グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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Return life02 現状把握

セラたちからのお説教が終わった翌日。

俺━━ロイが病室のベットで暇を持て余していると、突然扉が開いた。

 

「よお、目が覚めたんだってな」

 

「アザゼルか。なんか久しぶりだな」

 

「……おまえ、酷い(くま)だぞ」

 

アザゼルの指摘に、俺は目の下を撫でながら、大きめのため息で答える。

昨日は本当に大変だった。眠いし騒がしいし、本当、大変だった。

昨日のことを思い出して項垂れる俺に、アザゼルは一度肩をすくめると言ってきた。

 

「ま、散々やった罰だな。むしろそれで済んだだけマシだと思え」

 

「だよな。家に帰りてぇのに帰りたくねぇ……」

 

絶対にお説教だぞ。今度は母さんと義姉(ねえ)さんからだ、間違いなく二日は拘束される。

テンションがだだ下がりになっていくなかで、アザゼルに訊く。

 

「━━で、いつになったら帰れるんだ?てか、帰れんのか?」

 

鳶雄たちから報告がされているのなら、今の俺がどんな状態なのか把握しているだろう。

アザゼルは手元のタブレットを弄ると、それを手渡してきた。

それを受け取り、画面を確認してみる。

そこには家の間取りと思われるものが映されており、画面の右上に『特別隔離用住宅』というテロップが出ていた。

俺が疑問符を浮かべながらアザゼルを見ると、一度咳払いをして説明を始める。

 

「駒王町から駅三つ分のところにおまえの縄張りになる場所と、おまえ()()用の家を用意中だ。この病室と同じセキュリティにしなきゃならないから、ちょいと建設に苦戦してんのさ」

 

「縄張りに家、ね。おまえたちってことは、住むのは俺だけじゃねぇのか。まあ、縄張りって言うくらいだからあいつらと、あとリリスが来るってのは何となくわかるが……」

 

俺が言うと、アザゼルは苦笑した。

 

「最初はその予定だったんだがな……」

 

「じゃあ、違うのか?」

 

俺の問いにアザゼルは頷いた。

 

「おまえの同僚のジルってやつ。あと、おまえの恋人四人もだ」

 

「あいつらか……」

 

あいつらのことだ、かなり無理を言ったことだろう。特にセラがわがままを言ったはずだ。

急に申し訳なくなって頬をかくなか、アザゼルはわざとらしくため息を吐いた。

 

「住む人数が変わって、設計を一からやり直さなきゃならないってのに、おまえの予想のとおり、セラフォルーが聞かなくてな。それにミカエルとオーディンの爺さんが便乗してきやがった挙げ句、アジュカも『監視役は多いほうがいいだろう?』とか言ってきやがった」

 

「━━で、後で言われても面倒だから、黒歌の分も考えてんのか」

 

俺の指摘に、アザゼルはまた盛大にため息を吐いて頷いた。

 

「ったく、オーディンの野郎は『今までの恩返しじゃ。おお、あやつの部屋はそこにしろ』とか、ミカエルは『彼女の恋路の邪魔はしたくありません。あ、部屋はそこを指定します』とか、アジュカも『まあ、彼らならここら辺でいいだろう』とか、あいつら、建てるのはこっちだからって好き勝手言いやがって……!」

 

額に青筋を立てながら愚痴り始める。

まあ、そのことはこいつに任せるとしよう。それ以外にも気になることが多い。

 

「それで、その苦戦中のセキュリティって、どんなものなんだ?」

 

俺の問いかけに、興奮した様子で肩で息をしていたアザゼルは、何度か深呼吸をしてから言う。

 

「天界の第七天のセキュリティ、わかるか?」

 

「確か、あれだろ?許可なしに入ったら僻地に強制転移させられるとかなんとか」

 

「ああ。まさにそれをこの病室とおまえの新居に施しているんだが……」

 

言葉を詰まらせるアザゼルだが、再び大きなため息を吐いた。

 

「昨日、ロスヴァイセと黒歌が入ってきたろ?」

 

「ああ、来たな。その前にリリスも来ていたが……」

 

「リリスはいいんだ、ちゃんとカードを作ってある。問題は二人だ。あいつらにカードを作った覚えはなかったんだがな……」

 

「どうせガブリエルが手引きしたんだろ?一緒に入ってきたし」

 

「そうか……。まあ、そうなるよな……」

 

━━女って、恐ろしいな……。アザゼルは染々とそう付け加えた。

恋する奴は誰にも止められねぇ。

俺が悪魔の生の中で学んだことのひとつだ。そこに性別とか、種族とか、そんなものは関係ねぇ。

遠い目をしているアザゼルの腹をタブレットで小突き、意識をこちらに戻したところでそれを返す。

アザゼルが受け取ったところで、今度は左手首に巻きつく腕輪を突き出す。

昨日ちょっと弄ってみたが、外れる気配はなく、かといってガッチリと密着しているわけでもない。

 

「なあ、これについては何かないのか?」

 

「あ?ああ、それか。各神話の封印術のハイブリッドに加えて、リリスとオーフィスに加護を施してもらってな。どうにか作り出した、おまえの中にある『因子』を抑制するためのものだ」

