グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission11 目覚める皇獣(クローン)

彼女━━ロスヴァイセの視界から、ロイと彼によく似た少年が消えた一瞬後、甲高い金属音が空間に響いた。

ロスヴァイセは反射的にその音の発生源━━彼女よりもはるか上に目を向ける。

彼女の視線の先で、二人は落下しながらも攻防を繰り広げていた。ロイが突きを放てば少年が斬り返し、少年がアロンダイトを薙げばロイはそれを受け流して反撃に出る。

ロスヴァイセでは視認できない速度で数十という攻防を繰り広げながら、二人の足が床につく。踏ん張りのきく場所に戦いの場所を移し、二人の攻防は更に激化していく。

二つの深紅の軌跡が混ざり合い、深紅の火花を散らしていく。

端から見れば互角といった様子だが、ロスヴァイセには確かな感覚があった。

 

━━確実に、ロイさんが押している……!

 

その実感が湧いた理由は簡単だ。

二人の攻防で深紅の火花が咲き乱れているが、それに混じって鮮血が空間を舞っているのだ。

目を凝らせば、少年の頬や脇腹から出血し、肌や服を汚していることが見て取れた。

そんなロスヴァイセの分析とは打って変わり、ロイの心境は穏やかではなかった。

戦闘を開始してからまだ数分だが、その数分で少しずつだが確実に差を埋めてきているのだ。まだ埋まりきってはいないが、それも時間の問題だった。

頬や脇腹を初め、何ヵ所かには小さいながらも傷をつけた。だが、少年は動きの精細さを欠くことなく、段々とロイの動きに食らいついていく。否、ロイの動きを取り込んでいく。

格段に速く、鋭くなっていく少年の攻撃に対して、ロイもギアを上げて対応していく。

二人の音さえも置き去りにした攻防を目にしながら、ロスヴァイセはロイの勝利(無事)を静かに祈り始めた。

 

━━悪魔の私が祈っても逆効果でしょうか。

 

ほんの一瞬、そんな事が頭を(よぎ)った。祈るなら、自分よりもガブリエルのほうが適任だろう。そこまで思慮し、再び二人の戦いに目を向ける。

それと同時に、少年の顔面にロイの拳がぶち当たり、殴られて体勢を崩しながらも放たれた少年の蹴りが、カウンターの要領でロイの顎を蹴り上げた。

並の者ならその一撃で意識を刈り取られるだろう一撃ではあるが、ロイは歯を食い縛って意識を繋ぎ止め、追撃に放たれたアロンダイトの一撃を直剣で受け止めた。

つばぜり合いながら、二人は肩で息をする。だが、ロイの表情には余裕があった。

たかが数分。されど数分。極限まで集中した二人にとって、この数分はもはや数時間集中し続けた状態と同じであり、消耗も大きい。

だが、前世でも戦いに明け暮れ、この世に二度目の生を受けてさらに戦争に参加したロイと、この前まで言葉もわからなかった少年には、絶対的に『経験』の差があった。

所謂(いわゆる)『力の抜きどころ』という奴を知る知らないとでは、多少消耗の度合いにも差があるだろう。

 

「どうした、少年。まだまだこれからだろう!」

 

「……当たり……前だ……!」

 

ロイの挑発にあっさりと乗り、彼を弾こうと渾身の力を込めていくが、まったく動かない。少年の表情に少しの焦りが見え始めた。

ロイは不敵に笑むと同時に少年を押し返し、蹴りを放つが、少年は後ろに飛び退いてそれを避ける。

少年が床に着地する直前にそのポイントを見極め、瞬時に加速、着地の際の一瞬の硬直時に渾身の突きを放つ。

少年はアロンダイトでそれを受けるが、凄まじい衝撃で弾き飛ばされ、そのまま背中から壁に叩きつけられた。

ロイは一度深く息を吐き、刺突の勢いで伸びきっていた腕を引いて構えを変える。

少年は咳き込みながらアロンダイトを杖代わりに立ち上がり、ロイを睨み付けた。

再び二人が飛び出そうとした矢先━━、

 

ドオオオオオオオォォォォン……!

