悪夢の新年会から数週間、ついに駒王学園三学期が始まった。
旧校舎にはいつものオカ研メンバーと生徒会メンバー、アザゼルが集まっている。
全員いることを確認して、アザゼルが話し出す。
「新学期早々だが、悪いニュースだ。ま、悪いと言っても最悪ってわけじゃないが、おまえらの耳には入れておいたほうがいい」
イッセーたちの表情が固くなる。本当、新年いきなり問題発生とは、忙しくなりそうだな。
それを確認して、アザゼルは続ける。
「教会の一部信者━━主に所属していた戦士たちがクーデターを起こしたのは話したな?」
まあ、簡単に言うと、今まで敵対していた奴らと突然「仲良くしましょう」と言われても無理だ。と感じる奴が多く、不満が溜まりに溜まっていたわけだ。それが爆発し、現在発生しているクーデターに繋がってしまった。
俺が続く。
「━━と、言っても転生天使が頑張ってくれたおかげで大半は収拾できてるんだが……首謀者の三名が逃亡中、その三人にはまだかなりの数の戦士が付き従っているらしい」
ソーナが名を上げ始める。
「司教
それを聞いた一名を除いたメンバーが、一様に険しい顔になる。
その一名━━イッセーはよくわかっていない様子だ。まだまだ勉強不足だな。
「イッセー、簡単に言うぞ?教会の上から二番目、三番目、四番目の役職の奴がクーデターをやっているってことだ」
「……あ、ありがとうございます」
「だが、ストラーダってかなりの年じゃなかったか?」
イッセーの礼を流しながら訊いた俺の質問に、イリナが答える。
「はい、御年八十七になります」
「は、八十七……前デュランダル所持者もそんな年なのか」
俺の苦笑混じりの一言に、ゼノヴィアは目元を険しくさせた。
「……年齢のことは忘れたほうがいい。あの方は……生きる伝説、いまだ肉体は衰えていない」
「どんな鍛え方してんだよ……」
俺が呆れ気味に漏らすと、アザゼルが険しい表情のまま言う。
「まあ、ロイは任務とかで知らないことが多いかもな。ストラーダは昔にコカビエルと一戦交えたが、相当追い詰められた。つまり、少なくとも昔のおまえ並みに強いってことだ」
それから向こうも強くなっていることを考慮すると、今の俺と互角かそれ以上か……。
俺はあごに手をやりながら次のヒトに話題を変える。
「クリスタルディはエクスカリバーの使い手だったな。確か……三本を同時使用だったか?」
俺が若干疑問形で言うと、アザゼルは頷く。
「ああ。クリスタルディが現役だった頃はグリゴリでも話題の人物だった。理論上、全て使えたのではないかと言われてもいる。ていうよりも、ストラーダもクリスタルディも戦士時代に大きく名を馳せた怪物だよ。多くの戦士を育成した成果も相まって、戦士出の聖職者としては二大巨頭だ。そんな二人が声をかければ、どれほどの戦士が動くか……」
元デュランダル使いと、元エクスカリバー使いか。何か、変な縁みたいなものを感じるんだが……。
「それで、テオドロ・レグレンツィは最年少で司祭枢機卿に上り詰めたスゴい奴。……で、あってるよな?」
再び疑問形で言うが、アザゼルもよくわかっていないような表情になっていた。
「俺もその程度の認識しかない。イリナ、どうなんだ?転生天使のおまえなら何か知ってるんじゃないか?」
イリナはあごに手をやり、首を傾けて考えている様子だった。
「私も名前だけしか知らないんです。シスター・グリゼルダも同様かと……」
転生天使でも会ったことがない司祭枢機卿、何かありそうだな。どんな奴かを想像してみるが、ほとんど予想つかない。とりあえず、転生天使でも詳しくは知らないほどの重要人物ってことだよな?
