グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life07 約束

その日の深夜。

一通りの体験プログラムを終えた俺たちは、講師の面々との食事を済ませて自由時間になっていた。

俺たちが泊まるのは学生寮となる予定の建物だ。外装内装共に完成しているので、試しに使ってみてくれとのことだ。

そんなわけで、俺は学生寮に設置されている大浴場に来ていた。

 

「はぁ……………」

 

俺は片腕(義手は外しているため)でシャンプーを泡立てながら、ため息を吐いた。

今日一日ほとんどのんびりしていたが、あの後はゲンドゥルさんの講義の助手を、ロスヴァイセと共にやることになったのだ。そこで妖精を追いかけたり、子供たちを構ったりと、結構楽しかったが、意外と疲れた。

十分に泡立てたので、頭をごしごしと洗っていく。垂れてきた泡が目に入ると大変なことになるので、一旦目を閉じる。

明日も基本的に自由だが、ちょっとした助手程度ならやっても平気だろう。

一度死んで、Ms.神様に会って、その流れのままこの世界に送り飛ばされたわけだが、グレモリー家の次男として生まれた俺は恵まれたもんだな。血を重んじるものいいが、そのせいで可能性溢れる芽を潰してしまっている。

その可能性の芽を一つでも多く花にするためにソーナは頑張っているし、優秀な眷属はステータスにもなるため、一部の上級悪魔からは支持を受けている。悪魔も一枚岩ではないわけだ。

だからこそ、この学校には意味がある。需要が生まれる。上級に昇格した転生悪魔はその手のものにこだわらないから、強ければいい、優秀なら問題なし。ここで育ち、才能を開花させた生徒をゲームの世界に送り込める余地は十分ある。━━━ソーナとサイラオーグが確信に満ちた表情で先ほど語っていた。

ゲームに参加できなくても、何かの形で冥界に貢献できる人材を育てる意味でもそうだ。

━━━夢を掴むための学校。

なら、俺はそれを守るために手を汚すことも、また体のどこかを失うことも躊躇わない。俺の力で子供たちの未来が守れるのなら、それで………。

俺が覚悟を改めて、泡を流そうと左手をシャワーに伸ばすが━━━、

 

「………あれ?こっちだったか?」

 

いっこうに見つからない。かなり体が前のめりになっているんだが、どこだ………?

俺が手で探っていくなか、誰かが大浴場に入ってくる気配を感じた。

ここは男子風呂だから、イッセーか木場、ギャスパー、匙、意外にサイラオーグって線もあるな。

俺は左手でシャワーを探しながら、その誰かに声をかける。

 

「すまん、ちょっと手伝ってくれ」

 

「…………は、はい!」

 

上擦った声が大浴場に響く。妙に高かった気もするが、気のせいだろう。

その誰かがこちらに寄って来てくれたが、この気配って━━━。

嫌な予感が脳裏によぎった瞬間、聞き馴染みのある声が聞こえた。

 

「いきますよ?」

 

「ああ」

 

頭から湯をぶっかけられた。泡が落ち、目を開いてみると、そこにいたのは、

 

「ロ、ロスヴァイセ………?」

 

「は、はい」

 

ロスヴァイセだった!なんで男子風呂にって、話は後にして、俺の目はロスヴァイセの肢体にいってしまう!

いつもスーツかジャージ姿だからよくわからなかったが、彼女も結構いい体をしてるな!まるで芸術品みたいだって興奮してる場合じゃねぇ!

俺は急いで視線を外し、ロスヴァイセに言う。

 

「こ、こっちは男子風呂だ!女子風呂はそっちの寮にあったはずだろ!?」

 

「そ、そのはずだったのですが……女子寮のお風呂が故障してしまったとのことで、一時的に男子寮のお風呂に行ってくれと言われまして……。今なら誰も入っていないと聞いていたのですが……」

 

女子風呂が故障したから、誰もいないはずの男子風呂に行ってくれ、と。いや、入ってる!ガッツリ入ってるからな!?仕事での『報連相』は大事だろうが!

