グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission01 覚悟を決めて

冥界のとある森の中。

俺━━ロイはリリスを連れて、野宿できそうな場所を探していた。セラを眠らせてしまったのは申し訳ないが、あそこを戦場にするわけにもいかない。『あいつら』は場所とか関係なく襲ってくるだろう。

ふと、空を見上げる。先ほどまで冥界特有の紫色の空が覗いていたが、今は雲に覆われてしまっている。一雨来そうだ。

 

「ロイ~?」

 

「ん?ああ、雨降りそうだなってな」

 

俺に手を引かれる形で歩きながら、眠そうに大きく欠伸(あくび)をしたリリスに苦笑しつつ、俺は前方にある大きめの洞穴に視線を向けた。

生物の気配はしないし、周りにも何かいるって訳でもない。ここら辺で休むとするかね。

警戒しながらも、軽く身を屈めて洞穴に入り込む。少し低いが、何かするには問題ないだろう。あとは、結界を張って簡単な陣地にするだけだ。

リリスを近くの岩に座らせると、異空間からキャンプ道具を取り出し、とりあえずの寝床を作る。変なタイミングで飛び出したせいなのか、リリスはまだまだ眠そうなのだ。

手早く寝床を確保したら、そこにリリスを寝かせる。身じろぎして自分にフィットする場所を見つけると、リリスはそのまま寝息を立て始めた。

俺はホッと息を吐き、一旦洞穴を出る。少し水っぽい、雨の時独特な臭いが鼻についた。今すぐにでも降ってきそだが、足を進める。結界は早めに張っておかないと、意味が無くなる。

結界にはいくつか種類があるが、多いのは術者を中心に張るものだ。これはその術者の力量で範囲や強度が左右されやすい。

━━で、俺がこれからするのは各所に陣を描き、それらで陣地を囲む方法だ。多少燃費が悪いが、力量をある程度無視して範囲がバカみたいに広くできるし、強度も確保できる。所謂チェックポイントが大量に設置出来るので、結界乃で何かあったときにわかりやすい。

仙術と並んで、『先生』から教えてもらったものだ。そのうちあのヒトのところにも戻って礼を言わねばならないだろう。そのぐらい世話になっている。

森の木や岩、時には地面に陣を描いていく。途中で雨が降り始めたのでフードを被って凌ぐことにした。ちなみに、俺の服やリリスの外套も『先生』が用意してくれたものだ。見た目も軽さも普通だが、特別な繊維で出来ているらしく、意外と何でも防いでくれる。

陣の設置を終え、洞穴に戻ってくると、リリスは涎を垂らしながら寝ていた。俺が戻ってきたことに気づいていないのか、それとも俺だとわかっているからか、起きることはない。

手頃な岩に腰掛け、最後に足元に陣を描いて魔力を込める。陣は淡い光を放つと共に消えていき、同時に何かに囲まれた感覚が伝わってきた。

 

「ん……?」

 

それを感じてかリリスが身体を起こすが、いつものことと割りきって再び寝転ぶ。三秒も経たないうちにまた寝息を立て始めた。

結界を張り終え、盛大にため息を吐く。兄さんには伝えたが、いかんせん()()()()()()()()()()()()()

具体的に言うと、セラ、ロセ、黒歌、ガブリエルとか、割りと身近なヒトは思い出せた。だが、俺が何と戦って記憶が飛んだのかが思い出せない。

兄さんと二人で戦った記憶はある。だが、霞みがかったようにその相手が思い出せない。まるで()()()()()()()()()()みたいにだ。

まあ、その前後のことも若干朧気だから、その戦い全体のことが曖昧と言うべきか。思い出そうとすると頭に鈍い痛みが走るのもまたそう思わせる一因か。

この際気にしなくてもいいか。それ以外のことは粗方(あらかた)思い出せた筈だし、終わったらセラたちに聞けば済む話だろう。

考えるのも面倒になり、リリスの横に寝転ぶ。この子と旅をしたことはもちろん覚えているし、守らなきゃならないことも承知だ。記憶は戻ったが、今さらこの子を置いてどこかに行くつもりはない。

