俺━━ロイとセラのデートが中止になった翌日。
イッセーたちがトレーニングに励んでいる頃、俺は昨日起きたことを改めてアザゼルに連絡していた(兄さんたちにも連絡済み)。
『なるほど、リゼヴィムも出てきたか……』
「ああ。あいつ、俺にどんだけ興味あんだよ、気持ち
俺が吐き捨てると、映像に映るアザゼルが苦笑する。
『ま、男に付きまとわれるのには慣れているだろ?』
「コカビエルのほうがまだましだ。俺一人でどうにかできるからな」
俺がそう返すと、アザゼルの表情が引き締める。
『で、その剣士の話だが━━』
「ああ、あいつの剣、八つ首のドラゴンが生えたぞ」
アザゼルがあごに手をやり、しばらく考えると、答えが出たのか口を開く。
『おそらく、「
「すまねぇ、日本神話はさっぱりなんだ」
『……勉強しろ』
軽くボケたら、アザゼルからマジの声のツッコミが返ってきた。
俺は苦笑する。
「冗談だよ。で、どう倒せばいい?」
俺の問いにアザゼルはため息を吐き、思い出しながら言ってくる。
『そうだな。
「遠距離から削ればいいわけか、了解だ。銃剣がもつかがわからねぇがな」
『改良してはいるんだがな。おまえの魔力が強くなったんだろうよ。使わずに戦ったほうがいいと思うぞ?』
「だよな。結構気に入っているんだが、そろそろ限界か……」
模擬戦中にいきなり煙を吹いたり、火花散ったりと、限界が近い。もう使わないほうがいいかもしれないなと考えているこの頃だ。毎回修理に出してはいるが、前よりも壊れる間隔が短くなってきている。
『ま、代案を実行中だ。リゼヴィムにも対抗しないといけないからな』
「なんだそれ。聞いてないぞ」
『すぐにわかるさ』
すぐにわかるって、何が用意されているんだ?
俺が割りと真剣に思慮していると、アザゼルが訊いてくる。
『ところで、悪魔側で色々と起きているそうだが、大丈夫なのか?』
「ああ、それか。そっちはリアスが対応してる。そういうのはあいつのほうが得意だろうからな。俺は、リアスの穴を埋めて、休日返上でクリスマス企画に参加だ」
『少し休めって言った矢先にこれか。おまえ、大丈夫か?』
「別に、十年近く神経尖らせるよりはマシだ」
若干拗ねたように言うと、アザゼルが苦笑する。
『おまえ、昔よりもちょっとした感情も表に出すようになったよな』
「そうか?まあ、色々と吹っ切れたからな」
俺が笑みながら返すと、アザゼルも『そうか』と呟くと別れの言葉を残して連絡を切った。……さて、俺も頑張りますか!
アザゼルとの連絡を終えた俺は、クリスマス企画の立案者である栗毛の男性に頭を下げて謝罪していた。
「ロイ・グレモリーだ。昨日は私用で会えず、申し訳ない」
「頭をあげてください、私の到着もいきなりでしたから。プライベートは大切ですから」
男性の言葉を受けて俺は顔をあげると、男性が挨拶を始める。
「今回のクリスマス企画の立案者━━紫藤トウジです。いつもイリナがお世話になっております」
そう、姓で分かるが、今回の企画の立案者はイリナの父親なのだ。初めて聞いたときは驚いたが、確かに面影がある。高めのテンションも含めて……。
俺とトウジさんが挨拶を済ませると、ちょうどよくイッセーたちのトレーニングも終わった様子だった。
この後俺たちは、昼飯を挟んで町に繰り出す。プレゼントを探しに行くのだ!
そんなわけで、俺、ロセ、木場、ギャスパー、小猫は、駒王町から三つ離れたある町に来ていた(それ以外のオカ研メンバーとトウジさんは別の町に行っている)。
あくびを噛み殺していると、小猫が謝ってくる。
「ロイ先生、ごめんなさい。姉様が迷惑をおかけして……」
「いや、気にすんな。気づけなかった俺も俺だ」
俺は笑みを返し、懐からメモ書きを取り出して内容を確認する。
「一通りは調べ終わったな。あとは衣装だ」
俺の言葉に木場が訊いてくる。
「衣装というと、前にロイさんが着ていたあれですか?」
「いや、あれは仮だ。正式な決定はギリギリになるかもな……」
女性はファッションにこだわるからな。長いこと話し合うことになるんだろう。
俺はそれを想像してため息を吐くと、ロセが服の袖を引っ張ってくる。
「ロ、ロイさんは、女性が着るサンタのコスチュームは、ズボンとスカート……どちらがいいでしょうか」
「スカートだな。ズボンもズボンでいいが、おまえに着てもらうんだったら、スカートがいい」
俺が笑みながら即答で返すと、ロセの顔が真っ赤になって煙を吹き始めた。町中で気絶されたら敵わないので、耳元で手を叩いて無理やり意識を戻してもらう。
ロセはハッとしながら、何かをぶつぶつ呟き始める。
「そ、そうですか。……足、細く見えるかしら……今から準備しても間に合うわけ……魔法で誤魔化す?けれど━━━」
すごく、考えてくれているようだ。彼氏としては嬉しいのだが……。
俺はちらりと木場たちのほうに目を向ける。見れば、三人とも微笑ましいものを見ているような目で見てきていた……!