慌てても仕方ねぇ。ロスヴァイセの事だ、すぐに出ていってくれるはず……。

思考を落ち着かせてそう思っていると、横からシャワーの音が聞こえてきた。ちらりと見てみると、ロスヴァイセは体を洗い始めていた。

いや、だから俺がいるんだが………。

 

「……時間もありませんから、素早く入ってしまおうと思います。あまり、じろじろ見ないでくださいね」

 

ロスヴァイセは恥ずかしそうにそう言いながら、体を洗っていた!

俺はしばらく前しか見ることができずに固まっていたが、俺もさっさと体を洗ってしまおう。てか、左手は無かったんだった。しっかりしねぇとな………。

片腕でできる範囲で体を洗い、さっさと泡を流すとタオルを腰に巻き、行儀が悪いがそのまま湯船に浸かる。

俺が目のやり場を考えていると、誰かが湯船に浸かる音が聞こえてきた。

まさかと思いながらちらりと見てみると、ロスヴァイセが湯船の少し離れたところにいた。

 

「め、冥界のお風呂も悪くないですね」

 

「あ、ああ……そう……だな」

 

突然のことすぎて変なところで言葉を切ってしまった。

俺は調子を戻すように話題を変える。

 

「魔法の授業、大盛況だったな」

 

「そ、そうですね。人手が足りないかと思いましたが、ロイ先生のおかげで助かりました」

 

「……一人だけ、初歩の魔法が発現できない子がいたが、まあ、明日もあるんだ。ゆっくり教えてやろう」

 

「は、はい」

 

「………………………」

 

「………………………」

 

沈黙が痛い。普通の時なら何か話題を振るところだが、今は不意打ちの混浴状態。状況把握だけで精一杯だ!

この際やけだ。少しばかり踏み込んだことを訊かせてもらおう。

 

「なあ、なんで666(スリーシックス)を調べたんだ?」

 

俺の問いに、ロスヴァイセはしばらく黙ってから口を開いた。

 

「ロイ先生もご存じでしょうけれど、666(トライヘキサ)は伝承のみで発見には至っていませんでした。けれど、同じ黙示録に記されたグレートレッドは存在します。だから、調べてみたくなったんです。見つけることは到底無理なことでした。各神話体系の神々でも居場所を特定できなかったのですから、私なんかでは叶わぬものです。でも、666(トライヘキサ)がどんな存在なのか、それぐらいは知りたくて666(スリーシックス)や616という数字と、それに関連した書物から調べて始めたんです」

 

ロスヴァイセの言うとおり、666(トライヘキサ)は「いるかもしれない」程度の認識しかなかったし、どこにいるかまでは誰も把握できなかった。

ロスヴァイセは苦笑する。

 

「……答えなんて出なかったんですけどね。……ですが、解答できなかったあの計算、術式の組み方に彼らの欲する答えが隠されていたのかもしれません」

 

ユーグリッドがロスヴァイセを狙った理由はそこにあるのかもしれない。

ロスヴァイセはそこまで言うと、ポツリと呟いた。

 

「ロイ先生。もし、私が彼らに利用されそうになったら………私を殺してくれますか?」

 

「━━━━━━━━━っ」

 

俺はその告白を聞いて、真っ先に浮かんだ感情は『怒り』だった。

 

「ふざけんな。おまえが死ぬ必要はねぇだろ」

 

俺はそう言いながらロスヴァイセを睨みつけるように見るが、彼女の目には決して引く気がない強い覚悟の色が映っていた。だが、その覚悟の瞳の裏には、薄くではあるが悲哀の色も映っている。

 

「私があのユーグリット・ルキフグスに捕らえられたら、きっと利用されて━━━」

 

「渡さねぇ……」

 

俺は一気に距離を詰め、お湯の中でロスヴァイセの手を握り、言葉を続ける。

 

「あの野郎には渡さねぇ。あいつがまた出てきたら、その時は━━━俺が()る。何がなんでも、おまえを守ってやる」

 

「━━━━━っ」

 

ロスヴァイセは顔を赤くして驚いているが、俺は恥ずかしくなってきた。

何が「おまえを守ってやる」だよ!端から見たら告白じゃねぇか!俺にはセラがいるのにぃぃぃぃぃぃぃ!

