みを浮かべる。
髪の色は静脈血のような黒みかかった紅色で、肩にかからない程度の長さ。
瞳の色は髪色とは対称的に
で、極めつけはリアスにそっくりな顔立ちだ。その整った顔立ちは、すれ違えばだいたいのヒトがまず間違いなく振り返るであろう美しいものだが、右頬にある火傷痕がそれを隠してしまい、左頬には斬り傷がある。
胸はリアスほどではないが大きめで、ゼノヴィアと同じか少し大きいほどだろうか。着痩せとかしていなければ、の話だけどな。
━━って、このパッと見た印象を纏めあげると、いくつかはあのヒトに結び付くんだけど、目の前のこのヒトは女性だしな……。
俺がどう返そうか悩んでいると感じたのか、女性が自身の体を一瞥し、ハッとしながら言う。
「そうだ、女になっていたんだったわ」
女性はそう言うと、一度大きく咳払いをして、低くした声で俺に言ってくる。
「俺だ、イッセー。わかるか?」
「や、やっぱり、ロイ先━━━」
俺が言おうとした矢先、口を塞がれた。
もごもごと音が漏れるなか、ロイ先生が言う。
「今は『先生』じゃないから、『さん』で頼む。あと、『アインス』って呼んで欲しいわ」
途中で声音を女性モードに切り替えながらそう言うロイ先生。もといロイさん。もとい、アインスさん……。
そう言えば、このヒト『性転換銃』とかいうのを持っていたな、そう言えば……。
俺が頷くと、アインスさんは満足そうに頷いて手を離してくれた。
アインスさんは言う。
「ここまで来るのに苦労したのよ?人間界に拠点を移すにあたって、『因子』の暴走を抑制する腕輪も一対になってしまったし、アザゼルたちの目を盗むためにこんな姿をとらなければならなかったし……」
腕を組んで重そうにしている胸を支えながら言うので、そちらに目を向けてしまったが、アインスさんは腕輪を探したと判断してくれたのか、苦笑した。
「不可視の魔力がかけてあるから、見えないはずよ。まあ、そこまで気になるものでもないけどね」
ウィンクをしながら軽く手を挙げて肩をすくめ、何てことのないように言うアインスさん。
「胸は気になるけれど……」
遠い目をしながら付け足した。
リアスが困ったように小さくため息を吐くと、半眼で睨みながら言う。
「お兄様、大丈夫なのですか?」
「ええ、体調に変わりはないし、大丈夫そうよ。胸が重いけれど。それと『お姉様』って呼んで欲しいわ」
「いえ、そうではなくて、ちゃんと許可は貰ったのですか?」
リアスが追及すると、アインスさんは無言で笑うだけで何も言わない。
もうそれが答えですよね、間違いなく……。
もはや笑うしかない俺の横で、リアスは変わらずにアインスさんを睨む。
「後でどうなっても知りませんからね」
明らかな怒気の込められた言葉だが、アインスさんは狼狽えない。
なぜか不敵に笑ってリアスに返す。
「大丈夫よ。セラと兄さんも来ているから」
「「え?」」
レヴィアタン様と、サーゼクス様が、来ている……?