俺が横で小さく唸っていたせいか、アザゼルが若干憎々しげに言ってくる。
「おまえ、ガブリエルにでも聞いてみればどうだ?忘年会のとき、抱きつかれていたじゃねぇか」
「……あいつも忙しいだろうからな……って、なんでその話題を出すんだよ……」
俺は横目でリアスたちのほうに目を向けるが、一様に疑問符を浮かべていた。
「……ま、タイミングを見て訊いてみるさ。さっきも言ったが、あいつは忙しいだろうから、そんなすぐには無理だろうよ」
「頼んだぜ」
俺の言葉に頷くと、アザゼルが改めて口にする。
「さて、話を戻すぞ?クーデターを起こした連中が今も逃亡しているが、目的地はおそらく、ここだ」
アザゼルが人差し指を下に向けながら言った。
俺が続く。
「捕らえた戦士から聞き出した情報では、奴らはD×Dとの邂逅を望んでいるそうだ。同盟の中心とも言えるおまえらと会ってみたいんだろう。話し合いで済めばいいが……」
緊張感が増すイッセーたちにアザゼルは苦笑した。
「ま、そこまで気を張るな。命懸けの連続でそうなっちまうのもわかるが、今回は血生臭いことにはならないだろうよ。実際、クーデターで怪我人は出ているが死人は出ていない。今回はあくま戦士の不満が爆発しただけだ」
俺はアザゼルに続く。
「だが、こういう時をテロリストは狙ってくる。噂じゃ、リゼヴィムが煽ったって言われてるからな。用心を忘れるなよ」
『はい』
全員の返事を確認したとろこで俺は時計を見る。
「さて、そろそろ会議の時間だ。行ってくる」
俺の言葉にアザゼルが訊いてくる。
「ん?会議なんてあったか?」
「体育教師は忙しいんだよ」
俺はそう言って旧校舎を後にするのだった━━━。
━━で、俺が訪れたのは冥界だ。首都リリスの大通りにあるカフェに来ていた。格好はラフなもので、髪も黒く染めている。正体を隠してでもやりたいちょっとした用事があるのだ。
ちなみに、会議は実際に行われており、それは手早く済ませてきた。アザゼルたちに嘘は言っていない。
俺が冥界に訪れた理由、それは━━。
「久しぶりだな、ゼロ」
「その呼び名は止めてくれ……。まあ、今はそのほうがいいか」
俺が苦笑しながら返すと、きっちりとしたスーツ姿にサングラスをかけた、元同僚の男性悪魔が向かいの席に座った。
特に話すこともないので、話題に入る。
「……で、どんな感じだ?」
俺の問いに、彼はため息を漏らす。
「クレーリア・ベリアルのことは、あまりわからなかった。骨折り損だ」
「そうか、悪かったな」
「……………」
「……………」
そのやり取りを最後にお互い黙りこむ。空気が重いが、そうなって当たり前だろう。俺が頼んだことが頼んだことだ。
少し前、今もエージェントとして活動しているこいつには「クレーリア・ベリアルについて調べてくれ」と頼んだのだ。
病院で色々と考えて、俺なりに首を突っ込んでみることにしたのだが、俺一人では全然情報が見つからない。━━不自然なほどに。
そんなわけで、今でも現役のこいつに頼んだわけだ。だが、こいつでもまったく探れなかったとなると、いよいよきな臭くなってきたな……。
「そう言えば、タバコを吸っているらしいな。吸うか?」
なんて言いながらタバコを箱ごと差し出してくる。なんで俺がタバコを吸っているって知っているんだ……?誰かから聞いた?
