俺の横には同じく忍装束の黒歌、ルフェイ、オーフィス、メタトロンが立っている。
着てみて思ったが、この格好、思っている以上に動きやすい。さすがはニンジャの正式装備だ。
黒歌が言ってくる。
「どうかにゃ?忍の格好は?」
「ああ、動きやすいな。だが、おまえは露出しすぎだ」
俺は黒歌を指差しながら言った。
黒歌以外のメンバーはいたって普通のニンジャの格好なのだが、黒歌だけはやたらと露出が多い。
「あれ?意外に私のことを見てるのかにゃ?」
イタズラっぽい笑みを浮かべて黒歌は言ってくるが、
「あ?見ているわけねぇだろが。俺はセラ一筋だ」
俺は即答でそう返す。女性に興味がないわけではないが、少なからず黒歌だけはない。
「そんな事言っちゃって、溜まっているんじゃないかにゃ~?」
「………黒歌。あと一時間でいい、黙ってろ」
俺と黒歌が口論していると、丹紋さんがそれを制してきた。
「お二人とも、お静かに」
「はい」
「はいにゃ!」
俺と黒歌は一旦口論を止め、丹紋さんの方に向き直った。
「それでは、メタトロン殿。あれを配ってくれ」
「はい。皆さん、これを」
メタトロンが俺たちに渡してきたのは、いわゆる手裏剣というやつだ。
俺は手裏剣をつまみ上げて様々な角度から見てみる。こんな十字みたいな刃物を投げるのか、こんなものがまっすぐ飛ぶのか?
疑問符を浮かべながら手裏剣を見ていると丹紋さんが言う。
「まあ、簡単なところで、手裏剣はこうですな」
丹紋さんは手に持った手裏剣を手際よく投げていく!その全てが人型の的の急所に突き刺さった!
おおっ!さすがはニンジャ!
それは別として、俺もこれをやるのか。うまくできるのか?投げナイフならまだしも、今回は手裏剣。………まぁ、やるだけやってやるか!
俺がやけくそで覚悟を決めたところで丹紋さんが言った。
「では、早速あなた方にも━━━」
丹紋さんがそう言いかけたところで建物の外から盛大な爆発音が聞こえてきた!
いきなりなんだよ!やってやろうと思ってたのによ!
俺は心の中で愚痴りながら黒歌たちと目を見合わせる。二人とも疑問符を浮かべていたが、丹紋さんとメタトロンは覚えがあるようで嘆息していた。
とりあえず、警戒しながら廃墟の外に出ると、
「「「グーッ!」」」
謎の声を出している全身黒タイツの戦闘員が俺たちの目に飛び込んできた!
な、なんだあの格好は!新手のニンジャか!?
俺がさらに警戒心を高めていると、その戦闘員たちが左右にはけて道を開けた。その道を堂々と歩いてくるのは………。
「グハハハハハッ!NINJAよ、今日こそはグリィィィィィィゴリィィィィィィの軍門に降ってもらうぞっ!」
聞き覚えのある豪快な笑い声が辺りに響き渡った。今、俺たちの眼前には、鎧、兜、マントということ出で立ちの男性がいる。
眼帯にヒゲ、手には斧と盾。ちょっと昔の特撮ヒーロー番組の悪役を思わせる格好をしたイッセーとは別ベクトルの変態だ。
こいつに会うのは、運動会以来か…………。
「グハハハハハッ!ついでに貴様の命ももらい受けよう、NINJA天使メタトロォォォォォンッ!」
「アルマロスッ!また貴殿か!」
メタトロンも刀を抜き放って変態━━堕天使幹部アルマロスと対峙する。
「当然だ!貴様は我が偉大なる組織グリィィィィィィゴリィィィィィィと因縁の者ッ!今日こそ決着をつけようぞッ!」
そういえば、二人はノアの箱船、もっと言うと大洪水の頃からの因縁があるんだったな。
すると、不意に俺とアルマロスの目があってしまった。
「アイエエエエエエ!ロイがNINJA!?NINJAナンデ!?」
謎のテンションで無駄に驚いてくれた。なんだ、『アイエエエエエエ』って。
アルマロスは一度咳払いをして俺に言ってきた。
「ぬぅっ!貴様もNINJAを狙っておるのだな!?」
いや、全くの偶然でこうなってるんだけどな。黒歌を追いかけてきたら、こんな変な奴と出会うとは、今日は厄日だ。
「別に俺は━━━」
「まあ、良い!今度こそ、NINJAは我々がいただいて行くぞぉぉぉぉぉぉっ!」
俺が説明をしようとすると、それを遮るように斧を俺たちに向けながらそう宣言してくるアルマロス。
絶対に面倒なことになるよな………。本当に帰りたい………。
やる気なしの俺を無視してアルマロスは続ける。
「今宵は我がグリゴリ自慢の怪人を連れてきたぞ!」
アルマロスはそう言うと指を鳴らした。
まだ何か来るのかよ、面倒だな。てか、こんなやつが連れてくる怪人とか、どんなのが来るんだ?
