グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission04 進化した怪物

コキュートスを進む俺━━ロイとガブリエルの視線の先で、複数の影が揺れた。その方向から嫌な気配を感じるから、おそらく敵が放った怪物どもだろう。

 

「前から来るぞ。数は━━五十ってところか」

 

「わかりました。蹴散らします!」

 

「……おまえじゃ(コア)の場所がわからねぇだろうが」

 

意気込みガブリエルにため息混じりに返す。

俺の言葉を受けたガブリエルは「そ、そうですけど……」と若干不満げに顔を赤くしていた。

 

「しっかり指示してやるから、あんまり無茶するなよ」

 

「わかっています」

 

手短にやり取りを終えると、前方から迫る影の姿がはっきりし始める。

黒い体毛に覆われた、狼か何かか?珍しく全てが狼型だ。極寒の気候であるコキュートスに合わせて、あいつらを作り出したのだろう。

逆に言うと、あいつらは計画的に、しっかりと準備を整えてここを襲撃したってことだ。あいつら、いったいいつから準備をしていた……?あの怪物を作り出すのも、リゼヴィムが捕まってから今までのそんな短期間では無理だろうに……。

俺が考えながら表情を険しくさせていると、前方から迫ってきていた群れが突然散り散りになり、俺とガブリエルをぐるりと囲み始める。

奴らの行動に、俺は眉を寄せた。大概は戦闘中にいつの間にか囲まれていたり、俺が群れのど真ん中に降り立ったりなんてことが多かった。だが、今回は向こうから囲んできた。

俺は両手に直剣を、ガブリエルは右手に光の槍を生成し、背中合わせに構え、狼型を睨む。同時に仙術で高めた関知能力で(コア)の位置を探る。

 

「個体毎に(コア)の場所が違うと思ったが、同じだな。どいつもこいつも急所は眉間だ」

 

「それさえわかれば、どうにかなります」

 

俺たちが警戒するなか、怪物たちは唸りながらこちらを睨むだけで何も仕掛けてこない。いつもなら我先にと突っ込んでくるのだが、やはり何か変だ。

 

「何かおかしい。気を付けろよ」

 

「……?わかりました」

 

あまりこいつらとの戦闘経験がないガブリエルは、一瞬だけ疑問符を浮かべたが、すぐに表情を引き締める。

 

オオオオオオオオオォォォォォォン………!

 

それとほぼ同時に、遠吠えが響く。かなり遠い位置からのようだが、一体何が━━。

 

『オオオオオオオオオォォォォォォンッ!』

 

それに答えるように、俺たちを囲む狼型が一斉に吠えた!まさか、今のはこいつらのリーダーの遠吠えで、遠距離から指示を出したってことなのか……!

 

「来るぞ!」

 

「はい!」

 

俺とガブリエルが構え直した瞬間、一斉に狼型が俺たちに飛びかかってかる!

持ち前の鋭い牙と爪で俺たちを噛み砕く、もしくは切り裂こうとしてくるが、どれも動きは単純。回避は容易であり、一匹ずつ確実に仕留めていく。

だが、真に警戒するべきは、こいつらが稚拙ながら連携をしてくることだ。仕留めた矢先に別の個体が噛みつこうとしてきたり、回避した先で待ち構えていたりと、下手をすれば一撃もらいかねない。

こいつら、本格的な連携を覚えやがったのか……!

俺は小さく舌打ちをしながら右手の直剣で狼型一体の眉間を貫き、その隙に飛びかかってきた奴の眉間も左手の直剣で貫く。そこに背後から向かってきた奴は━━、

 

「やらせません!」

 

ガブリエルが放った槍に腹を貫かれ、数メートル吹き飛ばされた。まあ、(コア)が潰れていないからすぐに立ち上がるのだろう。

ガブリエルはそのままその腹を貫いた個体にとどめを刺そうと槍を放つが、一体が盾になるように飛び出し、そいつも腹を貫かれた。

怪我した個体を守ったのか。加えて、自分も死なないように急所を外させた。こう、いきなりいい動きをするようになると、はっきり言ってやりにくいな……。

と、思いつつも再び狼型を一体仕留め、その流れでガブリエルのほうにも目を向ける。

彼女も大丈夫そうだ。先ほどのことを反省してか、一体一体を至近距離で確実に仕留めていた。

見た感じだと、残りは半分。このペースでいければ、まだ追い付けるか……。

俺がそんな事を考え始めた矢先━━。

 

オオオオオオオオオォォォォォォン………!