心中でテンパりまくっている俺とは裏腹に、ロスヴァイセは少しだけ表情を和らげていた。

 

「ありがとうございます、ロイ先生。でも、私は━━━」

 

ロスヴァイセが何かを言いかけたところで、勢いよく浴場の扉が開かれる。

 

「ロイ先生!かくまってくだ━━━」

 

入ってきたのは服を着たままのイッセーだ。おそらく、イリナやゼノヴィアに追われているんだろう。

そのイッセーは入ってきた瞬間、俺とロスヴァイセの状況(男と女が風呂場で全裸で手を取り合っている)を見て、顔を真っ赤にしながら━━━━、

 

「ご、ごゆっくりぃぃぃ!」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!」

 

謎の発言と共に走っていってしまった!俺はロスヴァイセの手を離して身を乗り出し、イッセーを追いかけようとしたが、すぐに思いとどまった。

この状態で急に動いたら、適当に結んだ腰のタオルがとれる可能性がある。駄目だ、追いかけられねぇ!

今の場面を目撃されたロスヴァイセも羞恥心からか顔を真っ赤にしているし、くそ!イッセーめ、後で覚えていろよ…………!

俺はため息を吐いて湯船に浸かり直し、ロスヴァイセに言う。

 

「と、とりあえず、上がってくれないか?俺は向こうむいてるから」

 

「は、はい。服を着たら声をかけます………」

 

ロスヴァイセが大浴場から脱衣場に向かった瞬間、

 

「━━━━━━━ッ!」

 

全身に鳥肌が立った!な、なんだ、超遠距離から殺気を飛ばされたような感覚。どこからか見られていたのか………?

俺は首をかしげながら気配を探るが、特に何かあるということでもなさそうなので、深くは考えないようにしてため息を吐いた。

こうして、様々なハプニングがありながら、体験入学一日目は終了したのだった。

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

冥界某都市の四大魔王会議室。

 

「………………………………」

 

セラフォルーが何かを察したように立ち上がった。だが、目からハイライトが消えている。

 

「ん?セラフォルーどうかしたのか。って、何があった!?」

 

真っ先にそれに気づいたのはサーゼクスだ。彼もロイ並みにセラフォルーとの付き合いが長いため、すぐに気づくことができた。

 

「いえ、今度こそロイにお話を━━━」

 

感情を感じさせない不気味な声音で言うセラフォルー。

そのまま部屋を出ていこうとする彼女の腕をサーゼクスが掴む。

 

「ま、待て!今抜けられるのも困る!待ってくれ!」

 

「サーゼクス、離して。今度という今度は許せない………」

 

このタイミングでロイを鳥肌が襲ったわけだが、ロイからは「殺気」として認知されてしまったわけだ。

いつもの「ちゃん」付けではないセラフォルーに、相当の異変を察知したのだろうとサーゼクスは予測できた。だが、それでも彼は離さない。

それでも進もうとするセラフォルーに、サーゼクスは黙って傍観していた二人に声をかけた。

 

「ファルビウム!アジュカ!手伝ってくれ!」

 

「えー、めんどくさい」

 

「やれやれ、悪魔は一夫多妻制なんだ。そこまで気にしなくてもいいだろう」

 

アジュカの一夫多妻制発言に、セラフォルーが一瞬ピクリと反応すると、アジュカを軽く睨みながら、

 

「それのせいよっ!私のロイに危険が及んでいるのよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!きっと『セラ分が足りねぇ』とか言って苦しんでいるのよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

突然涙目になりながら、あまり似ていない声真似混じりに絶叫した!

じたばた暴れるセラフォルーに、腕を掴んでいたばかりに振り回されるサーゼクスは必死の形相で、

 

「ロイは大丈夫だから!僕たちが思っている以上にしっかりしているから!だから落ち着いてくれぇぇぇぇ!」

 

━━━と、叫ぶ。

そんな二人を見て、アジュカは苦笑、ファルビウムは若干鬱陶しそうな表情になると耳に耳栓を取り付け、そのまま満足げな表情で眠り始める。

魔王四人がこんなやり取りをしていることを、話題のロイは知らない。

 

 

 

 

 

 

 




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