特訓を終えた俺たちはVIPルームで来客をもてなす準備をしていた。ちなみに、ヒトが多すぎてもあれなので木場とギャスパーは自宅(二人は一緒に住んでいる)で休んでもらっている。
準備を一通りし終えた俺は一階の居間に降りてきており、アーシアとレイヴェルが作ったお菓子をオーフィスがつまみ食いをするという光景を観察していた。
「お客様がいらっしゃいましたわ。地下の転移室まで行きましょう」
俺が一休みしていると、朱乃の呼びに来てくれた。俺は頷き、お菓子を作り終えた二人に声をかけて、地下へ移動し始めるのだった。
転移室に集合した俺たち。
黒歌とルフェイは自室で待機してもらっている。理由としては、これからの話題に黒歌が割り込んでくると面倒だということと、何かやらかすかもしれないからだ。ルフェイには悪いが、彼女の見張りを頼んだ。当たり前のことだが、オーフィスにも隠れてもらっている。
不安要素はある程度解消されたことを再確認し、俺がホッと息を吐くと、転移室の床に北欧式の転移魔方陣が展開された。
それを確認した俺が言う。
「言っていなかったが、ここに来るのはロスヴァイセのお祖母さんだ。北欧でも魔法の使い手として有名なヒトだからな、失礼のないように頼む」
『はい』
俺の言葉に各々返事をしてくれたが、ロスヴァイセは緊張した面持ちになっていた。
俺がその事を確認瞬間に転移の光が室内を照らし、一気に心配弾けた。
光が止みそこに現れたのは、紺色のローブを着た女性だった。顔を見ないと年寄りには見えないほど、キリッとした雰囲気をしている。
ロスヴァイセの祖母さんは俺たちを確認すると、一言告げた。
「はじめまして、日本の皆さん。そこの孫がお世話になっているようで」
ロスヴァイセに視線を送るお祖母さん。それを受けたロスヴァイセは口をへの字に曲げていた。
好きではないが、そこまで嫌いでもないって感じか?
ロスヴァイセの祖母さんは自己紹介を始める。
「私はゲンドゥル。以後お見知りおきを」
そう言うとゲンドゥルさんは微笑を浮かべる。それを見た俺は勝手に納得していた。
本当、この人はロスヴァイセのお祖母さんだな。
俺たちに見せた微笑した顔、ロスヴァイセにそっくりだった。
俺たちはゲンドゥルさんを連れてVIPルームに移動し、お菓子を出してから簡単なあいさつを済ませた。
「というわけで、ゲンドゥルさんは、今度冥界のアガレス領でおこなわれる魔法使いの集会に参加予定なのよ」
━━━と、リアスが説明をした。
前にセラから聞いた話では、有名な魔法使いたちがアガレス領に集まり、魔法についての話し合いをするらしい。ちなみに悪魔などの異形のもの以外が冥界に来ることは、ほぼと言っていいほどない。ただの魔法使いでは次元の壁を越えることができないからだ。それなのに、今度冥界のアガレス領で魔法使いの集会がある。それはかなりスゴいことでもある。
話し合いの内容は、簡単に言うと古代の珍しい魔法や、禁術のたぐいについての話ばかりだそうだ。悪魔の研究員も参加するとのことだ。
「これはオフレコだが、各勢力で古代の魔法や禁術を研究していた魔法使いが行方不明になっているらしい」
俺の追加情報にイッセーたちは険しい表情になった。
これが、俺がオープンスクールに行くことになった原因だ。万が一、そこで狙われても即座に対応できるようにある程度の戦力が欲しかったとのこと。
俺は続けて口を開く。
「はぐれが勝手に動いているのか、それともリゼヴィムが一枚噛んでいるのか、それは現在調査中とのことだ。どっちにしろ、魔法使いは一度集まって意見を交換したいんだとさ」
俺がそう言うと、ゲンドゥルさんが話し始めた。
「これも外に出ていない情報なのだけれど、実は今回の集会で、研究テーマを━━━得意としている術を一時的に封じる方向で話は進む予定なのです」
「術を……魔法の封印をするんですか?」
俺の問いにゲンドゥルさんが頷く。
「己が生涯をかけて高めてきたものを悪用されるくらいならば、事件が治まるまで封じてしまったほうがマシということです」
