グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

140 / 219
life10 ロイVSグレンデル 決着

アウロスの特徴でもある風車小屋が立ち並ぶ区域。

 

『ラアアアアアッ!』

 

体に大小様々な切創、銃創が残され、そこから青い血を流すグレンデルが咆哮と共に放った拳。その一撃がその風車小屋に直撃し、崩壊した!

そして、瓦礫と大量に舞った砂塵に紛れ、細く、黒い軌跡を残す翼の生えた小さな影が飛び出してくる。

 

「だあああああッ!」

 

その翼の生えた小さな影━━ロイも叫びながらも直刀でグレンデルに斬りかかる!

彼は怪我こそしていないが、返り血で体と髪が青く染まり、それに付着した砂塵で体の各所が汚れている。

ロイとグレンデル、一人と一体の殺し合いは二十分にも及び、戦場となった地区は壊滅と言っていい程の被害が出ていた。

お互いに決め手に欠けるなか━━━、

 

『ハハハッ!いいねぇ!こうでなくっちゃよ!』

 

「このタフ野郎が!」

 

好戦的に笑むグレンデルと、それを見て吐き捨てるロイ。

聖杯による強化をされたグレンデルにロイの滅びの効果は薄く、一撃で頭を吹き飛ばそうにもそれを許すほどグレンデルも甘くない。それに加え、今回で三度目の戦闘。グレンデルはある程度ロイの癖を把握しているように攻撃していく。

先を読むように放たれるグレンデルの乱打を掻い潜り、ロイも一撃一撃を的確に入れていくが、その一撃を入れる度にグレンデルのギアが上がっていく!

より鋭く放たれるようになったグレンデルの乱打、それさえもロイは掻い潜っていくが、その頬を冷や汗が伝っていく。

ロイも滅びを纏えば決められるかもしれないが、これからどうなるかもわからないこの状況では、無駄な消耗は命取りになる。

 

━━━隙を見つけて、一撃で決める!

 

ロイはその隙を探すように立ち回るが、グレンデルは我武者羅にやっているようで、ロイの回避先を読んだ右拳が襲いかかる!

 

「━━━━ッ!」

 

ロイは紙一重でそれを避け、グレンデルの右肘の内側に弾丸を撃ち込み、刃を食い破らせる。

その瞬間、グレンデルの右腕前腕がだらりと下がる。首の皮一枚で切断されなかったが、使い物にならないことは確実だった。

グレンデルは舌打ちしながら距離を取ると、右腕を眺め━━━、

 

『━━━まあ、こうすりゃいいだけだなぁ!』

 

自分の右腕前腕を掴み、捻りながら引っ張る。

ブチブチと嫌な音をたてながら右腕前腕が千切れ、グレンデルがそれを振り回す。

千切られた前腕から大量の血が撒き散らされ、大小様々な血痕を自分の体やロイの足元に残していく。

そして、グレンデルが勢いよく前腕を振り下ろすと、地面が砕け、大量の砂塵が舞う。

ロイはその様子を見ながら表情を険しくしていた。

部位破壊をしたつもりが、グレンデルに武器を与えてしまった。

ロイは自分を落ち着かせるように、覚悟を決めるように深く息を吐く。同時に彼の体から黒いオーラが放たれ始めた。

グレンデルはそんなロイを見ながら狂喜的に笑む。

 

『いいねぇ、リゼヴィムの野郎が言ってやがった「本気」ってやつかぁ?』

 

「………………」

 

グレンデルの挑発するような言葉を無視し、ロイは銃剣を異空間にしまう。それと同時にさらにオーラが膨らみ、ロイを包み隠すように砂塵が舞う。

グレンデルは何かするわけでもなく、ただロイの様子をうかがっていた。

 

━━━━全力で来るのなら、待ってやる。

 

頭のイカれた戦闘狂のグレンデルは、ただ壊し合うことが生き甲斐だ。自分をぶっ壊せるのなら、自分でぶっ壊せるのなら、相手がどうであれそれでいい。

グレンデルが期待の眼差しで砂塵に包まれたロイを睨んでいると、突然砂塵が消し飛んだ!

グレンデルは表情を狂喜に歪め、それを見た。

 

『待ってたぜぇ、それをよ!』

 

『ふぅぅぅぅ…………』

 

黒い滅びを全身に纏ったロイの姿。彼は深く息を吐き、グレンデルに目を向けた。

グレンデルが体勢を低く構えた瞬間、ロイの姿が消えた!