 

憂いを帯びた表情で言うアザゼル。

たぶん、これをつけるまでに色々とあったんだろう。

俺の心中を察してか、簡単な説明を始める。

 

「最初はおまえが寝ている間に完全に封印するか、殺してしまおうって意見があったんだ」

 

そう言うと、アザゼルは魔方陣から手鏡を引っ張り出して俺に差し出してくる。

それを受け取り、覗きこんでみた。もちろん俺の顔が映るわけだが……。

 

「ほぇ~、こんなことになってんのか」

 

自分の右頬を撫でながら、間の抜けた声を漏らした。

右腕から続く火傷痕が、そのまま右目に伸びていき、遠目から見れば、血涙を流しているように思われても仕方ないと思うほどだ。

左頬の切り傷は、痕だけを残して塞がっていた。

……逆に言えば、鳶雄の一撃は俺に通ったってことだ。最悪の場合はあいつに━━。

そこまで考えて、俺は首を振った。

駄目だな。誰も置いて()かないと決めたのに、最悪の事態を考えちまう。

気分を変えるため、更なる問題を確認する。

おそらく、俺の顔で一番異常な部位━━両目の瞳だ。

色は碧いままなのだが、瞳孔が深紅に染まっているのだ。自分の体なのだが、ぶっちゃけ気味が悪い。

口を開けてみると、全体的に歯が鋭くなっていた。犬歯にいたっては、知らないヒトが見たら吸血鬼とかに思われそうなほどに鋭くなっている。

髪の色は紅だったものが少し黒くなり、なんか触り心地がいい。上質な毛皮を撫でているみたいだ。

昔の俺の見た目を知っている奴でも、きっと首を傾げてしまうほど、様変わりしてしまっていた。

こ、これは、俺が俺なのか疑われても仕方ねぇな。ここまで変わっていたか……。

自分の顔を様々な角度から見ていると、アザゼルが言ってきた。

 

「━━で、何回か試してはみた」

 

「……今、なんて?」

 

俺の確認に、アザゼルはあっけらかんとした様子で答える。

 

「何回か殺そうともしたし、封印しようともした」

 

「………」

 

こ、言葉も出ねぇよ。

俺は寝ている間に処刑されかけていたってことか……。

まあ、目が覚めた瞬間に暴れだされるとか考えたのかもしれねぇねどよ。

黙りこむ俺に対し、アザゼルはフッと笑った。

 

「冗談だよ。血とかを抜いて、その腕輪を作るためのデータを取っただけだ。まあ、殺してしまおうって意見が多かったけどな」

 

「よく殺らなかったな……」

 

「……ガブリエルの意見に返せる奴がいなかったんだよ」

 

首を傾げる俺に、アザゼルは言い聞かせるように言ってきた。

 

「『微睡みにある獣を起こし、あの戦いの続きを始めるおつもりなら、彼の首をはねればいいでしょう』ってな。会議場が静まりかえったぜ?」

 

「ずいぶん物騒なことを言ったんだな」

 

思わず苦笑が漏れる俺に、アザゼルは妬みの視線を送ってきた。

 

「まあ、その後に『私の生涯をかけて、獣を微睡みのままにしてみせます。信じてください』って頭をさげられちゃあな……」

 

「………」

 

ガブリエルがしたという宣言を受け、俺は口の端をひくつかせた。

ガ、ガブリエルの愛が重い。その発言は、遠回しに『一生彼の側にいます!』って宣言したもんじゃねぇ?

アザゼルは「おまえも大変だな」と他人事のように(実際に他人事なのだが)告げてきた。

一度息を吐き、アザゼルに訊く。

 

「まあ、それはそれとして、リリスに何があったんだ」

 

真剣な声音で言うと、アザゼルは苦笑した。

 

「倒れたおまえの病院に担ぎ込んで、視界の端でなんか光ったと思ったらああなってたんだよ。ガブリエルに抱っこされたままだったな」

 

「おまえが何かしたってわけじゃあないんだな?」

 

少し殺気のこもった声を出すと、アザゼルは慌てた様子で両手を顔の前で振り始めた。

 

「そ、そこは信じてくれよ!今まで散々やっちまった俺が言えたことでもねぇけど!」

 

「……仕方ねぇな」

 

殺気を抑えながら、さらに訊く。

 

「で、『おとーしゃん』ってのは?」

 

「ん?ああ、『お父さん』が言えてないのか。寝ているおまえを見ながら心配そうにソワソワしてて、『なんか迷子の子供だな』なんて言ったら、セラフォルーたちが捲し立ててな……」

 

アザゼルが遠因で、セラたちが原因か。

 

「━━ならいいか」

 

俺が言うと、アザゼルは面を食らったように驚いていた。

 

「どうした?」

 

「いや、多少は怒るのかもなって思っていたんだが、意外だ」

 

アザゼルの発言に、逆に首を傾げる。

 

「何でセラたちを怒らなきゃならねぇんだよ。大切な恋人だってのに」

 

