グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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幕間編⑦
Extra life01 また、山へ


突然だが、俺━━兵藤一誠をはじめとしたオカ研メンバーは、冥界に来ていた。

初めは仕事の報酬の整理のためだったんだけど、その途中で、サイラオーグさんとその『女王(クイーン) 』のクイーシャ・アバドンさん(金髪ポニーテールの美人さんだ!)がグレモリー城に来たんだけど……。

 

『我がバアル領にも「ゆるキャラ」を推進したいという話でな。俺がスーツアクターとして手を挙げたのだ』

 

サイラオーグさんはその『ゆるキャラ』の着ぐるみに身を包んだままそう言った。

寸胴な着ぐるみで、頭はリンゴをを思わせるフォルム、そこにかわいらしい顔が加えられている。背中からは悪魔的な翼の格好だ。

そのせいで、最初はサイラオーグさんって、分からなかったんですよ?せめて喋ってから被り物をしてください。

俺が心のなかで呟いていると、サイラオーグさんは続けた。

 

『実は、今日はグレモリー領で行われるイベントにこの「バップルくん」が招待されているのだ』

 

イベント!それにバップルくん!

なるほど、だからサイラオーグさんはこの格好なんですね。本番前に着替えれば良いのでは?と訊くのは野暮だろう。

 

「キャラクター名の由来は、我が領の特産品のひとつであるリンゴを取り上げてみたのです」

 

クイーシャさんが説明してくれた。

バアルの特産品であるリンゴ(アップル)のキャラクターで『バップルくん』なのか、わかりやすい。

サイラオーグさんは強く頷く。

 

『次期当主として、公共事業を見据えていきたいのだ』

 

その一環として、次期当主がスーツアクターをしていると?

サイラオーグさんが少しわからなくなっていると、ロスヴァイセさんがリアスに訊いた。

 

「ふと疑問に感じたのですが、グレモリー領にも『ゆるキャラ』があたりするのですか?」

 

リアスは小さく笑うと、それに答えた。

 

「ええ、グレモリー領にも『ゆるキャラ』はいるわ。そして、その『ゆるキャラ』をメインとしたイベントが、もうすぐおこなわれるの。バアル領のバップルくんとコラボレーションすることになっていて、サイラオーグが今日ここに来たというわけなのよ」

 

リアスはそう言うけど、若干テンションが低い。『ゆるキャラ』に何かあるのかな?

サイラオーグさんは腕を組みながら言う。

 

『そのイベントに参加すれば、宣伝効果にも繋がり、我が領の特産品も注目を浴びるだろう。ぜひとも参加したい。今日は胸を借りるぞ、リアス』

 

被り物で表情はわからないが、とてつもない覇気を放っている!

リアスがサイラオーグさんに続いて言う。

 

「そのようなわけで、これからイベント会場に向かうわよ」

 

こうして俺たちは『バップルくん』と共にイベント会場に転移することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━というわけでイベント会場。

俺たちは舞台袖に集まっていた。見た感じたでは、子供連れの親子を中心に、老若男女けっこうな数が集まって見える。

今回、俺たちの出番はないけど、俺たちの横には、

 

『………………』

 

無言で腕を組み、覇気を放っている『バップルくん』と、

 

『ゴモゴモ!』

 

「ひぃっ!」

 

『ゴモ!』

 

「ひぃぃぃぃっ!」

 

リアスにちょっかいを出しているグレモリー領の『ゆるキャラ』である『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』がいる。

『ゴモりん』はラクダを模したキャラクターだ。グレモリーはラクダに乗って召喚に応じると言われているため、そこからキャラクターを制作したらしい。

ちなみに、リアスが『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』を怖がっている理由は、幼い頃にラクダをかまっていたら、手痛い逆襲を受けたらしく、それからラクダが苦手になってしまったそうだ。

ロイ先生曰く、

 

「任務に行って戻って来たら、なんか大変なことになっていた……」

 

