グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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lost05 追う者たち

満月と幾多の星が輝く夜空とは対象的に、一切の輝きがない森の中を三つの影が駆け抜け、交差する。

交差する度に小さな火花が散り、辛うじてその三つの影の姿が浮かび上がった。

一つは黒い靄を身に纏うロイだ。深紅の鎌を右手に握り、残像すらも残さない速度で森の中を駆け抜けていく。

そんな彼を追う二つの影は『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』こと幾瀬鳶雄と、彼の宿す神滅具(ロンギヌス)であり相棒である黒い狗、(ジン)である。

先行するロイは森の開けた場所にある草原まで来ると足を止め、改めて追跡者たちを睨む。

月の輝きで辺り一面を照らされたことで鳶雄の目も十二分に利くようになり、改めて構えを取る。彼に続く形で刃は体勢を低くし、いつでも飛び出せるように備えた。

眼前の敵を見据えながら、ロイは左手にも小さめの鎌を作り出して握る。

二人と一匹が静かな気迫を放つなか、彼らの身体を冷やすように優しげな夜風が吹く。だが、それが開戦の狼煙となり、ロイが一気に飛び出していく!

地面をスケートのように滑る移動方法で一気に加速した彼は、その勢いのまま右手の鎌を凪ぎ払う。鳶雄はそれを受けようとするが、彼の第六感が警鐘を掻き鳴らす。

鳶雄は防御の選択肢を刹那で捨てると、ロイの鎌の一閃を身体を後ろに剃らせて避ける。

空を切ったロイの一撃は空間ごと空気を切り裂き、小さいながらも次元の狭間を覗かせた。

鳶雄は少し目を見開いて驚きをあらわにするが、その時に生じた隙を庇うように刃が飛び出し、口にくわえた剣でロイを攻め立てる!

ロイは体捌きで刃のラッシュを避け続けるなか、そこに鳶雄が加勢する。息の合った動き、(いな)、二体で一体の動きはまさに完璧の一言だ。

━━だが、届かない。ロイに攻撃する隙を与えぬよう、圧倒的な手数と速度で攻め続けても、彼に当たる気配がないのだ。

鳶雄と刃は焦らない。焦れば動きに無駄ができ、そこを確実に突かれることになる。そうなれば、まず間違いなく死ぬことになるだろう。

鳶雄と刃がほぼ同時に一撃を放とうとした瞬間、彼らを悪寒が襲った。脊髄反射の速度で反応して彼らが飛び退いた瞬間、ロイが鎌をそれぞれがいた場所に降り下ろした!

地面に当たるすれすれで鎌は止められたが、その余波だけで地面が砕け、小さなヒビが広がっていった。

鳶雄がその威力に眉を寄せるなか、ロイが左手の鎌を構える。明らかに届かない距離で構えたことに鳶雄が警戒した瞬間、鎌が振り抜かれる!

 

「ッ!」

 

鳶雄はとっさに身を屈めると、頭の上を鎌が通りすぎていった。鎌からはロイに向かって鎖が伸びており、鎌の刃と柄の部分が繋がれていた。

ロイが左手に作り出したのは『鎖鎌』だったのだ。不意に放たれた間合いを無視した一撃は、鳶雄の体勢を崩されるには十分だった。

ロイは左手の鎖鎌を回収しながら一気に加速。地面を滑りながら勢いを乗せた一撃を鳶雄に放とうとするが、あいにく相手は彼だけではない。

刃が高速で飛び出してロイを迎撃、刃のくわえる剣とロイの握る鎌が激突して激しい火花を散らせた。

ロイは強引に刃を空中に弾き飛ばすと、鎖鎌で追撃を放つ!刃は鎖鎌の軌道を見切ってそれを防ぐと、軽やかに着地を決めた。

鳶雄は一度息を吐く。アザゼルからは生け捕りの指示が出されているが、これ以上の手加減は無理だ。下手をしなくてもこちらが殺されてしまう。

鳶雄の意思が伝わったのか、刃が小さく唸る。同時に周囲の影が蠢き、そこから大量の歪な(やいば)が飛び出し始める。

それらの切っ先はロイに向けられ、そのまま彼を串刺しにしようと伸びていくが、

 