リリスの頭を軽く撫でてやると、笑いながら俺に抱きついてくる。

飛び出してきてしまっが、問題は山積みだ。まず『クリフォト残党』をどうにかしないといけないし、それに『あいつら』のこともある。

セラたちに「ただいま」って言ってやれるか、微妙なところかもな……。

リリスを起こさないように、小さめのため息を吐く。

面倒だが、やるしかないわけだがな……。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

人間界、兵藤家VIPルーム。

俺━━兵藤一誠の前では、リアスと眷属一同、ソーナ前会長と眷属一同、アザゼル先生が集まり、俺たちと対面する形で展開された連絡用魔方陣には、サイラオーグさんとシーグヴァイラさん、デュリオやグリゼルダさん、ヴァーリの姿がそれぞれ写し出されていた。

アザゼル先生が言う。

 

「それじゃあ、始めるぞ。っと、その前に。ロスヴァイセ、体調はどうだ?」

 

「は、はい。問題なしです。ご心配お掛けしました」

 

ロスヴァイセさんがそう答える。ロイ先生の術で眠り続けていたのだが、先日目を覚ましたのだ。当のロイ先生は検査中なんだとか。

アザゼル先生は一度頷くと、改めて話題に入った。

 

「今回集まってもらったのは、おまえらが相手した怪物とそれを率いていた男についてだ。まあ、まだよく分からない部分が多いんだが、一応伝えておく」

 

怪物というのは、この前戦ったあれのことだろう。(コア)を潰さないと何度でも立ち上がり、こちらに向かってくる気味の悪い連中。

 

「おまえらが倒してヘドロ状になったものを採取したんだが、調べる前に全て蒸発、消滅しちまった。おかげさまで何もわからずじまいだ」

 

心底困ったという様子のアザゼル先生。死んでも死骸が残らないってのは、また不思議というか、明らかに何かしら手が入れられているということだろう。自然的に生まれた何かではないのは確かだ。

 

『私たちの光の攻撃も効果が薄いようです。決定打には、やはり急所を潰さなければ駄目なようです』

 

グリゼルダさんが言った。魔物の退治に慣れているはずの天使の皆さんでも手に余るようだ。

 

「生け捕りに出来た個体などはいないのですか?」

 

ソーナ前会長の問いに、アザゼル先生は首を横に振る。

 

「それは刃狗(スラッシュ・ドッグ)に別行動をさせてやらせたんだが、どうにもその手の術式に耐性があるようだ。試した限り、効果のあったものはない」

 

俺たちが戦っている裏で、鳶雄さんも色々とやってくれていたようだ。対策はし尽くしているって感じか。それだけこっちに情報を与えたくないほど、何かしらヤバイものってことなのだろう。

現状、小猫ちゃんか黒歌、美猴の誰かと一緒じゃないとあいつらを倒せないってことなのだが、それでは倒せる数が限られてしまう。どうにか仙術以外で弱点がわかるようなならないものか……。

俺の考えが伝わったのか、アザゼル先生が言った。

 

「すまないが、対策が出来るまでは仙術の使える三人に無理を強いることになる。いけるか?」

 

「大丈夫です。やるだけやってみます」

 

『任せるにゃん♪』

 

『ま、やるしかねぇし』

 

三人がそれぞれ返していた。黒歌の機嫌がやたらといいのは、ロイ先生と話せたおかげなのだろう。てか、本人がそう言っていたわけだし。

そんな黒歌にロスヴァイセさんが少し不安げに訊く。

 

「黒歌さん、ロイ先生はどうでしたか……?」

 

『相変わらず、誰かを守るために無茶ばっかりしてるにゃ』

 

「やっぱり……」

 

心配そうな顔をしながらため息を吐くロスヴァイセさん。検査中の今はともかく、あのヒトは旅をしながらも戦い続けていたのだろう。

 

死神(グリム・リッパー)に追いかけられているんだろ?おまえも襲われたと聞いたが」

 

『ま、そのおかげであいつの記憶が戻ったんだけどね。さすがに死ぬかと思ったけど……』

 

「冥府の連中は、それほどリリスを欲しているんだろう。正確には龍神の力を、だな」

 

不機嫌そうに言うアザゼル先生。

ふと、思い付いたことを訊いてみる。

 

「その事で何かしら言えないんですか?」

 

「まあ、それも考えたんだが、対外的にはリリスがオーフィスってことなっていることは話したな?」

 

「はい」

 

オーフィスが『禍の団(カオス・ブリゲード)』を率いていたということになっているが、そのオーフィスは俺の家にいるわけだ。今はオーフィスの半身たるリリスが『禍の団(カオス・ブリゲード)』を率いていたってことになっている。