確かに悪用されるぐらいなら一度封じたほうがいいかもな。禁術とか使われたらシャレにならない。
ゲンドゥルさんは続ける。
「堕天使の組織━━━グリゴリはアンチマジックについても研究が盛んだと聞き及んでいます。なので術の封印は堕天使に一任するつもりです」
なるほど、グリゴリに頼むんだな。確かにあそこはアンチマジック研究も進んでいたはずだ。
ゲンドゥルさんは続ける。
「己で封印したところで、拉致され催眠をかけられたら破られかねません。他の術者ではに施してもらっても、術を盗まれてしまうかもしれない。それならば、現状様々な勢力から信頼がある堕天使にとなったわけです」
アザゼルの野郎、前に「堕天使は悪役イメージが━━━」とかどうとか言っていたくせに、存外いいイメージも多いじゃねぇか。
「━━━と、その封印をする前に意見交換をしようということになったのです。参加を拒否する術者もいますが……それでも貴重な話し合いになるでしょう。私も参加を表明したのです。それに、ソーナ・シトリーさんからも招待を受けておりますし」
リアスがそれに続く。
「そうなの。ゲンドゥルさんは、魔法使いの集会と、ソーナの建てた学校での講演をおこなうために私たちのもとに来られたのよ。………そういえば、お兄様は知っていらしたんですか?ソーナが学校を━━━」
「知っているさ。セラから耳にタコが出来るほど聞かされた」
リアスの言葉を遮り、うんざりしたように言った。周りからは同情のの視線が送られてくるが、あまり気にしないことにした。
その後、今後の日程を確認し、全員が理解した。後で俺も行くことになっていた理由をセラに訊くとしよう。
それから会話は少しずつ砕けたものになっていった。
リアスが言う。
「ゲンドゥルさんはヴァルキリーの一人としても数えられていたのよ」
「要領が悪いのだから、向いていないと散々言ったのですよ」
ゲンドゥルさんが辛口にそう言うとロスヴァイセは顔を赤くして目を伏せていた。
一度紅茶を飲んでから、ゲンドゥルさんがロスヴァイセに問う。
「ロセ、私がここに来た理由の一つ。おまえならわかるね?」
ロスヴァイセは『ロセ』って呼ばれているのか。一応、彼氏(仮)だし、俺もそう呼んだほうがいいのか?
俺の疑問をよそに、ゲンドゥルさんは続ける。
「ここには二人の男性がいますが、どっちだね?」
俺とイッセーを交互に見るゲンドゥルさん。イッセーは首をかしげて若干困っていた。
ロスヴァイセは立ち上がり、一度深呼吸をしてから言った。
「紅髪の男性です。彼が私の彼氏、ロイ・グレモリーさんです」
ロスヴァイセの言葉に、事情を知らない面々が驚愕の表情を浮かべる。
ゲンドゥルさんはそれを確認しながらも、俺の目を見ながら問う。
「『グレモリー』ということは?」
「はい。俺はリアスの兄になります」
俺は即答した。変に口ごもると怪しまれるからだ。
「ロセ、本当に彼が?」
「はい。正真正銘、私の彼氏です」
ゲンドゥルさんはそれを聞くと、微笑しながら話し出す。
「私の心配は無駄に終わりそうね。最初に彼氏ができたと聞いたときは、どこの馬の骨と思いましたが、あなたなら」
俺はその一言にホッとしてロスヴァイセをちらりと見た。そのロスヴァイセは目が合うと顔を赤くしてそっぽ向いたが、いい加減慣れて欲しい。
ゲンドゥルさんがロスヴァイセに訊く。
「それで、付き合ってどれくらいだい?」
「………三ヶ月です!」
それだと俺がこっちに来てすぐに━━━いや、俺がこっちに来てすぐにロスヴァイセも来たんだったな。ロキと戦ってもう三ヶ月になるのか………早いもんだな。
俺は心中でそんなことを思いながら、紅茶に口をつける。
「三ヶ月………つまり、男女の関係を結んでいると思っていいんだね?」
「━━━ッ!」
俺はそれを聞いて紅茶を吹き出しかけた!だが、ギリギリで耐え、咳き込む。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら背中をさすってくれた。
この場面だけを知らない奴が見たら、本物のカップルだろうな。てかこのヒト直球すぎるだろ!?
