グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life14 苦労は絶えない

気絶したロスヴァイセをお姫様抱っこする俺━━ロイは、魔力欠乏でふらつく足を引きずり、ようやくテントに到着した。

 

「ただいま戻りました」

 

「ただいまっと。俺たちが最後みたいだな」

 

「イッセー、お兄様、お帰りなさい。って、ロスヴァイセ!どうしたの!?」

 

戻ってきて早々に、リアスが詰め寄ってきた。

まあ、ぼろぼろの兄と気絶している眷属が戻ってくれば、驚きもするだろう。

俺は苦笑しながら言う。

 

「いや、ちょっと色々あってな。まあ、そのうち目を覚ますだろうよ」

 

と言いながら、空いているベッドにロスヴァイセを寝かせ、面倒だからそのベッドの端に腰をかける。イッセーとアーシアも余っていたパイプ椅子に腰をかけていた。

俺はテントを見渡しながらホッと息を吐いた。これで、よくやく休憩できる。てか、ちょっと寝ておくか?

俺がボケッとそんなことを思っていると、リアスが口を開く。

 

「━━冬休み、皆で集まりましょう」

 

「そういえば、天界から援助を求められていたな。人間界でいうクリスマスぐらいになんかするらしい。詳しくはリアスとグリゼルダに任せているがな」

 

俺が追加の情報を口にし、パイプ椅子に座るイリナに目を向ける。当の彼女は、俺の視線に気づくことはなく、イッセーを見つめてニコニコしていた。

何か事情があるようだが、あまり詮索しないでおこう。

すると、ゼノヴィアが立ち上がり、話題を変える。

 

「うん、色々と話されているついでに聞いてくれ」

 

テント内のメンバーの視線がゼノヴィアに集まる。ニコニコしていたイリナは、ハッとするとゼノヴィアの横に立ち、自慢するように胸を張っていた。

ゼノヴィアが言う。

 

「三学期の生徒会総選挙に立候補することにした。もちろん狙うは━━━生徒会長だ」

 

一瞬の静寂。そして━━━、

 

『えええええええええええええええええええっ!?』

 

イッセー、木場、小猫、レイヴェル、ギャスパーが驚愕の声を発した。

ある程度事情を知っていた俺、リアス、朱乃、アーシアは特にリアクションはなく、ロスヴァイセは━━━、

 

「きゅ~~~~~」

 

まだ目を回していた。いい加減起きて欲しいんだがな。

俺は伸びをしながら言う。

 

「まあ、『見聞を広めろ』って言ったのは俺だからな。何事も挑戦だ」

 

「と、ロイ先生からも言われてね。オカ研を抜けることになりそうだが、どうしても生徒会長になりたいという野望を持ってしまったんだ。ご了承を願いたい」

 

ゼノヴィアの言葉に、イッセーたち固まったままだった。まあ、いきなりの告白だからな。驚きもするだろう。

俺は目を回すロスヴァイセを見て苦笑する。こいつも、そういう心境なのかもな。………気絶しちまったけど。

俺がため息を吐いて視線をゼノヴィアのほうに戻すと、

 

「ゼノヴィアさん、私も手伝います!」

 

「もちろん、私もよ!布教とか、宣教とか、結構得意だし!」

 

「ああ、私も布教はそこそこ得意だぞ!生徒会長になるぞ!」

 

 

「「「おおっ!」」」

 

教会三姉妹が張り切っていた。

布教だの宣教って、それは違う気がするんだが………。まあ、教師として、やり過ぎたら止める程度に留めておくか。

で、イリナがまたイッセーを見てニコニコしているし、何か約束でもしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでかまいませんよ」

 

学園の隅で転移型魔方陣を展開するゲンドゥルさん。今回の件で酷く消耗したゲンドゥルさんは、一度冥界の病院に行くことになっていた。医療班に任せてもいいんだが、ゲンドゥルさんは一人で行けると個人用の魔方陣を展開したらしい。

そのゲンドゥルさんを俺と、先程目を覚ましたロスヴァイセで見送ることになったわけだ。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

三人して黙りこんでしまい、気まずい空気が漂っていた。俺とロスヴァイセに関しては、先程の『あれ』のせいだろう。

俺が言葉を探していると、こちらに近寄る気配が複数。見れば、子供たちだった。

あの戦いのかいもあり、子供たちは全員無傷で済み、疲労しきった俺たちに元気な笑顔を振り撒いてくれていた。

 

