グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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聖誕祭のファニーエンジェル
life01 変わり始めた日常


アウロス防衛戦からしばらく経ったある日。

 

「………………」

 

自室で寝ていた俺━━ロイは、謎の気配を感じて目を覚ました。いや、気配と言うよりは、感覚だ。なんか、仰向けに寝る俺の上に、すごい柔らかい何かが乗っかっている。

俺が恐る恐る毛布をどかして中を覗き込んでみる。

 

「にゃ?」

 

毛布を戻して視線を天井に戻した。

なんか、色々と世話を焼いてくれる猫又と目が合った気がするんだが、気のせいだろう。きっと、連日の訓練で疲れているんだ、そうに違いない。

俺が再び寝ようとすると、俺の上に乗る誰かがもぞもぞと這い上がり、毛布から顔を出す。

 

「ちょっと、無視しないでよ。ばっちり目が合ったでしょ?」

 

「………………」

 

俺は無言で自分の頬を引っ張る。━━━うん、痛い。ってことは、夢じゃない………のか。

毛布から顔を出した猫又は、イタズラっぽく笑みながら言う。

 

「夢だと思った?残念、現実にゃ。寝込んだ隙に入り込ませてもらったのにゃ」

 

「………最悪だ。おまえの侵入に気づかねぇなんて」

 

俺は頭を抱え、その猫又━━黒歌を見つめた。

見つめられた本人はご機嫌そうに笑っているが、仙術の応用で気配を殺してきたのか?それとも、侵入に気づかないほど俺が爆睡していた?

俺が思考を巡らせていると、『ペロッ』と音と共に、首にざらついた感覚を感じ取った。 まさか━━━!

それを察した瞬間、全身に鳥肌が立った!

俺は思考する前に毛布もろとも黒歌をぶん投げる!

投げられた黒歌は、ひらりと体勢を整えると、静かに着地して見せた。

俺は声を荒げながら、黒歌に言う。

 

「おまえ、いきなり何しやがった!?なんか、首がぬめっと━━━━!」

 

それ以上、言葉が続かなかった。なぜか、それは━━━。

 

「何って、ちょっと味を確認しただけにゃ」

 

ペロッと舌を出しながらなんて事を言う黒歌が、『全裸』だからだ!セラよりも大きいであろう胸と、ほどよく肉のついた肢体が視界に飛び込んでくる!

てか、物理的に舐められたのか!?眠気がぶっ飛んだが、いきなり過ぎんだろ!?てか、服を着ろ!

俺が勢いよく体ごと視線を外すと、黒歌が可笑しそうに笑う。

 

「にゃははは!なに?恋人以外の女の裸を見るのは慣れてないのかにゃ?意外と初々しいのにゃ」

 

「早く服を着てくれ。おまえの足元に落ちてるのがそうなんだろ?」

 

先程ちらりと見えた黒歌の着物と思われるものを指差しながら俺が言うと、頭を柔らかいものに包み込まれた。

俺は固まりながらも状況を把握できた。たぶん、黒歌に抱きつかれているな。

特に反応を示さない俺に疑問を感じたのか、黒歌が不満げに言ってくる。

 

「ちょっと、反応してよ。つまんないにゃ」

 

「いや、いちいち反応してたら疲れるんだよ。仕事もあるんだからちょっと休ませろ」

 

「え~、つまんないにゃつまんないにゃ」

 

このイタズラ猫が。寝起きの俺は機嫌が悪いってのによ。

俺がようやく冷静になり、状況を飲み込んで額に青筋浮かべていると、部屋のドアがノックされた。

 

『ロイさん、起きていますか?朝食の時間です』

 

今の声、ロセか!?この状況を見られるのは色々とヤバイよな!

 

「黒歌、離れろ!ロセが部屋の前に!」

 

俺が焦る中、黒歌はいっこうに離れようとはしない。

 

「別に、見られたって問題ないにゃ」

 

「いや、おまえな!」

 

俺が引き剥がそうと躍起になっていると、ドアが開かれる。

 

「失礼しま━━━」

 

ドアから中を覗いたロセが、俺と黒歌を見て固まった。

 

「ロセ、これはだな………」

 

「男と女の営み中にゃ。邪魔しないでちょうだい」

 

説明しようとした俺を遮り、黒歌が俺を抱く力を強くしながらそんな事を言いやがった!

