グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life05 ロイVSトライヘキサ

「はあっ!!」

 

鎧を纏った俺━━ロイは勢いのままアロンダイトを振り下ろし、量産型邪龍を一体屠り、そのまま得物にオーラを纏わせて振り抜く。

放たれた深紅のオーラは次々と邪龍を、さらには偽赤龍帝を呑み込み、掠めた部位を削り取っていく。

それにしたって、

 

「ああ、くそ!減らねぇもんだな」

 

一向に数が減らない。殺しても殺してもすぐに次が来やがる。

俺の愚痴が聞こえていたのか、邪龍を豪快に殴り飛ばしたクリスが言う。

 

「確かに多いですが、ここはまだ楽なほうらしいですよ。ロスヴァイセさんが例の捕縛術式を使うことな通達してありますから、他のヒトたちが頑張ってくれているんでしょう!」

 

言い切りながら偽赤龍帝も殴り飛ばす。流石はクリス、魔力も使えるパワーバカだ。

と、クリスに緑色の光が届く。同時に血の滲んだ拳の傷が治り、万全の状態で次のターゲットを探す。

後方のアリサが俺たちだけでなく、連合軍の面々に緑色の回復オーラを飛ばして戦線を支えている。近づく邪龍は、雷や炎の魔力で迎え撃ち、返り討ちにしていた。

さらに後方ではロセとジルが数百の魔方陣を同時進行で動かしていくが、表情が強張っている。何かトラブルでもあったのだろうか。

何てことを横目で確認しながらも邪龍を叩き斬り、返り血が若干かかる。まあ、いつもの事だな……。

血を拭うとかは特にしないでいると、耳元に連絡用魔方陣が展開された。

 

『ロスヴァイセです。術式の発動にはまだ時間がかかると共に、距離がありすぎます。さらに接近しなければなりません』

 

「了解だ。あんまり離れるなよ?」

 

俺の軽口に答えたのはジルだ。

 

『離れても私が守るさ。好きに暴れてくれ』

 

何てことを言ってくれる我が同僚。なら、お言葉に甘えて頼らせてもらいますか。

俺たちが前進しようとした瞬間、俺たちを悪寒が襲う!まるで、絶対的な死がそこまで来ているような感覚。これは、ヤバイ……!

俺たちが異常なまでのオーラの放出を察知し、そちらに目を向けた瞬間、オーラの塊が放たれる!運良く俺たちのいる方向には来なかったが、それに呑み込まれた連合軍の面々は何もできずに消滅してしまう。

今のはトライヘキサの一撃だろう。当たれば即死は免れない、絶対の一撃。早く奴を止めねぇと、被害がさらに増えるだろう。

俺たちは前進しようとするが、相変わらずの物量に進むことができない。こうなりゃ、やるしかねぇ!

俺は連絡用魔方陣を展開してジルたちに言う。

 

「俺が突っ込んで奥から掻き乱す!ロセのこと頼むぞ!」

 

『『了解!』』

 

『任された』

 

クリスとアリサ、ジルが返事をくれるが、ロセだけ少し遅れて心配げに言ってくる。

 

『ロイさん。死なないでくださいね……』

 

「任せろ。死なねぇのが特技だ」

 

俺はそう返すと、背中の魔力噴出口から魔力を放出して一気に加速。すれ違い様に邪龍を切り裂いていき、興味を無理やりこちらに向ける。

狙い通りに邪龍は次々と俺に向かってくるが、どいつもこいつも雑魚なので一方的に狩っていく。返り血で全身を汚していくが、いつもの事なので無視。

俺を無視しようとする邪龍の群れにアロンダイトの切っ先を向け、一気に突っ込んで片っ端から殺しまくる。ロセがトライヘキサを射程に捉えるまで、何がなんでも殺し続けてやる……!

そんな事を繰り返して突き進むこと数分。

 

「はぁ……はぁ……。流石にしんどいな……」

 

邪龍に囲まれている状況で、呑気にそんな事を漏らしていた。何だろう、結構危険な状況なのに、落ち着いてきている自分がいる。

視界の先にはトライヘキサとアジ・ダハーカ、聖杯を持つアポプスの姿がある。どうにかしてあそこまでの活路を開かねぇといけねぇのか……。

息を整えていると、三体の邪龍が俺を取り囲む。銀色の瞳の邪龍━━グレンデルの量産型だ。

ため息を吐くと同時に正面の一体に向けて飛び出す!それに反応して拳を放ってくるが、余裕でそれを避けて腹にアロンダイトを突き立てる!