と、言葉少なに語るだけだった。

それにしても、サイラオーグさん、緊張しているのかな?こうあうイベントとは縁のなさそうなヒトだし。『ゆるキャラ』が闘気が漏れているのは、なかなかの恐怖なんですけど………。

 

そんな俺をよそに、ステージ上の司会進行役のお姉さんがマイクでお客さんに促す。

 

『それではみんな!「ゴモりん」と「ゴモりんJr.」、「バップルくん」を呼んでみようか?みんなも大きな声で呼んであげてね!』

 

子供たちは満面の笑みで大声をあげる。

 

『『『『『ゴモりーんっ!』』』』』

 

『『『『『『ジュニアーっ!』』』』』

 

『『『『『『バップルくーんっ!』』』』』』

 

子供たちからの声援をうけた三人(?)は勢いよく袖から飛び出した!俺たちは見守るしかない。

舞台では慣れた様子で『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』が子供たちと接していくが、『バップルくん』は若干戸惑っているようで、挙動がおかしい。

 

『あれれ?「バップルくん」、どうかしたのかな?調子が悪いのかな?』

 

と、司会のお姉さんにフォローされている始末だ!やっぱり生真面目なサイラオーグさんに『ゆるキャラ』のスーツアクターは無理だって!

『バップルくん』が動かないなか、『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』は軽快な反応をお客さんに見せていた。そうとう場数を踏んでいるように見える。

その後、いちおう問題なくイベントは進んでいき、子供たちとの触れあいタイムとなった。

 

『ゴモゴモ』

 

「『ゴモりん』かわいいっ!」

 

『ゴモりん』に抱きついた女の子の一言で、『ゴモりんJr.』が「ガーン」と音が出そうなほどわざとらしくショックを受けた様子で、四つん這いになりながら軽く地面を叩いていた。すると、

 

「僕は『ジュニア』の方が好き!」

 

男の子がそう言いながら『ゴモりんJr.』に抱きつくと、

 

『ゴモモ!』

 

『ゴモりんJr.』は嬉しそうに男の子を抱きしめ返していた。

『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』は子供たちと楽しそうに戯れているのだが、

 

『………………』

 

『バップルくん』は立ち振る舞いもせず、無言で腕を組んで妙な迫力を放っていた!

サイラオーグさん!やっぱりあなたには無理ですって!あなたの闘気は視認できるレベルなんですから、体から漏れる白い発光現象は『ゆるキャラ』にあってはならないものですよ!

『バップルくん』の近寄りがたいオーラについに子供が……、

 

「う、うええええええええんっ!」

 

泣き出してしまった!子供ってこういうのに敏感だから、余計に怖がってしまったのかもしれない!

 

「このリンゴ、なんだか怖いよぉぉおおおっ!」

 

連鎖的に『バップルくん』の周りにいた子供たちが泣いてしまう。

 

こうなってしまったら、もう収拾がつかなくなる。

 

俺がそう思った矢先、

 

『ゴモモ!』

 

子供たちの泣き声を遮るように『ゴモりんJr.』が大声をあげた!ステージ上の視線を一身に受ける『ゴモりんJr.』は、腕を腰に当て、胸を張るようなポーズを取っていた!

 

先ほど泣いていた子供たちも静かになり、『ゴモりんJr.』を見ているほどだ。

 

『ゴモりんJr.』はそれを確認すると『道を開けてくれ』と言わんばかりに、手首を横にクイクイっとするジェスチャーをした。

 

子供たち、司会のお姉さん、『ゴモりん』、『バップルくん』がステージの端に集まったことを確認して、『ゴモりんJr.』は舞台袖ギリギリまで移動して、右手を挙げた。

舞台袖の俺たちも注目していると『ゴモりんJr.』は走り出し、そして!

 

『ゴモーッ!』

 

手なしロンダートをした!確か『ブランディ』って言うんだよな!前にロイ先生が見せてくれた!まあ、「真似するなよ」と真面目な顔で注意されたけどな!

それより今の、着ぐるみとは思えないキレのよさだったぞ!