俺が困惑しながら黒歌を睨むが、ロセはぷるぷると体を震わせ、

 

「朝っぱらから何してるだーッ!」

 

訛り全開の叫びが、兵藤宅に響き渡ったのだった━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、どうにか黒歌を引き剥がした俺は、ようやく朝食を摂ることができた。

その最中、ロセか不機嫌そうに俺を睨んできていたが、今さらどうすることもできず、タイミングを見てデートに行こうと言って、どうにか機嫌を直すことができた。

 

「はぁ………」

 

「よー、モテ男。悩み事か?」

 

時間と場所が変わって昼頃の職員室。

机に突っ伏してため息を吐いた俺に、アザゼルが苦笑しながら訊いてきた。

俺は再びため息を吐き、アザゼルに言う。

 

「いや、まあ、そうだな。朝っぱらから大変だったんだよ。やれやれ、ロセに告白したのに、黒歌にも絡まれるってどういうことだ?てか、ベッドに潜り込まれても気づかないって、どういうことだ?なあ、どういうことだ?」

 

俺の立て続けの質問に、アザゼルは若干引きながらも口を開く。

 

「黒歌は、昔からイタズラ好きだからだな。で、気づかないってのは、たぶん仙術のせいだ。おまえはもう少し休め。疲れているから余計にそうなるんだよ」

 

「そういうもんか?」

 

「━━━多分な」

 

若干間の開いたアザゼルの返しに、俺も思わず苦笑した。恋人のいないこいつにする質問じゃねぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに数日。

不規則におこなわれる黒歌の侵入に、俺は頭と胃を痛めながらも耐えていた。

そして、二学期の終業式が終わり、その後の仕事を終えた教師三人組と、リアスたちオカ研メンバー、教会から駆けつけてくれたグリゼルダは兵藤宅のVIPルームに集まっていた。

ノリノリな様子のイリナが言う。

 

「そのようなわけで、クリスマスを通じて、この駒王町の皆さんにプレゼントを配るの!」

 

そう、俺たちはこの町のヒトたちにちょっとしたプレゼントを配るのだ。

まあ、知らないうちに町の崩壊とか、はぐれ悪魔とか、様々な問題に直面させているわけだから、たまにはいいことをしてやろうとリアスやイリナが思い立ったことが始まりだ。

プレゼントと言っても、大きなものではなく、都市伝説になる程度のちょっとしたものを送ることになった。

例えば、おもちゃとか、ネクタイとか、なんかのサービス券とかだ。

と、だいたい理解できたところで、俺が言う。

 

「━━━で、サンタの格好をするわけだな」

 

「………なんでサンタの格好をしているんですか?」

 

「………変か?」

 

早速サンタの格好をしてみたのだが、イッセーからツッコミが入った。まあ、特に説明もなくこの格好だからな、気になるんだろう。

イッセーが若干引き気味にぼそりと漏らす。

 

「ロイ先生って、サーゼクス様の弟ですよね………」

 

「………それは誉められているのか?」

 

そんなやり取りをしている横では、朱乃が女性陣にサンプルを見せていた。

ちなみに、ソーナたちはギリギリまで参加できないそうだ。アウロスの修復、修繕を手伝っているとのこと。

現在他よりも損傷が酷い風車小屋周辺を修復中って聞いたんだが、たぶん俺とグレンデルが戦った場所だろう。なんか、申し訳ないな。

奪われたアグレアスがどうなっているのか、それはいまだにわかっていない。だが、いいことにはならないだろう。

各々がクリスマスに関して色々と話し込んでいると、書類を見ていたアザゼルが訊いてくる。

 

「グレモリー兄弟。こんな時に聞くのもなんだが、グレイフィアはどうだ?」

 

「義姉さんは、ユーグリットの要望で、あいつの尋問をしている。あの野郎、気持ち悪いほどシスコンだな。聞いた話じゃ、なかなかエグいことをされているらしいが、ユーグリットはご機嫌だそうだ」

 

「お義姉様と会えただけで、ユーグリットの目的は果たせたのかもしれないわ。少しずつだけど、情報を漏らしているそうだから」

 

俺たち兄弟の話を聞き、アザゼルは頷く。

 

「それは俺も聞いたな。すでにエージェントが送り込まれているそうだ。シェムハザからも行動を開始したと連絡があった」

 

