グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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lost07 戦場へ

「今度は黒歌か……」

 

兵藤家のVIPルーム。俺━━兵藤一誠を含めたオカ研メンバーとヴァーリチーム、鳶雄さん、アザゼル先生が集まり一様に表情を険しくさせていた。

アザゼル先生が言う。

 

「ロスヴァイセは無事だ。例の男に術をかけられたようだが、無事に解除できた。が、色々と溜まっていたんだろうな、また眠っちまったそうだ」

 

アザゼル先生に続いて、表情に若干の怒りをにじませたヴァーリが言う。

 

「その例の男だが、一言ではよくわからないとしか言えないな。半減は通ったが、ダメージが通らなかった」

 

鳶雄さんが続く。

 

「一撃、確実に当たりましたが、特に負傷した様子はありませんでした。何かに守られているのか、そもそも当たっていなかったのか……」

 

二人ともその時のことを思い出してか、怪訝そうな表情をしていた。鳶雄さんの強さは俺たちも十分知っているし、ヴァーリの強さだってわかりきっている。

その二人ですらロイを止められず、今度は黒歌が連れていかれた。あいつは何が目的でロスヴァイセさんと黒歌を……。

リアスが鳶雄さんに訊く。

 

「それで、例の男とロイお兄様の戦い方に何か似ているところはありましたか……?」

 

「いいや、ロイ殿と似た点は速度と技量が中心なところ意外はなかったよ。鎌と弓なんて、彼が使ったところを見たことがあるヒトは?」

 

鳶雄さんの問いに全員で首を横に振る。ロイ先生は剣と銃をメインに時々拳で、ごく稀に鞭なんかで戦っていた。弓と鎌なんて、使っていたところは見たことがない。

小猫ちゃんが弱々しい声音で言う。

 

「…姉様、大丈夫でしょうか……」

 

彼女の言葉に、俺たちは思わず黙ってしまう。色々とわだかまりがあったとはいえ、ようやく仲が修復されてきたんだ。そんな中でこれでは、余計に心配しているんだろう。

レイヴェルが小猫ちゃんの肩に手を置きながら言う。

 

「きっと大丈夫ですわ。何て言ったって小猫さんのお姉様ですもの」

 

「そ、そうだよ小猫ちゃん!きっと大丈夫だよ!」

 

レイヴェルに続いてギャー助も小猫ちゃんを励ます。同級生として、二人は俺たち以上に小猫ちゃんのことを気にかけてくれているのだろう。

 

「うん。ありがとう、二人とも」

 

少し余裕が出来たのか、表情が気持ち明るくなる小猫ちゃん。当の二人は照れ臭そうに顔を赤くしていた。

俺も何か言ってあげようとすると、アザゼル先生の耳元に連絡用の魔方陣が展開される。情報を伝えられたアザゼル先生の表情は一気に険しくなっていった。

 

「おまえら、どうやら仕事のようだ。テロリストどもが暴れている」

 

「わかったわ、場所はどこなの?」

 

立ち上がりながら訊くリアスに、アザゼル先生は表情を強張らせながら答える。

 

「━━タンニーンの領地だ」

 

テロリストの牙は、俺たちの仲間の喉元近くまで迫っていたようだ。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「………」

 

「どうかしたにゃ?」

 

冥界の森の中。突然立ち止まって明々後日の方向に視線を向けたロイに、寝ているリリスを抱っこする黒歌が訊いた。

 

「あいつら、暴れ始めたか……」

 

「あいつらって、どいつら?」

 

黒歌の問いかけを無視して、ロイはリリスごと黒歌をお姫様抱っこし、深紅の鱗に覆われたドラゴンの翼を展開する。

 

「俺たちを追いかけてくる連中だが、俺たちが追っている連中でもある」

 

「また死神かにゃ?」

 

「いや━━」

 

手短に答えたロイは飛び上がり、視線の向けた方向に身体を向ける。

 

「━━ただの獣だよ」

 

ロイはそう言うと、抱える二人に出来るだけ負担のかからないようにゆっくりとだが、一気に加速していく。

記憶の欠けたロイと、いきなり抱き上げられた黒歌、寝ているリリスと、この三人には知るよしもないが、目指す場所はタンニーンの領土の一角。

奇しくも、『D×D』と目指す場所は同じなのだった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

冥界悪魔領、タンニーンの領土。

元龍王タンニーンが統治し、多くのドラゴンが住むその場所は、未曾有のパニックとなっていた。

突如として現れた数十体の化け物と、それらに指示を飛ばすローブ姿の不審者たち。強力な結界とドラゴンたちによって守られているはずのこの場所は、地獄なような戦場に成り果てていた。

 

『貴様ら、目的はなんだ!』

 

