コールブランドを構え、ロイと対峙するアーサーと、彼を睨みながら触手を蠢かせ、アロンダイトを肩に担ぐロイ。一触即発の空気が両者の間に流れ、他の者の介入を許さない。
近くの建物が崩れ、瓦礫が地面に落ちた瞬間、アーサーが飛び出す!一瞬でロイとの間合いを詰め、コールブランドで斬り込む!
ロイは彼の一太刀をアロンダイトで受け、つばぜり合いに持ち込もうとするが、アーサーはそれを受けずにそのままラッシュに持ち込んでいく!
アーサーの高速の剣撃と、空間に穴を穿ち、そこから刀身を飛び出せることで相手の死角をつく彼の剣技に、ロイの鎧に少しずつ傷が増え、砕けていく。だが、ロイはそんなものお構いなしにアロンダイトを振り回し、アーサーに打ち込んでいくが、アーサーはそれを華麗に避けて距離を取った。
アーサーは落胆したように息を吐き、興味なさげにロイを一瞥する。
「やはり、獣の相手は退屈ですね。力任せで技がない」
「オオオオオオオオオオオオッ!」
それを挑発されたと判断したのか、ロイは叫びながらアーサーに肉薄していき、豪快にアロンダイトを振り下ろす!だが、そこにアーサーはいない。彼は既にその場を待避し、ロイの背後を取っていた。
「あなたを殺したら、後が大変そうですからね……」
アーサーの声に反応し、ロイが振り向いた瞬間、彼をコールブランドの連撃が襲う!腕を斬られ、足を斬られ、体中を滅多斬りにされ、全身の鎧を砕かれたロイは脱力したように両膝をつく。一瞬のタイムラグを置いて兜が砕け、虚ろな瞳で俯き、動かなくなった。
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暗い。見渡す限り真っ暗だ。何も見えない。何も感じない。俺は、何だ……?
大切な何かがあったはずだ。大切な誰かがいたはずだ。だが、何もわからない……。俺は、誰だ……?
『━━おまえは罪人。もはや生きる価値はない』
『━━あなたは道具。もはや生き物ではない』
『━━おまえは人形。ただ殺すことしかできない、壊れた人形』
『━━あなたは』
『━━おまえは』
『『━━殺しを生き甲斐にする、狂った人形』』
問いかけに、様々な声で返ってきた。恨みを込めた、怒りを込めた声が俺に届けられる。
耳を塞ぎたい。この場を逃げ出したい。だが、体の感覚なんて、感じない。腕の感覚も、足の感覚も何もない。
ああ……。ああ……。心なんてなければどれだけ楽か。想いなんてなければどれだけ楽か。
黒一色の世界に、突然ある情景が映された。見覚えのある
ああ、そうだ。この世界が俺の居場所だ。この地獄が、俺の生きた、いや、生きる場所だ。
俺は影の世界に生きるべきだ。幸福も、平和も、未来もいらない。ただ殺して、壊して、そのうちどこかの誰かに殺されればいい。
そう。殺して、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して………!
これが、俺だ。俺は━━━。
よく見ると、この地獄に不釣り合いな異物が紛れていた。血のよりも鮮やかな紅髪の男だ。見た限り、右目が白濁しており、見えてはいないのだろう。その目で、俺を見つめてきていた。
まるで俺を憐れむように、否定するような目だ。
いつの間にか手に握られていた剣で、そいつの腹を叩き斬る。
達成感はない。心が揺らぐなんてもっての他だ。何も感じない。罪悪感なんて、感じたこともない。これでいい。何も感じず、心もなく誰かを殺せるほうが……。
『そうだ。誰もおまえを愛さない』
『誰もあなたを想わない』
『罪は消えない。抗う術もない。
俺の眼前には形容しがたい何かがいた。人間のようであり、獣のようでもある。俺を迎え入れるように、四対の手を広げていた。
それを迎え入れるように両腕を広げて近づき、躊躇いなくそいつを斬り伏せた。
地面にぶちまけられたそいつの血を口にすると、何かが俺の中に流れ込んでくる。ああ、これだ。俺の求めたもの。鉄臭く、生温かい。癖になりそうな、いや、もう癖になっている味。『死』の味だ。
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと
━━━━━
「━━━もっと、もっとだ………」
「ッ!」
アーサーは突然の殺気を感じ、その場を飛び退く。その刹那、アーサーのいた場所を黒い軌跡が通りすぎた!