俺が面倒くさいオーラを隠そうともせずにボケッとしているとアルマロスながらが叫んだ。
「まずはこいつだッ!いでよ、雪男怪人ッ!」
雪男って、あの白いゴリラ的なあれか?
俺がそんなものを想像しているなか現れたのは━━━。
「フッ。まさか、この僕がNINJAの相手とは、まったくエレガントではないね」
ニヒルな笑みを浮かべた、Gの刻印がある白いタキシードを着た白髪のイケメンだった。
そうだ、忘れてた。雪男ってやたらとイケメンが多いんだよな。イッセーが見たら血涙を流しながら殺気を放つはずだ。
「さらにもう一体はこれだっ!我がグリゴリの改造手術を受けて誕生した、河童怪人だぁぁぁっ!」
今度は河童かよ!雪男と来たら、雪女じゃないのか!?
俺が少しだけガックリしていると、現れたのは━━━。
緑色の肌、頭部の皿、鳥のようなくちばし、亀のような甲羅を背負ったまさに河童と呼ばれる生物だった!
少しイメージと違うのは両サイドが尖ったサングラスをかけているくらいか。それと、腹部にGの刻印がある。
「フッ。まさか、この俺がこの町に帰ってくる何てな」
自嘲的に笑う河童。今の発言を聞いた限りではこの町の出身か?
「河童、おまえ何者だ?」
俺が素直に訊いてみると河童が答える。
「俺はサラマンダー・富田!前はこの町の外れにある池に住んでいた者さ!そういうあなたは?」
河童の富田か。━━━ん?サラマンダーって炎の妖精だったような。………細かい事を気にしたら負けか。
俺は思考を切り上げ、簡単に名乗る。
「俺か?俺はロイ・グレモリーだ」
俺が名乗ると、富田は少し驚いた表情になった。
「グレモリー?あなた、リアスさんの家族かい?」
「ん?ああ。リアスは俺の妹だ」
俺が答えると、富田はさらに訊いてくる。
「あなたの知り合いに『小猫』という子は?」
「………いるが、それがどうした?」
「あの子に、『好きなヒト』はできましたか?」
優しい声音で訊いてくる富田。なんか、小猫に思い入れがあるようだな。だが、それは俺が言うことじゃない。
俺はわざとらしく肩をすくめ、富田に言う。
「それは本人から聞け。俺は何も言わないさ」
「そうか、そうだよな。俺としたことが、当たり前のことを言われちまった」
俺たちはそこまで言うと同時に構える。
「あなたに恨みはないが、グリゴリ怪人としてあなたを倒します!」
「俺もおまえに恨みはないが、やらせてもらう!」
俺がようやくやる気になったところで、俺たちの間に割り込んでくる影がひとつ。
「ストップにゃん♪」
黒歌だ。いきなり俺の前に立って構えを取った。
「なんか、白音の関係者みたいだから私がやるわ」
「ほう、噂に聞いた小猫ちゃんのお姉さんか。誰が相手だろうと、俺は容赦はしないぜ?」
富田はそう返すと黒歌に対して構える。
「ある程度の事情は知っているようね。これ以上は無粋にゃ。習いたての忍法をお見舞いするにゃ!」
「おもしろいっ!」
黒歌はそう言うと印を結び、富田も飛び出していく!
