グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission14 父として

ロイと怪物と成り果てた少年の戦闘が始まり数分。

採石場だったその場所にはいたるところに切り傷やクレーターが生まれ、もはや見る影もなかった。

 

「フッ!」

 

『ガアアアッ!』

 

深紅の軌跡を残すロイの回り蹴りと、空間を削り取るほどのオーラが込められた少年の尻尾の一撃がぶつかり合い、周囲のものを吹き飛ばしながら地面にクレーターを穿つ。

 

『オオオオオオッ!』

 

アロンダイトが一体化した左腕を振り回しロイを攻め立てるが、彼は全てを的確に避け、カウンターで脇腹に拳を叩き込む。

硬いものを殴る鈍い音と、ものを焼く音、それを証明するように生物が焼ける臭いと煙が少年の脇腹から漏れる。

ロイは追撃はせず、一旦その場を離れる。それと同時に彼がいた場所にアロンダイトが振り下ろされ、地面を抉る。

ロイが空中で籠手と脚甲を解除、弓と矢を生成するなかで、少年が腰を回しながら左腕を大きく左に振りあぶる。

ゆっくりと息を吐きながら弓を引き絞り、呼吸を止めると同時に放つ。

空間を抉りながら飛ぶそれは、少年の顔面に直撃する。

だが、少年は怯まない。顔の鱗が焼き爛れても、即座に再生していくのだ。

ロイは表情が一瞬驚愕の色を帯びた瞬間、少年が左腕を振り抜く。

異常なまでの靱性を持った左腕は鞭のようにしなり、急激に長さを伸ばしながら振り抜かれた。

しならせたことによって乗った強力な遠心力と、並外れた腕力が生み出したその一撃が、凄まじい速度でロイに迫っていく。

ロイは空中で上体を後ろに反らすことで紙一重で避け、次の矢をつがえる。

引き絞りながら矢の先端をドリル状にすることで貫通力を底上げし、それを放つ。

 

『ッ!』

 

今度は危険と察知したのか、少年は首をかしげて避ける。だが、矢に削り取られた空間に巻き込まれた頬の鱗が剥がされ、微量の出血を強いる。だが、それもすぐに癒えてしまう。

ロイは地面に降り立つと弓を消して槍に変え、それを右手に握りながら姿勢を低くし、両足に力を込めながら左手を地面につける。

 

「フゥゥゥ……」

 

ゆっくりと息を吐き、それを止めると同時に飛び出していく。

一歩を踏みしめるごとに地面を砕き、三歩目を踏み込んだと同時に跳躍、槍を回して逆手に持ちかえる。

槍から禍々しいほどの深紅のオーラが迸り、それに混ざって黒い火の粉が舞い踊る。

 

「ッラア!」

 

気合い一閃と共に槍を放つ。

流星のように鮮やかな深紅の軌跡を残しながら突き進むそれは、

 

『フンッ!』

 

少年の放った右拳で完全に粉砕された。

だが、槍は拳がぶつかった瞬間に爆発し、少年の視界を塞ぐ。

アロンダイトを振り回して煙を払い、周囲を警戒する少年だが、ロイの姿が見当たらない。

その瞬間、少年の足元の地面が砕かれ、ロイが飛び出してくる!

同時に放たれたアッパーカットが少年の顎を捉え、体を地面から浮き上がらせる。

空中で体を回転、その勢いを乗せた蹴りを少年の腹部に叩き込む。━━が、その一撃は刹那的に反応した少年の右手で受け止められる。

少年は怪物とに成り果てた顔でニヤリと笑い、浮き上がった体を急降下させてロイを地面に叩きつける。

 

「チィ……っ!」

 

ロイは小さく舌打ちをするが、少年は素早く彼の足から手を離して頭を掴み直すと、そのままロイを地面に叩きつけたまま超低空飛行で採石場を飛び回る。

地面とロイが擦れあい、地面が急速に削られていくが、少年の腹に強烈な衝撃が走る。

それが二度続き、三度続き、寸分の狂いなく同じ場所に放たれた四度目の何かは、少年の鱗を砕いてダメージを体の芯まで届かせた。

 

『ガァ……ッ!』

 

たまらずロイを手離すが、勢いは止まらずにロイは地面を削りながら数十メートル滑っていく。

勢いがなくなり始めた頃を見計らって後転の要領で体勢を建て直し、立ち上がる。

彼の右腕には、手甲部分に杭のようなものが仕組まれた籠手が装着されており、そこに少年の血が付着していた。

 