俺の返事にアザゼル先生は頷き、言葉を続ける。

 

「で、そのテロリストの親玉と対テロチームのメンバーが接触、行動を共にってのは対外的にまずい。下手に言い寄ったら、それこそ向こうの思う壺だろうよ」

 

見るからに不満気な様子のアザゼル先生だが、一度咳払いをして続ける。

 

「とりあえず、そのロイとリリスは今のところ監視下にあるから、大丈夫だろうよ」

 

アザゼル先生はそう言うと、先ほどから難しそうな顔をしているサイラオーグさんに目を向けた。

 

「で、サイラオーグからも何かあるんだろ?」

 

『はい。少々気になることがひとつ』

 

サイラオーグさんはそう言うと、表情をそのままに続ける。

 

『あの男が「特異個体」と呼んだドラゴンを模した怪物。奴は「滅びの魔力」を使っていた……』

 

『ッ!』

 

サイラオーグさんの発言に、一様に表情を強張らせる俺たち。

アザゼル先生が顎に手をやりながら言う。

 

「奴らの実験で『滅びの魔力』をどうやってか再現したのか、それともそれを有する人物が実験であんな姿にされてしまったのか、後者の可能性のほうが高いが、そんなところだろう」

 

「その個体と戦闘するときは、出来るだけ攻撃をもらわないようにしなければならないわね」

 

リアスがそう言うが、その表情は硬い。

バアル家の血を継ぐヒトでないと、滅びは扱えない。リアスの遠い親戚の誰かが利用されていると思うと、その心中は複雑なんだろう。

アザゼル先生はため息を漏らし、続きを口にする。

 

「そして、そいつを作り出した男ってのがまだまだ謎だらけだ。奴の発言を鵜呑みにするとすれば、初代ルシファーに遣えた六家の生き残りだろうな」

 

「何ですか、その六家って……?」

 

俺の問いに、リアスが答えてくれた。

 

「初代ルシファーに遣えているのは、グレイフィアお義姉(ねえ)様のルキフグス家だけではないのよ」

 

「ルキフグス、アガリアレプト、サタナキア、フルーレティ、サルガタナス、ネビロス。それが初代ルシファー様に遣えた六家です。存続している家もありますが、断絶状態や、行方不明の家もあります」

 

リアスに続いてソーナ前会長がそう言った。簡単に考えれば、その行方不明の誰かが今回の事件の裏にいるということだろう。

俺が難しい顔をしていると、アザゼル先生の耳元に連絡用の魔方陣が展開された。

 

「ああ、どうした。ん?はあ!?ちょっと待て、どういうことだ!?」

 

座っていた椅子をひっくり返す勢いで立ち上がると、アザゼル先生は頭をかきむしりながら怒鳴る。

 

「あのな、なに考えてやがる!ああ?あいつから言い出したぁ?なにふざけたこと言ってんだよ!予定が狂いまくりじゃねぇか!」

 

ついていけない俺たちが間の抜けた顔になるなか、アザゼル先生は盛大にため息を吐くと椅子を元に戻して、どかりと座った。

 

「で、連絡手段とかはあるんだろうな?ならいい。起こっちまったものは仕方ない」

 

「……どうしたの?」

 

困惑するようにリアスが訊くと、アザゼル先生はうんざりしたように言う。

 

「ロイがいなくなったそうだ。当然のようにリリスを連れてな。まったく、あの野郎……」

 

アザゼル先生の発言に真っ先に反応したのはロスヴァイセさんと黒歌だった。

 

「それはどういうことですか!?監視下にあるから大丈夫とかなんとか言っていませんでしたか!?」

 

『そうにゃ!せっかくこっちに戻れたのにいなくなるって、どういうことにゃ!?』

 

アザゼル先生は盛大にため息を吐き、頭を抱えた。

 

「言葉の通りだ。検査が終わったらいきなり飛び出して行ったんだと……」

 

「その説明をお願いします!」

 

『その説明を頼んでいるのにゃ!』

 

ロスヴァイセと黒歌がほぼ同時に詰め寄る。アザゼル先生は困り顔で答えに困っていた。

 

「情報がまとまってないんだよ。わかりしだい伝えるから待ってくれ……」

 

一気に疲労した様子になるアザゼル先生。心労が溜まっているのだろう。

俺が若干同情の視線を送っていると、アザゼル先生は立ち上がる。

 