 

遠吠えが響いた。同時に、俺たちの足元の地面にヒビが入る。

 

「「っ!」」

 

俺たちは即座に翼を展開、そのまま飛び上がる。ある程度の高さまで飛び上がった瞬間、地面が割れて大量の狼型が飛び出してくる。

見た限りでも、数は百近い。どうやってこの数を用意したのかはわからないが、先ほどの五十は斥候だったようだ。

俺たちは飛びながら言葉を交わす。

 

「また来やがったか。面倒だな……」

 

「今まだの戦闘で、彼らがここまで連携したことはありましたか?」

 

「いつもは力任せに突っ込んできて、あのローブ野郎が何かすれば簡単な連携を━━な。だが、ここまでのものは一度も……」

 

唸りながらこちらを見上げてくる狼どもを睨み返しながら、ガブリエルに訊く。

 

「まだ伏兵がいるかもしれねぇ。もっと効率よく、消耗しねぇように片付けられるか?」

 

「わかりました。やってみます」

 

ガブリエルが頷いたことを確認し、俺は左手の直剣を消す。少しでも魔力を温存しておかねぇと、何があるかわからん。こいつらを相手するなら、一本でも十分だろう。

ガブリエルも光の槍を右手だけに生成し、ゆっくりと息を吐く。動き回っているとはいえ、流石に見逃せないほど冷えてきた。動き続けなければ、下手すれば凍りつくだろう。

 

「行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

俺たちは同時に急降下。地面に着地したと同時に狼型が殺到してくるが、ガブリエルと連携して片っ端から討伐していく。

一体倒したら二体飛び出し、二体倒せば四体、四体倒せば八体と、はっきり言ってきりがない。だが、無視すれば確実に追いかけてくるだろう。そうなると、リゼヴィムの解放阻止どころではなくなる。ここで殺しきるしかない。

だが、狼型は次々と地面に空いた大穴から飛び出してくる。終わりはあるのだろうが、いつ終わるのかがわからない。そう思うだけでも、地味に焦る。

それでも二人がかりで狼型を倒していく。辺り一面が黒いヘドロまみれになり、俺たちも返り血で服や髪、肌が黒く染まっていく。

そのせいなのか、先ほどからやたらと冷える。返り血が冷気で凍り、体温と共に体力を一気に奪いさっていくのだ。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

ガブリエルが相当疲弊した様子で、白い息を吐いていた。俺も結構ギリギリだな。仙術で体温を上げられても、それ以上に冷えやがる。俺でこれなら、ガブリエルは相当だろう。これ以上の無理はさせられねぇ。

俺は狼型を一体撃破し、ガブリエルに叫ぶ。

 

「ガブリエル、おまえを逃がす!これ以上は無理だ!」

 

「…だ、大丈夫です……!まだ、まだ……!」

 

狼型を貫きながら、ガブリエルは強気でそう返してくる。その表情に余裕はない。限界は、とっくに越えているのだろう。

ガブリエルと背中合わせになるように位置取り、そのまま訊く。

 

「なんでそんなに必死なんだよ!?おまえに死なれると、なんで命懸けたのかわからなくなるだろうが!」

 

「あなたに死んでほしくないからです!もう、あんな思いは━━」

 

「っ……!」

 

ガブリエルの言葉と、ちらりと見えた泣き出しそうな表情で、俺は何も言えなくなる。

それを言われてしまうと、返す言葉に困る。だが、ここは無理にでも退いてもらわねぇと……。

俺が言葉を発しようとした矢先、こちらに急速で接近してくる気配に気づく。俺たちの進行方向から、まっすぐ向かってくるということは、敵なのは間違いない。

その気配のするほうに目を向けた瞬間、狼型の群れが四方に散っていく。そして━━、

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!』

 

「「っ!」」

 

力強い咆哮と共に、体長二十メートル近い巨大な狼が現れた。その身にコキュートスの冷気を纏っているのか、それとも凍った氷が体温で溶けているのか、白い(もや)のようなものが身体から放たれていた。

 

「ここに来てボス登場かよ……!」

 

無意識に苦笑してしまう。消耗したガブリエルにとどめを刺しに来たのだろう。眼中にないように俺とは一切目を合わさず、ガブリエルを血のように赤い瞳で睨んでいた。

 

(コア)は腹の中。いや、普通に心臓がある位置か。また狙いづらい場所だな……」

 

「私が狙いなら、囮になります……!」

 

そんな事を口走るガブリエル。やる気はあるようだが、やらせるつもりはない。

俺は首を横に振り、巨大な狼型を睨み付ける。

 

「それはさせられねぇ。危険すぎだ」

 

「ですが……!」

 

引いてくれないガブリエルだが、そんな事をしているうちに狼型のボスが飛び出してくる!