 

「「ッ!」」

 

「キャッ!?」

 

突然の爆音と振動に襲われ、ロイは驚愕しながらも倒れそうになったロスヴァイセの元に向かい、彼女の身体を抱き止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい。ありがとうございます。……一体なにが?」

 

「リアスたちが何かしたのかもな……」

 

ロイは冷静にそう呟くと、先程の振動で倒れたのか、再び立ち上がろうとしている少年のほうに目を向ける。

 

「とりあえず、あの少年をどうにかするから待っていてくれ。もう一押しって感じだからな」

 

「わかりました」

 

ロスヴァイセが頷くと、ロイは彼女を立ち上がらせて自分の後ろに隠す。同時に少年も立ち上がった。

 

「さて、続けるか」

 

「来い!」

 

二人は再び消え、音を置き去りにした攻防を再開したのだった━━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

ロイさんとロスヴァイセさんを残して先に進んだ俺━━兵藤一誠を含めた『D×D』突入組は、特に何の問題もなく突き進んでいた。

 

「ここまで何もしてこないと、逆に不気味だな……」

 

ゼノヴィアが眉を寄せながら呟いた。

確かに、あそこを突破したことはもう知れているはずだ。それでも何も妨害がないもなると、もしかしたらリゼヴィムの野郎は既に目的を終えたという可能性もある。

警戒を続ける俺たちの視線の先に、ばかでかい両開きの扉が現れる。あそこが終点か?

扉を確認した途端にヴァーリが少し先走り始めるが、リアスが言う。

 

「この先で温存させた残りの全戦力をぶつけてくる可能性もあるわ。みんな、ヴァーリチームも、気を付けて」

 

『はい!』

 

「スイッチに言われるまでもねぇよ……」

 

「何が来ようと、切り伏せるまでですよ」

 

集中し続けていた美猴は少し疲れた様子で、アーサーはそんな美猴をきにしながらも不敵にそう返した。

まあ、こいつららしい返し方だ。現に、俺たちの少し前方を走るヴァーリは何かを感じ取っているのか殺気を放ち始め、手元に魔力を溜め始めた。

 

「ヴァーリ!?おまえ、何をするつもりだ!?」

 

「手っ取り早く行くだけだ。開ける時間も惜しい」

 

困惑する俺をよそに、ヴァーリが手元に溜めた魔力を扉に向けて撃ち放つ!

凄まじい轟音と衝撃が施設を駆け巡り、爆煙が俺たちの視界を奪い取った!

それでも足を止めるわけにはいかないので、そのまま直進。煙を突っ切った先にあったのは━━━。

 

「な、なんだよ、これ……?」

 

俺は思わずそんな声を漏らした。

だだっ広い空間の壁一面に嵌め込まれた培養槽と思われる容器と、奥の壁にある明らかにひとつだけサイズが違う培養槽。そこにはドラゴンを思わせる巨大な何かが眠りについていた。

その巨大な何かが眠る培養槽からは瘴気が漏れ出しているのか、健康に悪そうなどす黒い煙が床を伝って空間に広がっていた。

俺たちが部屋を見回すなか、俺たちの耳にパチパチと拍手する音が届く。

それに真っ先に反応したのはヴァーリだった。その音の主を憎々しげに睨み付ける。

 

「リゼヴィムッ!」

 

「やっほー、『D×D』諸君。元気そうで何よりだ」

 

リゼヴィムの野郎が巨大な培養槽の前を陣取り、邪悪な色を含んだ笑みを浮かべていた。あいつの横には前に遭遇したローブの男が立っていた。

 

「まったく、あのガキんちょには困ったもんだ。突破されたなら連絡寄越しなさいってね」

 

「リゼヴィム様、それは無理でしょう。あれは彼に夢中━━いや、彼以外眼中にありませんよ」

 

「だよねー。まあ、ヴァーリが来てくれたならいいや」

 

勝手に話を進めるリゼヴィムと男に、ヴァーリはノーモーションで魔力の塊をぶっぱなした!