俺は当然の疑問をぶつけてみる。
「あの、そのお二人は、お仕事を━━」
「終わらせてきているよ。安心してくれ」
「「ッ!」」
突然背後から声をかけられ、俺とリアスは二人してビクッと反応してしまう。
その反応にニコニコと笑いながら、話題の人物の一人、サーゼクス様が軽く右手を挙げた。
「やあ、三人とも。間に合って良かったよ」
「お、おはようございます、お兄様」
「お、おはようございます!」
二人して慌てながら挨拶をすると、アインスさんが顎に手をやって周囲を見渡し始めた。
「義姉さんとミリキャスは一緒じゃないの?さっきまで一緒にいたでしょ」
「ああ、飲み物を買いにいったよ。父様と母様は、途中でサイラオーグを見つけたから、挨拶に行ったところさ」
「そうなの?サイラオーグにも挨拶しておこうかしら」
「……その姿で行ったら、正気を疑われるよ?」
「あら、私は正常よ」
再びのウィンク。
流石のサーゼクス様も困り顔で頬をかいていた。
帰って来た弟が突然こんな行動をすれば、困惑して当然だろうけどさ。
アインスさんを除いた俺たち三人がため息を吐くと、当の彼女(?)は何かに気づいたのか、鼻を引くつかせる。
「む、この匂いは……。こっちに来ているわね」
アインスさんがそう言うと、廊下の角から誰かが飛び出してきた。
あれは、ソーナ先輩だ。何かから逃げているのか息が上がっている。
ソーナ先輩はアインスに気づくと、小走りで近づいてくる。
「少し匿ってください」
「あら、私で良いの?誰から逃げているかは訊かないでおくけれど」
「……ところで、あなたは?」
ソーナ先輩が隠れてから訊いた途端、もう一人の人物が角から飛び出してきた。
「ソーナちゃーん!って、あれ?」
飛び出してきた人物であるレヴィアタン様は、わざとらしくキョロキョロしながら少しずつこちらに近づいてくる。
ソーナ先輩はアインスさんの影に隠れ、どうにかやり過ごそうとしているが、明らかに隠れきれていない。
いつものソーナ先輩ならすぐに場所を変えるのだろうけど、今はその余裕はないようだ。
それに、隠れた人物に関しても悪いとしか言いようがない。
レヴィアタン様はアインスに気づき、満面の笑みを浮かべた。
「あら、ここにいたのね☆ロイ☆」
「この姿の時は『アインス』って呼んで。前に決めたじゃない」
アインスさんは笑みながらそう言った。
その言葉を聞き、後ろに隠れるソーナ先輩の顔色が、一気に青くなっていく。
アインスさんは少し邪悪な気配を孕ませた笑顔を浮かべ、背中越しにソーナ先輩に目を向けた。
「ソーナも、今は『義姉様』って呼んでね。プライベートなら義兄様で良いから」
「ロイ……様……?」
ソーナ先輩が恐る恐る訊くと、アインスさんは大きく一度頷いて見せた。
瞬間、アインスさんは反転してソーナ先輩を捕まえた。
「ふふ、油断したわね」
「ふふん☆今日は私のほうが上だったわね、ソーナちゃん☆」
ほんの少し悪い顔をするアインスさんと、機嫌よさそうにニコニコと笑うレヴィアタン様。
その二人に捕まったソーナ先輩は、もはや可愛そうに思えるほど顔が真っ青になっていた。
助けを求めるようにこちらを見つめてきたが、
「サーゼクス、それにリアスとイッセー様も。ここにいたのね」
「父様、リアス姉様、イッセー兄様、探しましたよ!」
グレイフィアさんとミリキャスがこちらに来たことで、俺たち三人はその視線からの逃げ道を得ることができた。
俺たちがわざとらしく視線を外したからか、ソーナ先輩の口からは音にならない批判の声が漏れた。
サーゼクス様が駆け寄って来たミリキャスを抱き止め、そのまま持ち上げた。