怒鳴りながら化け物に火炎を吐き出し、化け物を焼き払うタンニーン。だが、魔王クラスと呼ばれる彼の攻撃を受けても、化け物は怯むだけで進軍は止まらない。

化け物の見た目は様々だ。ヒト型であったり、四足歩行の獣のような何かであったり、タコや昆虫のように複数本の足があるものもおり、ひとつとして同じ見た目のものはいない。共通点があるとすれば、身体を覆うように黒い毛が生えていることと、所々に血のように赤い鱗があることか。

タンニーンの前にローブ姿の男が現れ、不敵に笑む。

 

「いえ、少々データの採取にご協力をしていただこうと思いまして。元龍王とその配下、これ以上の相手はそうはいないでしょう?」

 

男はそう言うと、暴れまわる化け物たちに目を向ける。全くと言っていいほど統制はとれていないが、個々が非常に強い。ドラゴンたちの攻撃を受けても怯む様子がなく、次々と葬っていく。

 

「他の都市も考えましたが、一方的な虐殺ではいいデータが取れないことと、結界を抜けるのが面倒なので辞めました。まあ、多少は抵抗してもらわないね」

 

化け物とドラゴンたちの戦いを見ながら不気味に笑う男。タンニーンは彼を睨みながら歯を食い縛る。

 

『外道が……!』

 

「テロリストに外道もないもないでしょう?早めに終わらせなければ『彼』が来てしまうので、ペースを上げさせてもらいますよ」

 

そう言い切ると、男は手元に大量の魔方陣を展開し、それらを化け物たちに向け始める。

彼が何かしようとしていることを察したタンニーンは、その男に火炎を吐き出そうとするが、横合いから飛んで来た何かに殴り飛ばされる!

十メートルを越える巨体を一撃で殴り飛ばしたのは、他の化け物と違い、どこか冷静な雰囲気を放つモノだった。姿はドラゴンを思わせるもので、人間の大人とたいして変わらない体躯は、全身を血のように赤い鱗に覆われている。

 

「では、任せますよ」

 

男の言葉にドラゴン型は頷くと、自分で殴り飛ばしたタンニーンを睨む。タンニーンは殴られた頬を擦り、明確な怒りを向ける。

 

『我らの姿を模すとは、侮辱しているのか!』

 

「模したと言われても、その姿はまったくの偶然なのですがね……」

 

男はため息混じりに言うと、魔方陣の輝きが強くなっていった。その輝きを受けた化け物たちはピタリと止まり、動かなくなるが、全体の三割ほどは効いていないかのように暴れ続ける。

男はその結果を受けて眉を寄せるとあごに手をやって考えるが、すぐに笑みを浮かべて再び魔方陣を動かす。

動きを止めた化け物たちが再び動き始めるが、先ほどとは全く違う、統制の取れた軍隊のように攻撃を始める。止まらなかった三割を支援するように、残りの七割が動き始めたのだ。

 

「計算通りと言ったところですか。まあ、失敗は仕方のないことですね。『失敗は成功の母』とよく言いますし」

 

『チッ!小癪な!』

 

彼の近くでは、ドラゴン型とタンニーンが周りを巻き込みながら、正確にはドラゴン型がわざと巻き込むように立ち回って戦闘を繰り広げていた。おかげでタンニーンは本気を出せず、もはや一方的な戦いとなってしまっている。

 

『ぐぅ!』

 

ドラゴン型の猛攻の前に、タンニーンは地面に叩きつけられ、呻き声をあげた。ドラゴン型の強さはタンニーンと同じかそれ以上、最上級悪魔か、下手をすれば魔王クラスの可能性もある。

タンニーンは息を荒くしながら立ち上がろうとするが、ドラゴン型が脳天に踵落としを決めて地面に這いつくばらせる。

 

「さて、この調子なら壊滅は━━おや、来ましたか」

 

ドラゴン型と周辺の戦況を確認していた男は、ある方向に目を向けながら笑んだ。

視線を向けた先には、獅子を模した全身鎧(プレート・アーマー)を纏った男が次々と化け物を殴り飛ばしているのだ。

 

「『D×D』のメンバーにして大王家次期当主、サイラオーグ・バアル。ふふ、これはいいデータが取れそうです」

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

獅子の鎧を身に纏う男性━━サイラオーグ・バアルは次々と謎の化け物を殴り倒し、進撃していた。後方では彼の眷属たちと同じく『D×D』に所属するシーグヴァイラ・アガレスとその眷属が負傷したドラゴンの治療や敵の迎撃に勤しんでいる。

彼らを横目に確認しながら、真正面にいた化け物を豪快に殴り飛ばす。化け物は快音と共に吹き飛ばされ、近くの岩に激突するが、大きなダメージがないのかすぐに立ち上がる。

動きは単調だが異常なまでにタフであり、パワーもなかなか。一瞬の油断が間違いなく死に繋がるだろう。油断をすればの話だが。

 

「ッ!」

 

再び化け物を殴り飛ばしたのはサイラオーグだが、すぐに何かを察してその場を飛び退く。一瞬の間を開けて、彼のいた場所に巨大な影が激突した!