「よくわからないが、任せた!」
そう言いながら視線を黒歌と富田の戦いから雪男に移す。
「フッ、僕の相手はあなたかな?」
格好つけながらそう言ってくる雪男。
こいつは名前も知らない相手だが、面白そうな富田は黒歌に取られてしまったからな、やるしかないか………。
俺がやる気なさげに雪男に対して構えると、俺の横をトコトコと小走りで通りすぎる小さい影が━━━。
「我も戦う。忍法、グレートレッド殺し」
オーフィスだ。オーフィスは走り寄った勢いのまま、雪男に
ベシィィィィィィィンッ!
その
「アババババババババババーッ!」
異常なまでのパワーの
「オタッシャデー」
オーフィスは手をメガホン代わりにしてそんなことを言っているが、どこで覚えたんだ………?
俺が首をかしげているなか、視線の先でも、
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アルマロスがメタトロンに一方的に攻撃されていた。あのよくわからんやられ声はどうにかならないのか?
俺が手持ちぶさたにしていると、前方に転移魔方陣が出現した。暇をしていたので見てみると、紋様はルシファーのものだった。━━━うん?ルシファー!?
俺は目を見開いて驚きながらも出てくる相手を待っていると、そこから出現したのは━━━、
「NINJAがここにいると情報を得たぞ!」
「アイエエエエエエ!?ニーサン!?ニーサンナンデ!?」
サタンレッドの格好をしたニーサンだった!なぜここに!てか、どこでニンジャの情報を知った!?
俺が間抜けな顔と声を出して驚愕していると、その後方からも魔方陣が出現し、そこから義姉さんが現れた!義姉さんはソッコーで兄さんを取り押さえる!
「ほら、帰りますよ。というよりもいい加減にしないと怒るわよ、サーゼクス!」
「待ってくれ、グレイフィア!冥界にもNINJAが必要なのだ!だから、頼━━━」
なにかを言い残す前に強制送還された兄さん。一瞬の出来事だったな。
俺はため息を吐きながら周りを見渡す。みんな、死闘を演じているが楽しそうだ。たぶんだが、こいつらニンジャが好きなんだな。ある意味、意見がひとつで嬉しいよ。
一連の出来事を見てため息をつく丹紋さん。
「ふむ………。天使やら堕天使やら悪魔やら、忍者もけったいですな」
「なんか、申し訳ない」
そんな丹紋さんに俺は謝る。
だが、丹紋さんは優しく笑みながら言う。
「いえいえ、では、修行を続けますよ?」
「「はい」」
「我もやる」
俺、ルフェイ、オーフィスの三人は黒歌対富田。メタトロン対アルマロスの激闘を置き去りにして忍術の続きを行うことになった。
後日。俺が自室でのんびりしていると、
「お兄様!これはどういうことですか!」
リアスが乱暴にドアを開け放って部屋に入ってきた。
「こんな時間にどうした?」
俺が訊くとリアスは悪魔の雑誌を見せてきた。
俺がそれを受け取って読み進めていくと、あるページに目が止まる。そこには丹紋さんが載っており、長々とインタビューされていた。
「丹紋さんじゃねぇか!あのヒト、冥界でも活動を始めたのか!なになに━━━」
俺が勝手に興奮しながら黙って読み進めていると、リアスが詰め寄りながら言ってくる。
「ここに書いてあります!『ロイ・グレモリーくんに忍術を教えたのですが、飲み込みが良くて教えていたこちらも面白かったです』と。お兄様、NINJAの弟子だったのですか!?」
あー、なるほど。そういうことな。
俺は苦笑しながらリアスに言う。
「一回だけ修行したな。なかなか面白かったぞ」
俺がそう返すと、リアスは体をプルプルと震わせながら怒鳴る。
「どうして私も誘ってくれなかったのですか!?」
「だって、リアスたち寝てたし………」
「それは、そうですが……」
俺の返しに言葉が詰まるリアス。結構ショックだったようだ。
俺はそんなリアスにフォローを入れる。
「ま、何か機会があったら紹介してやるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
リアスは満面の笑みを浮かべて礼をすると部屋から出ていった。
やれやれ、ニンジャに関わると面倒事になるな。まぁ、退屈はしなかったけどな。
こうして、様々なヒトを巻き込んだ忍術騒動はとりあえずの幕引きとなったのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。