「いつつ……。って、服がボロボロじゃねぇか……」

 

体には多少の擦り傷が出来ている程度で、戦闘不能になるほどの重症にはならなかった。

地面を引きずり回される程度では、ドラゴンと悪魔のハイブリッドとなっている彼にはそこまでダメージを与えることは出来なかったようだ。

本来なら特殊な素材で作られた彼の服もその程度でボロボロにかるわけもないのだが、今まで散々酷使され続けた結果傷みきり、強烈な摩擦熱がトドメとなって背中の部分が焼き爛れてしまったのだ。

ロイは一度ため息を吐くともはや前掛け状態の上着を破り捨て、旅の中で鍛えぬかれ、無駄な贅肉の一切が削ぎ落とされながらも、旅の道中の戦いの激しさを物語る傷跡だらけの上半身が丸見えとなる。

右目から伸びる赤いラインも見えるようになり、腕だけでなく、右胸にも伸びており

後ろから恋人の荒くなった鼻息が聞こえてきたが、無視して籠手の杭を消して左手に籠手を、両足に脚甲を生成し直す。

少年は撃ち抜かれた腹を押さえ、歯を食い縛る。

すぐに治るはずの傷口は、焼かれたことで無理やり塞がれ、再生しきれていない傷口からは粘性の高い黒い血が垂れ流されていた。

ロイはその傷口を一瞥し、重心を落として右拳を引く。

 

━━表面を焼くだけでも、削り取るだけでも駄目。肉を削り取り、その断面を焼けば、あの再生能力を阻害できる。

 

ようやく弱点を見つけたロイは、無意識に不敵な笑みを浮かべた。

それを少年は挑発と受け取り、背中の肉の一部をドラゴンを思わせる形状の翼へと変え、血を周囲にばらまきながらロイに向けて飛び出していく。

さらに速くなった少年の動きを見ながら、ロイはその場を動かず、じっと少年を睨む。

間合いを詰めた少年は体を高速で反転。オーラを込めた尻尾の一撃をロイに放つ。

ロイは頭を低くして尻尾を避けるが、そこに少年がアロンダイトを振り下ろす。

ロイは反射的に反応し、アロンダイトの一撃を頭の上で腕をクロスさせて受け止めた。

ロイの足元が砕け散り、クレーターが穿たれる。

異常なまでのパワーが込められた一撃は、余波だけでロイの体にはダメージを与えたのか、彼の鼻から血が垂れ始める。

ロイはそれに構わず少年に声をかける。

 

「少年、俺の言葉がわかるか」

 

『コロスコロスコロスコロスコロスゥッ!!』

 

少年の反応にため息を漏らし、アロンダイトを強引に押し返して少年の体勢を崩す。

ロイは瞬時に籠手を直剣に変え、膨大な魔力を込めながら左脇に構えた。

 

『コロスッ!』

 

少年の怒号と共に再びアロンダイトが振り下ろされた。

ロイはゆっくりと息を吐き、少年の一撃に対してカウンターとして、直剣を振り上げる!

肉が断ち切れる鈍い音が周囲に響き、一拍開けて地面に一本の魔剣が突き刺さる。

 

『……グ、オオオオオオオオオオオオ!?』

 

少年のアロンダイトを内包した左腕が切り裂かれ、断面からどす黒い血が吹き出す。

返り血で顔の左半分を黒く染めながら、ロイは少年の左頬に飛び上段回し蹴りを叩き込んだ。インパクトの瞬間、脚甲から魔力を噴射させてさらに勢いを乗せ、ダメージを上乗せする。

快音と共に少年は吹き飛ばされ、水切りの石のように地面を何度も跳ねていく。

だいぶ間合いが開いたことを確認し、ロイは鼻血を拭って目を閉じて集中。少年の気の流れを探っていく。

怪物に変容したことと左腕がなくなったことで気の流れが乱れに乱れているが、極限まで集中して彼の(コア)を探る。

狙うはその一点。次の一撃でそこを潰し、体が消える前に()()()を少年の体内に捩じ込む。

成功するかはわからない。むしろ、少年が死ぬ可能性のほうが高いだろう。だが、救うためにはこの手しか思い浮かばなかった。

成功したとしても、その後は問題が山積みとなるだろう。面倒だが、少年の命が救えるのなら安いものだ。

 

『キミは変わらないね。面倒臭がりなくせに、自分からそれに飛び込んでいく。悪い癖だ』

 