グレイフィアさんは優しく笑みながらそんな親子の側につき、そっとサーゼクス様の手をとった。
オフを貰ったからなのか、サーゼクス様やミリキャスとの距離がいつになく近く思える。
まあ、そのいつもというのをよく知らない気がするけど……。
リアスが耳元で告げてくる。
「(お義姉様、最近サーゼクスお兄様とミリキャスといる時間を大切にしているのよ)」
「(そうなんだ……)」
俺が頷くと、リアスが横目でアインスさんのほうを見る。
アインスさんはソーナ先輩に何だかんだと言っているようだが、その顔には笑顔が浮かんでいる。
「(ロイお兄様が戻ってきてからよ。きっと、何か変わったのでしょうね、いい方向に)」
そう言うと、リアスも優しい笑みを浮かべた。
「今、俺の名前が出ていなかったか?まあ、今はアインスだけれど」
いつの間にかこちらに来ていたアインスさんはそう言うと、サーゼクス様たちのほうに目を向ける。
笑いあう三人を見たアインスさんは、嬉しそうに笑みながら、染々と言う。
「……子供欲しい」
「!」
それに反応したのはレヴィアタン様だった。
撫で回していたソーナ先輩を解放し、アインスさんを後ろから抱き締める。
「うふふ、頑張りましょう☆きっと強い子になるわ☆」
「それは、そうだけどさ」
アインスさんは自身の左手を撫で、ため息をひとつ。
ロイさん(今はアインスさんだけど)の子供ということは、トライヘキサの『因子』を継ぐことになるだろう。
俺たちはともかく、他の勢力や一部のヒトたちがその子供のことを許すかどうか……。
「━━まあ、手を出してきたら、その時はその時だ」
若干の殺気が込められた言葉に、レヴィアタン様は真剣な表情で頷いた。
「そうね。けど、手は出させないわよ。なにが何でも守るんだから」
我が子を守るため、覚悟を決める恋人二人。
言葉にすれば格好はつくんだけど……。
俺と同じ事を思ったのか、サーゼクス様がため息を吐いた。
「一人はコスプレ、もう一人は女体化。セラフォルーはともかく、ロイがいつも通りならもう少し説得力も増すんだろうけどね」
「む、だからアインスよ!アザゼルに見つかったら━━」
「━━俺に見つかったら、どうなるんだ?」
背後から届いた声に、アインスさんはビクッと反応し、ゆっくりと振り向いた。
そこには額に青筋を浮かせ、憤怒の表情で仁王立ちするアザゼル先生の姿があった。
「………」
「なあ、ロイ?ああ、今は『アインス』だったか?まあ、どっちにしろ……」
アザゼル先生は周囲を気にしながら手元に魔方陣を展開し、それを高速で操作していく。
異常を察知したアインスさんは逃げようとするが、途端にふらついて膝をついた。
「あふ……」
「ちょ!大丈夫!?」
レヴィアタン様が急いで体を支え、肩を貸して立ち上がらせる。
ぐったりとしながらアインスさんは言う。
「ち、力が入らねぇ。野郎、な、何しやがった……」
当然の疑問を投げ掛けられたアザゼル先生は、なぜかどや顔しながら言う。
「腕輪に色々と仕込ませて貰ったのさ。まあ、おまえの体質上、効果があるのは一度限りだがな」
アザゼル先生はそう言うとため息を吐き、アインスさんとレヴィアタン様に言った。
「まったく、面倒をかけやがって。さあ、戻ってもらうぞ、セラフォルーは居てくれて構わないけどな」
その言葉を受けたレヴィアタン様は、アインスさんを庇うように構える。
「ロイと一緒に参加するって決めたのよ!渡せないわ!」
「むぅ、無理やり連れ出したらどうなるかわからんからな……」
そのレヴィアタン様の行動に、アザゼル先生は困り顔で顎に手をやっていると、ぐったりしていたアインスさんが目を見開き、両足を踏ん張る。