「たまにな。最近は吸えてねぇから、助かる」
俺が手をだして受け取ろうとすると、いきなり顔を寄せてくると、耳元でぼそりと漏らす。
「(あまりこの件には関わるな。おまえのためにも、レヴィアタン様のためにも……)」
そう言うと彼は席を立ち、そのまま店を出ていった。
……なんか、かなりヤバイことに首を突っ込んでいるみたいだな。まあ、覚悟はしていたが……。
ふと、テーブルにタバコ箱が忘れられていることに気づく。あいつ、大事な話をしに来て忘れ物をするかね……。
俺はため息を吐き、そのタバコを手に取る。━━そして、同時に違和感を感じた。なんか、妙に重い。新品でもないのに、
タバコ箱の中身を覗きこむと、中にはUSBと思われるものがタバコに紛れこんでいた。
あいつ、何か掴んだのか……。
俺は箱からタバコを一本取り出し、火をつけた。何かかなりヤバイものに、あいつを巻き込んでしまったようだ……。
人間界に戻ってきて数時間経ち、あっという間に深夜になった。
兵藤宅の地下プールに、オカ研、デュリオ、グリゼルダ、ヴァーリチーム、
何か大問題がってわけではないのだが、イッセーが『新技』を見てもらいたいというので集まったわけだ。
━━で、見た感想としては、よく考え付いたもんだ。と言ったものか、俺では思い付かないものだった。
その発表を終え、イッセーたちはそのままプールで遊びはじめたのだが、俺はプールに入らずそのまま戻ることにした。あのUSBを確認しておかねぇと……。
足早に立ち去ろうしたが、突然腕を引っ張られ、止められる。俺は振り向きその引っ張った相手を見ると、顔を真っ赤にした水着姿のロセだった。
「あの~、ロイさん?」
「ロセか、どうした?」
「えっと、その……」
ロセは口ごもっているが、チラチラとイッセーの方を見ていた。そのイッセーはリアスと朱乃のオイル塗りをしているわけだが……。
「……やってほしいと?」
俺の質問に無言で頷くロスヴァイセ。
「了解。オイル持ってこい、やってやるよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
ロスヴァイセは満面の笑みを浮かべオイルを取りにいった。
たまにはいいだろう。こういうのも……。
俺が苦笑していると、背後から誰かに抱きつかれる。背中に強烈な柔らかさが伝わってきた……!
「なら、私もやってもらおうかにゃ」
抱きついてきたのはもちろん黒歌だ。いつものように気配もなく抱きついてきた。って、こいつから布の感覚がないんだが、もしかして、直に触れあってるのか……?
「あー、黒歌?おまえ━━」
「何にも着てないにゃ。どう?気持ちいいかにゃ?」
なんて言いながら体を擦りつけてくる黒歌。彼女の身体の柔らかさを全身で感じてしまうぅぅぅぅぅ!
「な、ななな何してるだぁぁぁぁぁ!」
戻ってきたロセに押し飛ばされる黒歌。まあ、相変わらずの身のこなしで華麗に着地していたがな。
黒歌は余裕そうに笑みながら言う。
「ただのスキンシップにゃ。あんたもこんくらいできなきゃ、あいつらに勝てないわよ?」
それを受けたロセは全身をプルプルと震わせながら水着に手をかけて、勢いよく━━。
「させるわけねぇだろ!」
急いでロセの手を押さえ込み、それを阻止する!いきなり脱ごうとするなよ!?リアスたちの目もあるってのに!
ロセはじたばた暴れながら怒鳴る。
「こうでもしねっと、ロイさの心を掴めね!」
「そんな事しなくても大丈夫だって!おまえに惚れてるのは事実だから!」
俺が勢いのままそう言うと、ロセの顔が真っ赤に染まり、湯気が出始める。いけね、まだ慣れていないんだった……。
俺は拘束を解いて素早く話題を変える。
「━━で、オイルだろ?塗ってやるから横になれ」
「は、はい」
「はいにゃ」
ロセと黒歌が並んで横になる。……黒歌にまでやらねぇといけないのか……。
俺はため息を吐きながら、二人にオイルを塗ることにした。まあ、あとで何かと言われるのは面倒だからな。
━━で、なんかやるたびにロセと黒歌が「はぅっ……」とか「ふにゃ……」とか甘い声を出しながら潤んだ眼で見つめてきて、崩れかける理性を支えるのが大変だった。
あいつに頼んでおいてなんだが、USBは明日にしよう。なんか疲れた……。
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