グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life02 課題

ロスヴァイセの彼氏のふりをするようになった翌日。

あのあとも続いたセラとのお話は、お互い仕事があるということで中断。ロスヴァイセとの問題が終わったら改めて、しっかりとお話するとのこと。

その時のセラはとても綺麗な笑顔を浮かべていたが、それ以上に怖かった。

俺はそれを思い出しながらため息を吐き、とぼとぼと放課後の新校舎を歩き回っていると、図書室からロスヴァイセの気配を感じた。何かしらの魔術を使っているのか、独特のオーラを感じ取ったのだ。

まったく、白昼堂々となにやっているんだ?

注意のひとつでもしてやろうと図書室に入り、ロスヴァイセの姿を探す。広い図書室だが、部屋の一角で二冊の本を読みながら難しい顔をした彼女を発見した。

俺は額に手をやりながらため息を吐き、俺が近づいても気づく様子のないロスヴァイセの向かいの席に座る。

気づくまでどれくらいかかるかな?と、思いつつ待つこと数分。不意にロスヴァイセが顔をあげる。

 

「………………………」

 

「よっ」

 

俺と目があって間の抜けた顔になるロスヴァイセに、俺が軽く右手をあげてあいさつする。表情からして、本当に気づいていなかったようだ。

ロスヴァイセが困惑しながら訊いてくる。

 

「な、なにやっているんですか…………?」

 

「それはこっちのセリフなんだが、なにを読んでんだ?」

 

「えと、それは…………」

 

言いよどむロスヴァイセ。

俺が身を乗り出してその本の中身を確認する。

 

『また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角が━━━━』

 

「━━━━━━ッ!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

俺が頭痛に襲われてすぐに視線を本から外すと、ロスヴァイセはすぐに本を閉じる。

悪魔が聖書やそれに関わるものを見たり、聞いたりすると頭痛に襲われるのだ。

ロスヴァイセ、なんで『ヨハネの黙示録』なんか読んでやがるんだよ…………!

俺は痛む頭を押さえながら周りに生徒がいないかを確認してロスヴァイセに訊く。

 

「━━━で、なんで黙示録の、もっというと666(スリーシックス)の下りを確認していたんだ?まあ、奴らの狙いがそれだからってことだろうが…………」

 

「はい。その、まだ私が学生の頃に少しだけ調べたことがありまして、確認をしていたんです」

 

少しだけだが暗めのトーンになったロスヴァイセ。あまり詮索しないほうが良さそうだ。

とりあえず、ヴァルキリー見習いの時に調べた、か。やはり向こうでも論文とかがあるんだろうな。

俺は一度咳払いをして話題を変える。

 

「ロスヴァイセ、もっと自然に話せないのか?生徒たちの間で話題になってやがるぞ」

 

「………本当ですか?」

 

「知らなかったのか…………」

 

俺はロスヴァイセの返答にため息を漏らす。

あれからというもの、俺とロスヴァイセが話すたびに彼女の声が上擦ったり、言いよどんだりと、見ていて違和感しかないのだ。

一部のその手の話が好きな生徒からは直球に聞かれたり、アザゼルからはいじるネタが増えたと言わんばかりの邪悪な笑みを向けられたりした。

俺はある程度だが女性と喋り慣れているが、ロスヴァイセは仕事以外ではあまり慣れていないのだろう。時々隙を見せる。

今度、ちゃんとリアスにも相談しておこう。フォローなしではつらくなってきた。

俺は再度ため息を吐き、「じゃあ、部室でな」と言って図書室を後にする。

やれやれ、これから大変になりそうだな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━と、いうわけだ。何かあったらフォロー頼む」

 

「は、はぁ…………」

 

部室に来て早速、リアスにロスヴァイセに関しての相談(黙示録の下りは省いた)したのだが、彼女からは困ったような返事が返ってきた。

まあ、いきなり「今、あいつの彼氏のふりをしているんだ」と言われて、そうですかと返せる奴は少ないだろう。

俺の予想とは裏腹に、リアスは苦笑混じりに言ってくる。

 

「お兄様、さすがに私は知っていますよ?ロスヴァイセの主なんですから」

 

「………それもそうだな」

 