俺はそれにもため息を吐き、いつの間にか目の前にあった目的の建物に視線を向ける。
「さて、仕事するか」
『はい!』
「うーん、スカート……スカート……?なかなか難しいですね……」
建物の前で止まる俺たちだが、ロセだけぶつぶつ呟きながらそのまま進んでいってしまう。
俺は再びため息を吐き、ロセを呼ぶ。
「ロセ、どこに行くつもりだ?」
「ひゃい!え!?あ、今いきます!」
慌てながら振り返り、こちらに戻ってくるロセ。しっかりしてもらわないと、こっちも大変なんだがな……。
衣装選びを始めて数分。
「……ギャーくん、次はこれ」
「こ、小猫ちゃん?」
「……その次はこっち」
「き、聞いてる?」
小猫がギャスパーを着せ替え人形にしていた。サンタだけでなく、トナカイのようなものまで持ち出していた。
この際、トナカイも採用するべきか?サンタだけじゃ飾り気がないから、何人かはそれもありか?
俺があごに手をやりながら真剣に悩み始めると、視線の先で悩むロセに目が止まった。
スカートがいいとは言ったが、今度はその丈で悩んでいるようだ。ここは衣装を考えて欲しいんだが、あいつも大変なんだろう。
真剣に考えてくれているのは木場くらいだろうか。その木場も、かなり悩んでいるようだ。ヒトの服を考えるとって、存外大変だよな。
俺がため息を吐くと、俺たちに一斉にメールが届く。各々が確認するなか、俺も手に取っていた衣装を棚に戻して見てみると、
『近辺で不審なオーラを検知。座標を送る』
とだけ書かれていた。座標は、イッセーたちが行った町のほうだ……。
俺たちは頷きあい、店を飛び出すと人目につかない路地裏に駆け込む。
俺が義手を戦闘用のものに変えるとロセが転移魔方陣を展開、その輝きが強くなっていき、一気に弾けた━━━。
━━光が止み、視界が回復すると、
「ロイ・グレモリー………ッ!」
「━━ッ!またおまえか!」
先日遭遇した男(既に
トウジさんの肩に傷。まさか噛まれたのか………?
俺は一気に魔力を解放、両目で剣士を睨み付ける。だが、剣士のやる気はなしのようで、後方に飛び退いた。
「局長!必ず僕はあなたと天界、バアル家、そしてロイ・グレモリー、あなたに復讐します!絶対に許すわけにはいかない!絶対にだッ!」
俺が銃剣を取り出して右手に握り、高速で飛び出した瞬間、
牙と血に注意ってことは、下手に斬れねぇんだよな!撃つにしても銃剣がもつかわからねぇ!だが━━!
俺は舌打ちをしながらも引き金を引き、深紅の弾丸を吐き出させる!だが、銃剣から嫌な音と共に火花が散った!いきなり限界か……!
放たれた弾丸は
邪龍だからか、あの程度ではダメージにもならないようだ。やはり首を吹き飛ばすしか……八つもあるが、全部を同時に潰せば問題ねぇだろう!
俺が魔力を銃剣に込め、引き金を引こうとした瞬間、銃剣が爆ぜた!
「━━ッ!」
とっさに左腕で顔をかばう。義手だから痛みはないが、破片が大量に突き刺さった。おかげさまで、義手からもバチバチと火花が……。
俺が舌打ちをすると、男が転移の光に包まれ始める。
転移する直前、男がイッセーたちを目を向けながら言う。
「━━キミたちがいる楽園という名の駒王町、多くの犠牲の上に成り立った世界だ。よく覚えておくといい」
男がそう言い残すと、奴は転移の光に消えていく。……あの男、何者だ?
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