「セラ、逃げるぞ!」
「え?きゃ!」
突然復活したアインスさんは言うや否や、レヴィアタン様をお姫様抱っこすると、音も、残像も残さずにその場から消えた。
魔方陣がなかったってことは、単純な速さで消えたってことだよな、見えなかった……。
残された俺たちが呆然と立ち尽くすなか、状況を理解したのかアザゼル先生が膝から崩れ落ちた。
「か、回復が早すぎる……俺たちの苦労が、術式が……」
それを眺めていた俺たちは、アイコンタクトで合図を済ませると、そっとその場を離れた。
その直後に「こんちくしょぉぉおおおお!」と叫びが聞こえたけど、今は放置させてもらいます。
卒業式が始まる前に、サイラオーグさんやリアスのご両親に挨拶しておきたいしね。
━━━━━
「あ~、無駄に疲れた……」
俺━━ロイは旧校舎まですっ飛んでくると、いつもの男の姿に戻り、大きめのため息を吐いた。
俺の腕に抱えられているセラは、目を回してしまったようだ。口から煙を吹き出してぐったりしている。
旧校舎の一室を拝借して、ソファーにセラを寝かせる。
「おーい、大丈夫か?」
声をかけながらペチペチと何度か頬を叩き、反応を待ってみるが、全然目を覚ましてくれない。
再びため息を吐き、セラの額に手を当てて気を送る。
仙術を習っておいて正解だったな。存外汎用性がある。
そのまま何分か待ってみると、ようやくセラが目を開けてくれた。
「ふへ……?あ、おはよ~☆」
「おはよう。で、大丈夫か?」
「大丈夫よ。ちょっと頭痛いけど」
体を起こそうとしたセラの肩を押し、無理やり寝かせて時計を確認。まだ時間はあるようだ。
「最近働き通しだったじゃねぇか、寝とけ」
今日のため、セラが必死になって仕事をしていたのは知っている。
その卒業式がもうすぐだと言うのに、途中で寝落ちなんて格好がつかないし、ソーナたちにも失礼だ。
「むぅ、じゃあ、ちょっと寝る……」
「おう、寝とけ寝とけ。俺は側にいるから」
そう言い聞かせながらセラの髪を撫で、優しく笑む。
彼女が寝付いたのはすぐだった。疲れが相当溜まっていたのだろう。
上着を脱いで毛布代わりに被せてやり、表情を引き締めて部屋を出る。
首をゴキゴキと鳴らし、掌に産み出した黒い炎を握りつぶす。
ワイシャツ越しに右腕に走った深紅のラインを確認し、手元に深紅の直剣を生成する。
同時に視界がクリアになり、オーラの流れが視覚で捉えられるようになる。
「いるんだろ、神崎」
振り向きながら言うと、そこには少し驚いた表情をする神崎光也がいた。
その隣に見覚えのない女がいるのは気になるが、二人してなんとも
俺に睨まれていると判断したのか、話を切り出したのは神崎だった。
「お久しぶりです、ロイ・グレモリー。ようやく出てこられたようですね」
「まあな。━━で、何か用か?」
俺が怒気を隠すことなく言うと、神崎の隣に立つ女が興味深いものを見たように言う。
「話には聞いていたけど、不思議なヒトね」
「誰だ、テメェは」
俺が訊くと、その女は不機嫌そうにしながらも一礼した。
「霧乃静香。よろしく」
「……で、あんたら二人は何の用でここに来やがった。場合によっちゃ、ここで狩る」
名前を聞いたところで、どうでもいいことだったな。
直剣の切っ先を向け、そう告げた。
「アザゼルから聞いたぜ?そのスマホだかよくわからんのを壊せば、とりあえずこっちの勝ちなんだろ?」
勝てるかどうかという問題と、暴走しないかという問題があるが、セラを守るためならどうでもいい。
敵意剥き出しで二人を睨むと、神崎はそれを手で制してくる。
「その情報は間違いありませんよ。ただ、今回は戦いに来たわけではありません」