子供たちだけでなく、俺たちも驚愕していると、『ゴモりんJr.』はそのまま━━、

 

『ゴモモーッ!』

 

前方宙返りに繋げた!ステージの反対側まで来たことを確認すると振り向き、再び助走をつけて、

 

『ゴモモモーッ!』

 

バク宙で締めた!しかも、バク宙で少しだけ前に進んでいる!?

 

『ゴモッ!』

 

そしてポーズを決める『ゴモりんJr.』。ステージは静寂に包まれるが、

 

「ジュニア、すごーい!」

 

「ジュニア!」

 

「すごいすごい!」

 

先ほど泣いていた子供たちも笑顔になり、『ゴモりんJr.』に飛び付いていた。

 

『ゴモモ……!』

 

複数人の子供にくっつかれ、そのまま押し倒される『ゴモりんJr.』。子供たちは笑顔になったが、

 

『……………ッ!』

 

『バップルくん』がショックを受けた様子で、その場で固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

イベントが終わり、楽屋に戻ってきた俺、兵藤一誠を含めたオカ研と、三人の『ゆるキャラ』たち。

戻ってきて早々に、サイラオーグさんは椅子に腰掛けて深くうなだれていた。

 

「………なんということだ。子供に嫌われてしまうとは……俺は『ゆるキャラ』失格だッ!」

 

相当ショックを受けているようだ。顔を両手で覆い、見たことがないほど落ち込んでいる。きっと、畑違いってやつだと思うんですけど。

 

「きっと、気合いが入りすぎて闘気があふれ出してしまっただけですって」

 

「そうよ、気にする必要はないわ。場数を踏めば要領も得られるでしょうし。って、何も次期当主がやらなくてもいいのよ?」

 

俺とリアスが励ますが、サイラオーグさんは深く息を吐いた。

 

「それでも俺は……己の鍛練の甘さを恨めしく思うばかりだ」

 

根っからの真面目なヒトだから、いつも以上に張り切っていたのだろう。

 

『ゴモゴモ』

 

『ゴモモ』

 

『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』がサイラオーグさんの肩に手を置き、励ましていた。

 

「……俺を慰めてくれるというのか、ゴモりん、ゴモりんJr.。……いや、あなた方は、まさか!?」

 

サイラオーグさんが何かを察して勢いよく立ち上がった。

『ゴモりん』が頭部を脱ぎ出した。そこに現れたのは━━。

 

「ごきげんよう、皆さん。私です」

 

紅髪のダンディな男性!

 

「お、おおおおおおと、お父様っ!?」

 

仰天するリアス!当然だろう!『ゴモりん』の中からお父さんが出てきたのだから!

リアスのお父さんが言う。

 

「ちなみに、『ゴモりんJr.』は……』

 

『ゴモモっ』

 

そう言って『ゴモりんJr.』から現れたのは、

 

「俺だ」

 

紅髪の若い男性!

 

「お兄様!?」

 

「ロイさんっ!?」

 

リアスはさらに仰天した様子だ。ロスヴァイセさんも「今日は用事があるから行けない」と言っていたロイ先生が『ゴモりんJr.』の中から現れたのはだから!

ロイ先生が汗を拭いながら言う。

 

「あー、しんどかった……。無理は禁物だな……」

 

「うん。ナイスフォローだったよ、ロイ。いきなりで驚いたがね」

 

「そうですか?まあ、俺たちは子供たちを楽しませてなんぼですからね」

 

「それもそうだ。少し踊ってみてもよかったかな?」

 

「それで子供たちに一緒に踊ってもらうとか、いいかもしれませんね」

 

「うん。次のステージでやってみよう」

 

━━と、勝手に反省会を始めるお二人。な、なんか手慣れてるな……。

俺たちが突然のことで固まっていると、サイラオーグさんが深く頭を下げる。

 

「お二人の手を(わずら)わせてしまい、申し訳ありません……」

 

ロイは反省会を中断し、軽い感じに笑いながら言う。

 