いつかに兄に言われたことを思いだし、思わず苦笑する。

 

「━━俺は面倒が嫌いだ」

 

誰に言うわけでもなく独白する。

右手の上にある物━━『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』、その中の騎士(ナイト)に当たる駒を取り出した。

ロイが持つただ一つの『変異の駒(ミューテーション・ピース)』であるそれを、ロイは少年を救うための切り札として取り出したのだ。

少々強引な手になるが、少年を『怪物』から『悪魔』に転生させる。そうすれば、最悪命は助かるだろう。

その後、はぐれになるか、眷属になってくれるのか、それは少年次第。前者になる可能性がはるかに高く、そうなったら面倒なことこの上ないが、気にはならない。

 

「━━だが、目の前で誰かが死ぬのはもっと嫌いなんだ」

 

━━面倒以上に誰かの死を嫌う。

 

それがロイの本質だった。

前世では無心で人を殺し続けた結果か、まともな心をもった今世で、前世で犯してきた罪と、三大勢力の戦争で殺し続けるなかで無意識下で罪悪感に襲われていた。

その結果が、あの(かいほう)を望む俺だったのだろう。

敵だから。そんな単純な理由で、一方的に相互理解不能と決めつけて殺していく。

だからこそ、いつかにセラフォルーの言った夢が彼の支えになった。

 

━━彼女がいなければ、俺は変われなかった。変わろうともしなかった。

 

手元の直剣を消し、再び両腕に籠手を装着する。

 

━━片目が潰されようが、片腕がなくなろうが、限界をとっくに越えていようが、毒に犯されていようが関係ない。救える命があるのなら、例えもがれようと手を伸ばす。

 

それが自分の贖罪の道なのだろう。

敵にも手を伸ばすのは難しいことだ。『一を救う』ために、『十を、百を殺す』ことにもなるだろう。

それでも、たった一人だけでも構わない。誰かを守るために戦いたい。

ロイは(コア)の場所を探り終え、目を開くと共に少年が立ち上がる。

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

少年の咆哮が響き渡り、同時にロイに向けて右手を伸ばした。

同時に本来の右腕の数倍はある、滅びで形作られた手がロイに向かっていく。

避けることは容易い。だが━━━。

ロイは小さく首を回して後ろを見る。

彼の背後にはセラフォルーたちがおり、少年の攻撃を避けるわけにはいかない位置にいた。

少年はそれを込みで放ってきたのだろう。俺のことをよくわかっていやがる。

ロイはそう思いながらため息を漏らす。同時に巨大な手に体を掴まれ、そのまま体を天高く持ち上げられる。

少年はそのまま彼を頭から地面に叩きつけようとするが、

 

「待っていろ、少年」

 

呟きと共に全身から放たれた滅びのオーラで巨大な手を消し飛ばし、体勢を整えて地面に降り立つ。

 

『!……オオオオオオオオオオオオオオ!』

 

不意打ちの一手をあっさりと防がれるが、それでも少年はロイに向かっていく。

ロイはゆっくりと息を吐いて右手の籠手に『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を仕込み、左手を抜き手に構えて直立のまま脱力していく。

少年は助走の勢いのままロイに向けて右拳を放つ!

 

『ッ!』

 

「━━━ごぼ……!」

 

避けることは容易いだろつ。だが、ロイは避けなかった。

少年の拳が腹を貫き、ロイは大量の血を吐き出す。

血を吐きながらも、ロイは優しく笑みながら少年の頬を撫でる。

 

「……少年。まったく不器用にもほどがあるぞ。この生き方しか出来ない、この生き方しか知らないってよ」

 

まるで親が子に言い聞かせるように優しい声音で、少年に告げながら彼の肩に手を置いた。

 

「━━俺もヒトのこと言えないが、俺でもここまでなれなたんだ。おまえだって、まだ変われるさ」

 

そう告げた瞬間、一切の躊躇いなく、ロイは左腕を少年の胸に突っ込む。

 

『ガッ!………!?』

 

少年にとっての心臓(コア)に当たる部分を掴み、一思いにそれを引き抜いた。

同時に少年の肩に置いた右手が深紅に光輝き、ロイと少年を包み込んでいく。

光が晴れ、そこにいたのは二人の男。

元の姿に戻った少年は仰向けに倒れ、その拍子に右腕がロイの腹から抜ける。

ロイは倒れる少年を抱き止め、そのままゆっくりと地面に寝かしつけた。

 