「………」
神崎と霧乃を睨みながら直剣を降ろす。
だが、いつでもその首を落とせるようにはしておく。敵であることは間違いないだろう。
一応だが戦闘態勢を解いたからか、神崎は説明を始めた。
「あなたが件の大会に出ることと、人間界に拠点を置いたことは、前に聞きました」
「どこから漏れたのかは訊かないでおいてやる。さっさと本題に入れ」
さっさとセラの横に戻りたいので、急かす。
神崎は小さく一度咳払いをすると、単刀直入に切り出した。
「時折ですが、お邪魔すると思います。あなたのその力に興味がありますので」
神崎はなぜか笑いながら言ってきやがった。
俺は額に青筋を浮かび上がらせながら、切っ先を向ける。
「何を上がり込む宣言してくれてんだ。その首はね飛ばすぞ……!」
「いえ、無条件というわけではありませんよ?」
「なんだ、三食付けてくれとかか?こちとら大食いが俺含めて四人も居るんだよ、これ以上増やすな!」
「いや、どうしてそちらが不利になることを言うんです?別に食事は自力でどうにか出来ますよ」
「じゃあ、なんだ。たまに部屋を貸してくれ、とかか?俺の家はアパートじゃねぇんだよ!」
「ですから、時折お邪魔するだけです……」
疲れたと言わんばかりの神崎と、驚いた顔をする霧乃。
霧乃は苦笑しながら言う。
「相手は悪魔なんだから、『対価』を示さないと駄目じゃないの?」
「示す前に話が進んだんだけどね」
「ほぉ……。払えるものがあるのか、なんだ」
状況が変わったので話を聞く体勢に入る。
ギブ・アンド・テイク、悪魔業界はこれが大事だからな。
俺が黙ったところを見計らい、神崎は言った。
「あなたが家を留守にする間、僕たちが彼女を守ります。どうにも、冥府の残党が騒がしいので」
「む、むぅ……」
神崎の提案に、思わず唸り声が漏れた。
大会に参加する以上、リリスの側にいられない時間が増えるだろう。
その間、リアスやソーナ、アザゼル辺りに任せようとも思っていたが、そいつらにも都合があるだろう。
━━この提案、割りと良いものなのでは?
目の前のこいつらの強さというか、異様さは見ればわかる。
そいつらが確定で来る場所があれば、アザゼルや鳶雄たちも少しは楽になるか。
それに、
「これも何かの縁ってやつかね……」
後頭部をかきながらぼそりと一言漏らす。
勝手に来て僻地に飛ばされたって、こいつらならどうにかなるだろう。
俺はまっすぐに二人を見据え、直剣を消す。
「わかった、その時はあの子を頼むことにする。だが、てを出したら……」
「わかっています。僕たちも死に急ぎたくはありませんので」
神崎がそう告げると、霧乃と共にその姿がぼけていく。
消えていく二人を見続け、苦笑した。
「俺も甘くなったもんだな。よくわからん相手を信じるなんてよ」
俺の独白に、二人は少し驚いたような顔をすると、そのまま消えていった。
戻ってきてから、俺じゃあ予測できないことが多くなってきたな。まあ、退屈はしねぇけど。
一度息を吐き、セラのいる部屋に戻る。
卒業式まであと少ししかないが、二人でゆっくりさせてもらおう。
━━の前に、もうバレちまったけど、念のため女に戻っておかねぇとな……。
卒業式は滞りなく進み、駒王町で行われた行事にしては珍しく、何事もなく終了した。
卒業式終了後、再び男に戻った俺は、リアスたちオカ研と共に旧校舎に来ていた。
ちなみにセラはソーナを捕まえてどっかに行った。まあ、「後で合流してね☆」とは言われたけどな。
兄さんたちはイッセーのご両親と共に先に兵藤宅に帰っていった。
アザゼルは、まだ俺を探してんじゃねぇかな?
