グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life06 折れぬ聖剣(アロンダイト)VS全てを斬る聖剣(デュランダル)

構えを取るロイとストラーダ。睨み合う二人の放つ気迫に、彼ら以外の人々は一様に息を飲んでいた。

そして、二人は同時に動き出す!『騎士(ナイト)』である木場とゼノヴィア、ミカエルの『A(エース)』であるイリナ以外には到底見ることの出来ない速度で、両者は激突する!

二人の衝突で巻き起こる聖なるオーラの混ざった衝撃波が二人の周りのものを吹き飛ばし、リアスたちに襲いかかる!

彼女たちはロスヴァイセがとっさに張った障壁で事なきを得たが、間近に食らったロイの皮膚から煙が吹き出し、表情を歪めるが、素早く『痛覚無視』をすることで意識が飛ぶことは回避した。

そして、二人の剣士が同時に間合いに入れば、起こることは想像に難しくない。━━伝説に名を残す二つの聖剣がぶつかり合うのだ!

激しい金属音と共に火花が咲き乱れ、二人の足元にも余波で斬り傷が生まれていくが、眼前の敵に全神経を集中させている二人に、当たらなかった攻撃を気にする余裕はない。一瞬でも違うことに意識を向ければ、その瞬間に逃れられぬ死が訪れるからだ。

ロイはストラーダの重すぎる一撃を正面から受けることを避け、絶妙な力加減で受け流して攻勢に出るが、ストラーダが剣撃に織り混ぜる聖拳の一撃を警戒し、深追いは出来ない。決定的な隙を探り、ひたすらに捌いていく。

ストラーダはロイの考えを読むことは出来ていた。ゆえに下手な攻勢に出ず、ロイとの我慢比べに挑んでいた。力は圧倒的に自分が勝るが、技は彼のほうが上だろう。悪手を打てば、それが致命傷に繋がる。ありったけの集中力を注ぎ込み、彼と対峙していた。

ロイの振るうアロンダイトか残す深紅の軌跡と、ストラーダの振るうデュランダルの煌めく軌跡がぶつかり合い、その度に巻き起こる大小様々な衝撃波が周囲の景色を吹き飛ばしていく!

高速で数十という攻防を繰り広げるうち、ストラーダがデュランダルにオーラを迸らせると、そのままロイに斬りかかる。ロイは反射的にその場を飛び退き、その一撃は避けた。受けるには余りに危険すぎる一撃だ。

ロイは着地を決めると、アロンダイトを天高く掲げながらオーラを解放する。深紅の滅びと聖なる煌めきが入り交じった柱が天に伸びていく。

ストラーダはそれに応えるようにデュランダルを天高く構え、オーラを解放する!

 

「だあああああああああああっ!」

 

「はあああああああああああっ!」

 

二人の咆哮と共に二つの柱は同時に倒れ、激しく激突する!二つの力がぶつかり合い、フィールド全体を揺らしていく!

最初こそ互角だった二つのぶつかり合いは、徐々にストラーダの優勢に傾いていく。使い始めて数ヶ月のロイと、数十年という年月をかけて磨いてきたストラーダとでは、聖剣から引き出せる力に差が出るのは当然だ。

だが、ロイの狙いはそこにあった。彼はオーラの放出を強引に中断、同時にその場を飛び退いてデュランダルのオーラを避け、高速でストラーダの背後を取る!

 

「━━ッ!」

 

ストラーダもオーラの放出を止め、強引にデュランダルを振るってロイに斬りかかる!

だが、ストラーダが斬ったのは残像であり、本体ははるか上空から落下してきていた。

ストラーダは迎撃のためにタイミングを測りながら構えるが、ロイはアロンダイトの切っ先をストラーダの逆━━フィールドの天井のほうに向け、ジェット噴射の要領で魔力を放出、急加速しながら回転を加えてストラーダに斬りかかる!

アロンダイトとデュランダルがぶつかり合い、今まで以上の衝撃波を生み出し、フィールドの地面に地割れが起こった!

