邪龍を迎撃しながら、どうにか学校の眼前まで移動した俺たち。
俺━━ロイの視界にリアスたちの奮闘ぶりが飛び込んでくる。
龍帝丸に乗る俺たち四人は頷きあい、そのまま龍帝丸に低空飛行をしてもらい、警戒しながら校庭に飛び降りる。
着地と同時に俺はふらつくいてしまうが、横のロスヴァイセが支えてくれた。ちょっと、無理をしすぎたか……。
ロスヴァイセから放してもらい、俺が校庭を見渡すと、豪快に邪龍を殴り飛ばす男性悪魔の姿が確認できた。
「サイラオーグ!来てくれたのか!」
「アグレアスではこちらが優勢になったので、加勢に参りました!」
そう言いながら邪龍を殴り飛ばすサイラオーグ。頼もしい限りだ。
俺はイッセーたちに指示を飛ばすリアスに声をかける。
「リアス、グレンデルはどうにか倒した。復活はしないんだよな?」
俺が小猫に訊くと彼女は頷き、リアスたちに宝玉を見せた。
「この宝玉に封印してあります。後で天界でしっかりと封印してもらえれば、問題ありません」
小猫の言葉に、リアスたちは少しだけだが歓喜していた。だが、手を挙げて喜べるほど余裕がねぇ!
俺は迎撃に参加しようと前に出ると、片膝をついてしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
「気にすんな、戦闘に集中しろ………!」
俺の苦し紛れの言葉にリアスは心配そうにしながらも頷き、邪龍の群れに攻撃していく。
俺も、まだやらねぇとなっ!
俺は銃剣を握り直し、弾丸を撃ち出していく。
体力が回復するまでは、砲台として機能するしかねぇ!
それから十数分。決死の攻防戦を繰り広げる俺たちの視界に、転移の光が映る。
その光は少しずつ大きくなっていき、学校を包み込んだ。
これで、少なくとも子供たちは助けられる。
安心する俺たちだが、一向に転移が始まらない。
「下で何かあったのか?」
俺が確認のために連絡用魔方陣を展開すると、転移の光が怪しいものに変わり、一筋の光となってアグレアスのほうに放たれた。
転移の光がアグレアスに━━━まさか!
俺が嫌な予測を立てたところで、俺たちの耳に高笑いが聞こえてきた。
俺たちが見上げるとそこにはヴァルブルガの姿があり、遅れてギャスパーも駆けつけた。
ヴァルブルガは口元に手をやり笑った。
「おほほほ、残念でしたわねぇ。アグレアスとここを攻めるというのは建前ですのん」
俺の予測は当たっているようだ。
「つまり、狙いは『アグレアスそのもの』か。俺たちだと手に余るが、作り出した前魔王の息子━━━リゼヴィムなら何かに使えそうだ」
「そのとーりですのん。リゼヴィムおじ様はどうやら空に浮かぶあの島自体に興味がおありのご様子でしてねん。今回のような方法でいただくことにしましたのよん。魔法使いの中にも私たちの仲間がおりますのよん。作戦は成功みたいですわねん」
「つまり、全部おまえらの手のひらの上ってわけだったのか」
俺が睨み付けながら吐き捨てると、ヴァルブルガは一瞬体を強張らせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「そうですわん。出来ればロイ様も連れてと言われてましたが、それはちょっと無理っぽいですわん」
アグレアスを奪うためだけにこの町を、魔法使いを利用した。
ソーナが生徒会メンバーに目配せをして、それを受けた『
走り出そうとする二人に声をかける。
「待て、内通者は学校から離れさせろ。別々の場所に分けるのも忘れんな」
「どうしてですか?」
ソーナの問いに、俺は苦虫を噛み潰したような表情で言う。
「戦争を経験してるとわかるんだよ。この手の奴は最後━━━自爆する」
『━━━っ!」
俺の発言に全員が驚いているが俺は確認する。
「わかったな!」
『は、はい!』
返事をして、花戒と草下は走り出した。
俺はそれを見送りながら、ヴァルブルガに問う。
「三時間の猶予は術式完成までの時間稼ぎ、戦闘は俺たちを消耗させるため、か。おかげさまで俺はフラフラだがな。それで、あの島で何をするつもりだ?あそこに何がある?」
ヴァルブルガは俺の言葉を無視して、視線をアグレアスのほうに向けた。
その視線の先では、アグレアスが転移の光に包まれて、ついには消えてしまった。
「転移完了。あの島で何をするかでしたわねん。それは━━━」
ヴァルブルガが何かを言おうとした瞬間、連絡用の魔方陣が彼女の耳元に展開される。それに聞き入っていたヴァルブルガから笑みが消え、白い空を見上げた。
「………まさかっ!」
俺たちも釣られるように見上げると、白い空にヒビが入っていた。誰かが外から叩いているようだ。誰だ?デュリオか?それとも初代か?
俺が考えている最中でも少しずつヒビが大きくなっていき、ついに結界を壊し、紫色の空が確認できるようになった。
すると神々しいまでの光を放つ槍が校庭に突き刺さった。
あれは、あの槍は忘れるはずもない!