リゼヴィムに向かっていくそれは━━、

 

「おい」

 

「御意!」

 

リゼヴィムの言葉に反応した男が盾になって防いだ!あいつ、前もあんなことしていなかったか!?

爆音と共に胸から大量の鮮血をぶちまけながら、男の口元は変わらず笑みが浮かんでいる。

 

「あ゛~、い゛い゛!ごれはだまりまぜんな゛ぁ゛~!」

 

死にかけながらもそう言う男。ヴァーリとの相性は最悪な部類に入るのではないだろうか。

流石にヴァーリの表情もリゼヴィムに向けた憎悪から、男に向けた嫌悪の色が強くなる。殺す気で放った一撃を受けて喜ばれたんじゃ、気持ち悪くてたまらないだろう。

リゼヴィムはそんな男に一切目もくれず、培養槽を軽く小突きながら俺たちに告げる。

 

「さて、この子が俺様の奥の手。『トライヘキサのクローン体』だ」

 

『ッ!?』

 

ト、トライヘキサのクローン!?なんてもの作りだしてんだよ!?本体ですらあそこまで手こずった相手なのに、そのクローン!?

混乱しっぱなしの俺の横で、リアスが叫ぶ。

 

「まさか、それを使って再びテロ行為をするつもりなの!?」

 

「あったり前じゃん。それ以外に何があるよ?邪龍たちには裏切られるは、腕折られて顎を外されるは、氷付けにされるは、異世界には行けないはと、この世界の連中はどこまで俺の邪魔をすれば気が済むのかね?どうせ俺を殺すまで邪魔してくんだろ?なら━━━」

 

リゼヴィムは不敵に笑み、高らかと宣言する。

 

「━━この世界を終わらせちまおうと思ったわけよ!異世界への行き方はそのあと考えればいいしね!」

 

「そいつを使ってこの世界に宣戦布告というわけか。ふざけているな……」

 

ヴァーリが怒気を込めながらそう呟くと、リゼヴィムは首を横に振る。

 

「いんや、ふざけてねぇよ。俺はマジだぜ本気(マジ)。本気と書いてマジと読むからそこんとこ注意ね」

 

ふざけた様子でそう言うリゼヴィム。すると、男が勢いよく立ち上がった。

 

「リゼヴィム様……。本当によろしいのですね?どうなるかは計算も無意味なほど不確定ですが」

 

「うん、やる。何がなんでもやる。こんな世界、俺がこの手で、自らぶっ壊したいのよ」

 

「……そうですか。少し残念です」

 

男が言葉通りの声音で言うと、魔方陣を展開して動かし始める。

 

「ッ!何をするつもりだ!」

 

ヴァーリが叫ぶと、リゼヴィムが言う。

 

「何って、俺とこいつを合体させるんだよ。俺がどうなるかわかったもんじゃないけど、少なくともこいつに神器(セイクリッド・ギア)無効化(・キャンセラー)が継がれるわけだ。どう思うよ?」

 

『っ!』

 

俺たちの表情が驚愕の色を深める。トライヘキサ並の怪物に神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)が盛り込まれるって、相当厄介だぞ!?少なくとも、俺たちじゃどうにもならなくなる!

 

「そんな事、させるわけねぇだろ!」

 

真紅の鎧を瞬時に身に纏い、背中の魔力噴出口から魔力を吹き出させて一気に飛び出していく!