貫くと同時に滅びを体内に流し込み、一気に決めにかかると、量産型グレンデルが大量の青い血を吐き出して動かなくなる。俺は頭からそれを被ってしまうが、お構いなしにアロンダイトを引き抜いてその場を飛び退く。

俺のいた場所に火炎が放たれ、量産型グレンデルの死骸が焼かれて嫌な臭いが鼻についた。

火炎を吐いた二体目の量産型グレンデルに向けて飛びかかると、その眼球に腕を捩じ込み、滅びを流し込みながら強引に引き抜く!

大量の血と共に脳髄の一部が一緒に飛び出し、俺の身体を汚していく。構うことはない、次だ。

三体目の量産型グレンデルに飛びかかろうとすると、トライヘキサがオーラを溜めていることに気づく。どうにかして放出を阻止しようとするが、それが悪手だった。

その隙に接近を許してしまった量産型グレンデルの拳が俺を捉え、そのまま殴り飛ばす!

 

「かはっ!」

 

肺の空気を一気に吐き出したが、翼を調整して無理やり勢いを殺すと、トライヘキサのほうに目を向ける。

奴は莫大なオーラを放ち、連合軍に大打撃を与えていく。

それを確認している間にも量産型グレンデルが向かって来ているが、俺は落ち着いてアロンダイトにオーラを溜めながら霞の構えを取る。

オーラが最高潮まで溜まった瞬間、刺突の要領でそれを解き放ち、量産型グレンデルに向けて放つ!

その一撃は的確に量産型グレンデルの眉間を撃ち抜き、絶命させた。だが、トライヘキサまでまだ遠いな。

 

「━━ッ!」

 

俺がそんな事を考え始めると、突然の頭痛に襲われる!なんだってんだよ、いきなり……!

 

『おらおら、どうした!もっと殺させろ!もっと!もっとだああああ!』

 

脳内に響き渡るのはグレンデルの怒鳴り声だ。こいつ、意識がここまで戻っていやがるのか……!

歯を食い縛ってグレンデルの声と頭痛に耐えていると、耳元に連絡用の魔方陣が展開される。

 

『ロイさん!準備は整いましたが、距離が遠すぎます!』

 

いきなりロセから連絡が飛んできた。と、同時にクリスが俺の横につき、アリサの回復オーラが俺を包み込む。が、頭痛はおさまらないしグレンデルの声がまだ響く。

 

『そんな奴等はほっといて、もっと暴れさせろ!俺様に身体を寄越せ!なんでもぶっ殺してやるよ!』

 

俺は頭を押さえながら横のクリスに言う。

 

「ど、どうにかして距離を詰めてぇが、アポプスとアジ・ダハーカを引き離さねぇと。あいつらがいるんじゃどうにもならねぇ……」

 

「下手に攻撃してもあっさりと返り討ちですからね。何か手は……」

 

クリスの一瞬心配げな視線を送ってくるが、あごに手をやって考え込んでいた。

俺は頭を押さえながら荒れた息を整え、周囲を確認していると、槍を持った青年が横に現れる。

 

「手詰まりと言ったところですか。それよりも、大丈夫ですか?」

 

「曹操か。久しぶりだな……」

 

聖槍を持つ男━━曹操だ。既に禁手化(バランス・ブレイク)状態なのか、例の球体のひとつに乗り、残りは周りに浮遊させている。俺を心配するってことは、まだ余裕なのだろう。

曹操は槍で肩を叩きながら言う。

 

「邪龍をその身に宿すとは、予想外ですよ」

 

「何がなんでも勝たなきゃならねぇ。だろ?」

 

「確かに」

 

曹操はそう言うと槍を構える。

 

「あなたの前での使用は初めてでしたね?少し下がることをおすすめします」

 

「おまえ、何をするつもりだ……?」

 

俺の問いかけを無視し、曹操は力強く呪文を口にしていく。

 

「槍よ、神を射貫(いぬ)く真なる聖槍よ!我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ!汝よ、遺志を語りて、輝きと()せッ!」

 

曹操の詠唱に合わせて槍のオーラが高まっていき、俺とクリスの身体を地味に焼いていく。アリサが回復オーラを同時進行で流してくれているが、鎧越しでも結構痛いぞ……。

俺たちがダメージを受けるなか、曹操は最後の一節を口にする。

 

『━━覇輝(トゥルース・イデア)ッ!』

 

槍から聖なるオーラが迸り、トライヘキサと伝説の邪龍二体に向かう!

