リゼヴィムたちを逃してしまった俺━━ロイやリアスたち『D×D』のメンバーは、俺がマーキングをしておいた転移魔方陣を使い、コキュートスからの脱出を済ませていた。
「ロイ!」
「おっす、リリス。ただいま」
到着早々に飛び付いてきたリリスを抱き止め、優しく頭を撫でてやる。くすぐったそうでいて嬉しそうな表情になるリリスを横目に、ここを任せていたソーナたちに訊く。
「おまえらにも面倒かけたな。この子は割りと自由だから、大丈夫だったか?」
「大丈夫です。……ロイ様?」
少し困り気味の表情になるソーナ。そう言えば、まだ俺のことを話していなかったな。
俺は苦笑しながら頷く。
「ああ。記憶は戻っているから大丈夫だ。その、面倒かけたな、本当……」
学園からいきなりいなくなったということで、リアスやソーナには色々と迷惑をかけたことだろう。今はどういう扱いなのかがまったくわからないが。
リリスの頭を撫で続けていると、ヴァーリが言う。
「リゼヴィムがどこに逃げたか、見つけなくてはな。奴が言っていた『奥の手』というのも気になる」
「それに関しては、アジュカ様か兄さんにでも訊いてみろ。コキュートスの囚人には追跡用の魔術烙印が刻まれているはずだから、それを追えるはずだ」
俺がそう言うと、ヴァーリは頷く。
「そう言えば、そんな話を聞いたことがあったな。刻んだ部位を落とされないように心臓に刻むのだったか」
「そうだ。よく知ってるな」
「仮にも『元テロリスト』だからな。多少は調べていたさ」
ヴァーリが苦笑混じりに返してきた。下手すれば自分がぶちこまれる場所だったからか、無駄に警戒していたのだろう。
俺は小さくため息を吐き、リアスたちに向き直る。
「そんなわけで、何かわかったら連絡くれ。俺も俺なりに追いかけてみる」
そう言いながら、俺は直通回線の連絡用魔方陣をリアス、ソーナ、ヴァーリ、ロセ、黒歌に飛ばす。
それを受け取りながら、リアスが訊いてくる。
「お兄様、どうやって追いかけるのですか?今のところ情報は何もありませんが……」
リアスのごもっともな指摘に俺は不敵な笑みで返し、背中から深紅の鱗に包まれたドラゴンの翼を展開。俺の突然の行動に驚くリアスたちに見せつける。
「今の俺はドラゴンでな、異常に鼻が効くんだよ。奴等やロセを見つけられたのはそのおかげだ」
自分の鼻を小突きながらそう言い、リアスたちに出来るだけ優しい声音で言い聞かせる。
「そんなわけで、俺は行くぞ。死神どもはもうしばらく俺が引き受けるから、安心しろ」
そう言い残し、俺は飛び立とうとするが、それを止める人物がいた。
「ま、待ってください!」
ロセだ。少し慌てた様子で、俺のほうに手を伸ばしてきていた。
「今度は、ちゃんと帰ってきてくれますよね……?」
悲哀の表情を浮かべているロセの言葉に、俺は軽く頬をかき、瞬時にロセの目の前に移動する。
「大丈夫だ。這ってでも帰ってくる」
ロセの頬を優しく撫でながら、安心させるように優しく笑みながらそう言いきる。そして、彼女に軽く触れ合う程度の口付けをした。
すぐに顔を離したので、ほんの一瞬触れ合っただけだが、ロセはかなりの衝撃を受けた様子で俺を見つめてきた。
「……ッ!」
「何がなんでも、な。必ず戻る」
ロセにそう告げて今度こそ飛び立とうとするが、再びそれに待ったをかけられる。今度は言葉だけではなく、体全体でた。背中から誰かにぶつかられた。
「そいつばっかりずるいにゃ!私とも約束してよ!」
黒歌だ。俺の首に腕を回し、必死にしがみついてくる。ちょっと息苦しいが、振り払うほどでもない。背中に当たる柔らかい感覚が気になるが、気にしない。
俺は黒歌に目を向け、少しお茶らけたように笑う。
「はいはい。ちゃんと帰ってくるって」
「絶対よ。今度約束破ったら許さないからね」
「ああ」
そう返して黒歌とも軽く口付けをする。こっちは強引に舌をねじ込もうとしてきたが、無理やり顔を背けて逃れる。
黒歌は不機嫌そうに頬を膨らませるが、諦めたように息を吐いて小声で言ってくる。
「(あんたとの子供、まだ諦めてないからね)」
「(そうかよ)」
そのやり取りを最後に黒歌に離れてもらい、改めてリアスたちに訊く。
「━━で、他に言っておきたいことはあるか?今なら聞くが」
俺の問いかけに、リアスは首を横に振った。
「いいえ。私たちが言いたいことはロスヴァイセと黒歌が言いましたから」
リアスに続いてイッセーたちが頷く。なら、もう行っても大丈夫だろう。いい加減出発しないと、リリスが愚図り始めそうだ。
「そんじゃ、おまえらも死ぬなよ。帰る場所がなくなる以上に切ないことはねぇからな」
『はい』
リアスたちの返事に俺は笑みながら頷いて返し、今度こそ飛び立った。ある程度の高度に達したら一気に加速。とりあえず、今日の拠点に出来そうな場所を探す。
「リリス、キツくないか?」
「だいじょうぶ!」
俺の心配をよそに笑顔で返事をすると、ギュッと俺の服を掴む力を強くするリリス。