狙いは魔方陣を動かすあの男だ。リゼヴィムを殴るよりは断然楽なはず。

加速の勢いのまま男をぶん殴ろうとした途端、転移の光に包まれて消えた。同時に部屋の片隅に転移の光と共に現れた。

短距離転移で避けられた?俺が飛び出したことを察知してから瞬時に展開と転移をしてきたってことは、相当手慣れているようだ。

男は俺に構うことなく魔方陣の操作を続け、リゼヴィムに言う。

 

「少し時間がかかりますね。リゼヴィム様も私も余り動かないほうがいい。使いますか?」

 

「いいよ~。こいつらの調子も見ておきたいし」

 

リゼヴィムの肯定の言葉を受けて、男は不気味に笑む。

 

「では早速。『D×D』の皆さん。メインイベントはこの後ですから、こんなところでリタイア死なないでくださいね?」

 

男が俺たちに告げた瞬間、壁の培養槽のいくつかが開け放たれて中の怪物どもが飛び出してくる!

いくつかと言っても、全体の一割にも満たない数だ。だが、感じるオーラは外にいた奴らとも、先ほど遭遇した奴らとも違う。段違いにオーラの質が邪悪だ。近くに寄るだけでも危険かもしれない。

見た目も生物ではあるが、既存の生物よりもいくつかの生物の特徴を取り入れたキメラのように見える。かなり強いことがオーラだけでも察することが出来た。

俺たちが冷や汗を流しながら構えを取るなか、美猴と小猫ちゃんの表情が驚愕に染まる。

 

「こいつら……ッ!」

 

「気を付けてください!(コア)と思われる場所がいくつかあります。全てが本物なのか、それともひとつだけなのか、気を見るだけでは判別できません!」

 

小猫ちゃんの言葉に、俺たちは更に表情を険しくさせる。

(コア)を全てを潰すか、どれかもわからない本物を潰さなければならないってことは、今まで以上に気を使わなければならない。美猴と小猫ちゃんの疲労を考えれば、全ての相手はしていられないだろう。

 

「くそ!リゼヴィム!」

 

「も~、邪魔しないでよ。もう少しなんだからさ」

 

ヴァーリは群がる怪物と対峙ながら、リゼヴィムに近づこうとするが、それが叶わない。怪物たちの数と一体一体の強さが段違いだ。

 

「ヴァーリ、戻ってこい!一人で突破は無理だ!」

 

俺が怪物を殴り飛ばしながら叫ぶと、ヴァーリは一度舌打ちをしてこちらに戻ってくる。

その間にも男の魔方陣の操作は進んでいき、リゼヴィムと培養槽から光が漏れ始める。

美猴が怪物を如意棒で殴り飛ばすと、何かに気づいたような表情になる。

 

「こいつら。ああ、そういうことか!」

 

一人で何かを察した様子で、自分の毛を抜いて分身を大量に作り出し、怪物たちにぶつけていく。

 

「ちょっと美猴!何を考えているの!?そんな事をしてもいたずらに消耗するだけよ!」

 

リアスが怒鳴るが、美猴はニヤリと笑う。

 

「いいんだよ。どうやら、()()()()()()()みたいだ」

 

「それって、どういう━━」

 

リアスが怪訝そうな表情を浮かべた途端、怪物たちがもがき苦しみ始めた。中には血を吐き出してそのままヘドロに変わっていく個体までいる。

疑問符を浮かべるしかない俺たちだが、男が焦った様子でフードを取っ払い、灰色の髪の毛をかきむしりながら魔方陣の操る手を速くしていく。

 

「肉体の調整が曖昧だった?そんな馬鹿な!?私の、私とリゼヴィム様の計算に狂いがある筈がない!」

 

「これは予想外だ。なんだ?何か不確定要素でもあったっか?」

 

リゼヴィムも少し怪訝そうに言う。何となくだが、あいつらの計算が外れたってことか?よくはわからないけど。

リゼヴィムたちがそんな事をいっている間にも怪物たちは次々と死に絶えていく。外に飛び出してきた怪物たちの数は既に半分ほどになっており、今も少しずつ数を減らしていく。培養槽に入っている奴らは変化なしだ。

 

「おい。早く俺とこいつを融合させろ。ちょいと考えがある」

 

「御意……!」

 

男は落ち着くように努めながら深呼吸を繰り返すと、再び魔方陣を動かし始め、リゼヴィムと培養槽の輝きが強まっていく。

今度こそやるつもりか!やらせるわけには━━━!