 

『あ!?』

 

驚愕の表情を浮かべるグレンデル。だが、それはすぐに苦悶のものに変わる。

腹を抉られるような耐え難い、だが、待ち望んでいた激痛が全身を駆け巡ったのだ。

グレンデルが痛みの発生源である腹部に目を向けると、

 

『………………』

 

自分の腹に右腕を突っ込んでいるロイの姿があった。

ドラゴン最硬クラスの鱗を魔力を集中させた一撃で貫かれ、そこから一気に滅びの魔力が流し込まれているのだ!

 

『チッ!』

 

グレンデルは舌打ちをしながら左腕で持つ右腕前腕で殴りつけるが、ロイはそれを読み通りというように余裕で避け、グレンデルの顔の前まで跳躍していた。

グレンデルの鼻先に向けて右手を突き出し、そこからオーラを解き放つ!

グレンデルはとっさに首をかしげてそれを避けようとするが、解き放たれたオーラはグレンデルが想像した以上に極太で、強力だった!

滅びのオーラが掠めた左頬の肉が消し飛ばされ、歯と歯茎が剥き出しになる!

 

『━━━━ッ!』

 

グレンデルはぎょっとしながらも火炎を吐き出し、目の前にいるロイを牽制。回避も防御もする素振りを見せないロイは火炎に包み込まれる!

だが━━━━、

 

『━━━ガッ!』

 

構わずにそれを突っ切ったロイの拳が再び腹部を貫く!さらに滅びを流し込まれ、グレンデルの表情は再び苦悶の表情になった。

見た限りでは、ロイに火炎によるダメージはなく、グレンデルが一方的にやれている形になっていた。

グレンデルが再び払おうとするが、攻撃をされる前にロイがその場を飛び退いた。

グレンデルが血を吐き出した瞬間、ロイが黒い軌跡を残しながら飛び出す!

グレンデルは火炎を吐いてロイを迎撃するが、彼は先ほど同様に回避も防御もせずに突入、勢いのままそれを突破した!

グレンデルはそれを読んでおり、飛び出してきたロイに右腕前腕を振り下ろす!

ロイはそれを避けきれずに直撃。爆音にも似た地面が砕け散る音と共に地面にめり込む。

それを見たグレンデルは今までのお返しと言わんばかりに、地団駄を踏むように何度もロイを踏みつける!

 

『どうした!そんなもんかよ、悪魔ちゃんよ!もっと俺様を━━━』

 

挑発しながらも踏み続けるグレンデルは違和感を覚える。踏みつけているはずなのに、その感覚がないのだ。

 

『━━━━ッ!』

 

グレンデルは気配を感じて振り返ると、

 

『…………………』

 

無言で両手を自分に向けるロイの姿があった。

それを視認した刹那、ロイの両手からオーラが解き放たれ、グレンデルの頭部の右半分を消し飛ばした!

グレンデルは体を仰け反らせ、痛みに耐えるように歯を食い縛りながらも笑みを浮かべる。

 

『いいじゃねぇか!あく━━━━』

 

体勢を戻してたが、先程までいたロイの姿がない。

彼を探すように周囲を見渡そうとした矢先、左膝を撃ち抜かれた!

左膝をついて周囲を見渡すと、

 

『あ!?』

 

十人のロイが彼を様々な角度から狙い、両手にオーラを溜めていた。

大量のオーラを全身に纏っているためか、どれが本物なのかもわからない。

グレンデルが手近な一体を殴ろうとした瞬間、十人のロイの両手から、ほぼ同時にオーラが解き放たれる!

一斉に放たれた滅びのオーラによって、体の至るところを撃ち抜かれ、大量の青い血をぶちまけるグレンデル。

十人のロイはそれでも手を休めることはなく、ただひたすらグレンデルに撃ち込んでいく!