「ちなみに、俺がそう呼べって言ったとしたら、どうくる?」

 

アザゼルが自分を指差して訊いてきた。

おそらく興味本位なのだろう。アザゼルの悪い癖のようなものだが、俺はニコッと笑いながら言う。

 

「殺す」

 

「怖っ!なんていい笑顔で言いやがるんだよ、こいつ!」

 

リリスに悪影響を与える野郎を、生かしておく理由はない。即殺だ。

俺はニコニコしながら続ける。

 

「大事な家族を護るためだ。そのためなら俺は━━」

 

顔を真剣なものに戻し、アザゼルにまっすぐ視線を送りながら告げる。

 

「神だろうが何だろうが、ぶっ殺す」

 

その宣言と共に腕輪が変形を始め、籠手のようになった。

同時に、視界が一変する。

アザゼルや俺、果てにはお見舞いの品である果物に至るまで、そこを流れるオーラが視認出来るようになったのだ。

その変化に困惑しながらも「どうでもいいか」と納得して、籠手を一瞥、さらに続ける。

 

「どうする。封印しておけば良かったは無しだぜ?」

 

アザゼルは額を流れる汗を拭うことはなく、ひきつった笑みを浮かべた。

 

「その後悔がしないように、色々と手をうってんだよ」

 

アザゼルがそう告げると共に魔方陣を操作すると、籠手から『ピピッ』と機械音が鳴った。

籠手を見つめて首を傾げると、いきなり視界が歪む。

 

「━━っ。アザゼル、テメェ……!」

 

「腕輪は、おまえが戦闘体勢に入ると、籠手に姿を変えるようにはしておいた。万が一、おまえが戦う時に備えてな。だが、それをつけるために、保険は用意しておかなきゃ駄目だろう?」

 

籠手が腕輪へと戻っていくなか、俺は吐き捨てる。

 

「……強制的に眠らせるってか。まったく━━」

 

面倒なものを仕込みやがって……。

俺の言葉は吐き出されることはなく、そのまま意識は微睡み、ベットに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━アザゼルは、不機嫌顔のままいびきをかくロイの寝顔を睨むと、割りと大きめのため息を吐いた。

腕輪が変形するまでは予想通りだったが、まさか瞳孔が縦に裂けるとは思わなかった。あれじゃあ、獣そのものじゃねぇか。

それに、病室から出す前に強制睡眠を使うはめになるとは思わなかったぜ。

ロイを起こさないように注意しながら、腕輪に魔方陣を当てる。

ああ、やはりか……。

再びため息を吐き、とりあえず病室を出る。

長い廊下を歩きながら、耳元に魔方陣を展開、シェムハザに連絡を入れる。

 

『アザゼル、どうかしたか?今日は例の男の見舞いだろう』

 

「ああ、それは済ませた。ひとつ問題があってな……」

 

『どうかしたのか?』

 

シェムハザの問いかけに、俺は歯切れ悪く返す。

 

「例の、強制睡眠だが、成功した」

 

『暴れたのか?』

 

「いや、ちょいと試しただけだ。だが、本題はここからだ」

 

『もったいぶらずに教えてくれ。腕輪の管理はグリゴリだからな』

 

俺たち堕天使が中心となり、あの腕輪を制作した。弄れるのは俺たちだけだ。

逆に言うと、腕輪に不備があったら全部こちらの責任になる。まったく、また面倒な仕事を引き受けちまったな……。

で、先ほど気づいた問題だが━━、

 

「あの魔方陣、ロイに対しては二度と効果を出さないな。簡単に調べたが、耐性が出来上がっていやがったぞ」

 

『……それは問題だな。また新しい術式を組まなければならないのか』

 

「オーディンの爺さんと、メフィストに協力を仰ごう。これじゃあ、十年経たずに何も効かなくなっちまう」

 

『そう、だな。対策を練らなければ……』

 

お互いに重苦しい雰囲気を放ち始める俺たち。

『邪龍戦役』で死んじまった奴らには、この手の術が得意な奴らもちらほらいた。そいつらがいれば、もう何年か粘ることが出来たかもしれないが……。

そこまで考えて、俺は左右に首を振る。

無い物ねだりをしてどうする。今ある手でどこまでやれるのか。それを考えなきゃ駄目だろうが……!

再びため息を吐き、断りを入れてから連絡を切る。

さて、やることは多いが、次の術式を腕輪に仕込んだら、帰しても大丈夫か。下手にストレスを溜めさせると、何をされるのかがわからない。

そんなことを思いつつ、タブレットの画面に目を向ける。

あいつにはまだ建設中みたいに言ったが、堕天使の技術力で家自体は完成している。

本当に、セキュリティの構築が大変なのだ。住む奴が増えに増えたらからな。

タブレットの電源を切り、本日何度目かのため息を吐いた。

あの野郎じゃないが、この状況は本当に━━、

 

「━━面倒なことになったな……」

 

俺の呟きは誰にも届くことはない。

もしかしたら、誰かが近くにいるかもしれないが、この時間に見舞いに来る物好きは俺以外にいないだろうからな……。

 

 

 

 

 

 

 




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