俺とヴァーリが飛び出そうとした瞬間、怪物たちがヘドロになりながらも俺たちに飛びかかってくる!

俺たちに飛び付いた怪物たちの体のほとんどがねばねばしたものに変わり、俺たちの体にへばりついて動きを阻害してくる!

 

「この!引っ付くんじゃねぇ!」

 

「くそ!」

 

俺たちは必死に暴れまわり、どうにかねばねばを体から引き剥がす。少し動きづらいが、このぐらいなら問題ない!

 

「ヴァーリ、行くぞ!」

 

「言われるまでもない!」

 

俺は男の手を止めようとそちらにドラゴン・ショットを放ち、ヴァーリは鎧の籠手部分を解除してリゼヴィムに向けて魔力弾を放つ!

 

「当たるならそちらがいいです!」

 

男が高速で動き出して俺の攻撃を避け、ヴァーリの魔力弾にぶち当たりに行った!

再びヴァーリの攻撃を諸にくらい、悶絶する男だが、その表情は━━━、

 

「あ゛ぁ゛~、ごれは癖にな゛りますなぁ゛~」

 

恍惚としたものだった!こんな状況でもあの態度を崩すつもりはないようだ!

ヴァーリが大きめの舌打ちをした瞬間、『ピシッ』と何かにヒビが入る音が俺の耳に届いた。

その音は連続していき、どこから発生しているかを明確にさせる。

リゼヴィムの背後にあった巨大な培養槽。それに大きなヒビが入っているのだ。それを確認した途端、リゼヴィムと培養槽の輝きが更に強まっていく!

そして━━。

 

バリン………ッ!

 

培養槽のガラスが砕けちり、ドラゴンのような怪物の目が開き、血のように赤い瞳が露になった。

それと同時に感じる強烈な重圧。背中に嫌な汗が流れているのが実感できる。こいつ、相当ヤバい……!

怪物はリゼヴィムに目を向け、頬が裂けているとも思えるほどデカイ口を開き、そのまま床ごとリゼヴィムを口に含んだ!

咀嚼することなく丸呑みすると、怪物が苦しそうにえづき始める。だが、それも数秒のことですぐに慣れたのか、俺たちに向けて邪悪な笑みを見せる。

ま、まさか……、本当に融合しちまったのか……?

俺たちが警戒するなか、男が笑う。

 

「やった。やったぞ!私の計画通りだ!これで、ようやく、ようやく……!アハハハハハハハハハハハハ………っ」

 

男が狂ったように笑うなか、怪物が再び苦しみ始める。

今度は何だよ!?これ以上なにが起こるってんだよ!?

怪物は何を思ったのか、施設を破壊しながら壁に埋め込まれた培養槽を次々と丸呑みにしていく。

俺たちはそれに巻き込まれないように逃げ回るだけだ。くそ!デカイ奴が暴れまわるだけでも迷惑だってのに、こんな狭い場所で暴れるかよ!

全ての培養槽を呑み込んだ怪物が、天井を見上げて口を開き、そこに火炎と共に魔力と思われるオーラを溜めていく。

 

「これは不味いわね。みんな、集まって!防御体勢を取るのよ!」

 

リアスの指示に反応して、俺たちは部屋の壁際まで寄り、朱乃さんが魔術で障壁を張り、木場が聖魔剣をシェルターのようにして俺たちを囲む。

二人が防御の体勢を作った瞬間、凄まじい爆音と衝撃が俺たちに伝わってくる!