話を戻して、結果を言うと、木場、小猫、ギャスパーの三人がリアスを『姉さん』呼びすることを伝え、イッセーはリアスに改めて告白し、自分のチームを率いて大会に出るむねを伝えていた。
リアスたちの話が一段落したところで、ロセがリアスに切り出す。
「リアスさん、その、前にしたお願いしたことを、いいですか……?」
遠慮がちに確認すると、リアスは笑みながら頷いた。
「ええ。これからを考えて、今のうちにしてしまいましょう」
勝手に話が進んでいくなかで、リアスが俺に向けて言う。
「お兄様。言われたのはずいぶん前になりますけど、ロスヴァイセと話したんです」
「ロセとリアスが、ね。何だ、頼み事か?」
俺の確認に、二人は頷く。
そして、ロセが俺の手を取って身を乗り出すとこう切り出した。
「ロイさん!私をあなたの眷属にしてください!」
勢いに身を任せたように、結構早口で言ってきた。
ロセを眷属にってことは、リアスの眷属からの移動、つまりはトレードをするわけだ。
ロセは『
つまり、その空きとロセをトレードしようという話なんだろう。
ロセの息が鼻先をくすぐってくるのを気にせず、俺は小さく頷いた。
「俺は構わねぇよ。むしろその方が助かる」
「では、早速始めましょう!リアスさん、お願いします!」
嬉しそうで、そして興奮した様子で言う。
ロセのテンションの高さに、俺とリアスは揃って苦笑し、手早く準備を整える。
まあ、専用の魔方陣を展開して『
さっさとトレードを済ませた途端、ロセが満面の笑みで抱きついてきた。
「ふふふ……。これでいつでも、どこでも一緒です」
顔を上げたロセの目からはハイライトが消えていた。
何だか怖い雰囲気を感じるんだが、気のせいだろう。
イッセーたちが変な汗をかいているようだが、知らん。
力強く抱き寄せてくるロセの髪を撫で、俺からも伝えることを思い出す。
「そうだ。今さらだが、俺は教師引退だな。面目ない……」
「それは仕方ないですよ、状況が状況ですから……」
ロセはそう言ってくれるが、確かに状況が状況ではあるけどな。
「下手に外出できねぇ、あの子の面倒も見なきゃならねぇってことで、アザゼルからも言われてな……」
俺が言うと、ロセは不機嫌そうにしながら余計に力を入れてくる。
「そのせいで私が一緒にいられる時間が減ってしまいました」
「まあ、聞け。ロセとアザゼル、リアス、ソーナには前に伝えたが、新オカ研組には俺の口から伝えておきたかったんだ」
「……私たちに伝えたいこと、ですか?」
小猫が小さく首を傾げながら訊いてきたので、俺は自分の真横に転移魔方陣を展開し、そこからある人物を呼び寄せる。
魔方陣の光が弾けると、そこにいたのは━━、
「む、何か用か?」
フリル付きのエプロンと、三角巾を頭に付けたツヴァイが現れた。
どうしてエプロンや三角巾、顔に黒くなっているんだ?
「……何をしていたんだよ、おまえは」
「黒歌とリリスがうるさいのでな。本を見ながら適当に作ろうと思ったんだが、爆発した。何故だ?」
三角巾を外し、顔をごしごしと力強く拭い始める。
多少きれいになったツヴァイを眺めながら、俺は肩を落とし、目の前の料理下手に言う。
「おまえ、字読めねぇだろうが……」
「悪魔文字は頭に入れたのだが、何を間違えたのか」
「どうせ『小さじ』と『大さじ』を間違えたんだろ?まったく、他の奴等は?」
「ジルとアリサは、ガブリエルが住むからということで、彼女を連れて物品の買い出しに行った。クリスはトレーニングルームを試している」
思わず頭を抱え、小さく唸る。
次からはツヴァイに料理をさせないようにしよう。怪我人が出ちまう。
「……まあ、なんだ。今度料理当番を決めよう」
「そうだな」
「毎日でも私が作りますよ?」
ロセはそう言ってくれるが、俺は首を横に振る。
「それだとおまえの負担がバカにならねぇ。それは許さん」
俺がそう言うと、ロセは嬉しそうに笑う。
ここまで露骨に嬉しそうにされると、こっちが照れ臭くなるんだが……。
「━━で、父さん。何故呼んだ」