量産型邪龍や偽赤龍帝軍団はそれを受けただけでその身を溶かされ、伝説の邪龍二体はギリギリまで耐えるが、ついに耐えきれなくなりその場から離れた。グレンデルの声も遠のいていき、頭痛もおさまった。のはいいが、肝心のトライヘキサは━━、

 

『━━━ッ!』

 

それを真正面から受けても少し怯む程度で、全くと言えるほどダメージがない。おかげさまで、アポプスが手にしていた聖杯はトライヘキサの真横に浮いている。

 

「━━ッ!ダメージ無しか。まさかこれほどとは……」

 

流石の曹操も驚愕を隠せないでいた。生物なら即死するであろう聖書の神の遺志を力として放つ一撃を、奴は耐えたどころか無傷なのだ。規格外すぎる。

……例の術式でトライヘキサを止めるにしても、奴は完全にこちらを警戒している。もう少し近づけば発動出来るんだろうが、先程から凄まじい悪寒がする。

トライヘキサが右手をこちらに向け、オーラを溜め始めた。ここまでくりゃ、迷っている暇はねぇ……!

背中の魔力噴出口から魔力を放出、一瞬でトライヘキサとの間合いを詰めてタックルをかます!トライヘキサを捕まえ、そのまま近くの島に自分ごと突っ込み、岩礁に叩きつけると共に離れる。

今のでトライヘキサの溜めたオーラをどうにか散らせたが、注意は完全に俺に向けられるだろう。後は、ロセの到着まで耐えるだけだ。

覚悟を決めてアロンダイトを構えた瞬間、トライヘキサが突如として天高く咆哮する!

 

『オオオオオオオッ!キェヤアアアアアッ!』

 

大気を揺らす生物とは思えない奇妙な声の咆哮に、俺はたまらず耳を塞ぐ。同時に嫌な感覚が襲ってきた。敵側の結界か何かに囲まれた時のような嫌な感覚、まさか……。

トライヘキサを警戒しつつ、五感を研ぎ澄まして周辺を探る。吹き荒れていた風が止み、先程まで荒れていた波が嘘のように静かになり、誰かの怒号や邪龍の咆哮も聞こえない。どうやら、本当に結界に入れられたようだ。

俺はため息を漏らし、何となくトライヘキサに声をかけてみる。

 

「どっかの神様でもなく、俺をご指名とはな。最初に首を飛ばされたのがそんなに気に入らないか?」

 

『…………』

 

返答なし。まあ、予想通りではあった。今さらこいつとコミュニケーションを取ろうなんざ、俺も焼きが回ったもんだな……。

一度深呼吸して気分を落ち着かせ、アロンダイトを構えてトライヘキサを睨む。奴も睨み返してくるが、手を出してくる気配はない。━━なら、先に仕掛ける!

背中の魔力噴出口から魔力を放出、静止状態から一気にトップスピードに達するが、トライヘキサはカウンターを合わせるように回し蹴りを放ってくる!