━━━『
あの槍の持ち主は、あの野郎しかいねぇ………!
この場にいる全員が言葉を失い、立ち尽くしていた。
だが聖槍は転移の光に包まれどこかに消えてしまった。
ヴァルブルガは嘆息する。
「…………ここでこんなことになろうとは。けれど、もう遅いですわん」
ヴァルブルガが指を鳴らすと邪龍が集結し、学校を囲んだ。
「わたくし、殲滅するのが大好きですのん。もう少し遊んでくださいましねーん♪」
ヴァルブルガは傘を振り下ろす。それが合図となり、一斉に邪龍が俺たちのほうに向かってきた。
俺は体に鞭を打って立ち上がる。
「やるぞおまえら!ここで止めねぇと、全てが無駄になる!」
『はいっ!』
リアス、ソーナ、サイラオーグを初めとした全員が返事をし、一斉に構え直す。
俺は真っ先にヴァルブルガに弾丸を放つが、ヴァルブルガはそれを避け、時には邪龍を盾代わりにして防いでいく。
するとヴァルブルガは学校の方に手を向けた。
その瞬間、校庭に紫炎が広がり一部施設を吹き飛ばした!
「学校がっ!ダメェェェェッ!」
ソーナが悲鳴のような声をあげ、校庭のほうに走っていった。ソーナは冷静さを失っていた。
俺は追いかけようにも、足に力が入らなくなってきやがった!
「私が行きます!」
俺の状態を察してか、ロスヴァイセが飛び出し、ソーナにすぐさま追い付くと防御用の魔方陣を展開した。
ソーナとロスヴァイセが防御の態勢を整えた瞬間、紫炎が襲来した!
二人が展開した防御型魔方陣でなんとか防いでいるが、炎の勢いに押されしだいに魔方陣が崩れ始めていた。あのままじゃ、燃やされちまう!
「あの魔女を狙いなさい!」
リアスの指示でヴァルブルガに標的を変え、飛びかかっていくが、魔女は自分を囲むように紫炎を展開し、防いで見せた!
「その炎、触れただけでも、悪魔は致命傷ですわん!」
ならばとイッセーとゼノヴィアは砲撃の準備に入るが、邪龍が邪魔をしてオーラを溜められないでいた。
やるだけやるしか、だな…………!
俺は直刀に魔力を込め、ヴァルブルガに接近しようとするサイラオーグに叫ぶ!
「サイラオーグ!俺を投げろ!」
「━━━ッ!はい!」
サイラオーグは一瞬驚愕するが、すぐさま俺の腕を掴み、そのまま回転。遠心力に乗せて俺をぶん投げた!
直刀を突き出し、自分の体を弾丸のように回転させながら、ヴァルブルガに向かう!
止めようと邪龍が飛んで来るが、勢いのまま貫ぬいていき、ヴァルブルガの眼前に迫る!
ヴァルブルガは障壁を張り、俺との衝動に備える。その瞬間、切っ先から障壁に激突した!
甲高い金属音が響き、障壁にヒビを入れたが、勢いが完全に殺された!
俺は無理やり体勢を直し、ヴァルブルガに斬りかかろうとするが、右腕に邪龍が食らいつき、そのまま地面に叩きつけられた!
「━━か!」
肺の空気を一気に吐き出したような感覚を俺が襲う。
俺は痛みに耐えて歯を食い縛り、右腕に噛みつく邪龍の首を落とす。
同時にヴァルブルガがソーナとロスヴァイセに紫炎を放った!
俺がフォローに動こうと立ち上がるが、再びふらついて膝をつく。くそが、消耗しすぎたか………!
俺が舌打ちをした瞬間、紫炎が放たれる!だが、それが二人に当たることはなかった。黒炎を纏った匙が盾になったのだ!
だが、匙は黒炎を相殺しきれずに身を焼かれてしまう!
匙の力じゃ一方的に焼かれるだけだ。だが、あいつの目に迷いも恐怖もない!
ボソボソと何かを呟いているが、距離のせいで何を言っているかはわからない。だが、匙から凄まじいオーラを感じとることはできた!
これは、この感じは………っ!
俺が口元を笑ましていると、匙の体を黒いオーラが包んでいき、そのオーラが弾ける!そのオーラが晴れると、そこにいたのは暗黒の鎧を身につける匙の姿があった。
『━━━「
匙の声はヴリトラと混ざったものとなっているが、今まで感じたことがないほどの迫力と自信に満ちた声音だ。
匙はそのまま飛び出していき、ヴァルブルガとの戦闘に突入する!