リアスたちは驚愕の表情を浮かべる。先ほど膝をついたロイが立ち上がったからだ。それに加え、アーサーにつけられた傷は、黒い滅びの糸により縫い止められていく。
怪我の治療を済ませたロイはアロンダイトを杖代わりに立ち上がると顔をあげ、周囲を見渡す。
「……ロイ……さん?」
ロスヴァイセが声をかけるが、ロイはハイライトの消えた
ロスヴァイセがそれに気づき、半歩後ずさると、ロイが一瞬にして彼女の眼前にまで迫っていた!
「ッ!」
「……もっとだ……」
そう言いながら、ロスヴァイセの腹部に拳を放ち、そのまま殴り飛ばす!ロスヴァイセはそのまま瓦礫の山に突っ込み、意識を失った。
アロンダイトを持ち上げ、切っ先をリアスたちに向ける。
「もっとよこせ。おまえらの血を……」
アロンダイトを両手で構え、リアスを目指して飛び出す!木場とアーサーが反応すると、ロイは急停止、回転の勢いを乗せ、二人に向けて滅びのナイフを放って牽制する!
二人はそれをそれぞれの得物で弾くと、ロイが全員の視界から消え失せる!
黒歌は仙術による関知で彼の居場所を瞬時に突き止め、指示を飛ばす!
「アーサー、後ろよ!」
「━━ッ!」
一瞬反応が遅れたアーサーの背中に、袈裟懸けに傷がつけられる!
「くっ!」
それでもコールブランドを振り、ロイを牽制するが、彼は既にその場にはおらず、全員から間合いを取った場所に立っていた。
アロンダイトの刀身についた微量の血。それを指で拭い、指についたものを舐め取る。
「……全部だ。全部寄越せ。そうすれば━━」
左手に魔力を溜め、そのまま凪ぎ払う。同時に黒い滅びが刃となり、相対する者たちに襲いかかる!
全員が反射的に姿勢を低くしてそれを避けると、ロイは再び左手に魔力を溜め、天に向けてそれを放つ。
「━━俺も死ねる。罪から解放される」
『ッ!』
ロイの呟きにリアスたちが彼のいるほうに目を向ける。いや、向けてしまう。
全員の視界から外れた天高く放たれた魔力の塊が弾け、滅びの槍が雨のように降り注いできたのだ!
それを足に自信のある者は避け、自信のない者は防ぐが、ロイは次の手を打つ。左手で指鉄砲を作り、魔力を練っていく。
滅びの雨を防ぎきり、リアスたちは次の一手を止めようとするが、同時に地面から触手が飛び出す!先ほど放った触手がまだ地中に残り、それが再び動き出したのだ!
だが、木場はそれさえも掻い潜り、背後からロイに斬りかかる!
完全に死角のはずなのだが、ロイはアロンダイトの刃を背中に回してそれを防いでみせた。同時に、正面からアーサーが斬り込むが━━、
「な……!」
魔力を纏わせた手刀で難なく受け止めた。だが、これで両手を封じられたことになる。
「はぁ!」
「この!」
ゼノヴィアとイリナが側面からロイを攻めにいくが、彼は足で軽く地面を叩く。その瞬間、二人を串刺しにするために、地面から黒い刃が飛び出す!
「「ッ!」」
二人はギリギリでそれを避けると、ロイが両腕に力を込め、アロンダイトと手刀を凪ぎ払いながら一回転。木場とアーサーが弾かれ、空中に投げ出された二人に滅びのナイフを投げる。
二人は刹那の見切りでそれを弾き、体勢を整えて地面に着地する。ロイは彼らに追撃せず、後衛のいる方向にアロンダイトのオーラを放った!