ギリギリで姿勢を低くしてそれを避けるが、余波で地面が抉り取られ、それに巻き込まれる形で俺も宙に投げ出された。

翼を展開して体勢を整えた瞬間、トライヘキサが瞬時に間合いを詰めてくるとそのまま乱打を放ってくる!ひとつひとつに込められたオーラは危険極まりないものであり、当たればただではすまないだろう。

━━逆に言えば、放たれる拳全てに大量のオーラが込められているわけだ。ようは、避けながらオーラの流れを注意深く見てやれば、動きを先読みできる。

放たれる乱打を刹那的に見切り、最小限の体捌きで避け続けていく。拳の速度は一気に上がっていくが、グレンデルに身体を持っていかれているおかげなのか、それとも馴染み始めているおかげなのか、いつも以上に身体が軽く、余裕で避けられる。

流石にイラついたのか、トライヘキサが豪快に振り抜いてきた拳を再び避け、アロンダイトでその腕を落とす。

 

『……ッ!』

 

腕を落とされて奴の体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、一気にアロンダイトを振り抜く。

トライヘキサの身体は袈裟懸けに斬られ、上半身と下半身が泣き別れする。上半身はそのまま地面に落下していくが、下半身はそのまま霧散し、白い(もや)となって上半身のほうに向かっていく。

今撃てば、ある程度のダメージを期待できるか……。

アロンダイトに魔力を込めていき、一気に解放。上半身だけのトライヘキサに叩きつける。

トライヘキサは深紅の柱に叩き潰されるが、それを一瞬で掻き消して立ち上がる。上半身と下半身がくっつき、再び万全の状態となっていた。

一度高度を落として地面に足をつけ、霞の構えを取る。トライヘキサは俺が何をするつもりなのか読んだのか、すぐさま距離を詰めてくるが、俺は地面が砕けるほどの勢いで一歩踏み込み、トライヘキサの拳にカウンターを入れるように一気に切り上げる。

再び身体を袈裟懸けに斬られたトライヘキサだが、上半身だけになっても俺に掴みかかり、頭突きをかましてくる!

 

「ッ!」

 

ギリギリのタイミングで義手である左腕で防ぐことができたが、籠手が完全に砕け散り、義手がひん曲がる。

トライヘキサは頭突きを防がれても俺を離すことはなく、そのまま翼を動かして縦軸回転すると、遠心力に乗せて俺を投げ飛ばす!

ものすごい速度で飛ばされる俺だが、翼を展開して勢いを少しずつ殺していき、最後は叩きつけられるはずだった岩を足場にして完全に勢いを殺しきり、そのまま飛び出してトライヘキサに向かう。

身体を再生させたトライヘキサの腹にアロンダイトを突き立て、一気に滅びを流し込んでいく。目の前で奴の身体を食い破るように滅びが飛び出していくが、そんな事に構うことなくトライヘキサはアロンダイトの刀身を両腕で押さえ込んだ。

引き抜こうとするが全く動かないしない。相当な力で押さえられているようだが、折れないのは流石と言うべきか。

アロンダイトを手放して、その柄頭に回り蹴りを放つ。アロンダイトはさらに深く突き刺さり、ダメージによってなのか、トライヘキサはアロンダイトから手を離す。

その隙に引き抜き、兜割りでトライヘキサの身体を叩き斬る。が、再生した身体に包み込まれ、奴の腹部あたりで動かせなくなった。徹底的にアロンダイトを封じてきやがる。

アロンダイトを腹に刺したまま、トライヘキサが蹴りを放ってくる。その場を飛び退いてそれを避けると、奴は一瞬で俺の眼前まで詰め寄ってくる。今までとは段違いの速さ、どうなってやがる……!

トライヘキサの放つ拳をギリギリで避け、アロンダイトに手をかけると、奴の蹴りが迫ってきていた。アロンダイトを取りに行ったせいで回避が間に合わない。防ぐしかねぇ……!

とっさに左腕を差し出して蹴りを受けるが、凄まじい衝撃と共に弾き飛ばされる。ようやくアロンダイトが抜けてくれたが、それどころじゃない。勢いを殺しきれねぇ!

勢いよく地面に叩きつけられ、大量の砂塵が舞う。痛みを堪えて素早く立ち上がろうとするが、同時に悪寒が襲う。トライヘキサがオーラを放つときに感じたものと同じ。狙いは俺しかいねぇ。これは、間に合うか……!