『舐めるな……!』

 

ロイは両手の鎌を籠手に変え、神速のラッシュで全てを砕いていく!砕いたところですぐさま次が出てくるが、そんなものお構い無しと言わんばかりに砕き続ける。

その隙に(じん)が鳶雄の横につき、同時に鳶雄は呪文を口にしていく。

 

《━━人を斬れば千まで()こう》

 

並び立つ二体を漆黒の靄が包み込み、それが草原全体へと広がり始める。

 

《━━化生(けしょう)斬るなら万まで(うた)おう》

 

鳶雄の四肢が暗黒の靄に包まれ、異形へと転じていく。

 

《━━暗き闇に沈む名は、極夜を移す擬いの神なり》

 

鳶雄と闇が混ざりあい、同化していく。

 

《━━汝らよ、我が黒き刃で眠れ》

 

人の形でありながら人とは違うモノに変わっていく。

 

《━━愚かなものなり、異形の創造主(かみ)よ》

 

鳶雄が最後の一節を口にしたとき、(ジン)が透き通るほどの遠吠えをしていく。

 

オオオオオオオオオオオオオオン…………。

 

全ての刃を砕ききったロイの耳にそれが届いた時、そこにいたのは闇の(ころも)を纏った人の形をした擬いものの刃の神。暗黒を吐く狗を従えた狩人だった。

その姿こそが幾瀬鳶雄の神滅具(ロンギヌス)━━『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の禁手(バランス・ブレイカー)、『夜天光の(ナイト・セレスティアル・)乱刃狗神(スラッシュ・ドッグズ)』だった。

それを見据えたロイは一度ため息を漏らす。

 

『……ギアを上げたほうが良さそうだな』

 

ロイの全身を包む黒い靄が右目へと集まり、黒い炎となって闇を照らす。

手短にその行程を済ませたロイは首をゴキゴキと鳴らすと、籠手にさらにオーラを込め始める。

ロイが脱力するように自然体で構えた瞬間、鳶雄と刃が消え失せる!

ロイは特に驚いた様子もなく、右拳で自分の右側の空間を軽く殴り付ける。

パンッ!という快音が草原に響き渡り、何かが吹き飛ばされ地面を転がると、その近くの地面に鎌が突き刺さる。

 

『速度はそちらが上か……!』

 

「舐めるなと言ったはずだが?」

 

地面を転がったのは鳶雄だった。そんな彼に人差し指を左右に振りながら言うロイ。そんな彼の背後に、禁じられた紋様、呪文が刻まれた剣をくわえた刃が飛び込み、そのまま貫こうとする!

だが、剣に貫かれる直前にロイの放った回し蹴りが刃を捉え、そのまま吹き飛ばす!

 

「━━遅いな」

 

ただ一言そう告げる。

鳶雄は鎌を拾い上げ、再び飛び出す。体勢を整えた刃も彼に合わせて飛び出し、二体による連携攻撃が開始された!

ロイは刹那的な見切りでそれさえも避け続けるが、さすがに反撃の隙を見つけられずに避けの一手のみとなっていた。

少しずつ鳶雄たちの速度が上がっていくなかで、それでもロイは避け続ける。たとえ死角を付かれたとしても、若干視認出来ていなくても確実に避ける。

そして、鳶雄と刃が同時にそれぞれの得物を振り抜いた瞬間、ロイはそれぞれの腕で真正面から受け止めた!

激しい火花が散り、お互いに引かずに押し合うなか、ロイが鳶雄と刃を交互に睨んだ。

 

「いい動きだ。だが━━」

 

ロイは瞬間的にオーラを解き放って二体を弾き飛ばすと、そのまま鳶雄に肉薄して腹部を殴り付ける!