ストラーダは押し返そうとするが、先ほどまでとは比べ物にならないロイのパワーに一気に押し返せないでいると、踏ん張るストラーダを中心に地割れが広がっていく。

 

「ぬぅん!」

 

ストラーダはデュランダルを強引に振り抜いてロイを押し返し、彼を空中に放り出すと、そこをデュランダルで一閃する!

見えぬ斬撃がロイに迫るが、彼はその一閃を迎撃するためにアロンダイトを振り、同じく見えぬ斬撃を放った!

二つの斬撃がぶつかり合い、再びの衝撃波がリアスたちに襲いかかる。

空中でもろにそれを受けたロイは体勢を崩し、そのまま落下していくが、翼を展開して地面との激突は回避した。

ゆっくりと地面に着地するロイだが、同時に服の右袖が赤黒く染まり始め、義手から煙が吹き出し始める。

力が足りないのなら、無理やり引き出せばいい。痛覚を無視できるからこそ、()()()()()()()()()()()何も感じない。現に、右腕が悲鳴を上げているが、それを無視していた。義手に関しては、また作ってもらえばいいので使い潰す。

ロイは右腕を見ながら小さく舌打ちし、アロンダイトを構え直すとストラーダを睨み付ける。紅の瞳と黒い眼球から放たれる不気味な眼光を、ストラーダは肩で息をしながら睨み返した。

ロイが戦闘前から考慮していた作戦のひとつ。徹底的に消耗させ、撃破する。最も危険でありながら確実な作戦。それは文字通り効果抜群であり、ストラーダの限界は近づきつつあった。

 

━━だが、これでいいのか?

 

ロイの脳裏にそんな想いがよぎる。ここまで自分を追い詰めた人間は決して多くはないがいるし、ストラーダも彼らと同格かそれ以上だろう。だが、彼らと比べると何かが足りない。そう、まるで常に手加減されているような気持ち悪さがあるのだ。

肩で息をするストラーダに目を向けたまま、ロイは自分の変化を自覚していた。

 

━━存外、俺も戦いが好きになっているのかもな……。

 

戦いに何も見出だせなかった自分が、まさか戦いを『楽しんでいる』などと、思いもしなかった。それが自覚できたからこそ、もうひとつの想いがよぎる。

 

━━もう三十年ほど早く、自分が今の自分ほど強ければ、全盛期のストラーダと会えていれば、もっと違った自分になれたのかもしれない。

だからこそ、ロイは想う。

 

━━ああ、全力のストラーダと戦いたかった……。

 

圧倒的な技で自分を追い詰めた小次郎と、最強の神滅具(ロンギヌス)を手に自分を打ち負かした曹操。二人とは小細工なしで全力で戦い、一人には勝ち、一人には負けた。目の前にいる(おとこ)に、こんな姑息な手で勝ってしまって、それでいいのか。いや、(いな)だろう。

ロイは特に意識することなく構えを解き、そのままアロンダイトを背中に背負うと、ため息を吐いてストラーダに言う。

 

「悪い。なんか、冷めちまった」

 

「……そうか、すまない」

 

ストラーダは苦笑しながらロイに答えるとデュランダルを下ろす。

ロイは何となくだが、ストラーダという生きる伝説と戦える機会に、真っ先に食いつきそうなヴァーリチームの面々が反応していないことに合点がいった。おそらく、彼らはこうなることを予測出来ていたのだろう。

ロイは驚くリアスたちを他所に、(きびす)を返して後ろに下がり、そのままどっしりと座り込んだ。

 

「ロイさん、大丈夫ですか!?」

 

駆け寄るロスヴァイセに、ロイは軽く手を挙げて「大丈夫だ」と一言で答える。右腕は流れ出る血で真っ赤に染まっているが、痛覚無視をしているためあまり気にしてはいない。

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

俺━━ロイが一旦下がり、残されたイッセーたち。イッセーは宝玉から飛龍(ワイバーン)を出現させた。『白龍皇の妖精達(ディバイディング・ワイバーン・フェアリー)』とリアスが命名した、イッセーが白龍皇の力の一部を使える便利なものだ。いつかにプールで披露した新技も、あの飛龍(ワイバーン)を応用しておこなうものだ。