俺も苦笑しながら頬をかく。考えてみれば、ロスヴァイセの行動を『(キング)』であるリアスが知らないわけがないか。

自分の認識の甘さを恥じながら、リアスに言う。

 

「ま、何かあったら頼む。ロスヴァイセがテンパるかもしれないからな」

 

「はい、わかっています」

 

リアスは笑顔で頷く。とりあえず、これで何かあっても大丈夫だろう。

俺はついでに訊く。

 

「で、次の部長はどうするんだ?そろそろ決めたほうがいいだろ?」

 

「ふふ、それももう決まっています。けれど、発表はもう少し先にしようと朱乃と決めたところです」

 

「そうか。じゃ、活動に戻るかね」

 

「はい」

 

もうすぐリアスたちは部活を引退することになる。イッセーたちは寂しいとか言うだろうが、リアスのことだ、適当に理由をつけて遊びに来るだろう。

部谷を出ていくリアスの背中を見送りながら、俺はそんな事を思っていた。

 

「………………ッ」

 

同時にちょっとした頭痛と左手の痛みに襲われ、表情を歪ませる。

頭痛はともかく、左手は『幻肢痛』ってやつだな。どう治せばいいのかよくわからん。

俺と同じく隻腕のアザゼルはなっていないようで、対策はそのうち見つけるとのこと。

俺は本日何度目かのため息を吐き、リアスを追って足を進めた。

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

とある休日。

グレモリー所有の修行空間に、リアスをはじめとしたグレモリー眷属、イリナ、シトリー眷属からは匙、その他のとしてはロイ、ヴァーリ、黒歌、ジョーカー・デュリオ、初代孫悟空が集っていた。

二天龍であるイッセーとヴァーリは初代が、匙はデュリオが、グレモリー眷属とイリナはロイが受け持っていた。

そして、今は━━━━、

 

『ふぅぅぅぅぅぅ…………………』

 

各々のメニューをこなし、合流してから約一時間。全力状態の彼と対峙している。

黒い滅びのオーラを全身に纏い、深く息を吐いたロイに警戒を強める面々。

時を戻して一時間。集合したリアスたちを前にして、

 

「申し訳ないんだが、少し時間をくれないか?」

 

連携の確認をしたかっらリアスたちからしてもそれはありがたい申し出であり、断る理由はなかった。

ロイとしても、試したいことがあったので全力状態なのだ。

 

《はぁぁぁぁぁッ!》

 

バロールの力を解放したギャスパーが正面から飛び込み、連続で拳を振るっていく!

だが、ロイはそれを最小限の動きだけで全て避けていく。

そして、大振りに拳を放ったために隙だらけのギャスパーの腹部に拳を撃ち込んだ!

だが、拳が当たる瞬間にロイの体を覆っていたオーラが霧散する。

 

《━━━━━━━ッ!》

 

ロイの全力の拳を腹部にくらったギャスパーはそのまま吹き飛ばされて、水切りの石のように床を跳ねる。

ロイは感覚を確かめるように自分の拳を見るが、そこに朱乃の放った雷光龍が向かってくる。

ロイはそれを避けると、その回避先を読んでいた二つの影が飛び出していく。

 

「ゼノヴィア、行くわよ!」

 

「ああ!」

 

ゼノヴィアとイリナのコンビの接近に、ロイは再び全身にオーラを纏って備える。

同時に放たれた二人の高速の連撃を的確に避け、時には腕を使って弾いていく。

ようやく届いた戦闘用の義手。「どこまで耐えられるのかテストしてくれ」とアザゼルに言われていたロイは、壊れることを承知でそれをつけたまま戦闘を継続していた。

ロイの纏う滅びのオーラは、ゼノヴィアのエクス・デュランダル、イリナの量産型聖魔剣のそれぞれの聖なるオーラを完全に遮断し、本人にダメージを与えることはない。

ゼノヴィアの大上段からの振り下ろしを腕で受け、そのまま上に弾いて回し蹴りを放つが、再びオーラが霧散した。

ロイの生身の蹴りを避け、距離をとるゼノヴィア。

蹴りを放ったロイは難しい顔をすると、再び全身にオーラを纏う。

相手をしていた全員が一瞬だけ疑問符を浮かべる。

ロイは戦闘の初めからオーラを解いたり纏ったりと、無駄に消耗してしまいそうな行動ばかりしているのだ。

そんな疑問をよそに、彼らは攻勢を強めていったのだった。

 