 

『が、あぁ、ああ…………』

 

体を滅多撃ちにされ、ついに膝だけではなく地に手をつくグレンデル。十人いたロイも徐々に姿がぶれていき、一人に戻っていった。

超高速の移動と、大量のオーラによって産み出して『質量のある残像』による集中放火。ロイの負担も大きく、体のあちこちの筋肉が悲鳴をあげるが、今のロイはそれを感じることができない。

グレンデルは血を吐き捨て、ギラつく銀色の瞳でロイを睨み付ける。

 

『…………………』

 

ロイは無言で、トドメと言わんばかりに右手をグレンデルに向け、オーラを溜めていく。

グレンデルがとっさに火炎を吐こうとした瞬間、ロイを紫色の炎が包み込んだ。

 

『━━━━ッ!?』

 

「私がやりましたのよん♪」

 

驚愕するグレンデルを紫色のゴスロリ衣装の女性が見下ろしていた。

グレンデルはその女性を睨み付けながら叫ぶ。

 

『ヴァルブルガっ!テメェ邪魔しやがって!』

 

「あらん?ピンチに見えましたから助けて差し上げたのに」

 

『チッ!』

 

ヴァルブルガの言葉に反論できないグレンデルが舌打ちをすると、そこに黒い獣となったギャスパーが現れる。

 

《ロイ先生!》

 

いまだに紫炎に包まれたロイに叫ぶが、彼からの返答はない。

 

「あらん。しつこい子は嫌いじゃないわよん♪お姉さんはこっちよん♪ついてら━━━━」

 

ヴァルブルガの言葉はそれ以上続かなかった。

彼女の眼前に、全身から煙を出している黒い何かが飛び出し、まさに蹴りを放とうとしているからだ。

 

「な!?」

 

『…………………』

 

驚愕するヴァルブルガに、黒い何か━━滅びを纏ったロイの蹴りが放たれる!

ヴァルブルガがとっさに障壁を展開、それを止めようとするが、ロイの一撃がその程度で止まるわけもなく、障壁もろとも弾き飛ばされた!

ロイはゆっくりと地面に足をつけ、滅びを解除する。

 

《━━━━━━ッ!》

 

瞬間、ギャスパーは絶句した。全身に火傷を負い、息を荒くしながら、ロイは力強く立っていたのだ。

 

「な、なんなのよん!あんた、悪魔なんでしょ!?なんで倒れないの!?」

 

ロイに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられたヴァルブルガが痛みに耐えながら、畏怖するような目でロイを睨んでいた。

悪魔にとって必殺である聖遺物(レリック)の攻撃を受けて、目の前の悪魔はダメージを受けはしたが問題はなさそうにしているのだ。

ロイはヴァルブルガを睨み返しながら言う。

 

「倒れたくねぇからに決まってんだろうが」

 

ただ「意地で立っている」と口外に言っているだけなのに、目の前の男の言葉を否定することができない。

 

「もう、なんなのよん!」

 

ヴァルブルガが逃げるようにその場を飛び去っていく。

 

「ギャスパー、奴を追え。グレンデルはこのまま押しきる」

 

《は、はい!気をつけて!》

 

「そっちもな…………」

 

ロイがそう言ってギャスパーを見送り、グレンデルに視線を戻すと、

 

『さぁて、まだまだ行けんだろ?悪魔ちゃぁぁぁぁん』

 

無くなった頭部の右半分以外の傷が完治しているグレンデルが立っていた。グレンデルの足元には小瓶らしきものの欠片が落ちていた。

 

━━フェニックスの涙を使ったのか。

 

ロイは慌てた様子もなく、それを察していた。

ならば━━━━、

 

「フェニックスの涙か。使いたければ使え。あと何個だ?十か?二十か?どちらにしても━━━」

 

ロイの言葉から感情が消えていき、碧い左目の瞳からハイライトが消える。同時に黒いオーラが放たれ、一気に弾ける!

 

『━━━━おまえを、殺す』

 

再び全身に黒い滅びのオーラを纏ったロイ。

グレンデルは再び好戦的に笑みながら、体勢を低く構える。

黒い滅びの化身と、黒い鱗の邪龍が同時に飛び出した!

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

搭城小猫は、イッセーの鎧についている宝玉をひとつ貰い、それを抱えて息を切らしながら走っていた。

彼女の姉である黒歌と検討した『邪龍を撃破する方法』、それをおこなうためだ。

同級生であるギャスパーに渡された黒い獣に守られながら、懸命に走ること数分。ようやくロイとグレンデルが戦闘している区域に到着することができた。

同時に彼女は目を見開いて驚く。

 

『アハハハハハッ!いいねぇ、いいねぇ!壊しあいはこうでなくちゃ楽しくないぜぇぇぇぇぇ!』

 

『……………………』

 

全身から青い血を吹き出すグレンデルと、それを攻め続ける黒い滅びの化身となったロイの姿、そして、壊滅した町だった場所が目に写ったのだ。

小猫は首を左右に振り、思考を切り替えてロイに叫ぶ!