黒歌が後衛全員を囲むように転移魔方陣を展開し、そのまま短距離転移。全員がその場を飛ばされた瞬間、彼女たちのいた場所が黒い濁流に呑み込まれ、塵一つ残さず消滅、小型のクレーターが完成していた。
リアスたちはダメージのある体に鞭を打って立ち上がり、ロイを包囲するように散らばる。一ヶ所に固まれば、まとめてやられると判断したのだ。
「おりゃ!伸びろ如意棒!」
美猴が如意棒を伸ばし、ロイに向かわせるが、
「フッ!」
ロイの振るったアロンダイトによってあっさりと砕かれた。美猴は一瞬驚愕するが、すぐに笑みを浮かべる。
「はぁぁぁぁああああ!」
『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』
ロイの背後に転移魔方陣で現れたリアスが、倍加の力を乗せた拳を放つ!その拳がロイを捉えると確信した刹那、彼女のあごをロイの回り蹴りが捉える!
兜を砕かれたリアスは一瞬意識を飛ばされ、膝をつく。そんな彼女に止めを刺そうと、ロイはアロンダイトを掲げ、今にも振り下ろそうとする。
「リアスッ!」
朱乃が雷光龍を放とうとするが、一瞬躊躇う。リアスとロイが近すぎる。今撃てば、リアスもろとも━━。
その一瞬が命取りだった。無情にもロイはアロンダイトを振り下ろし、リアスの頭を叩き割る!
「させないよ!」
━━━そうなろうとした瞬間、ロイに突然の突風が襲いかかり、彼を怯ませると、その風はリアスを朱乃のいる方向に吹き飛ばした。
「………!」
ロイは天に浮かぶ邪魔者を睨み付ける。そこにいたのは━━、
「いやー、ギリギリセーフ。で、ロイさん。今、なにしようとしたの……?」
今までとはうって変わり、殺気を放つデュリオが翼を展開していた。
デュリオはぼろぼろになったリアスたちに目を配り、最後にロスヴァイセだけが気絶していることに気づく。
デュリオはロイに対して、手で丸を作るような構えを取った。攻撃のためではない、彼を助けるために構えたのだ。
ロイは何か来ると判断したのか、デュリオにナイフを放とうとするがそれを木場、ゼノヴィアが阻止し、朱乃はデュリオを守るように障壁を張る。
「行くよ、ロイさん。『
デュリオはそう言うと、手で作った丸の中心にやさしく息を吹き掛けた。すると、そこから虹色のシャボン玉が出現した。それは一つや二つではなく、数十、数百にもなろうとしている。
ロイはをアロンダイト振り、シャボン玉を割っていくが、いくつかのシャボン玉は当たる。本来なら一つでも十分だ。だが、それでは足りないだろう。
デュリオはそう判断し、さらにシャボン玉を作り出し、ロイに向けて放っていく。
そして、数え切れないほどにシャボン玉が当たった頃、暴れまわっていたロイの動きが突然止まった。
時を同じくして、上空で起きていたイッセーとリゼヴィムの戦いが、終わりを迎えようとしていた……。
━━━━━━
どこまでも広がる地獄に、また不釣り合いなものが現れた。虹色のシャボン玉だ。さっきの男といい、これはなんなのか。
シャボン玉が当たる度に地面に波紋が走り、火が陰っていき、地獄の様相が崩れていく。
それを眺めていると、不意に声がかけられる。
「まあ、なんだ。我らがリーダーの技だな」
「━━ッ!」
驚愕と共に振り返る。そこにいたのは━━、
「おまえは、さっきの……!」
「よう、俺。久しぶりだな」
先ほど殺したはずの筈の男だった。
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俺━━ロイの目の前には、俺の髪と瞳をそのまま黒くしたような男が、血塗れで立っていた。いや、まあ、誰かはわかるんだがな。前世で嫌ってほど見た顔だ。
頬をかき、目の前の男を睨む。
「さて、どういう状況なのかよくわからねぇが━━」
俺が言い切る前に男がどす黒く、禍々しいオーラを放つアロンダイトで斬りかかってくる!俺はいつの間にか手に握られていた本来の輝きと聖なるオーラを放つアロンダイトで受け、そのままつばぜり合いに持ち込んだ!
「過去との決着のチャンスだよな?」
「ほざくな。何度でも殺してやる……!」
俺たちは同時に蹴りを放ち、そのまま後ろに吹き飛ばされる!
地面をスライドしながら勢いを殺し、同じく勢いを殺した男と睨みあう。
『過去を受け入れ、自分を見失わない』。おそらく、それができる本当のチャンスは今だろう。
燃え盛る地獄を背景に、
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。