ツヴァイの問いかけに答える前に、一旦ロセに離れてもらい、服のしわを伸ばす。
「おうよ、これから面倒になるヒトらに挨拶しとけ」
「む。その話か」
そう言うと、ツヴァイはエプロンを取り払い、その下に着ていたものをイッセーたちに見せる。
「……この学校の制服、ですか?」
木場の確認に頷き、ツヴァイに目で合図を送る。
ツヴァイは頷き、身だしなみを整えると口を開いた。
「この学校で世話になることになった。よろしく頼む」
「ちなみに二年生への編入になるから、新二年組は特に世話になると思う」
俺が捕捉し、ツヴァイは二年組の三人(小猫、ギャスパー、レイヴェル)に向けて小さく一礼した。
イッセーが苦笑しながら言う。
「何だか、また騒がしくなりそうですね」
「まあ、さっきのを見ればわかるが、時々予想を越えてくるから、よろしく頼む」
俺も苦笑で返し、ツヴァイとロセを側につかせながら、笑みを不敵なものに変える。
「━━だが、次の大会じゃライバルだ。お互い全力でいこうぜ」
俺はそう告げ、右拳を前に突き出す。
意図を察してくれたのか、リアスとイッセーが拳を突き合わせてくれた。
俺は笑み、イッセーとリアスに言う。
「それじゃあ、大会で会おう」
「はい、負けませんよ!」
「私もです。手加減はいりません」
「当たり前だ。死ぬ気で勝ちにいくし、勝ちにこい」
「「はい!」」
二人の返事を聞き、俺は満足げに頷く。
さて、挨拶も済ませたことだし、
俺が部室を出ようと踵を返した瞬間だった、オカ研部室の扉が豪快に開け放たれる。
「見つけたぞ、この野郎!」
「おっと、見つかったな。じゃ、あばよ!」
俺は窓から脱出しそのまま駆けていく。
ロセとツヴァイを置いてきてしまったが、あの二人なら大丈夫だろう。
ツヴァイには『家族は守れ』と教えてある。
「待ちやがれ、今度こそ逃がさねぇぞ!」
「はっ!前線から退いて研究メインになった野郎に、今さら捕まるかよ!」
旧校舎近くの庭を駆け抜けていく俺とアザゼル。
ようやく勝ち取った平和と、戻ってこられた日常だ。
これが少しでも長く続くように、俺は戦おう。
それを壊そうとするのなら、神だろうが世界だろうが、何だろうがぶっ潰す……!
━━━━━
冥界の底の、さらに底。
氷に包まれたコキュートスの一角に、不自然なほど近代的な研究所が鎮座していた。
その研究所の最深部に、それはあった。
培養液で満たされた容器に納められた、不気味に蠢く肉塊。
その肉塊には数十本の管が繋がり、何かを吸い上げていく。
まともなら触れようとも思わないそれを、いとおしげに撫でる一人の女性がいた。
彼女の背後には数十、数百とも見てとれる死神たち。
死神の一人━━タナトスが女性に告げた。
「準備は順調です。ハーデス様が手を回してくださった神々も、我々の計画に同調しております」
「そう。そうでなくては、あのヒトの苦労が報われませんわ……」
生気を感じさせず、感情が欠如した抑揚のない声。
タナトスは彼女のことを心配しつつも、それを表には出すことなく続けた。
「『ペルセポネ』様、我々はあなたについて行きます。それが、ハーデス様の最後の命令ですので」
「……ええ。頼りにしていますよ、タナトス……」
━━━━━
『獣』と成り果ててなお、家族を守る男がいた。
夫の仇を討つため、『
『獣』との戦いは終わり、祭りが始まる。
だがその影で、『獣の子供たち』を巡る戦いが、始まろうとしていた━━━。
長々とやってきた『グレモリー家の次男 リメイク版』も、これにて本編は完結です。
こんな駄作を最後まで読んでくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、誤字報告をしてくださった皆様、感想を入れてくださった皆様、評価してくださった皆様、本当にありがとうございました。
これからは、このまま幕間編として、『ロイのリリスの旅+α』を気が向いたらやっていこうと思っています。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。