その場を急いで退避しようとするが、眼前にトライヘキサが現れる。俺がほんの一瞬驚愕すると、至近距離でオーラが解き放たれる。

視界を包み込む閃光に呑み込まれ、同時に襲いくる激痛。それに抵抗できるわけもなく、俺の意識は飛ばされたのだった━━。

 

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

 

 

 

トライヘキサは腕を引き、今しがた吹き飛ばしたロイを見る。土壇場でアロンダイトを盾にしたため原型こそとどめているが、戦闘不能は確実だった。

そんな彼にトライヘキサは近づいていく。一歩、また一歩と歩を進め、彼のすぐ近くまで来ると再び腕にオーラを込めていく。

それを解き放とうとした瞬間、トライヘキサに滅びの球体たちが襲いかかる!トライヘキサは無抵抗でそれに呑み込まれるが、ロイから少し離れた場所で肉体を再生させた。

トライヘキサが空中に目を向ける。そこにいたのは━━、

 

「やれやれ、ロイは人気者だね」

 

軽口を叩きながらも、絶大な殺気を放つサーゼクスの姿があった。外の術者や眷属の助力で、トライヘキサの結界を無理やり通り抜けたのだ。

彼はゆっくりと降下して地に足をつけると、視線が冷たいものに変わり、魔力を高め始める。彼の放つ魔力で島が揺れ始め、近くの小石や岩が砕け散っていく。

魔力を完全に解き放つと、彼の身体を滅びの魔力が覆い始め、一気に弾ける!

紅の輝きがおさまると、そこにいたのはまさに滅びの化身。ロイとは比較にならない濃度の滅びを全身に纏ったサーゼクスの姿だった。

 

『さて、アポプスはイッセーくんが、アジ・ダハーカらヴァーリくんがどうにか倒してくれた。ロスヴァイセくんが聖杯も止めた。後は、キミを倒すだけだ』

 

静かに告げるサーゼクスに、トライヘキサは飛び出していく!サーゼクスもそれに答えるように飛び出し、二人の激突で空間が悲鳴をあげ始めた。

サーゼクスの放つ滅びがトライヘキサの腹を穿ち、足を消し飛ばし、頭を削り取っていく。だが、トライヘキサは止まらない。驚異的な再生能力でサーゼクスに食らいついていく!

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━ロイが目を開けると暗闇の世界。また飛ばされたか……。

俺はため息を吐くと、変化に気づく。回りはいつかのように燃えていないし、怨念たちもいない。妙に静かで、不気味だ。

不意に視線に気づき、そちらに目を向けると━━、

 

『あの野郎が!ぶっ潰してやる!ぶっ殺してやる!』

 

グレンデルが鎖で地面にうつ伏せで大の字に寝かされるように拘束され、俺を睨んできていた。

 

『よお悪魔ちゃん!だらしねぇな、あんなんでくたばっちまうのか?』

 

「ほざけ。まだやれる」

 

『行けたって勝てねぇだろうがよ!俺様に寄越しやがれ!悪魔ちゃんの身体をよ!』

 

唾を撒き散らしながら怒鳴り付けるグレンデル。

確かに、中途半端にこいつを取り込んでも勝てねぇ。ならいっそのこと受け入れちまえば、まだ戦えるか……。

俺が手を伸ばそうとすると、腕を掴んで止めようとするヒトたちがいた。怨念たちだ。

若干呆れたような声音で言ってくる。

 

『また殺すのか』

 

『また戦うのか』

 

『また奪うのか』

 

「ああ。俺がどうなったとしても、やるしかねぇ」

 

そう返しながら腕を振り払うと、少し幼い声が訊いてくる。

 

『また傷つくの?』

 

その問いかけをうけて、伸ばした手を一度引っ込める。それでも声は続く。

 

『また誰かを泣かせるの?また誰かを悲しませるの?』

 

『どうしたんだよ、悪魔ちゃん!そんなくそどものことなんざほっとけよ!さっさと寄越せ!』

 

グレンデルが騒いでいるが、俺は瞑目しながら言う。

 

「またぼろぼろになるかもしれない。また誰かを泣かせて、悲しませるかもしれない。だが━━」

 

ゆっくりと目を開き、笑みを浮かべながらグレンデルに手を伸ばす。

 

「その誰かを助けるためにも、その誰かの所に帰るためにも力が欲しい。今回限りで構わない。俺に━━」

 

俺の手がグレンデルの鼻先に触れ、深紅と深緑が入り交じる輝きが放たれ始める。

 

「━━戦う(守る)ための力を寄越せ!」

 