障壁とシェルター越しでもこれってことは、外は酷い状態になっているだろう。ロイさんやロスヴァイセさんは大丈夫なんだろうか。

外の様子が落ち着いた頃を見計らい、木場がシェルターを解除した。同時に俺たちの視界に飛び込んできたのは━━━。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

施設が隠れていた山が抉り取られ、肉眼で見えるようになった冥界の空に向かって咆哮する超巨大なドラゴンを模した獣の姿だった。

 

「アハハハハハハ………はぁ。笑いすぎましたね。失礼いたしました」

 

獣をバックに男が俺たちに対して優雅に一礼した。

 

「私は『アガリアレプト』。魔王ルシファーに仕える誇り高き一族です」

 

「ッ!その名が出てくるのね……!」

 

あいつの言葉を聞き、表情を険しくさせるリアス。

アガリアレプトは続ける。

 

「と言っても、生き残りは私だけ。先日まで、冥界の辺境で孤独に生きていたのですよ」

 

少し悲しげな声音になりながら、アガリアレプトは俺たちに目を向けた。

 

「リゼヴィム様からの伝言。いえ、当時からしてみれば遺言と変わりはありませんか。それを受け取った私がどんな思いを抱いたか、あなた方にわかりますか?生きる意味を無くし、居場所を失った私に託された最後の仕事。あの時の感動は忘れられませんよ……」

「外の怪物どもはそれで産まれたのか」

 

俺が睨みながら言うと、男は頷く。

 

「『トライヘキサの血液』。隠されたそれを見つけ出し、調整し、現政府に反抗する悪魔たちを利用して研究を続けました。その結果が、あれですよ」

 

リゼヴィムと融合した獣が背中から一対の巨大な翼を生やし、飛び立とうとしていた。

攻撃を加えようとした途端、俺たちを囲むように結界が展開された!

 

「な、これは!?」

 

「あなた方の戦闘データを元に、対応策として作り出した結界です。簡単には破れませんよ?」

 

言うや否や、転移魔方陣を展開するアガリアレプト。

 

「━━では、またお会いしましょう。次に会うときが、最後になるでしょう……」

 

静かにそう告げると、転移の光に包まれていく。

それと同時に怪物が飛び立ち、天井に開いた穴から飛び出していく。

 

「くそ!何なんだよ、この結界!」

 

ありったけの力を込めて結界を殴ってもびくともしない。リアスたちもどうにか破ろうと攻撃していくが、結界は同じだ。

これならロスヴァイセさんを無理矢理にでも連れてくるべきだったか。あのヒトなら素早く解析できるはずだ。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

獣が覚醒をしたちょうどその頃。ロイと少年の激闘は、突然終わりの時を迎えた。

 

「━━ッ!な、んだよ。いきなりどうしたんだ………!?」

 

ロイが突然苦しみ始め、息を荒くしながら片ひざをついてしまう。

 

「ロイさん!?」

 

異常を察したロスヴァイセは急いで彼の元に駆け寄っていくが、彼女よりも早く少年がロイに肉薄して斬りかかる。

 

「……チッ!」

 

歯を食い縛り、急に重くなった体を無理やり動かして少年の攻撃を紙一重で避ける。

先程までの動きのキレはなく、足もふらついている。見るからに危険は状態であることは確かだった。

 

━━これ以上、追撃を受けては危険です……!

 

ロスヴァイセは数十の魔方陣を展開して一気に砲撃。様々な属性の盛り込まれたフルバーストが少年に向かっていくが、

 

「邪魔だ……!」

 

それを全て避けた少年は、標的を死にかけのロイからロスヴァイセに変え、一気に飛び出していった!

 

「後ろだ……!避けろ………!」

 

彼女の目で追えるほど少年の速さは優しいものではなかったが、とっさに叫んだロイの言葉に反応して振り向き様に障壁を張るロスヴァイセ。

だが、少年の渾身の突きで障壁ごと弾き飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられる。

 

「かは……っ!」

 

ロスヴァイセは肺の空気に混じり、微量の血を吐き出した。

ロイはその光景に目を見開き、脱力したように俯いた。

 

「………テメェ」

 

ロスヴァイセを傷つけた少年に、ロイはどすの効いた低い声を出しながら睨み付ける。

体にあった重さが消え、しっかりと床に足をつけながらゆっくりと立ち上がり、顔を上げる。

深紅に染まった瞳の瞳孔は獣のように縦に割れ、炎のように燃え盛る絶大な殺気を放ち始める。

 

「ロセに━━━」

 

少年が警戒を最大にした瞬間、ロイの姿が消える。

 

「━━━何してくれてんだ!」

 

少年はハッとしながら振り替える。その瞬間、少年の顔面に()()()()()()()()()拳が直撃した!

