俺がセラたちに秘密を告白してから一年ほど。
悪魔の上役たちはようやくこれからの方針を決めたようだ。それが『血筋に関係なく、新たな魔王を決める』というものだ。魔王様たちの名前がついに役職名になるというわけだ。
それを聞いて俺はそれもいいかと思ったが、これに反対する者たちがおり、そのせいで決定が遅れていた。
そして、その反対派が亡くなった魔王様方のご子息たちだ。
魔王様の血を引くヒトたちの言葉を無下には出来ないと思うが、そのご子息たちの意見が『再び堕天使、天使に宣戦布告する』というものであり、いつもは魔王寄りの考えの上役たちも今回はそれを拒否、今まで議論が続いていたのだ。
上役たちがまったく折れないとわかり、先ほどの方針が決定した時点でご子息たちはついに武力をもってこちらを従わせようとしてきた。
戦争でかなりの数の悪魔が死に、種としての数を減少させた悪魔が、今度は内戦という形で数を減らそうとしていた━━━。
何て柄にもなく真面目なことを考えながら、俺は冥界の森にいた。木の枝に座り、幹に背を預けて周辺を警戒する。
俺はあれから新魔王推進派のエージェントとして行動している。時には諜報、時には救出など、任務内容は様々だ。
そんな俺の任務は救出と言いますか、支援と言いますか………。
何て事を考えていると、ここに近づいてくる気配が複数。逃げる誰かを何人かで追いかけているようだ。
俺は溜め息をつきながら着ているローブのフードをかぶり、枝の上に立つ。
それと同時に逃げていた悪魔が俺の下を通りすぎ、追ってきた悪魔が確認できた。
俺は両者の間に割り込むように飛び降りる。俺が地面に降り立つと共に逃げていた悪魔が足を止めてこちらに振り向き、追ってきていた悪魔たち五人も足を止める。
俺が追ってきた悪魔たちを睨むと、その悪魔が憎々しげに訊いてきた。
「貴様、あのバカどもの手下か!?」
「ああ、そうだが?」
俺は少し怒気を込めながら返答した。
何がバカどもだ、そっちだろうが………!
それを口には出さずに直刀を生成する。それを見て悪魔たちが警戒し始める。
「ま、まさか、貴様は!?」
「くそ!何でこんなところに!」
「だが、これはチャンスだ!ここで殺すぞ!」
「そうだ。所詮は雑魚、我々の敵ではない!」
「さっさと終わらせるぞ」
五人はそこまで話すと俺を囲み、手の先に魔方陣を展開された。逃げてきた悪魔は隠れたようだ。
俺は溜め息を吐き、悪魔たちに言った。
「おまえらに任せていると悪魔が滅びかねないんでね。面倒だが、ここで殺らせてもらうぜ?」
「ほざくな!」
俺の言葉を挑発と受け取った悪魔たちが一斉に魔力弾を放ってきた!
それを俺は余裕を持って跳躍して避ける。
魔力弾同士がぶつかり合い爆発、跳んだ俺と悪魔たちを包むほどの煙が起こり、俺は気配を殺す。そして、着地と同時に動き出す!