俺はフラフラになりながらもリアスたちと合流する。
「お兄様!大丈夫ですかっ!」
「大丈夫じゃねぇかも、これはヤバイ」
俺がフラフラになりながらリアスに話していると、何かを感じ取ったのかアーシアが声を出す。
「ファーブニルさんのオーラを関知しました!」
「それは好都合、ファーブニルを呼べ。ついでに俺も回復してくれ」
「わかりました!」
アーシアは頷くと俺に回復のオーラを当て、傷を治してくれる。
オーラは少しずつ回復しているが、もう少し待たねぇとダメか。
俺が回復したことを確認すると、アーシアは
「我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ!お出でください!『
召喚の光が弾け、そこに現れたのは━━━クッキング帽を被ったファーブニル。………嫌な予感しかしないが、今のうちに休ませてもらおう。
軽く休憩に入る俺の耳に軽快なBGMが届いた。どこぞの三分クッキングで流れていそうな曲だ。
ファーブニルが口を開いた。
『こんにちは、ファーブニル三分クッキングにようこそ』
………ダメだこりゃ。惨劇が始まるぞ………。
俺が同情するようにアーシアに視線を向けた瞬間、ファーブニルが口を開く。
『今日のお料理は、ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ、です』
何だろう、今まで真面目にやっていた俺がバカに思えてきたぞ………!
絶句している俺たちに、ファーブニルはフリップを見せてくる。
『材料はこちら』
・アーシアたんのおパンティー 適量
・たまねぎ一個 みじん切り
・ニンニク一個 みじん切り
・オリーブオイル
・赤唐辛子一本 みじん切り
・塩コショウ 少々
・唐揚げ粉
『?』
疑問符だらけの俺たちと邪龍軍団。
おかげで攻撃が止まったわけだし、ゆっくり休めそうだ。
『それではスタート~』
━━━ファーブニルの料理が進んでいき、最後にファーブニルから一言。
『ありのままのキミでいてほしい』
結論だけ言うと、これはヒドイ。
ファーブニルの行動で何体かの邪龍が拍手したり、泣いたりしていたが、もうなんなんだよ!
俺たちがファーブニルに集中していると俺たちの横を赤い閃光が通り過ぎていった。
「きゃっ!」
赤い閃光の正体を確認しようと俺たちは振り向く。
ソーナを吹き飛ばし、赤い閃光はロスヴァイセを包み込んでいた。
光が止んだ先にいた者を俺は憎々しげに睨みつける。
そんな俺を睨み返しながら奴は言う。
「お久しぶりです。
「ユーグリット………!」
ユーグリットはロスヴァイセを抱き寄せていた。ロスヴァイセは抵抗しているが、逃れることは叶わないようだ。
ユーグリットはロスヴァイセを抱き寄せたまま、口を開く。
「ロスヴァイセとあの島は我らクリフォトが活用させてもらいます。さて、アグレアスの転移も済みましたし、そろそろ冥界の軍が来る頃合いでしょう。とっととおいとまさせてもらいたいところですが、そうはさせてくれないでしょうね」
俺たちはユーグリットを囲むように陣取った。
「おまえにロスヴァイセは渡さねぇし、
それを聞いたユーグリットはクスリと笑うだけだった。
「それは怖い。では、ささやかな抵抗はしましょうかね」
ユーグリットが指を鳴らす。するとファーブニル効果で固まっていた邪龍たちがハッとして俺たちに殺到してきた。
リアスたちが邪龍を相手していくなかで、俺は動かずユーグリットを睨みつける。
「おや?あなたは戦わないんですか?」
「俺はおまえの相手をしなきゃならないんでね。リアスたちにも言ってある」
「私の相手を?消耗仕切っているその体で、ですか?」
俺とユーグリットが話していると、どこからか放たれた魔法の矢がユーグリットのほうに飛んでいった。
放った先に視線を向けると、疲弊しきった様子のゲンドゥルさんが手を突き出していた。
「孫を……返してもらいます!」
ゲンドゥルさんは強い意志を感じる瞳でユーグリットを睨んでいた。
そのゲンドゥルさんと、先程よりはましだがフラフラの俺にロスヴァイセが叫ぶ。
「ばあちゃんっ!ロイ先生っ!やめてっ!二人とももう限界なんでしょう!?」
「黙ってろ!まだやれる!」
「黙っていなさい。おまえを救うぐらいはできます!」
強がる俺とゲンドゥルさんを見て、ユーグリットは呆れたように息を吐いた。
「残念ですが、あなた方の状態で私の相手は無理です」
ユーグリットはそう言うと転移型の魔方陣を展開し始めた!
それを見たゲンドゥルさんは、渾身の力で作った魔法の矢をユーグリットの魔方陣にぶつける!
矢が当たった瞬間、ユーグリットの魔法陣が形を崩していき、ついには消失した。
「……転移封じ。こざかしいことをしてくれますね」
ユーグリットは忌々しそうに呟くと、ドラゴンの翼を広げて飛んでいった!
「逃がすか!」
飛び出そうとする俺に、ゲンドゥルさんは崩れ落ちながら言った。
「ロイさん。……どうか、どうか、私の孫を、ロスヴァイセを助けてください」
俺は笑みを浮かべゲンドゥルさんに告げる。
「当たり前です。ロスヴァイセは俺の恋人ですから」
俺はそれだけ言うとユーグリットを追い、そのまま飛び出していった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。