「いや、気にすんなって。誰だって最初は失敗からだ」

 

「そうだぞ、サイラオーグ。では、さっそくレクチャーを始めよう。『ゆるキャラ』の基本は━━」

 

サイラオーグさんに色々と教え始めるリアスのお父さん。手持ちぶさたのロイ先生は、リアスの死角に回り込むと『ゴモりんJr.』の頭を被り━━、

 

『ゴモモ~』

 

「ひぃっ!」

 

リアスを追いかけ回していた。ロイ先生は妹への軽いスキンシップなんだろうけど、逃げ回るリアスの表情は真剣そのもので、必死にお兄さんから逃げている。

そして、ロイ先生の入る『ゴモりんJr.』を見ながら、ロスヴァイセさんは「……抱きつきたい……」と漏らしていた。

クリスマスから、お二人の仲がより深まっているように見えるのはなんでだろう?何かあったのかな?

俺たちがそんな様子を見て苦笑していると、

 

「しかし、このままでは今後『ゆるキャラ』のイベントには出られんッ!他者が許しても俺がそれを許さないのだッ!このままでいいのか!?否ッ!己を研磨してこそ俺ッ!己を虐げて高めることこそサイラオーグ・バアルなのだッ!」

 

サイラオーグは心底悔しがっていた。すると、不意に俺に視線を送ってくる。

 

「兵藤一誠、頼みがある」

 

「え?あ、はい!」

 

サイラオーグさんが俺の肩をつかむ。

 

「━━俺と山ごもりをしてくれないだろうか?山でおまえと共に『ゆるキャラ』を高めていきたい……ッッ!」

 

俺は困惑しながら訊く。

 

「や、山籠りですか?い、いやー、俺、山籠りは何度かしたことありますけど、『ゆるキャラ』の修行はしたことないなぁ……」

 

いきなりのことで消極的な俺だったが、リアスのお父さんは深く頷く。

 

「うむ。では、サイラオーグ、私が付き添おうではないか」

 

それにリアスを角まで追い詰めたロイ先生が、こちらに振り向きながら手を挙げて言う。

 

『それじゃ、俺も行くごも』

 

『行くごも』って、何言ってんですか!?そこは、「俺も行くか」でいいと思いますよ!?

俺が心中でツッコミをいれていると、リアスのお父さんさんは頷きながらロイ先生を褒める。

 

「さすが、ロイだ。己の殺し、キャラになりきること。『ゆるキャラ』の基本がしっかりできている」

 

「なるほど。先ほど教えていただいたのは、この事なのですね!」

 

熱心にリアスのお父さんの言葉に耳を傾け、ロイ先生の一挙動一挙動を注視するサイラオーグさん。いいんだろうか、これで……。

 

「さっそく、『ゆるキャラ』修行に最適な山に案内しよう。兵藤一誠くんもついでに来なさい」

 

マジですか!?リアスのお父さんに言われたら拒否しようにも━━。

 

『行くごも行くごも。きっと楽しいごも』

 

俺の襟首をがっつり掴んだ『ゴモりんJr.』が、そう言いながらお父さんとサイラオーグさんのほうに歩み寄る。

前言撤回。拒否権なんてねぇよ!強制連行だよ!

俺は抵抗することなくそのまま運ばれていき、足元に転移型魔方陣が展開される。

転移の光に包まれていくなか、若干顔色が悪いリアスがお父さんとお兄さんを呼ぶ。

 

「……お、お父様!お兄様!きっと、お母様が激怒されますわ!」

 

……そ、それはまずい!リアスのお母さんは、誰に対しても厳しい方だ!こんな事態を知ったら、どうなるかわかったもんじゃない!

リアスのお父さんは体を大きく震わせるが、振り切るように言う。

 

「……行こう、三人とも!」

 

転移の光が弾けようとした瞬間、

 

『ここまで来たら、どうせ説教ごも……』

 

と、覇気のない『ゴモりんJr.』の言葉が聞こえた気がした━━。

 

 

 

 

 

 




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