「ロスヴァイセ先生っ!」

 

「おばあちゃん先生っ!」

 

子供たちは二人に寂しそうに言った。

 

「先生、帰っちゃうって本当?」

 

「もう、この学校に来ないの?」

 

「先生の魔法、もっと教えてほしいです!」

 

「魔法、使えるようになりたい!」

 

ゲンドゥルさんは子供たちの頭を撫でながら言った。

 

「また来ますよ。それにロスヴァイセ先生だっていつかまた必ず来てくれるはずです」

 

それを聞いた子供たちは最高の笑顔を見せてくれた。

ゲンドゥルさんがロスヴァイセに真っ直ぐに言う。

 

「ロセ、おまえが通ってきた道は、学んできた知識は、たとえうちの家系と異なるものだとしても、間違ったものではないんだよ。ほら、見なさい」

 

笑顔の子供たちがそこにいた━━━。

 

「この子たちの笑みはおまえが通ってきた先にできたものだよ。それは今のおまえだからこそ、できたもの。もっと、自分を誇りなさい。━━━ロセ、おまえは自慢の孫なのだからね」

 

その一言を聞いたロスヴァイセは、込み上げてくるものを必死に抑えていた。それでも、目からは涙が溢れていく。

 

「………はい。ありがとうございます」

 

それを確認して、ゲンドゥルさんは魔方陣に魔力を込めていくが、何かを思い出したかのように言った。

 

「さて、私は行きますよ。あー、そうそう」

 

ゲンドゥルさんは俺に視線を送り、ウインクした。

 

「ロイさん。ロスヴァイセをよろしくお願いしますね」

 

俺はゲンドゥルさんの目ををまっすぐ見て、笑みを浮かべながら頷く。

 

「任せてください」

 

俺の言葉に、ゲンドゥルさんは笑みを返して転移していった。

俺は息を吐き、ロスヴァイセに視線を向ける。

 

「で、さっきの答えは?」

 

「え!?い、今訊くんですか!?」

 

一瞬横を見て困惑するロスヴァイセ。俺もそちらに目を向けると、

 

「ねえねえ、チューするの?」

 

「紅い先生が、ロスヴァイセ先生とチューする!」

 

子供たちが俺とロスヴァイセを煽ってきた。あ、紅い先生って俺の事、だよな?……なんかいいもんだな。

俺が苦笑して頬を掻いていると、奥から子供たちの親と思われるヒトたちがこちらに手招きしてきていた。

 

「ほら、呼ばれてるぞ。戻った戻った」

 

俺が言うと、子供たちは元気に返事をして親の元に戻っていく。

俺が笑みで子供たちを見送っていると、ロスヴァイセが服の袖を引っ張ってくる。

 

「ん?どうし━━━」

 

振り向きながら言った俺の言葉は、それ以上続かなかった。柔らかい何かで口を塞がれたのだ。

その柔らかい何かはすぐに離れ、口が開けるようになる。

俺が間の抜けた表情をしていると、顔を真っ赤にしたロスヴァイセが、恥ずかしそうに体をもじもじさせながら言う。

 

「えと、その、私の初めて、です………」

 

「………ああ、うん。ありがとう」

 

突然すぎて反応できていないなか、ロスヴァイセが続ける。

 

「あ、改めて、よ、よろしくお願いします………」

 

「おう、よろしく。あと━━━━」

 

言葉を続けようとした矢先に、いきなり足から力が抜け、膝から崩れ落ちた。

な、なんだ………。視界まで霞んできやがった………っ。

 

「ロイ先生!?だ、大丈夫ですか!?」

 

「だ、大丈夫だ。ちょっと疲れているだけだと思う」

 

立ち上がろうと足に力を込めようとするが、まったく立ち上がれない。何だってんだ、いきなり………!