 

 

 

 

さらに三十分後。

 

「………はぁ………はぁ………おまえら、悪かったな。はぁ………付き合わせちまって……………」

 

「…………いえ、こちらこそ、ありがとうございました」

 

息を荒くしたロイが相手をしてくれたリアスたちに礼を言っていた。だが、言われた彼らも息を荒くしており、返答が返ってくるのにどうにも間が空いてしまう。

リアスたちはあれから何度も攻めていき、連携の幅も増やしていったのだが、最終的に決定打を与えるには至らなかった。

近接攻撃は的確に捌かれ、遠距離攻撃はほとんど避けられる。そして、少しでも隙を見せたら一撃をもらってしまう。それが続いたのだ。

吸血鬼の国での戦いからロイはどこか変わり、一層強くなった。

彼らの共通見解だが、その理由はよくわかっていない。思いきって訊いたこともあるそうだが、ロイは━━━、

 

「一皮剥けたかって言えばいいのか?まあ、まだ何枚か破りきれていないんだけどな………」

 

━━━と、若干声のトーンにを落として言うだけだった。

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

一通りの特訓を終え、今回の参加メンバーはミーティングをおこなっていた。

ちなみにだが、戦闘用の義手は外してある。戦闘が終わってしばらくしたらいきなり煙を吹き始めたのだ。

アザゼルに言われていた通りに手早く義手を外し、指定の魔方陣でグリゴリの施設に送った。俺の魔力にあわせ、向こうで少しずつ改良を加えていくそうだ。

皆からの報告を聞き終え、俺の番となる。

 

「やはりと言えばいいのか、あの状態は消耗が激しいな。約一時間半、か。もっと長期戦にも対応できるようにしねぇと」

 

俺が言うと、リアスが小さく挙手する。

 

「ひとつ質問をよろしいですか?」

 

「ん?なんだ?」

 

俺が聞き返すと、リアスは口を開く。

 

「あの滅びを纏った状態ですが、途中で途切れるのはなぜですか?」

 

あれか。確かに気になるだろうな。

俺はため息を吐き、リアスたちに言う。

 

「極端な話、『あれ』になったら加減ができなくなるんだよ」

 

「模擬戦に加減は必要ありません」

 

リアスのちょっと怒り気味の言葉。端から見たら、殴る瞬間に力を抜いたように見えるのだろう。

俺は頬をかき、言葉を改める。

 

「いや、ちょっと言葉が違うな。『あれ』になると、『確実に相手を殺しちまう』」

 

「━━━━ッ!それはどういう意味ですか?」

 

リアスは一瞬驚いたが、すぐに聞き返してくる。まあ、俺の全力について確認しておきたいんだろう。

俺は息を吐き、リアスに言う。

 

「『あれ』になると心がなくなる。感情なしで機械的に相手を殺しにいっちまうんだ。邪龍が相手なら容赦なく殺れるんだが、戦闘中に一瞬でも相手に同情して不要な感情が出たら『あれ』は解けちまう。だが、万が一にも感情を忘れたら、たぶん機械から戻れなくなる」

 

「戻れなくなる、ですか?」

 

「ああ」

 

俺が頷くと、リアスたちの表情が一気に心配するものに変わる。たぶん、そんな危険なものを戦闘で使わせたくないとか思っているんだろうな。

俺はリアスたちを安心させるように笑む。

 

「大丈夫だ、心を無くすつもりはねぇよ。セラに泣かれちまうからな。まあ、今回のでそれがわかったんだ。無駄な使用は控えることにするさ」

 

「そう、ですね」

 

リアスは無理やり納得するように頷いた。

だが、その『不要な感情』を持った状態で『あれ』になれねぇと、連携とかに支障が出そうだな。

 

『過去を受け入れ、自分を見失わないことです』

 

いつかにヴァレリーに言われた言葉を思い出す。『あれ』になりながら自分を見失わない、か。意外と難しいぞ………。

━━━と、そんな真面目な事を考えている俺の横では、

 

「………………」

 

