グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

175 / 219
life03 説明

俺━━ロイは目を覚まし、ボヤける視界で天井を見つめる。

あいつらがいきなり消えたのは覚えているが、あの後はどこに向かった……?どこかで戦っているのなら、早くそこに向かわねぇと……。

俺は上半身を起こしてベッドを降りようとすると、違和感を覚える。

戦闘中でも深紅のオーラを解放しているわけでもないのに、視界の右半分が見えているのだ。視界がボヤけてまったく焦点が合わないのはそのせいなのか?

俺は確かめるように右手で右目の近くに触れると、妙に硬いものに触れた感覚を感じ取れた。まるで、鱗に直に触れたような感覚だ。

少しずつ目の焦点が合ってくると、鏡を探して右手を伸ばすが、

 

「━━ッ!やっぱり、こうなるよな……」

 

その右手を見て自嘲(じちょう)するように漏らす。右手は全体的に黒い鱗に覆われており、爪も鋭く長くなっている。

右手を捻りながら様々な角度でよく見てみるが、俺の面影がある部分はない。完全にドラゴンのものになってしまっている。

俺はため息を吐きながら立ち上がろうとすると、病室に誰かが入ってくる。

 

「ロイさん!目が覚めたんですね!って、まだ寝ていてください!」

 

ロセだ。彼女は俺が立ち上がろうとしていることに気づき、慌てながら俺を寝かそうとしてくる。

下手に手を出して爪で彼女を切るわけにもいかない俺はされるがままになるが、寝かされた瞬間に起き上がってロセに訊く。

 

「トライヘキサはどうなった。今はどこで━━」

 

「それなら大丈夫にゃ。今は行方不明ってね」

 

唐突に病室に入ってきた黒歌がそう言う。行方不明だと?あいつら、どこで何をやっていやがる……。

あごに手をやって思慮していると、ロセと黒歌が意味深に視線を合わせていることに気づく。何か隠していることでもあるのだろうか。

 

「なあ、何かあるのか?出来れば隠さずに教えて欲しいんだが」

 

俺に言われた二人はほんの一瞬狼狽(うろた)えるが、頷きあうとロセが机から手鏡を取り出した。

 

「一応、覚悟をしておいてください」

 

真剣な表情で言うロセ。

俺は頷きながら右手を左手で小突く。

 

「まあ、こいつを入れた時点である程度の覚悟は決めてるよ。見せてくれ」

 

ロセは頷くと、ゆっくり手鏡に俺を写す。そこに写ったのは━━、

 

「おお、マジか……。思っていた以上だ……」

 

俺の顔だ。だが、右頬は右肩から首を伝って上がっていった黒い鱗に完全に覆われ、右目の瞳は銀色に染まっている。少しだが、右の犬歯も鋭くなっているような気もする……。

俺が鱗に覆われた右頬から首にかけてを撫でていると、黒歌が言う。

 

「また無茶したわね。アザゼルからざっくり聞かせてもらったけど、正気の沙汰じゃないわ」

 

「相手が相手だ。手段は選んでられねぇ」

 

俺が返すと、ロセは心配げに言ってくる。

 

「それもそうですけど、少しは相談してください。セラフォルー様も流石に怒っていましたよ……」

 

「あ、あれは怖かったわ……」

 

途端に顔を青くする二人。セラよ、二人に何をした……。

俺は肩をすくめながら言う。

 

「まあ、フォローしとくよ。今は会議とかに行ってんだろ?」

 

「ガブリエル様もそちらです。トライヘキサも邪龍たちも突然消えたんですから、上は大変なことになっていますよ」

 

そうだろうな。あいつらは指示を飛ばしたり被害を確認したりで大忙しだろう。俺も呑気に寝ているわけにもいかねぇか。

俺はベッドから降りると、足の感覚を確かめる。足までは持っていかれていない。歩いたり走ったりは問題なさそうだ。

 