 

「はぁ………はぁ………くそ!」

 

足をぶっ叩いて渇を入れてみるが、そんなもの効果があるわけがなく、まったく動かない。

てか、息苦しくなってきた………。

 

「ロイ先生!ロイ先生!しっかり━━━━」

 

俺の顔を心配そうに覗き込むロスヴァイセの顔。それを最後に、俺の意識は暗転した━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━ほど、ロイ━━━ね」

 

「ほ、ほんと━━す!信じ━━━レヴィア━━━ま!」

 

「にゃはは。たい━━━ことに━━━るにゃ」

 

聞き馴染みのある三人の声で、俺の意識が覚醒していく。

視界は霞んでいるが、薬品独特の臭いがするってことは、病院だよな………。

視界が回復すると、俺は両手を顔の前に伸ばす。左腕の義手は外れており、右腕の腕輪も外れている。

重い体を無理矢理起こしてみる。すると、

 

「あ、起きた?」

 

いつもの魔法少女姿のセラのハイライトが消えた瞳で睨まれた。まあ、何でかはわかる。

それはそれとして、

 

「なんで二人は正座させられているんだ?」

 

「半分私で、もう半分はロイ先生のせいです」

 

「私は、自業自得かにゃ?」

 

俺の問いに、若干ジト目のロスヴァイセ(スーツ姿)と、苦笑する黒歌(いつもの着物姿)が返してきた。

俺が首をかしげていると、セラが笑顔で俺の肩を掴みながら言ってくる。

 

「ロスヴァイセから話を聞いたわ。どういうことかしら?」

 

「自分の気持ちに素直に生きようと思ってな。うん。悪かった、悪かったから力を抜いてくれ!」

 

肩から『メキメキ』と嫌な音が鳴るなか、俺が言うと、セラはより力を込めてくる!

 

「どこをどう悪いと思ったのかしら?く・わ・し・く・お・ね・が・い」

 

「相談なしで色々と決めちまって悪かった!だが、自分の気持ちにも、相手の気持ちにも中途半端はしたくねぇんだよ!」

 

俺が言うと、セラはため息を吐いて手を離してくれた。ああ、肩がいてぇ………。

俺が肩の調子を見るように回していると、セラが言う。

 

「まあ、あなたのそういうところも好きよ?けどね━━━」

 

セラが満面の笑みを浮かべる。だが、目が笑っていない。

俺が口元をひきつらせていると、

 

「キスしたのよね?出会ってまだ三ヶ月のヒトと。私たちは付き合ってからもしばらくやったことなかっわよね?」

 

「いや、俺もするとは━━━━」

 

「黙って聞く!」

 

「……はい……」

 

言い訳しようとしても、セラがそれを許すわけもなく、話は続く。

 

「もっと言うと、お風呂にも入ったのよね?そっちの黒猫とも」

 

「黒歌にゃ」

 

「それはどう説明するつもりなの?」

 

黒歌の指摘に、セラは特に訂正せずに締めくくった。

まあ、黒歌には色々と世話になっている程度なんだが、気になるようだ。

「色々と手を借りているんだよ。片腕ねぇからな」

 

左腕を振りながら言うと、黒歌も若干複雑な表情で頷く。

息ぴったりの俺たちのそれを受けたセラは━━━、

 

「………………」

 

無言で俺と黒歌を睨んできていた!見たことがないほど冷たい目をしてやがる!

俺が冷や汗を流していると、黒歌がフォローしてくれる。

 

「こいつの腕がなくなったのは私のせいなんだから、責任とるのは当たり前でしょ?それに本人も何だかんだで助かっているみたいだし」

 

「確かに、ロイも助かっているみたいだけど━━━」

 

納得しかけたセラに、黒歌は続ける。

 

「そうにゃそうにゃ。それにこいつだって━━━」

 

黒歌が俺の右腕に絡みながら言う。

 

「独占欲が強い奴は嫌いだと思うにゃ」

 

「━━━━━━ッ!」

 

黒歌の言葉に、セラは目を見開いて心底ショックを受けた様子だ。………完全に黒歌のペースだな。

それはそれとして、黒歌の胸が当たってる。めっちゃ柔らかい感覚に襲われている!

俺がさっきとは違う意味で冷や汗を流していると、セラが焦った様子で再び俺の肩を掴んでくる!