まず一人は勢いのまま直刀で首を断ち切り即死させる。
「……一つ」
そう呟きながら煙の中で混乱している悪魔の懐に飛び込み、腹部に直刀を突き刺す。
「かっ……!」
刺された悪魔は俺を睨みながら反撃しようとしてくるが、腹部に刺さった直刀から一気に滅びの魔力を流し込む。それをされた悪魔は白目を剥きながら体を痙攣させ、最後はぐったりとして動かなくなった。
「……二つ」
これが俺の滅びの使い方だ。静かに、正確に相手を殺れる。が、間近でやる俺はその苦しむ顔を間近で見るため気分が悪くなる。
直刀を引き抜くと同時に煙が晴れていき、残った三人が恐怖を感じる眼差しで俺を見てくる。
本人たちは睨んでいるのかもしれないが、三人とも少し腰が引けているように見える。
俺は直刀を消して両手にナイフを生成し、そのまま二人に投げつける。唐突に飛んで来たナイフを一人は豪快に後ろに転ぶように避け、一人は眉間に直撃した。
「……三つ」
避けたというか、ビビって転んだら避けられたという感じか。運のいい奴だな………。
何て事を思いつつ、俺は残った二人に言う。
「で、まだやるかい?俺は構わないがな」
「な、舐めるなぁぁぁぁぁっ!」
一人が強がるように俺に手を向けて魔方陣を展開する。そして、そこから魔力弾が放たれた。放たれたそれはまっすぐ俺に向かってくるが━━、
「こっちのセリフだな」
俺は軽く直刀を振ってそれをかき消す。
こっちとしてはコカビエルを百年以上も相手にしてきたんだ。あの程度なら、避けるまでもない。
俺はわざとらしく溜め息を吐き、俺を見ながら震える二人に最後通告をした。
「で、どうする。捕虜になるか、それとも死ぬかだ」
これで向かってくるのならそれはそれでよし。最後まで抵抗する根性は認めてやる。捕虜になるのなら、まぁ、そこまでの奴らだってことで納得する。
それを聞いた二人は手を挙げて膝をついた。どうやら、捕虜になると決めたようだ。
「了解、そういうことだな」
そう言いながら俺は連絡用魔方陣を展開する。
「こちらゼロ、捕虜を転移させるから用意してくれ」
『了解、ターゲットとは接触出来たか?美人だったか?』
なぜか外見情報も求めてくる俺のオペレーターである男性。こいつとは何度も仕事をしているが、相変わらずだ。
ちなみに『ゼロ』ってのは任務中の俺のコールサインみたいなものだ。
「いや、残念ながらまだだ。今から捜索する」
『了解した。捕虜を転送してくれ』
俺の言葉に少し残念そうに返してくるオペレーター。こいつ、時々何をしたいのかわからない。が、仕事はするので特に迷惑ではないのも事実だ。
そこまで話して連絡用魔方陣を消して代わりに捕虜転送用の転移用魔方陣を展開する。
「無駄に抵抗すんなよ?面倒だからな」
魔力で作った鎖で二人を拘束し、そのまま魔方陣に投げ込む。同時に魔方陣が光を増していき、その光が弾けると共に二人が消えた。念のために確認を取る。
「こちらゼロ、送ったぞ」
『ちょっと待て━━━よし、確認した。野郎二人でいいんだな?』
「ああ、間違いない。任務に戻る」
『了解した。油断するなよ?』
「わかってるさ」
確認を終えて周りを確認しようとした瞬間、俺の後頭部に何かが突きつけられた。
俺は両手を挙げて無抵抗の意志を見せる。言われた瞬間にこれだ、警戒はしていたんだがな……。
「こちらを向きなさい」
俺は手を挙げたままゆっくりと振り向く。俺の背後にいたのは、綺麗な銀髪の女性だ。
俺に魔力を込めた指を突きつけながら、とても強い意志を感じる目で確かめるように見てくる。
その女性が指を突きつけながら訊いてくる。
「あなたが、私の亡命を助けにきたヒトでいいのね?」
「あんたがグレイフィア・ルキフグスなら、な?」
俺が確かめるように訊くと、女性は手を下ろして息を吐いた。俺も合わせて手を下げて息を吐いた。
「で、あんたが?」
「ええ。私がグレイフィア・ルキフグスです」
ルキフグス、本来ならルシファーに仕える『
俺は笑みを浮かべてグレイフィアさんに言う。
「なら良かった。このまま離脱します、いいですか?」
「急に敬語になりましたね………」
「また、気にしないでください」
そう言いながら離脱用の転移魔方陣を俺とグレイフィアさんを囲むように展開する。
やれやれ、とりあえず今回の任務は問題なしかな?