「リアスたちはどこだ。一応、声をかけておきたい」

 

「でしたら休憩フロアです。イッセーくんのお見舞いをして、アザゼル先生から話があると言われてそこに向かいました」

 

「ヴァーリたちもそこにゃ」

 

なるほど、皆いるわけだな。てか、イッセーは大丈夫なのか?籠手を準備する前にアザゼルから聞いた話じゃ、リゼヴィムをあそこまで追い詰めたのはあいつだが、力尽きて意識不明になったと聞いたんだが。

病室を出ながらも抱いていたその想いが顔に出ていたのか、移動しながらロセが言う。

 

「イッセーくんも無事に目を覚ましました。少々問題があるようですが……」

 

「なんだっけ、胸が見えなくなったんだっけ?」

 

「声に出すこともできません」

 

「マ、マジか……」

 

イッセーから胸への想いを取ったら、何が残るんだ。とも思ったが、胸で奇跡が起きないだけで、ただの仲間想いのパワーバカになるだけだな。なんか、会話の内容とかも普通になるだけに思えるが、イッセー的には死活問題だろう。

黒歌が俺の右手に触れながら言う。

 

「この手、気を散らせば戻るかしら。でも相手は邪龍だし、散らすこっちがどうなるかわかんないのよね」

 

「とりあえず、対策が見つかるまではギブスや三角巾で隠しましょう。頬は、包帯か何かでどうにかするとして、学校は事故で怪我をしたとしてしばらくお休みになったほうが……」

 

色々と先のことを考えてくれるのは嬉しいが、黒歌がいたずらっぽく笑っている。絶対に何か考えてる!

俺の心中を察してか、黒歌が腕に絡みながら言う。

 

「そうなったら、一日中相手してあげる。安心して、絶対に戻してあげるから」

 

「わ、私だってお手伝いしますよ!黒歌さんばかりにいい思いはさせません!」

 

ロセが反対の腕に絡みながら言ってきた。言われたこっちは嬉しいんだが、ちょっと声が大きくない?ここ病院だし、回りには怪我人や病人が多いだろうに。

そんな心配をしていると、そのまま二人に引っ張られる形で休憩フロアに到着する。中にはリアスたちオケ研とヴァーリチーム、幾瀬鳶雄と見覚えのないヒトたちが数人。

 

「お兄様!大丈夫なのです…か……」

 

入ってきて早々にリアスはそう言いながら詰め寄ろうとするが、俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべる。会いに来たらいきなりこんな顔だからな、驚かせちまったようだ。

 

「大丈夫、大丈夫。ちょっと座らせてくれ」

 

俺はそう言って場所を空けてもらい、どっしりと座り込む。身体が重い。戦闘になれば大丈夫なんだろうが、まだ馴染んでいないってことだろう。

 

「それで、あんたらは?」

 

俺は見覚えのない数人について訊く。

最初に答えたのは、朱乃に似た雰囲気の二十代女性。

 

「姫島朱雀(すざく)よ。よろしく」

 

朱雀と言えば、姫島家の現当主が代々襲名する名前だったか。つまり、この女性が姫島家のトップ……。

次に金髪に碧眼の二十代女性。とんがり帽子にローブ姿を見るに、魔法使いか?

 

「私はラヴァニア・レーニです。分かりやすく言いますと、『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の所有者なのです」

 

な、なるほど。彼女がメフィスト様の秘蔵っ子、神滅具(ロンギヌス)の所有者というわけだ。なんか、すごい面子が揃っていやがる。

俺が苦笑していると、アザゼルが訊いてくる。

 

「それで、ロイ。体に問題は━━あるな……」

 

「見た目以外は問題ない。まだ違和感はあるが、どうにかなる」

 

俺は右手を握ったり開いたりしながら言うと、リアスが俺とアザゼルに視線を配る。

 

「アザゼル、お兄様。そろそろ詳しく説明していただきたいのですが」

 