 

「ロイは私のこと嫌いじゃないわよね!?嫌いじゃないわよねぇ!?」

 

「おまえは嫌いじゃないが、縛られるのは嫌いだな」

 

━━━物理的にも。

 

と、心中で呟くが、深い意味はない。

俺の言葉を受けたセラは、

 

「━━━━━━ッ!!」

 

先程以上にショックを受けた様子だった。目だけでなく、口も開いてしまっている。

俺が左手で頬を掻こうとするが、ないことを思い出してため息を漏らした。

 

「まあ、俺もヒト並みに自由が好きなんだよ。変に縛られるのは面倒だからな」

 

「━━━━━━ッ!!!」

 

セラの顔色がどんどん青くなっていく。だ、大丈夫だろうか………。

俺の心配をよそに、セラはふらふらと歩くと、そのまま椅子に力が抜けたように座り込んだ。

 

「お、おい。大丈夫かよ………」

 

俺が心配していると、セラは勢いよく立ち上がり、俺とロスヴァイセに言った。

 

「━━━許可するわ。あなたたちがロイの恋人になること」

 

おお、あのセラが折れたようだ。まあ、ちょっとやり過ぎた気もするが、たまにはいいだろう。……ん?『たち』って言ったのか?

俺の疑問をよそに、セラは続ける。

 

「ただ、一番を譲るつもりはないわ。これだけは、譲れないわ!」

 

それを強調してくるセラ。かなり妥協して許可していることを伝えたいんだろう。

ロスヴァイセは正座をしたまま嬉しそうに笑みを浮かべ、黒歌は、

 

「ま、それを奪うのが楽しいのにゃ」

 

と、呟いた。な、なんか、黒歌も含まれているような気がするんだが………。それに、嫌な予感もする………。

俺がひきつった笑みを浮かべていると、セラが話題を変える。

 

「話はここまでにして、大丈夫?急に倒れたって聞いたから」

 

「ん?ああ、魔力も体力も尽きちまっただけだ。次から気を付けるさ」

 

「そう」

 

ようやく、セラからいつもの笑みがこぼれた。その笑顔に、俺は惚れたんだったな………。

 

「いきなり見せつけちゃって、熱々だにゃ。ま、今は邪魔しないでおいてあげる。ほら、ロスヴァイセ、行くにゃ行くにゃ」

 

「え?ちょ!黒歌さん!?押さないでください!あ、足が痺れて━━━」

 

黒歌に押される形で、ロスヴァイセが部屋から出されそうになる。

 

「ロスヴァイセ、ちょっといいか」

 

「は、はい」

 

俺の言葉に、黒歌も気を利かせて止まってくれた。俺は笑みを浮かべ、ロスヴァイセに言う。

 

「オフの時だけでいいから、『先生』呼びは辞めてくれ。まあ、呼び捨てとまではいわねぇから、せめて『さん』だな」

 

「は、はい!ロイさん!」

 

ロスヴァイセが嬉しそうに笑いながら呼ぶので、俺は頷き返す。

俺は続ける。

 

「ついでに、俺も『ロセ』って呼ばせてもらうが、いいか?」

 

「もちろんです!なんか、今まで以上に親近感が湧きます!」

 

「だな」

 

俺たちの話はそれまでとなり、ロセと黒歌が退室していった。

改めて二人きりになった俺たちの話は続く。

 

「それで、本当に大丈夫なのね?」

 

「ああ、だいじょぶら」

 

セラに確かめるように両頬を引っ張られ、変な声が出た。

俺の返事を受けたセラは手を離し、訊いてくる。

 

「それで、どうするの?」

 

「二人とも幸せにするが?」

 

「それはそうなんだけど。訊いたのはあなたについてよ。ここまできたら、『前世の話』、するんでしょ?」

 

「まあ、そうだな。話すにしてもタイミングを見てからにするさ。……今は色々と立て込んじまってるし」

 

俺がそう漏らすと、セラも頷く。いつか、リアスたちにも話さねぇとな………。

俺が真面目に考えていると、セラが笑う。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、なんか、ちょっとだけ雰囲気変わったなって」

 

「嫌か?」

 

俺がわざとらしく笑みながら訊くと、セラは俺の右頬を撫でながら言う。

 

「まさか。そんなことじゃ、私の想いは変わらないわよ」

 

「ま、そうだろうな」

 

セラの手に右手を重ねながら、再び笑む。

誰かを守ることが俺の『贖罪』と言うのなら、誰かと共に生きることは、俺の━━━なんて言うんだろうな………。

真面目にそんなことを考えるなか、再び眠気に襲われ始めた。

うとうとする俺に気づいたセラは、優しく笑む。

 

「ロイ、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

重ねあった手に、最愛のヒトの温もりを感じながら、俺の意識は、再び暗闇に落ちていったのだった━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 




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