『なんじゃこりゃ、何で奪えねぇ!何で食えねぇ!?』

 

狼狽えるグレンデルを無視し、俺は呪文を口にする。

 

「我、罪を重ねし罪人なり」

 

『我ら、罪人に罪を問い続ける者なり』

 

俺の呪文に、怨念たちの老若男女な声が入り交じった呪文が続いてくれた。

彼らの行動に小さく笑みを浮かべて続きを口にする。

 

「この身は朽ち果て、(こころ)のみが継がれ━━」

 

『その身朽ち果ててなお、(こころ)に刻まれた罪は消えず━━』

 

「故に死せず、さらなる罪を重ね━━」

 

『故に解放されず、さらなる罪を重ね━━』

 

「それでもなお、未来(あす)を望み━━」

 

『それでもなお、(かいほう)を望まず━━』

 

俺たちが言葉を発する度に深緑のオーラが深紅のオーラに呑み込まれていき、グレンデルが怯えの表情を浮かべ始めた。

 

『な、なんで食えねぇ!なんで俺様が食われそうになってやがる!?』

 

「それこそが贖罪となるならば━━」

 

『それこそが罰となるならば━━』

 

俺はグレンデルに目を向ける。奴はついにいつものギラギラした視線ではなく、怯えの色に染まった視線で睨んでくる。

それを受けながらも、俺は続きを口にする。

 

「『汝に見せよう、我らが闘いを━━」』

 

『や、やめろ……!やめろ!』

 

俺と怨念たちの声が混ざり、身体の奥底から力が湧いてくる。グレンデルが暴れ始めるが、そこまで力を感じない。

それを感じながら、俺たちは最後の一節を口にする。

 

「『我らが家族(とも)(のこ)そう。我らが生きた証を━━!」』

 

俺たちがそれを口にした瞬間、深緑のオーラは完全に深紅のオーラに呑み込まれ、生気を失った様子のグレンデルが俺の身体に溶け込んでいく。

さあ、行くか。あいつらの所に帰るためにも━━!

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

panished(パニッシュド) Force(フォース) Dragon(ドラゴン) Another(アナザー) Over(オーバー) Drive(ドライブ)!!!!』

 

『━━ッ!なんだ!』

 

トライヘキサと激闘を繰り広げていたサーゼクスは、トライヘキサを消し飛ばすと共に異常なオーラの高まりを察知してそちらに目を向ける。

その隙に身体を再生させたトライヘキサが背後から迫るが、横合いから蹴り飛ばされて海面に叩きつけられる。

サーゼクスは振り返り、トライヘキサを蹴り飛ばした人物に目を向けると、目を見開いた。

 

『ロイ、なのか……?』

 

「ああ。ほとんど面影ねぇけどな……」

 

サーゼクスの問いに、ロイは自分の頭を、正確にはそこから後ろ向きに伸びる角を撫でながら返す。

姿こそはロイである。だが、彼の頭からは紅の髪を掻き分けるように二本の角が伸び、顔の右半分は完全に黒い鱗に覆われてしまっている。だが、グレンデルに呑まれた様子もなく、逆にオーラも爆発的に上がり、怪我も完全に治癒していた。

サーゼクスは正面からロイの姿を捉えると、再び驚愕を露にした。ロイの右瞳は美しくもどこか恐ろしいほど曇りのない黒に染まり、左瞳は吸い込まれそうなほど鮮やかな紅に染まっている。

黒一色だった軽鎧(ライト・アーマー)には血管を思わせる深緑色のラインが走り、薄く点滅を繰り返していた。

 

「『罰せられし(パニッシュド)()罪を重ねし(シンフル・)滅魔龍(ルイン・ドラゴン)』とでも呼ぶか。グレンデルはどうにか押さえつけたから大丈夫だ」

 

自分の身体を眺めながら適当に言うロイ。いつもの調子の彼にサーゼクスはホッと息を吐くと同時に、トライヘキサが海面から飛び出して彼らと対峙する。

それを受けたロイはアロンダイトの切っ先を向け、サーゼクスは滅びの球体を複数自身の周囲に出現させる。

グレモリー兄弟とトライヘキサの闘いが、まさに始まろうとしていた━━。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

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