 

「チッ!」

 

舌打ちをしながらガブリエルを抱き上げ、その場を飛び退く。一瞬後に彼女がいた場所に高速で爪が振り下ろされ、地面が抉りとられた。

俺はともかく、ガブリエルへの直撃はアウト。一撃で身体がバラバラにされるだろう。だが、回避できるほどの余力があるかどうか……。

てか、くっついているお陰なのか、少し温かい。まあ、お互いの身体が冷えきっているから、余り意味はないがな。

 

「さて、どうするか。俺はギリギリ止められるが、おまえじゃ無理だろ?」

 

「そ、そうですが、やはり囮は私が……」

 

まだ言うガブリエルだが、なんか宙を見つめてボーっとしているように見える。

俺が彼女を心配している側から狼型が俺たちを包囲し、ボスが再び狙いを定める。

さて、退路は上しかないが、あの大きさだとかなり飛ばないと駄目だろう。ガブリエルを抱えていることに加え、身体が冷えきっている今だと、避けきれるかわからねぇな。

足を踏ん張り、思い切り飛ぶ準備を整えた瞬間だ。どこからか紅のオーラの塊が飛来して群れの一部を吹き飛ばした。

群れに開いた大穴に二つの影が飛び込み、狼型を次々と切り裂いていく。

驚く俺とガブリエルを他所に、俺たちの横に見知った人物たちが現れた。

 

「ロイさん!ガブリエル様も、大丈夫ですか!?」

 

防寒着をしっかりと着こんだロセが、我先にと俺たちに詰め寄ってきた。見てみると、リアスやイッセー、デュリオ、ヴァーリなどのメンバーが狼型を蹴散らし始めたいた。

 

「俺はなんとかだが、ガブリエルが限界だ。……レイヴェルは、いないよな。何でもいいから何か火を、火をくれ……」

 

「は、はい!」

 

ロセは手元に魔方陣を展開すると、そこから火を起こしてくれた。

とりあえず、どうにかして身体を温めねぇと、まじで死ぬ。戻ってきて一ヶ月ぐらいでまた死ぬとか勘弁だぞ……。

 

「ガブリエル。ガブリエル!大丈夫か、おい!」

 

「……だ、だいじょうぶです……!ちょっと意識が遠く……」

 

「っ!戻ってこい!ようやく暖がとれるんだぞ、しっかりしろ!」

 

「あぁ、温かいですぅ━━」

 

俺に抱えられたまま火に当たり、表情を緩ませるガブリエル。何か、戦場のど真ん中でする会話じゃねぇな。

俺はホッと息を吐き、狼型の群れのほうに目を向ける。黒歌や小猫、美猴の指示で、リアスたちは的確に(コア)を潰していっていた。

だが、そのボスである巨大な個体は━━、

 

『オオオオオオン!』

 

「チッ!」

 

ヴァーリと一対一でいい勝負していた。だが、割りとヴァーリが押しているか……?

身体を温めながら、ガブリエルの身体に気を送ってやり、さらに体温を上げられるようにする。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!』

 

俺とガブリエルの身体がだいぶ温まってきたころ、突然狼型のボスが吠えた。同時にどこかへ向けて駆け出し、半数以下にまで減った取り巻きもそれに追従して去っていった。

死ぬまで戦うことなく、転移で回収されるわけでもなく、撤退するとはな。何かしらの方法で奴らを進化させたのか?また面倒だな……。

温まりながらそんな事を考えていると、

 

「……まあ、そうなるよな」

 

今度はリアスたちに包囲された。逃げるつもりはないが、こいつら、嫌に殺気立っているんだよな……。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━兵藤一誠と仲間たちで、あのデカイ狼とその取り巻きを撃退したあと、ガブリエル様を抱きかかえているロイ先生を取り囲んだ。まあ、念のためだけど。

リアスが訊く。

 

「……まさか、あなたが協力者なの?」

 

ロイ先生は頷き、微笑しながら言う。

 

「相変わらず、いい動きするもんだな、おまえら」

 

そう言いながらも、火に当たることは止めず、ガブリエル様を温めながらも自分もしっかりと温めている。

 

「とりあえず、ガブリエルを外に出せねぇか?これ以上は無理だ」

 

「わ、私は━━」

 

「はいはい。無理はしなくていいから、ゆっくり休んどけ。グリゼルダ、頼めるか」

 

「え、ああ、はい」

 

突然名を呼ばれ、若干困惑気味に返事をするグリゼルダさん。

……ロイ先生、記憶喪失って聞いたんだけど、なんでわかったんだ……?

ロイ先生は困惑する俺たちに構うことなく、懐を探りながら続ける。

 

「とりあえず、話は後。リゼヴィムを出すわけにはいかねぇ。先導はするから、リアス、行けるか?」

 

「え?ええ。お兄様……?」

 

「……あ、ああ。その悪かったな。無くなっている間に色々とやっちまって……」

 

ばつが悪そうに頬をかきながら謝るロイ先生。ってことは、このヒト━━。

 

「とりあえず、『ロイ・グレモリー』、『D×D』に合流するってか?」

 

何て言いながらタバコを吸い始めるロイ先生。

どうやら、俺たちが知らない間に、大部分の記憶は戻っていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




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