リゼヴィムの『奥の手』も気になるところだが、俺としてはあの少年も気になる。ちぐはぐだったとはいえ、初めてあいつの声を聞いたわけだが、あの変態野郎もそれに驚いていたように見える。
奴がアロンダイトに滅びの魔力を纏わせていた以上、バアル家の血が流れているのは確実。そして、あの染めただけでは出せないような、鮮やかな紅の髪はグレモリーの血が流れていなければありえないだろう。
父さんにも母さんにも隠し子がいたなんて話も、俺たち三人以外に兄弟がいたなんて話も聞いたことがない。
それに、俺にしか振れないはずのアロンダイトをある程度だが使いこなしていた。まだまだだが、あの様子だと次に会うときは更に成長していることだろう。
「はぁ……」
「……?どうしたの?」
小さくため息を漏らしたら、リリスが心配そうに顔を見上げてきた。
俺は安心させるように笑み、リリスの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるけどな」
「きょうは、はやくねよ」
「そうだな」
ある程度飛んだところで、手近な森に降り立つ。近くに大きめの湖があり、あそこで魚を捕れば今夜は大丈夫だろう。
「さて、寝床を探すか。最悪ここら辺でキャンプだな」
「はーい」
リリスの返事を聞いて、彼女を抱っこしたまま歩き始める。とりあえず、細かいことはリアスたちに任せることにしよう。今はしっかり休める場所を探さなければ。
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あっという間に小さくなっていたロイ
先ほどロイさんにキスをされたロスヴァイセさんは頭から煙を吹き出し、黒歌は上機嫌そうにしていた。
そんな二人を見て、リアスは一度咳払いをした。
「とりあえず、一度戻ってアザゼルやアジュカ様、サーゼクスお兄様にも連絡をいれないとならないわ」
「アザゼルには俺から連絡を入れよう。鳶雄もすぐに動き始めるだろう」
ヴァーリの提案にリアスは頷き、俺たちに目を向けた。
「サーゼクスお兄様のほうには私が連絡を入れるわ。だから、皆は先に戻っていて。朱乃、一緒に来て」
「はい。わかりましたわ」
リアスと朱乃さんが頷きあう横で、ソーナ前会長が少し困ったように息を吐いた。
「ソーナ、どうしたの?」
それに気づいたリアスが訊くと、ソーナ前会長は右手で頭を押さえながらため息混じりに言う。
「……また姉様が大変なことをしなければいいのですが……」
『………』
その言葉に、思わず返す言葉を失う俺たち。ロイさんの行動とその意味を知ったレヴィアタン様が、冥府に攻め込まないかどうかを心配しているのだろう。
ロイさんが知るよしもないことだが、授業参観の時に初めてお会いしたときは、その事を教えてくれなくった八つ当たりにま天界に攻め込むことを考えたそうだ。
つまり、そのソーナ前会長と同じかそれ以上に大切に想っているであろう恋人が、しょっちゅう冥界にちょっかいをかけてくる神様に追いかけ回されていると知ったらどうなるか、わかったもんじゃない。
……これ、無理にでもロイさんを止めたほうが良かったのではないのだろうか。俺たちじゃレヴィアタン様を止められる気がしないんだけど。
「……だ、大丈夫ですよ、きっと。セラフォルー様もそこまでしないですよ。……たぶん」
ロスヴァイセさんが不安げにそう言った。いや、本当に何をするかわかったもんじゃない。今からでも追いかけるか?いや、あのスピードに追い付くのは流石に無理があるし、てかどこに行ったのかわからないし……。
全員が思わずため息を吐き出すなか、黒歌が苦笑する。
「……まあ、何かあったら連絡すればいいでしょ。そのための連絡用魔方陣なんだからさ」
「それもそうね。……不安しかないけれど」
リアスが諦めたように言うと、俺たちも解散することになった。
リアスと朱乃さんは報告のために冥界に戻り、ヴァーリチームはアザゼル先生のいるグリゴリの施設へ。ソーナ前会長たちは事後処理をしてくれるそうだ。
色々と不安を残しながら、俺たちは帰宅の準備を始めたのだった。
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「ひっくしゅっ!あいつら、何を噂してやがるんだ?」
キャンプを張り終え、食料調達のために湖に釣糸を垂らしながら、俺はそんなことをぼやいていた。岩に腰かける俺の膝の上にはリリスが座り、俺の体を背もたれにしてうとうとしていた。
イッセーの復活でドライグが消耗したように、この子もかなり消耗しているようだが、なぜここまで疲れているのか。
イッセーの場合はサマエルの呪いの影響とか色々とあったんだろうが、俺の場合は文字通り死にかけただけだ。なのに、龍神の半身のはずのリリスが下手をすればドライグ以上に消耗している。俺の体に何かあるのか……?