低く重い打撃音が響き渡り、そのまま鳶雄は身体をくの字にして吹き飛ばされる。

 

「━━甘い。殺す気はあるのか?」

 

『耳が痛いな……』

 

腹を擦りながら立ち上がる鳶雄。もう一段階上もあるが、そうなれば彼の生け捕りは無理だろう。どうにかして一撃、それが届けば生け捕りが出来るはず。

ここまでされてもまだ生け捕りを諦めない鳶雄だが、彼の横に刃が戻ってくる。先ほどに比べ、若干殺気立っていることが鳶雄だからこそわかった。

 

━━使うか。

 

鳶雄が切り札を切ろうとした瞬間、白銀の閃光がロイに向かって落下してくる!

 

「ッ!」

 

ロイは一瞬驚愕の表情を浮かべるが、籠手を消して両足に足甲を作り出すとタイミングを計り、

 

「オラァッ!」

 

上段回し蹴りで対応した!深紅と白銀がぶつかり合い、激しい衝撃波が発生する!

数秒間の押し合いは結果的に白銀が押し負ける形となり、白銀は鳶雄の横の地面に叩きつけられる。━━が、すぐに立ち上がって押し負けた右拳を見つめる。

 

『ヴァーリ!?』

 

「偶然近くを通りかかってな、様子を見に来たんだが……」

 

白銀の鎧を身に纏うヴァーリは、ロイに目を向けながら言う。

 

「アザゼルから聞いた話は本当だったようだな」

 

「……また増援か。この前といい、今回といい、面倒だな」

 

ロイは足甲を消すと左手に弓、右手に矢を作り出す。そして慣れた様子で矢をつがえると引き絞り、矢を放つ。

避けてみろと言わんばかりの真正面からの攻撃だが、ヴァーリたちは迷わずに回避した。直撃は危険だと、第六感が(ささや)いたのだ。

回避を済ませた彼らはほぼ同時にロイに向かって飛び出していくが、ロイは次々と矢をつがえて連射していく。

鳶雄と刃がヴァーリの前に出ると、それぞれの得物で全ての矢を切り払い、射線をそらしていく。

 

「━━追え」

 

ヴァーリたちの横を通りすぎていった大量の矢だが、ロイの呟きと共に空中で方向転換し、執拗にヴァーリたちを追い始めた。

空中に飛び上がって縦横無尽に飛び回り矢を避けるヴァーリだが、矢の速度は一切落ちることなく、むしろ少しずつ速くなっていた。

 

「しつこいな……」

 

ヴァーリは手元に白銀のオーラを溜めると、自身に殺到する矢に向かってそれを放つ。

矢とオーラがぶつかり合い、爆煙が巻き起こる。ヴァーリの視界が一瞬遮られた瞬間、彼はその場を飛び退く。

ヴァーリがいた場所を先ほどのものよりもオーラを込められた矢が通りすぎていった。そちらは戻ってくることはなく、深紅の流星となって夜空に消えていく。

草原を駆け回り、矢を切り払う鳶雄と刃の視界の端に、深紅の輝きが映る。そちらに目を向けると、右膝をついたロイが弓を構え、渾身のオーラを込めた矢を放とうとしているのだ。

ロイの目が見開かれると同時に、矢が放たれる!

空気を切り裂きながら直進する矢だが、鳶雄は得物である鎌で一閃して防いで見せた。だが、切り裂かれてなお矢の勢いは止まることを知らず、鳶雄の遥か後方にあった木々を薙ぎ倒しいき、その音が聞こえなくなるほどになってようやく消えた。

鳶雄と刃、ヴァーリがロイを挟むように距離を開けて立ち、隙を伺う。

彼らを交互に睨みながら、ロイは楽しげに笑みを浮かべた。

 

「ここまで楽しめるのは久しぶりだ。いや、戦いを楽しむってのもおかしいか」

 

弓を消し、槍に切り替える。器用にくるくると回すと両手で握り、体勢を低く構える。

ヴァーリたちが警戒を強めた瞬間、ロイが視界から消える!鳶雄とヴァーリは目を見開きながら気配を頼りにロイの姿を探すなか、ヴァーリの背後に突きを放とうとしているロイが現れた。

 

『ヴァーリ、後ろだ!』

 

「ッ!」

 