ユーグリットが漏らした情報が本当か嘘かはわからないが、これでリゼヴィムが捕まることはないだろう。本人は、おそらくアグレアスにいる。そのアグレアスがどこにいるかがわからねぇんだよな………。

俺が色々と考え込んでいると、グリゼルダが時計を確認したあとに言う。

 

「まずはこのあと、皆さんを天界へお連れ致します。そこで、企画の中身━━プレゼントの確認と、ミカエル様から年を明ける前のごあいさつをいただける予定です」

 

あー、天界行くのかー、嫌だなー。向こうのあらゆるヒトから殺気をぶつけられるんだろうなー。

俺が目を細めながら遠くを見つめていると、横のアザゼルが手を振りながら言う。

 

「んじゃ、ミカエルによろしくな」

 

「おまえは行かないんだよな。代わりのように行かされる俺の苦労を知らないでよ」

 

俺が睨み付けながら言うと、アザゼルが苦笑する。

 

「まあ、いいじゃねぇか。どうせ天界を見たことがないんだろ?いい機会じゃねぇか」

 

「まあ、確かに、そうだが………」

 

天界に興味がないと言えば、嘘になる。一度は見てみたいって思っていたからな。━━━攻略対象として。

だが、今回は客として行くのだ。変な気はない。行ったらどうなるかわからねぇけどな!

 

「さて、地下の魔方陣から天界に行くわよ!」

 

リアスの号令のもと、天界に向かう俺たちは、地下の転移室に移動することになった━━━。

 

「その前にお兄様」

 

「ん?」

 

「着替えてください」

 

「………了解」

 

 

 

 

 

 

 

着替えを挟んで地下の転移室に到着。そこに描かれたのは見慣れた魔方陣ではなかった。

イリナとグリゼルダが祈る時のポーズを取りながら、呪文のように聖書の一説を口にしていく。

ちょっとした頭痛が悪魔である俺たちを襲うが、耐えられないものではない。

前もって渡された、悪魔でも天界を行動できる『天使の輪』を頭の上に浮かべ、俺たちは転移の準備が終わるのを待っていた。

あー、天界に行くってことは、あいつに会うことになるんだよな。俺、暗殺とかされねぇよな?

また遠い目をしていた俺の肩を揺すりながら、ロセが訊いてくる。

 

「ロイさん、体調でも悪いんですか?お休みになっていたほうが━━━」

 

「いや、大丈夫だ。これから起こるトラブルを想像して、現実逃避していただけだから」

 

「トラブル、ですか?━━━あ」

 

事情を察してくれたロセは、俺を同情的な視線を送ってくる。

ああ、どうしてこうなった……。行きたくねぇな……。

俺がため息を吐いていると、教会三姉妹が何やら祈っていた。まあ、天界に行けるから嬉しいんだろう。

嫌がる俺と、喜ぶ三人。俺も気楽にいったほうがいいか。

俺がそう思慮した矢先に、俺たちの前に両開きの扉が現れた。白亜で出来ているのか、見事な門構えだ。扉が音を立てて開いていく。

 

「さあ、どうぞ」

 

グリゼルダが俺たちに門を潜るように促してくる。イリナははしゃぎながら中に入っていく。

 

「ほらほら、早く!これが上までいく天使用のエレベーターなの!遠慮なく入ってちょうだい!」

 

イリナは今回のクリスマス企画に一番やる気を出していたるからか、最近テンションが高い。まあ、天使として、誰かを助けられることを誇りに思っているんだろう。

俺たちがイリナに続くように門を潜ると、白い空間に出た。全員が白い空間に入ると、足元の金色の紋様が輝き始める!

不意に訪れる浮遊感。体全体が上に放り投げられたような感覚に襲われた!

おう、これが天界式転移なのか!光るだけの悪魔式と比べると、なかなか新鮮なもんだ!

俺がそんなことを思っているうちに周囲の風景が一変、神々しい光に照らされた。

周りを見渡してみると、俺たちは雲の上に立っていた。見上げてみれば、白く輝く広大な天上、前方には巨大な門が現れた。

呆気に取られるイッセーやアーシアに比べ、リアスや朱乃は落ち着いたものだった。ロセは、若干驚きながらも興味のほうが勝っているのか、目を輝かせていた。

俺が覚悟を決めるように息を吐くと、巨大な門が開いていく。

イリナとグリゼルダが開いていく門を背に、俺たちに言う。

 

「「ようこそ、天界へ」」

 

 

 

 

 

 




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