デュリオが寝ていた。話では、ミーティングにいるだけで奇跡らしいので気にしていなかったが、失礼な奴だな。

俺がデュリオを見ながらため息を吐いていると、リアスが話題を変える。

 

「ソーナが建てた学校でおこなわれるオープンスクールを手伝うことは皆も知っているでしょうけど、実は今夜、兵藤家にお客様がいらっしゃるの。その学校で特別授業をおこなう講師の方よ。急だけれど、兵藤家への訪問を決めたと連絡を受けているわ」

 

その話しは俺も聞いていた。表向きは俺も講師としてだが、正確には『ある事件』によるものが大きい。

話を戻して、そのお客様ってのがロスヴァイセのお祖母さんなんだろうな。

俺が確認するようにロスヴァイセに視線を送ると、目があった彼女は頬を赤く染めながら顔を背けた。

俺がため息を吐いて視線を外すと、事情を知らない面々は、俺とロスヴァイセを交互に見ながら疑問符を浮かべていた。

事情を知るリアスと朱乃はそんなイッセーたちを見て苦笑していた。できるだけ内密にって事らしいので、まったく話しはされていないんだろう。

まったく、面倒を引き受けちまったな…………。

俺が再びため息を吐くと、

 

「━━━━━━━━ッ!」

 

突然走った痛みに表情を歪ませる。

俺の異変を察して、リアスが心配そうに訊いてくる。

 

「お兄様、大丈夫ですか?」

 

「ああ、また左手だ」

 

肘までになった左腕を突き出しながら言う。正確には頭も痛いがな。

俺の言葉に反応したのは黒歌だった。いきなり俺の左側に座ると、左腕に手を添えてくる。そこから仙術による治療をしてくれているのか、温かさと共に痛みが引いていく。

この左手の痛みは怪我ではない(そもそも痛む部位がない)ため、アーシアの回復では痛みが取れないのだ。なので、黒歌が気を使って痛みを和らげてくれる。

 

「ありがとうな、毎回毎回」

 

「ま、こんぐらいしかやることないしね。それでもお礼がしたいなら━━━━」

 

黒歌はそう言うと、俺の左腕を引っ張って体制を崩させ、そのまま俺の頭を胸で抱いてくる!

着崩した着物の隙間に顔面から突っ込んだせいか、黒歌の胸の感覚がダイレクトにぃぃぃぃぃぃっ!

 

「━━━━━━ッ!!?」

 

ハプニングには慣れているはずなのに、いきなり過ぎて完全に固まる俺に黒歌が言ってくる!

 

「初々しい反応ごちそうさまにゃ♪そんじゃ、このまま━━━」

 

「…………ストップです」

 

黒歌に待ったをかけたのは小猫だった。黒歌の腕を掴んで軽く血管が浮かぶほど力を入れている。

黒歌はそれに耐えながら、俺をいっこうに離そうとしない。

 

「なによ、白音だって赤龍帝とニャンニャンしたいんでしょ?私だってこの男とニャンニャンしたいのよ♪」

 

「…………………ダ、ダメです!」

 

「あ、一瞬考えてでしょ?エロエロにゃ。エロエロにゃ」

 

「ち、違います!反応に困っただけです!」

 

「猫又はエロくてなんぼよ?ちっこい時にしかできないことをやればいいのよ♪」

 

「もう知りません!とりあえず、ロイ先生を離してください!」

 

「えー」

 

「は、離れろ。息苦しくなってきた…………」

 

仲よく姉妹喧嘩をしているところ悪いが、口を挟む。

 

「え?あ、はい」

 

黒歌が力を緩めた隙に振りほどいて脱出。黒歌から離れて安全を確保したら深呼吸をして酸素を補給する。

がっつり掴まえやがって、軽く極っていやがったぞ………。

 

「あのな、そういうのはイッセーが担当なんだよ!」

 

「え?いや、違いますよ!?」

 

俺の言葉にイッセーが戸惑いながら返してくるが、

 

「あ、そうなのかにゃ?ま、どうでもいいけど」

 

それを無視して反省している様子のない黒歌。次からは間合いに気をつけよう。

俺が真面目に反省しているなか、

 

「………むにゃ、天界モンブラン食べ放題………」

 

デュリオが平和な寝言を言っていた。まったく、おまえは幸せそうだな!

 

 

 

 

 




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