リアスが急かしてくるので、いい加減説明を始めよう。

俺は右腕に籠手を出現させる。レプリカの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だったものは黒く変色し、宝玉も深緑色の輝きを放つものになっていた。

 

「お兄様につけられたのはレプリカの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だったはずです。この色は、やはり……」

 

「ああ。動かなくなったから、グレンデルの魂を入れてもらった」

 

『……ッ!?』

 

俺の言葉でリアスたちは驚愕し、言葉が出なくなっていた。アザゼルから説明を受けていたとはいえ、本当にやったとは思っていなかったのか。それとも、信じたくなかったのか……。

 

「やはり、そうなんですね……」

 

ロセがドラゴンのものになってしまった俺の頬を優しく撫でる。

それを横目にアザゼルが言う。

 

「天界に封印されていたグレンデルの宝玉。それに封じられたグレンデルの意識をロイのレプリカの宝玉に流し込んだ。提案された時は驚いたし、成功するかも賭けだったがな」

 

「まあ、俺も元から賭けのつもりだったわけだしな」

 

俺が言うと、アザゼルが俺の耳元で言う。

 

「(リリスだが、今はグリゴリの施設で保護している。終わったら迎えに行ってやれ)」

 

「(あ、ああ。わかった)」

 

なぜ俺がリリスを迎えに行くのかはさておいて、トライヘキサをどうにかするってのはなかなか難しいぞ……。

俺が思慮をしている横で、アザゼルが顔を青くさせながらぼやく。

 

「それにしたって、あの後セラフォルーにどれだけ言われたと思ってやがる……。久々に死ぬかと思ったぞ」

 

こいつにも色々とあったようだ。まあ、それはそれとして、おかげで力が増したことは事実だな。

 

「おかげでアジ・ダハーカともある程度だが張り合えた。それでいいだろ?」

 

「強くなったかもしれないが、そいつとの癒着はギリギリ外せるってところだ。下手に長時間戦えば取り外せなくなるどころか、文字通り意識を喰われる可能性もある」

 

俺の問いかけにアザゼルが真剣な表情で返してきた。こいつにもいらない罪悪感ってものを背負わせてしまったわけだし、当たり前か。

俺は右手を眺め、静かな声音で言う。

 

「覚悟はしていたさ。……まあ、喰われるつもりはねぇよ。外すのは何もかも終わってから、やるだけやってみてくれ」

 

「そうか。気を付けろよ……」

 

アザゼルはそう言うと椅子に深く腰かけて大きくため息を吐いた。俺のせいもあるが、心労がたかっているのかもしれない。

俺は右手の籠手を顔の前に持ち上げながら言う。

 

「これは、人工神器(セイクリッド・ギア)だよな。━━『大罪龍の籠手(クライム・フォース・ギア)』とでも呼ぶか」

 

俺が適当に命名していると、それを聞いた全員も呆れるように息を吐いた。

 

「ロイさん、前向きすぎです」

 

「そうか?なんか照れるな」

 

「誉めていません!」

 

ロセと俺がそんなやり取りをしていると、アザゼルが言う。

 

「とにかく、聖杯に関する新しい情報が手に入った。ロスヴァイセ、ギャスパー、意見が聞きたい。ちょっと来てくれ」

 

「「はい」」

 

返事を聞いたアザゼルは立ち上がり、この場を後にしようとするが、スーツを着た男性が休憩フロアに駆け込んでくる。顔色が非常に悪いところを見るに、余程の緊急事態が起きたのだろう。今の状況で緊急事態なんて、言われなくてもわかってしまう。

俺は立ち上がりながら単刀直入に訊く。

 

「動き出したのか。で、どこだ」

 

「はい。現れたのは━━日本近海です!」

 

邪龍の魔の手が、ついに人間界にまで伸びた。その事実を突きつけられ表情を強張らせるリアスたち。

次の戦場は人間界のようだが、やることは変わらねぇ。何がなんでも、トライヘキサを殺す……!

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。