 

「………ロイ先生!私に考えがあります!グレンデルを行動不能にしてください!」

 

『………………………』

 

ロイは答えないが、とても小さく一度頷いて見せた。

小猫がホッと息を吐くと、グレンデルが叫ぶ。

 

『おいおいおい!邪魔すんじゃねぇよ!これは俺様と悪魔ちゃんの壊しあいなんだからよぉ!』

 

グレンデルが小猫に火炎を吐こうと腹部を膨らませると、それをロイが許すわけもなく、高速で肉薄。勢いのまま放たれた拳がグレンデルの腹部を貫く!

腹部にあいた穴から大量の火炎が溢れ、ロイを包み込むが、彼は怯むことなく腹部に突っ込んだ腕にさらに魔力を送り、拳から巨大な刃を産み出して背中まで貫通させる!

 

『━━━━━━━ッ!』

 

グレンデルの口から声にならない悲鳴と大量の青い血が吐き出される。ロイはそれに構わず拳を引き抜き、一気に跳躍。

グレンデルよりも遥か上空まで飛ぶと、右手で手刀を作り、一気に降下していく。

 

『舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

グレンデルは火炎を吐き出すが、先程までの勢いはない。腹に開いた穴のせいで溜めるに溜められないのだ。

そんなグレンデルの火炎の中を無いもののように突っ切り、手刀を大上段から振り下ろした!

ロイは地面に着地し、ゆっくりと、深く息を吐く。

 

『ふぅぅぅぅ…………』

 

『が、あ、あ、ああ…………』

 

遥か先の結界を守る紫炎さえも斬り裂いたロイの一撃を受け、グレンデルの体は文字通り『一刀両断』され、内臓を地面にぶちまけながら左右に裂けていく。

グレンデルの体はビクビクと痙攣しているが、復活する気配も、転移する気配もない。それを確認したロイは小猫に視線を送る。

小猫は吐き気を抑えながら小さく頷き、『白音モード』になると、火車を出現させて何かの陣を描いていく。

小猫が片手で印を結ぶと、火車が回りだし、左右に別れたグレンデルを中心に、真っ白い魔方陣が生み出された。

それを確認した小猫は抱えていた宝玉をグレンデルに放ち、さらに印を結んだ。

 

「邪龍グレンデル!その魂よ、常闇(とこやみ)閃耀(せんよう)の狭間に眠れっ!」

 

小猫が呪文を口にした瞬間、魔方陣がいっそう強く輝く!

その光が止み、そこにあったのはグレンデルの形をした土の塊と、深緑色の宝玉だった。

小猫はほっと安堵の息を吐いていた。

横でそれを見ていたロイがぼそりと漏らす。

 

「魂の封印か、考えたもんだ」

 

「はい。帰ったら天界などに任せて、この宝玉に結界を張ってもらいましょう。意識が漏れだしたら、また復活してしまうかもしれません」

 

小猫は返しながら横のロイに目を向けると、同時にその表情を青くした。

平然としているが、全身に火傷を負い、最後の一撃を放った右腕は骨が砕けてぐちゃぐちゃになり、その骨らしきものが飛び出ている。

小猫の表情に気づいていか、ロイが口を開く。

 

「『あの状態』の応用で、短時間だけだが痛覚を無視できるようになった。おかげさまで、見た目のわりに痛くねぇよ」

 

全開状態を解いても『痛覚無視』だけはする。それをできるようになったのはある意味では成長と言えるかもかもしれないが、それは自分の肉体の限界がわからなくなることと同じである。

 

━━━姉様がお世話になっている以上、あまり無理をして欲しくない。

 

小猫はそう思いながらも、グレンデルを封じた宝玉を抱える。

グレンデルの撃破、封印。これが『D×D』の最初の戦果となったのだった。

この後、二人の元にアーシアとロスヴァイセが駆けつけ、ロイのダメージは回復。その後、ソーナから送られてきた『学園の周辺に集合せよ』という指示に従い、そのまま四人で龍帝丸に乗り、学園のほうに急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。