俺がそう思うと同時に魔方陣の光は増していき、俺とグレイフィアさんの視界を奪う。
光が止み、視界が回復すると、そこはある部屋の真ん中だった。転移も無事に成功したようだ。
俺が安堵の息を吐いていると、俺たちの後ろから声を掛けられた。
「グレイフィア、無事だったか!」
声に反応して俺とグレイフィアさんは振り向くと、そこにいたのは、
「サーゼクス!」
兄さんだった。その兄さんにグレイフィアさんが抱きつく。俺は頬をかきながら二人を見ていると兄さんが少し涙を溜めながら言った。
「ありがとう、ロイ。彼女も無事だ」
「ま、これが任務だからな」
俺はそう言ってフードを取る。意外と汗をかいたな。後でシャワーを浴びよう。
俺がそう決めると、グレイフィアさんが何かに気づいたように驚愕の声をあげた。
「サーゼクス!あなた、まさか……」
「ああ、少々危険だったが、弟に任務を頼んだ」
「そこまで危険でもなかったがな」
俺はそう返すが、グレイフィアさんは兄さんの頬を容赦なく引っ張る。何だろう、俺もセラにされたような気が……。
兄さんは余計に涙を目に溜めながら言う。
「いふぁい!いふぁい!グレイフィア、ちょっほはらしてくれ!?」
何を言っているかよくわからないが、多分痛いから離してくれ的なことを言ったはずだ。
グレイフィアさんもそれを理解したのか手を離す。
「それで、なぜ弟に?」
少し凄味を見せながら兄さんに訊くグレイフィアさん。兄さんは慣れた様子で答える。
「今までの実績を考えて、ロイが適役だと判断した」
結構がんばっているからな。任務は面倒なものばかりだが……。
俺は嘆息しながら兄さんに言う。
「もういいか?報告しないといけないし、長時間森にいたから汗もヤバイんだが……」
「ああ、すまない。戻ってくれて構わないよ」
「了解。そんじゃ、また後で」
俺は踵を返して部屋を出る。
ここはまぁ、簡単な基地みたいな所だ。所属するメンバーの部屋なんかも用意されている。そのせいで最近屋敷に帰れてないんだがな。
それはそれとて、今回助けたあのヒト━━━グレイフィア・ルキフグスが俺の
そんな事を思いながら歩いていると、正面からウェーブのかかった金髪の軽い感じの男性悪魔が歩いてくる。
「よっ!お疲れさん!」
「おまえにはもっと緊張感をもって欲しいんだがな」
「気にすんなって、成功すればいいんだよ!」
と言いながら俺の左肩を叩いてくるこいつはヴィンセント・フェニックス。フェニックス家の次男だ。
次男同士だからなのか、すぐに意気投合でき、今じゃ俺が現場担当、こいつが後方支援担当のような役割になっている。今回もこいつがオペレーターだ。
で、こいつ、わかっててやっているよな………?
俺は左肩に置かれた手を掴み、無理やり引き剥がす。
「いてぇな、オイ………」
「あ、わりぃ、まだ痛むのか?」
「叩かれたりすると特にな………」
ふざけた様子で心配してくるヴィンセント。こいつ、ふざけた様子だが変なところでしっかりしているからな、その内どっかの幹部とかになりそうだ。
そんな予想をしていると、ヴィンセントは軽い調子で言ってきた。
「ま、とにかくだ。おまえの未来のお姉さんを助けられたんだ、良しとしようや」
「それもそうだな………」
俺が疲れた様子で言うと、ヴィンセントは気を遣うように言ってきた。
「その様子だと、飲みには行けそうにないな……」
「悪いな、今回は疲れた」
俺の言葉を受けて、ヴィンセントは真面目な表情で言ってきた。
「だよな。なら、報告は俺がやっとくから、おまえはしっかり休んで次に備えろ。いいな?」
「言われなくても」
「ならオッケーだ。そんじゃ、またな」
ヴィンセントは手を振りながらどこかに消えていく。あんな奴だが案外忙しそうにしているからな。俺も休めるうちに休もう。
俺はそう決めて、自分の部屋を目指して歩きだした。
いることは語られたフェニックス家の次男ってどういうヒト何だろう?と思い、自分なりに予想して出してみました。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。