「俺はなんだ………?」

 

「……そうだな。おまえは」

 

ロイは顎に手をやって考え込むと、苦笑した。

 

「ツヴァイってのはどうだ?『ツヴァイ・グレモリー』。俺のクローン(むすこ)だ」

 

「俺が、あんたの……?笑わせる……。俺はあんたを殺そうとしたんだぞ?」

 

ロイは片ひざを立てながら座り込み、大きめのため息を吐いた。

 

「それがどうした。それはおまえがそうする以外に何も知らなかったからだ。これから色々なことを知ればいい」

 

「……あんたは、バカだな」

 

「自覚はある。お互いさまだろうが」

 

ロイが笑むと、少年━━ツヴァイも不器用に笑みを浮かべた。

 

「ロイィィィィ!大丈夫!?」

 

「マスター、動かないでくだない!すぐに治療します!」

 

「クリス、はやく!はやく!」

 

「わかったから、髪の毛引っ張らないでくれ……」

 

駆け寄ってくるセラフォルーと眷属二人、リリスを眺めつつ、ロイはツヴァイに言う。

 

「話は後でゆっくりと、だな。これは、かなりしんどい……」

 

貫かれた腹を撫で、たまらず息を漏らす。痛みをあまり感じないのは怨念たちの仕業か。

 

「そうだな。俺も、この体に馴染みきってはいないようだ」

 

ツヴァイはそう言うと、目を閉じて寝息をたて始める。

ロイは苦笑し、セラフォルーたちに手を振る。

 

「早く治療して!早く!」

 

「は、はい!マスター、動かないでくださいね」

 

アリサは回復のオーラをロイの腹部に当て、傷を癒していく。

それに当てられながら、クリスの肩から飛び降りたリリスがロイに飛び付く。

 

「ロイ!」

 

「お待たせ、リリス。とりあえずひとつは解決だな」

 

リリスを頭を優しく撫で、そう告げた。

そう、まだひとつだ。問題はまだいくつか残っている。

傷痕も残さず腹の穴が塞がったことを確認したロイは、左腕前腕部がなくなったツヴァイに目を向ける。

 

「……こいつの治療も頼めるか。今は俺の眷属だ」

 

「りょ、了解です!って、眷属!?」

 

「このマスター似の少年が、同僚ですか。まあ、俺はマスターの判断を信じますよ」

 

ふと、ロイは自分の右腕を顔の前に持ち上げて見つめた。

血管とも違う深紅のラインが腕や指を這いまわり、薄く発光していた。

 

「……これ、いつになったら消えるんだよ」

 

『さあな。燃え尽きるまで待て』

 

怨念たちの軽い返答にため息を漏らすと、セラフォルーの耳元に連絡用魔方陣が展開される。

 

「あら、アジュカちゃん、どうしたの?こっちはどうにか━━え?そんな!」

 

「どうした……」

 

ズボンのポケットからタバコを取り出し、火をつけて一服しながらセラフォルーに訊く。

 

「……グレモリー屋敷が襲撃を受けたそうよ。襲撃犯は例の男━━アガリアレプトよ」

 

タバコを投げ捨て、立ち上がる。

先ほどまで浮かべていた優しげな表情は鳴りを潜め、再び冷徹なものへと変わっていた。

 

「……行くぞ。クリスはこツヴァイとリリスを頼む」

 

「了解です。アリサ、へまするなよ」

 

「わかってますよ!何であろうがドンと来いです!」

 

「セラは戻っていてくれ。魔王が最前線ってのは体裁が悪いだろ」

 

転移楊魔方陣を展開しつつ、それに便乗しようとしたセラフォルーに釘を刺す。

 

「リリスもいくの!」

 

必死に剥がそうとするロイに抵抗し、ぎゅっとしがみつきながら言うリリス。

クリスに任せると言った手前、どうにかしようとしているのだが、なかなか引き剥がせない。

アリサがため息混じりに言う。

 

「……私が一緒に行動しますよ。早く行かないと」

 

「━━だな。さっさと行くか」

 

ロイは諦め、リリスを抱えたまま転移魔方陣にオーラを込めていく。

 

こんな形で帰宅することになるとはな……。

 

ロイは心中で呟く。

いつか必ず帰るためにも、その場所を守らなければどうにもならない。

 

「もう少しだけ、力を貸してくれ……」

 

右腕を撫でながら、ロイは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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