「そんなわけだから、俺は一旦戻る。詳しくはまた今度だ」

 

そう言うと足早に退室するアザゼル先生。俺たちも何とも言えない空気になるが、リアスが一度咳払いをして言った。

 

「とりあえず、解散ね。ロイお兄様のことも気になるけれど、今は例の男と怪物に対処しないとならないわね」

 

俺たちは頷き、とりあえず解散となった。

ロイ先生、どこに行ってしまったんだろう……。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「……またここか」

 

俺━━ロイは一面真っ黒な空間。何度か来たことがある場所に来ていた。

座り込む俺の目の前には俺がいた。違いがあるとすれば、両目が黒く、右目に黒い炎が灯っていることだろうか。

 

「寝るだけで飛ばされるって、そんなに身近な場所じゃなかったよな、ここ」

 

俺が言うと、黒目の俺は苦笑する。

 

『あの時、我らと貴様は溶け合った。今までのように半端にではなく、本当の意味でな。我らも消えるわけにもいかぬし、貴様に死んでもらっては困るのでな』

 

いつになく饒舌(じょうぜつ)な黒目の俺に、俺は困惑しながらも礼を言う。

 

「なんか、ありがとうな。面倒をかけちまったらしい」

 

俺の言葉に、黒目の俺は目付きを鋭くさせながら言う。

 

『贖罪の戦い(たび)、まだ終わらせぬ。いや、元より終わらぬだろうよ』

 

「覚悟の上だ」

 

俺が不敵に笑うと、黒目の俺は若干嬉しそうに笑って見せた。

 

『実に貴様らしい答えだ。ならば、我らは━━』

 

黒目の俺の言葉の途中で意識が微睡み始める。寝ているはずなのに微睡みってのも変な気分だが、目が覚めそうってことなのか?

その疑問の答えはすぐに出るだろうと、俺はそのまま意識を手放したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━イ。ロイ?ロイ!」

 

「んあ?ああ、リリスか。おはよう」

 

「おはよう」

 

夢の中で寝るという変な目覚め方をした俺は、そのまま腕の中にいたリリスの頭を撫でてやる。彼女も気持ち良さそうに目を細めていた。

欠伸を噛み殺し、リリスを抱えたまま洞穴を出る。雨も止んで、森からは水っぽい臭いを感じ取れる。

珍しく追っ手が来なかったからか、結構寝むることが出来た気がした。

洞穴に戻ってリリスを岩に座らせると、俺は一旦伸びをする。

 

「さて、行きますか。どこに行くかは完全に未定だが」

 

「はーい」

 

キャンプ道具を片付けながらそう言う俺と、手を挙げて答えるリリス。

あの『ドラゴン野郎』を追うのが先決か。奴を追えば、とりあえずテロリストどもをどうにか出来るはずだ。

キャンプ道具を片付け終え、洞穴から出ながらリリスに訊く。

 

「準備は出来た?」

 

「だいじょうぶ」

 

俺の背中に飛び付きながら答えるリリス。

俺は笑みを浮かべて翼を展開、そのまま飛び立つ。最後の大仕事(ミッション)だが、さっさと終わらせる。一日でも早く、セラたちの元に帰らないといえねぇからな。

なんて思いつつ、俺とリリスは冥界の空を進んでいく。

始まってしまった戦いはそう簡単には終わらない。だからこそ、力ずくで終わらせる。大切なヒトを守るために俺が出来るのは、それしかねぇ。

自分の不器用さに笑うしかないが、今はそれでいいだろう。交渉なんざ、元より無意味な相手なのだから━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

グレモリー領、とある山の山頂。

ロイの墓があるその場所に、紅髪の青年が訪れていた。

祈りに来たわけでもなさそうな青年は、心底興味なさげに墓を一瞥すると、躊躇いなく拳で粉砕した。

墓を破壊した拳を見つめると、その後ろにあるアロンダイトに右手をかけてそのまま引き抜く。

青年がアロンダイトの刀身を撫でながら魔力を送り込むと、待ちわびていたかのように刀身が深紅の輝きに包み込まれた。

青年はそれを見ても特に表情を変えることなく、魔力供給を止めるとアロンダイト背中に背負い、背中に悪魔の翼を展開、そのまま冥界の空に消えていったのだった━━。

 

 

 

 

 




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