鳶雄の声で反応しようとするヴァーリだが、無情にもロイの攻撃は放たれてしまう。

ガキンッ!と甲高い金属音と共に鎧が穿たれ、血を吐きながら弾き飛ばされるヴァーリ。それでも意識は手放さず、地面に両足をついてスライドしながら勢いをを無理やり殺す。

片膝をついて口元の血を拭うヴァーリ。ほんのわずかに笑みを浮かべながら、立ち上がるとオーラを高める。

槍で肩を叩きながら、ロイは少し驚愕しながら言う。

 

「鎧ごと身体を貫きにいったが、ギリギリでオーラを盾代わりにしたか。いい反応だ」

 

「それは光栄だ。だが、俺ばかりに意識を向けていていいのか?」

 

「ん?」

 

間の抜けた表情になるロイの背後を取った鳶雄は、そのまま鎌を横一文字に振り抜くが、垂直にした槍で防がれた。

 

「別に警戒していないってわけでもないんだがな」

 

不敵な笑みを崩さず、ロイは鳶雄を押し返すとそのまま槍を振るって弾き飛ばす。そこに飛び込んできた刃の一撃は避け、その場を飛び退いて一旦間合いをあける。

一度大きく息を吐き、こちらに近づいてくる気配のほうに目を向ける。

 

「待たせたな、ヴァーリ!って、大丈夫かよ!?」

 

「遅かったな。ロスヴァイセはどうした」

 

「彼女にはルフェイがついています。安心してください」

 

美猴とアーサーが森の中から現れ、美猴は負傷したヴァーリに驚き、アーサーはロスヴァイセのことを報告した。

ロイは槍で肩を叩きながら、盛大にため息を吐いた。

 

「まだ来るのか……。来るなら小出しじゃなくて一気に出てこいよ、全く」

 

ふと、新たに現れた二人とは別の気配を感じてそちらに目を向ける。それと同時にロイの表情が一気に険しくなり、少しの驚愕の色も混ざっていた。

彼の視線の先にいるのは一人の女性。名前はわからない。だが、ロスヴァイセと出会った時と同様の感情が渦巻くのだ。

そんなロイの視線を受け、黒歌は複雑な表情になっていた。目の前にいる男は本当に彼なのか、他人の空似なのか、判別は出来ない。

ロイの意識が完全に黒歌に向いた瞬間、ヴァーリと鳶雄、刃が今までとは比にならない速度で動きだし、ロイとの間合いを詰める。

 

「ッ!」

 

それを察知して回避しようとしたロイの足が何かに捕まれ、その場を動けなくなった。

彼の足を掴んだのは美猴が事前に作り出し、地面の中を進ませていた分身だ。ヴァーリの高めたオーラと仙術の応用による気配遮断により、ロイに気付かれないように放っていたのだ。

いきなりの事態だがロイは素早く分身を突き殺して脱出しようとするが、既に手遅れだった。それを察したロイは再び黒い靄を全身に纏う。

その矢先にヴァーリの拳が腹部を捉え、重い打撃音と共に吹き飛ばされる。

地面に槍を刺して勢いを殺していくロイだが、そんな彼にヴァーリは右手を向ける。

 

『Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!』

 

同時に光翼から半減を意味する音声が連続で発せられ、ロイのオーラが急激に小さくなっていった。

そして、そこに飛び出した鳶雄と刃がすれ違い様に同時に彼を一閃する!

魂さえも切り裂く一撃を受け、ロイは━━━、

 

『……何ともない、のか……?』

 

平然としていた。その結果に流石の鳶雄も驚愕し、刃はさらにロイへの警戒を高める。

オーラは小さくなった。だが、それ以外の何かに守られてロイに攻撃を通すことが出来ない。その何かが何なのかがわからないのが問題なのだが……。

一様に眉を寄せるロイ以外の面々だが、ロイは黒い靄を右目に灯る炎に、槍を籠手に変えると黒歌に目を向け、その場から消える。

真っ先に反応したのは鳶雄だ。

 

『そっちに行ったよ!』

 

「任せろ!」

 

「どこからでも!」

 

美猴は如意棒、アーサーはコールブランドを構えるなか、黒歌は反応を返せないでいた。

 

「おい、どうし━━」

 

「よそ見とは、いい度胸だな……!」

 

彼女を心配したのか、後ろに振り返った美猴が殴り飛ばされ、森の木に背中から叩きつけられる。

アーサーがその背後からコールブランドで突きを放つが、ロイの籠手に受け止められらる。そのまま二人は超至近距離による攻防を繰り広げていく!