だが、そんなイッセーの横を通りすぎ、ストラーダと対峙する人物が一人。━━ゼノヴィアだ。彼女はエクス・デュランダルをエクス・カリバーとデュランダルに分離させ、右手にデュランダル、左手にエクスカリバーという構えを取った。

エクス・カリバーという抑えを失ったデュランダルはオーラを迸らせていた。

それを見たストラーダは、先ほどまでの疲労なぞないように、今回の戦闘で始めて戦闘高揚したかのように全身を震わせていた。

 

「そうだ。それでいいっ!デュランダルの元使い手の私からしてみれば、エクス・デュランダルは疑問の塊だった。デュランダルとエクスカリバー、完成したもの同士を組み合わせる必要がどこにある?それは貴殿がデュランダルに翻弄されて、補助などという愚行をエクスカリバーに課せたからに他ならない。貴殿は……一刀でも二刀戦える戦闘の申し子だ。否定するな。パワーを信じてこそ、力は本物になるっ!」

 

そこまで詳しく知らないが、ゼノヴィアはエクス・デュランダルが完成するまでは二刀流を好んでいた。そして今、そのスタイルに戻したのだ。

分かれた二本の聖剣から濃密でいて純粋な、圧倒的な聖なるオーラが迸しり、そのオーラを肌に感じるストラーダは目を潤ませていた。

 

「……ようやく、再開できたな、デュランダルよ。そう、それこそ本当の姿だ。さぁ、戦士ゼノヴィアよ。何も考えず、ただ来るがいい。デュランダルの真実は破壊のなかにしかないのだ」

 

「……はい!」

 

パワーの体現者たる二人が、ゆっくりではあるが、力強さを感じる歩みで距離を詰めていく。

まさに二人がぶつかるという距離で初めて剣が交錯した!

二人の剣が火花を散らしながらぶつかり合う!

 

「おおおおおおおおおおおおっ!」

 

「はあああああああああああっ!」

 

二人の戦闘の余波でフィールドが震えだし、ただですら俺とストラーダとの戦闘で悲鳴をあげ始めていたフィールドはさらに崩壊していく!

無事だった建物が今度こそ崩れ、地面がさらに大きく裂け、フィールドの天井も割れ目も広がり、次元の狭間特有の万華鏡を思わせる模様がさらに克明に見えるようになり始める。

観戦している俺たちは、ただ冷静に二人の戦いの最後を見届けようとしていた。

二人の攻撃は激しさを増していき、フィールドの崩壊をさらに進めていく!

ゼノヴィアがエクスカリバーとデュランダルをクロスして、振り下ろし、ストラーダはそれを真っ正面からから受ける形になった!

 

「がああああああああああっ!」

 

ストラーダが咆哮と共にゼノヴィアの攻撃を押し退けた!……だが、レプリカのデュランダルの刀身にヒビが生まれ、ストラーダも息を荒くしていた。もう限界が近い、いや、ゆうに越えているのだろう。

ついにその場で片ひざをつくストラーダ。このままいけば、まず間違いなくゼノヴィアの勝ちになる。

ゼノヴィアは勝負を決めるために近づいていくが、ストラーダとゼノヴィアの間にひとつの影が割って入る。見た目十二歳ぐらいの凛々しさを感じさせる顔の黒髪をした少年。特徴からして、イッセーたちが会ったというテオドロだろう。

その少年は涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、ストラーダを守るようにゼノヴィアの前に立った。さすがのゼノヴィアも困惑を隠せないでいる。

少年は涙しながら訴える。

 

「……ストラーダ倪下を許してやってくれ。全ては私が悪いのだ」

 

「テオドロ倪下……お下がりください。この老骨が全てを決めますゆえ」

 

そう言って立ち上がろうとするストラーダを少年が止める。

 

「もういい!もういいのだ!もう、十分だ!ストラーダ倪下までいなくなってしまったら、私は……私はどうしたらいいというのだ!」

 

少年は振り返り、背中に純白の翼を━━『奇跡の子』の証拠である天使の翼を生やした。

少年は消え入りそうな声で言う。

 

「私の……父と母は……悪魔に殺されたのだ」

 