肉が潰れる鈍い音が空間に響かせながら少年は吹き飛ばされ、壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられる。

 

「━━━ッ!???」

 

顔にべっとりとついた鼻血を拭うことも忘れ、少年はひたすらに動揺していた。

彼の視線の先にいるのは確かにロイだ。だが、ロイの両腕は深紅の鱗に包まれ、その表面を滅びの魔力がスパークしていた。

ロイと目が合い、問答無用で睨まれた少年は下がることが出来ないはずなのに、無意識の内に後ずさろうとしていた。

 

「殺してやる……!(ころ)してやる…!(ころ)してやる!」

 

先程まであった冷静さはない。怒りに身を任せた純粋な殺気は、少年に初めて恐怖を感じさせた。

その感情がわからない少年はひたすらに焦り、目の前の(かいぶつ)をどうするか、必死に思慮していく。

 

━━速度。あちらが上。

 

━━筋力。あちらが上。

 

━━経験。あちらが上。

 

━━体力。あちらが上。

 

何をどう考えても、勝てる算段が浮かばない。このままでは間違いなく自分は━━━!

いくら考えても打開策が浮かばない。どうすれば、どうすれば……!

 

「オラアアアアアアアアアアアッ!」

 

ロイの叫びに反応して少年はその場を飛び退く。彼がその場から消えた一瞬後、彼がいた場所にロイが拳を叩き込み、壁を完全に破壊した。

 

「どうした!逃げてんじゃねぇよ!」

 

ロイは挑発するが、少年は乗らない。否、乗れない。今ロイの間合いに飛び込めば、間違いなく即死させられる。

怯える少年の真横に、転移魔方陣が展開される。そこから現れたのは━━━。

 

「おや。これは予想外です」

 

アガリアレプトだった。怯える少年と、尋常ではないオーラを放つロイ、そして口の端から血を垂らすロスヴァイセを一瞥し、苦笑した。

 

「これは、驚きです。逆鱗にでも触れましたか?━━とにかく撤収です。ここでの用事は済みました」

 

「逃がすわけねぇだろうが!」

 

ロイは瞬時に飛び出していくが、アガリアレプトは短距離転移で少年ごと飛ぶ。

アガリアレプトは少年に言う。

 

「力が欲しいのなら、私と共に来なさい。おそらく、彼にも勝つことが出来ますよ?」

 

「……ッ!了解」

 

しっかりとした返事を返した少年に少し驚きながら、アガリアレプトはロイを囲むように大量の魔方陣を展開、そこから魔力の鎖を飛ばして彼を絡めとる。

アガリアレプトは転移魔方陣を展開、転移の準備を始める。

 

「━━では、また後程。冥界の未来を懸けた戦いで会いましょう」

 

「次の機会なんざ、やるわけねぇだろうが!」

 

全身から滅びの魔力を解き放ち、鎖を消し飛ばすと同時に飛び出し、アガリアレプトと少年もろとも消し飛ばそうと両手から滅びの魔力を放つ!

それが二人に当たりそうになった間際で転移の光が強まり、二人をどこかへと飛ばしてしまう。

標的を失った滅びの塊は壁を突き抜けて山の壁を削っていき、そのまま外へと抜けていく。

 

「ああ、くそ!くそが!」

 

床に足をつけたロイは衝動のままに壁を床を、近くにあった何かの機材を殴り壊していく。━━その拳から血が流れ、何かが砕ける乾いた音が出ても、止まる気配はない。

 

「ロイさん……!」

 

「どこだ!どこに逃げやがった!殺してやる!ぶっ殺してやる!」

 

「ロイさん!私は無事です!落ち着いてください!」

 

「どこだ!どこだ!!どこだ!!!」

 