俺が思慮を深めていると、魚がヒットしたのか浮きが沈んでいった。それを確認して、座ったまま腕力だけで一本釣りをする。
釣れたのは、俺の両腕で抱えられるほどの大物だった。腹の中に卵でも詰まっているのか、パンパンに膨れ上がっている。こいつは当たりだな。
それに気づいたのかリリスが目を覚まし、釣り上げた魚に手を伸ばしていた。
「さて、飯も確保出来たし、戻るか」
「うん……」
「眠いか?」
「……ん」
目を擦りながら頷くリリス。
俺は苦笑しながら魚のエラに手を突っ込んで持ち上げ、空いている手でリリスを抱き上げる。
リゼヴィム探しは明日からだな。それまで待てば、誰かから連絡が来るかもしれない。
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冥界の辺境。そびえ立つ8000メートル級の山々と、そこに住む魔物たちに守られるように、その近代的な施設は存在していた。
施設自体は山の中に作られ、両開きの入口も巧妙に隠されている。場所を知らない者が来ればまず気づかないだろう。そんな入口の前に、三つの影が立っていた。
「うんうん、ここは見つかってなかったみたいだねぇ」
「こんなところに施設があったとは……」
「……」
リゼヴィムと例の男、そして紅髪の少年だ。三人は迷うことなくその入口を潜り抜け、中に進んでいく。
「あの狼ども、元は悪魔だろ?はぐれだったり、旧魔王派の連中でしょ」
「おっしゃる通りです。そして、あのデータを解析することで『あれ』を回収し、すぐに数を用意することが出来ました」
長く続く廊下を進みながら、少年を除いた二人が話し続ける。
「あのデータを解読するとは、天才と狂人は紙一重ってことなのかね。他の連中は解けてないんだろ?」
「
「わーお。なんかバカにされた気分……」
「いえ、断じてそう言ったわけでは!」
二人がそんなやり取りをしていると、三人の前に新たな扉が現れる。非常に大きく、分厚い両開きの扉だ。
リゼヴィムはその扉に手を当て、魔方陣を展開する。高速で魔方陣が動きだし、それに合わせて少しずつ扉が開いていく。
同時に、男と少年は身構えた。扉が開くと同時に強烈な瘴気が漏れ出てきたのだ。
扉が完全に開き、その部屋に入った途端、男の表情が驚愕に染まった。
「リゼヴィム様!こ、これはまさか……!?」
「ああ。やったことはおまえと同じだよ」
リゼヴィムは少年に目を向けながらそう言うと、視線を正面に戻す。
三人の視線の先には巨大な
その巨大な培養槽から壁に
「トライヘキサが死んじまったから、異世界にはいけないだろうけど。まあ、この世界の連中相手に喧嘩売るぐらいならいけるかな」
邪悪を孕んだ不敵な笑みを浮かべ、リゼヴィムは巨大な培養槽を撫でる。
生き物とは、子をなすものである。神であれ、悪魔であれ、その事実が変わることはない。ならば、伝説の獣が子を成していたとしても、何ら不思議ではないだろう。
それが
自らを作り出したリゼヴィムの狂喜に答えるように、獣は薄く目を開く。動物は初めて目にしたモノを親と思い込むものが多い。リゼヴィムはそれを狙い、作り出しても意識を覚醒させることはせず、今まで休眠させていたのだろう。
「さあ、始めようぜ。これが正真正銘の、ラストバトルだ……」
目標を失った
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