 

「タンニーン様!」

 

影の正体に気づいたサイラオーグはすぐ脇に着地、彼の無事を確かめる。

 

「サイラオーグ・バアル、来るぞ!」

 

タンニーンの警告と共に、彼らの前にドラゴン型が降り立つ。放つ重圧は先ほどよりも強くなり、サイラオーグを警戒しているのは確かだ。

サイラオーグが拳を構えた瞬間、ドラゴン型の姿が消え、背後に現れた。だが、サイラオーグも甘くはない。瞬間的に敵の動きを見切り、ドラゴン型が背後を取った瞬間、地面が砕けるほど踏ん張ると身体を捻り、その勢いを乗せた拳を放つ!

ドラゴン型が拳を放ったのはそれと同時であり、お互いの拳がお互いの胸部を撃ち抜いた!

 

「ぐ!」

 

『っ……!』

 

お互いに半歩下がる結果になったが、十分に近い。そこからお互いに退かずに殴りあっていく!

ドラゴン型の拳はサイラオーグの纏う鎧を一撃で砕き、生身へと届かせる。

サイラオーグの拳はドラゴン型の鱗を砕き、確実にダメージを通していく。

凄まじい快音が連続で響くが、それに混じった鈍く潰れるような音、何かが砕ける乾いた音が一人と一体の殴りあいの壮絶さを周囲に知らしめる。

 

「うおおおおおおおおおおっ!」

 

サイラオーグの雄叫びと共に渾身の力が込められた拳が放たれ、それを真正面から受けたドラゴン型は吹き飛ばされる。だが、空中でうまく体勢を整えて着地を決めた。

口から流れる血を拭い、サイラオーグは問いかける。

 

「貴様、何者だ。いや、それよりもその力はなんだ?」

 

『…………』

 

ドラゴン型は答えず、握っていた拳を開くとそれぞれの指を少し曲げ、爪を立たせる。戦法を変えてくるのは明らかだった。

サイラオーグが身構え瞬間、ドラゴン型の姿が再び消える。先ほどとは段違いの速度に、サイラオーグは反撃の選択肢を捨てると腰を落として地に根を張るように踏ん張り、腕を顔の前でクロスさせ、防御の体勢に入った。

彼が体勢を整えた矢先、鎧に幾重もの切り傷が生まれ、剥がされていく。鎧が剥がされ、修復するよりも早く生身にも傷が生まれ、おびただしい量の血が吹き出す。

歯を食い縛り、反撃の隙を伺うなかでサイラオーグはあることに気づく。

 

(攻撃に魔力が込められている。だが、この魔力の質は━━)

 

彼がほんの一瞬その思考に意識を傾けた隙を、ドラゴン型は見逃さなかった。神速で動き続けるドラゴン型の爪が、サイラオーグの両足の腱を捉える!

 

「ッ!」

 

不意討ちで腱を切られ、両膝をつくサイラオーグ。だが、彼の目から闘志の炎は消えていない。

少し目が慣れ、ドラゴン型の動きが見えるようになってきたなか、ドラゴン型はいきなり後ろに飛び退いてサイラオーグと距離を取った。

ドラゴン型は両手を前に出し、そこに魔力を溜め始めた。

 

━━その魔力は怪しくも美しい()()()()を放っていた。

 

サイラオーグはその輝きで先ほどの思考の答えにたどり着き、表情を驚愕の色に染める。

 

「まさか、貴様は……!」

 

ドラゴン型は躊躇うこと魔力を解き放ち、深紅の波動がサイラオーグに放たれる。

地面を抉り取りながら突き進んでする波動を真正面から受けようとするサイラオーグだが、彼の前に割り込んだ影によって波動は掻き消された。

 

「また会ったな……」

 

『…………』

 

右目に黒い炎が灯し、深紅の籠手を両腕に装着したロイは、右胸を人差し指で掻きながら、絶対零度の殺気を放つ瞳でドラゴン型を睨む。

それを受けたドラゴン型は同じように殺気立ち、体勢を低くして構えを取った。

ロイは直立したまま脱力して構え、明々後日の方向に目を向けながら言う。

 

「黒歌、こいつとその子のこと、あとさっき伝えたこと頼むぞ」

 

「……あ、あんた、いきなり投げ飛ばしておいてよく言うわね」

 

ふらふらの足取りで岩影から出てくる黒歌。彼女の登場にサイラオーグは驚くが、それ以上に気になるのは彼女が連れている少女だろう。

だが、今は戦闘中だ。目の前の敵と、それに対峙する男に目を向ける。

静かな殺気を放つ一人と一匹の放つ圧で、彼らに挟まれた空間が歪み始める。

どこまでも静かな殺気を放つ彼らの戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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