ロスヴァイセの叫びも届かない。その間にもロイは破壊活動を続けていく。

ロスヴァイセは手を握り、その場を駆け出す。

 

「━━━━━ッ!━━━━━━ッ!」

 

もはやヒトの言葉からかけ離れた叫び声を上げるロイの背後から近づき、少し背伸びをしながら彼の首に腕を回して優しく包容した。

彼女が触れた途端、今までの暴走が嘘のように止まり、ロイは静かになる。

ロスヴァイセは彼の耳元で優しい囁く。

 

「……私は大丈夫です。落ち着いてください」

 

ロイの鱗に包まれた手がロスヴァイセの手に重なる。

 

「ロセ……?」

 

「はい」

 

ロイは手を離すとゆっくり振り向き、ロスヴァイセと目を合わせる。

ロイの瞳の色が(あお)に戻り、縦に裂けていた瞳孔も元の形に戻っていく。

 

「大丈夫なんだな………?」

 

「さっきからそう言ってます」

 

「怪我は……?」

 

「しましたけど、そこまで酷くはないですよ」

 

「なら、よかっ━━━」

 

ロイが優しい微笑んだ途端、ロスヴァイセに体を任せるように倒れこむ。

いきなりの事態に反応できずにロスヴァイセは下敷きにされてしまう。

 

「ロ、ロイさん!?」

 

「すぅ………くぅ…………」

 

体を起こそうとしたロスヴァイセの耳元から出る、規則正しい呼吸音。いきなりだが、ロイは眠っているようだった。

ロスヴァイセは少しオロオロしながらも、優しく彼の頭を撫で始めた。

 

「ど、どうしましょう……?」

 

ロイの腕に目を向けながら呟くロスヴァイセ。彼の目は戻ったが、腕はそのまま鱗に包まれている。このままでは、日常生活に支障が出るだろう。

冥界全体に危険が迫るなかで、しれっとロイのことだけを心配しているあたり、彼女も相当だろう。

その後、突入した『D×D』の面々は駆け付けた増援に救出され、無事に全員が脱出。ロイは病院に担ぎ込まれ、動けるメンバーはリゼヴィムと融合した獣の対応するために動き始める。

 

悪意の化身(リゼヴィム)との決着の時が、近づいているのだった!

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「やれやれ、手酷くやられましたね」

 

「早くしろ。俺は奴に勝たなければならない」

 

また別の研究所に、アガリアレプトと少年はいた。

少年は手術台に座り、アガリアレプトの手には禍々しい光を放ちながら脈動する何かが握られている。

アガリアレプトはそれを少年の目の前に差し出しながら、さも当然のように言う。

 

「では、これを食べてください。一口で」

 

「そうすれば、俺は━━━」

 

「勝てますよ。負ければ確実に死にますが、どうします?」

 

「聞かれるまでもない」

 

アガリアレプトの最後の確認のような質問に、少年は即答で返すとその何かをぶんどる。

 

「━━戦う(殺す)ためだけに産まれた俺が、なぜ恐れる必要がある。戦い(殺し合い)を続けることこそが、俺の産まれた理由だ」

 

少年は一口でその何かを口に放り込み、吐き出さないように自分の手で口を押さえる。

 

━━━ゴクリ………!

 

少年が何かを呑み込んだ瞬間、アガリアレプトは邪悪に笑みながら彼を拘束した。

 

「━━では、ごゆっくり……」

 

「がっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

全身を駆け巡る激痛に身体を痙攣させながら、気絶と覚醒を繰り返す。

彼の絶叫を聞きながら、アガリアレプトはその部屋を後にした。重々しい扉が閉まると共に少年の叫びが聞こえなくなる。

 

「さあ、始めましょう。ルシファー様を騙るグレモリーなぞ、ルシファー様を拒絶したこの世界なぞ、残す価値もない。一度、終わるべきだ」

 

主を失い、主を拒絶され、孤独のうちに静かに狂っていった男の『復讐劇』。

この戦いの真実は、ただそれだけである。

 

 

 

 

 

 




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