俺たちを、悪魔を見る少年の目は━━悲しみに満ちたものだ。

 

「……悪魔は許さない!悪魔を許すわけにはいかないのだ!」

 

少年の叫びに返せる者はいない。悪魔である俺たちに、返す言葉があるわけがない。

ストラーダは悲哀に満ちた表情で少年を抱き寄せ、語り出した。

 

「……同盟もいい。それもひとつの平和の形だ。だがね。━━それで救われない者、憤りを感じる者もいるのだよ。テオドロ倪下も、今日立ち向かった戦士たちも生き方を魔なる存在に歪められて剣を取ったのだ」

 

━━平和はヒトによって違う。誰かにとっての平和が、誰かにとっての苦痛にもなる。それはわかりきっていた。

俺が常に抱いている想いでもある。誰かを殺して誰かを救うのは、必ず戦いの火種になる。だが━━、

 

「俺たちは━━」

 

俺が口を開くが、それを遮る者が一人。

 

「僕たちはッ!」

 

木場だ。

 

「僕たちは、ただ平穏に暮らしたいだけだ。あなたたちにもあなたたちの正義があり、あなたたちだけの価値観があるんだろう。けれど、我が主リアス・グレモリーもイッセーくんも、朱乃さん、小猫ちゃんも、アーシアさんも、ギャスパーくんも、イリナさんも、ロスヴァイセさんも、レイヴェルさんも、シトリー眷属も、ロイさんも、この町に住む多くの仲間たちは修羅場をくぐり抜けてきた仲間だ」

 

木場の表情は憑き物が取れたようなものになっていた。

彼にゼノヴィアも同調する。

 

「その通りだ。お互いに支え合ってきて命がけで戦い抜いてきた大切な仲間だ。たとえ、あなた方がそれをお認めにならなくても私たちにはここまで戦ってきた誇りがある!それに不満を覚える者たちが出たとしても、私たちを信じた者たちのためにこれからも戦う!」

 

ストラーダは二人の訴えに満足そうな笑みを浮かべた。

 

「なるほど、いい目だ。リアス・グレモリー姫よ。良い『騎士(ナイト)』を持たれましたな」

 

「ええ、自慢の『騎士(ナイト)たちよ」

 

リアスも誇らしげにしていた。

二人の『騎士(ナイト)』に並び立つイリナ。

 

「私も、悪い悪魔はいると思います。けれど━━」

 

イリナがイッセーに視線を送る。

 

「いい悪魔もいます。それは人間も一緒で、他の神話体系では、善神も悪神もいます」

 

ストラーダはそれを聞いて豪快に笑った。

 

「はっーはっはっはっ!いやはや、なるほどなるほど。しかし、天使である貴殿が異教の神を語るとは……。これが、新たな時代の幕開けを意味するのだろうか」

 

ストラーダは考えこんでいるが、どこかで楽しげだ。だが、ストラーダは剣を手にした。

戦士だからこそ、振り上げたものはしっかり下ろさないといけない。ストラーダはここで死ぬ気なんだろう。

俺は立ち上がり、若干ふらつきながらもストラーダに言う。

 

「全ての罰を、自分とクリスタルディだけで受けて死ぬ気だろ。おまえ……」

 

「ええ、私とクリスタルディの首を以て、天に許しを請おう。テオドロ倪下も戦士たちもまだ若い。これは私が蜂起させたものだから……。この戦場で吐き出したものと、私の屍を越えて、戦士たちは新たな生き方に転じることもできるだろう」

 

やはりか。こいつは最初から自分の命を捨てるつもりでクーデターを起こした……。

ストラーダの告白に戦士たちからも悲鳴が上がる。

 

「倪下!」

 

「そのようなことをおっしゃらないでください!」

 

「倪下、我らの命であれば、喜んで差し出しましょうぞ!」

 

「煉獄に行く覚悟はできておりまする!」

 

戦士たちは涙を流し、ストラーダを止めようとし始め、俺たちも動くに動けない状況になってしまった。

 

「私がころころしてあげるわよーん♪」

 

そんな中、ここにいるはずのない第三者の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 




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