俺が心中でツッコミをいれていると、ゲンドゥルさんは俺たちの様子を見て言う。
「その様子だとまだのようだね」
「ま、まだ結婚もしているわけでもないし……。だ、だいたい!私の貞操観念は、ばあちゃ……お祖母さんが植え付けたものです!」
「私は嫁ぐ前に関係を持つなとは言ってない。変な男に引っかかって無駄に体を許すんじゃないと言ったんだよ」
するとロスヴァイセは俺の腕を掴み、方言丸出しで叫んだ!
「わ、わたすだって!男の子とエッチなことしてえさっ!」
「そっだら、さっさと身さ固めちまえばいいって言ってんでしょうが!」
両方とも方言全開になってんじゃねぇかよ!
この一連の流れを見ていた俺たちが気まずい雰囲気になったことに気づいたのか、ゲンドゥルさんは咳払いしてから続ける。
「━━━許可します」
ゲンドゥルさんの一言にロスヴァイセは反応できていなかった。
「………へ?」
「『へ?』じゃない。私は良しと言ったのです。これで好きな男性と想いを遂げられるのだろう?ほら、今度は逢い引きでもしてみんさい」
「い、いや、でも!」
慌てるロスヴァイセに助け船を出す。
「そんな慌てることもないだろう。ゲンドゥルさんは良しって言ったんだ。それだけだろ?」
「いや、確かにそうですけど………」
ロスヴァイセはそう言うと、顔を真っ赤にしながら俯いた。
「彼氏さんの言うとおりだよ。今度会うときは改めてその辺を訊くからね。おまえと━━━彼氏さんからも、ね。今日はありがとうございました。私はこれで失礼します」
ゲンドゥルさんはそう告げると、ソーナが用意したという宿泊施設に向かうため、この場をあとにする。
ゲンドゥルさんが去ったことを確認した俺とロスヴァイセは、
「「はぁ~」」
盛大に溜め息を吐いた。
それはそれとして、ロスヴァイセが俺の腕を掴んだままなんだが……。
そのロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら俺の腕をぎゅっと掴み、身長のせいで若干上目遣いになりながら頼んでくる。
「……すみません。ちょっとの間なので、協力してください。………もう後には引くことができないんです………っ!」
なんか、勢い任せのやけくそに見えてきた。
だが、それと同時に、いつもはしない表情をするロスヴァイセのギャップに『かわいい』と思ってしまった俺がいた。
「━━━━ッ!」
それを自覚した瞬間、全身に鳥肌が立った!な、なんかとてつもなく嫌な予感がするんだが…………。
額に冷や汗を流す俺だが、流れのままロスヴァイセとデートをすることになってしまったのだった。
━━━━━
ちょうどロイの全身に鳥肌が立つ数分前。
冥界某所で魔王二人が簡単な会議をしていた。
「━━━ッ!」
その途中、なにかを察したように彼女━━━セラフォルーが席を立つ。
「どうかしたのかい、セラフォルー?」
異変を察し、彼女を呼び止めたのはロイの兄━━━サーゼクスだ。
だが、セラフォルーは彼の言葉を無視して部屋から出ていこうとする。
「━━━ってどこに行く気だ!?」
「何でもないのよ、サーゼクスちゃん。ちょっとロイとお話をしに━━━━」
顔は微笑しているが目がまったく笑っていないセラフォルーを見て、サーゼクスが素早く彼女の腕を掴むと、いつになく慌てながら彼女に言う。
「ま、待て!このタイミングで抜けられるのは困る!少しだけだが話は聞いている!だから落ち着け!落ち着いてくれ!」
「離してサーゼクスちゃん!離してぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
セラフォルーは引き剥がそうと暴れるが、最終的に「また今度、じっくりすればいいわね…………」と呟いてピタリと止まる。
サーゼクスはそんなセラフォルーを見て、顔を青くしながら、自分の弟━━━ロイの無事を祈るのだった。
冥界の魔王二人がこんなやり取りをしていることを、当のロイは知るよしもないが、セラフォルーの呟きのタイミングで全身に鳥肌が立ったのだった。
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