空間を穿ち、相手の死角からコールブランドの突きを放つアーサーの十八番が織り混ぜらたとしても、ロイはまるで全てを読んでいるかのように避け、ついに、

 

ドゴン!

 

「…な、なに……!」

 

「いい動きだが、まだまだだな」

 

ロイのボディーブローで腹を打ち抜かれ、アーサーはその場に崩れ落ちかけるが、歯を食い縛って耐えた。だが、それも予期していたように放たれたロイの蹴りが横っ腹に炸裂し、弾き飛ばされる。

その場に残された黒歌はハッとしながらもロイに攻撃しようとするが、それよりも速く彼の手が伸び━━、

 

「おまえも、他の奴とは違うな」

 

いつの間にか籠手がなくなっており、彼の暖かい手が愛おしそうに、優しく彼女の頬を撫でる。

 

「それって、どういうこと……?」

 

「言葉のままだが?」

 

ロイがそう返した瞬間、黒歌の意識が微睡む。今の一瞬で、何かしらの術をかけられたのは間違いなかった。

ロイは倒れかけた黒歌を抱き止め、そのまま肩に担ぐとそれ以外の面々に目を向けて口を開く。

 

「少しこいつを借りていくぞ。そのうち返すから、まあ、心配すんな」

 

「そんな言葉、受け入れると思うか!」

 

ヴァーリは明らかな怒気を込めた言葉と共に、両手からオーラを放つ!ロイが籠手を作り出して対応しようとした矢先、ロイの前に立ちはだかった小さな影によってオーラはあっさりと掻き消された。

ロイの前に現れた小さな影の正体に、ヴァーリたちの表情は驚愕に染まる。

 

「ロイ、おそい」

 

「あー、悪い。でも逃がしてくれそうになくてな」

 

現在行方不明のはずのリリスだからだ。そのリリスはロイの言葉を受けると、彼の懐を探り始める。

 

「ちょ、止め、くすぐった……!」

 

「━━あった」

 

笑いを堪えるロイの懐からリリスが引っ張り出したのは、魔方陣が描かれた紙切れだった。先日、ロイが悪魔の死体から追い剥ぎしたものだ。

リリスはそれをロイに手渡し、急かすように言う。

 

「おーらこめて」

 

「こうか?」

 

ロイが言われるがまま紙切れにオーラを込めた瞬間、彼らを囲むように転移魔方陣が展開させ始める。だが、バグでも起こっているのか、ノイズ混じりだ。

転移の光が強くなっていくなか、ロイは不敵に笑みながらヴァーリたちに言う。

 

「次にやる時は、全力だ。それまで勝負は預けといてやるよ」

 

「逃がすか!」

 

ヴァーリ、鳶雄、刃が飛び出した瞬間、彼らの急所に向かって深紅のナイフがまっすぐ飛んでくる。それぞれがそれを防ごうとした瞬間に爆発、彼らの視界を塞ぐと同時に速度を無理やり落とす。

彼らが煙を突破した時には既に遅く、転移の光が一気に弾けてしまった。その中心にいたロイとリリス、黒歌の姿はない。

ヴァーリは歯を食い縛りながら拳を握り、鳶雄も静かに怒りをたぎらせる。刃は静かに唸り、目を細めた。

そんな彼らの頬を、戦場には不釣り合いの優しい夜風が撫でる。

グレモリー眷属、ヴァーリチーム、刃狗(スラッシュ・ドッグ)とロイのファーストコンタクトは、考えうる最悪の形で果たされてしまった━━。

 

 

 

 

 

 




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