あれから百年以上戦争は続いた。終わるかもわからない戦争にも各勢力の者たちは落胆することなく、ただひたすら戦い続けていた。
ついには妖精、精霊、人間、妖怪といった様々な種族を巻き込んで戦火は拡大していった。
そんな中、ある出来事が三勢力を襲った。
神と等しい力を持つとされる二匹の龍、『二天龍』と呼ばれる『
その二匹の喧嘩は三勢力に戦争以上の打撃を与え、ついに三勢力が共同して二天龍を討伐することになったのだった…………。
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そんなわけで俺━━ロイは冥界の森の中の野営地にいた。そして、俺の横には例の如くセラがいるわけだ。
「ロイ、大丈夫?」
「あ、ああ」
セラの問いに苦笑まじりに答える。
相変わらず、俺を憎悪の対象でも見るような視線があちらこちらから感じるのだ。
俺がやらかした『ガブリエル乳もみ事件(セラ命名)』は百年以上経った今でも引きずられており、戦場でも堕天使(主に男性)、天使(主に女性)の集中砲火を浴びることがよくあった。そんな俺と共闘するのだ、何か思うことがあるのだろう。
俺が溜め息を吐いて視線を前に向けると、
「む?」
「あ………」
なぜかこんなところにいるコカビエルと目があった。その横にはいつかに見た堕天使幹部バラキエル。
そのバラキエルは少し目を見開きながら焦るように汗をかいている。
「ロイ………」
「大丈夫だ……」
心配するセラを安心させるように言うと、コカビエルが近づいてきた。
セラは警戒して構えるが、俺は構えずに右手を軽くあげる。
「まさか、こんな事になるとはな」
「まったくだ。貴様と肩を並べる日がくるとはな」
と、言いながら二人して静かにオーラをたぎらせる。それを感じた周りの連中が余計に俺たちに視線を向けてくる。
「ロイ、落ち着いて!」
「
セラが俺に、バラキエルがコカビエルに言ってくるが、俺は構わずに言う。
「だが、決着はいつかつけようぜ?」
「当たり前だ。貴様だけは俺を楽しませてくれる」
それだけ言うと俺とコカビエルは視線を外し、歩き始める。コカビエルとすれ違う瞬間、あいつはいつもの笑みを浮かべながら、
「死んでくれるなよ?」
と言ってきた。俺は一瞬目を見開きながら驚くが、小さく笑みを浮かべながら無言で頷く。
その言葉、そっくりそのままおまえに返すぜ、コカビエル。
この言葉は言わなくてもあいつには伝わる筈だ。
俺が笑みを浮かべていることに気づいたのか、セラが俺の顔を覗きこみながら聞いてくる。
「ロイ、なんで笑っているの?」
「ああ、
「そう」
セラはそう答えると前を向きながら急に真剣な表情になった。
「どうした?」
俺が訊くと、セラは足を止める。前を歩いていた俺はセラの顔を見るように振り向くと、彼女は口を開いた。
「ロイ、何か隠してない?」
「隠すって何をだよ?」
俺が聞き返すと、突然セラが俺の手を引いて森の中へ。俺が引っ張られるまま森に入ると、セラは周りには誰もいないことを確認した。
「ロイは、その、年齢以上に大人びてるじゃない?」
「百を越えたら大人びると思うが?」
「そうじゃなくて!」
俺がふざけ半分で聞き返したらセラが少し怒気を込めながら叫んだ。
セラは一度自分を落ち着かせるように息を吐く。
「ロイ、子供の頃とか、初めて戦場に行ったときとか、変に落ち着いてたじゃない?」
セラ、もしかして………。
俺が嫌な汗をかきながら次の言葉を待っていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。
俺とセラがそちらを見ると、
「二人とも、こんなところにいたのか。探したよ」
兄さんが汗を拭いながら俺たちを見ていた。どこからか話を聞かれたかもしれないが、とりあえず今は━━、
「兄さん、どうかしたか?」
「そろそろ開始の時間だ。さっき集合がかかった」
「そうか」
俺は頷いて歩き始めようとするが、少し不安そうな顔のセラを見て、俺は覚悟を決めて言う。
「セラ、その話はこれが無事に終わったらだ。兄さんや父さん、母さんにまとめて話す」
突然話題に出された兄さんは首をかしげるが、セラは「わかった」と一言言って俺の方に歩いてくる。そして、急に抱きついてきた!
「セラ……?」
俺が少し驚いていると、セラは俺をぎゅっと抱き締めながら言ってきた。
「私は、あなたが何者でも大好きだからね」
セラはそう言うと顔をあげて笑顔を見せてくれる。俺も笑みを返してセラの頭を撫でる。
「俺も大好きさ。言葉的に愛してるの方がいいかもしれないがな」
「もう………!」
顔を赤くして照れるセラ。やっぱりかわいい。
「見せつけてくれるね…………」
なんてことをしていると、兄さんがわざとらしく憎たらしそうに呟いた。
俺たちはハッとして離れる。そして、赤面しながら照れ隠しに兄さんに言う。
「に、兄さんもいいヒト見つければいいじゃねぇか」
「そうよ☆ロイには私がいるから安心して☆」
俺との会話は真剣なのに、同年代の誰かに何かを言うときには『☆』マークがつくんだな……。
「そうだね。僕にもいいヒトが見つかればいいんだけど……」
兄さんはそう言ってどこか遠くを見る。もしかしたら誰かのことを考えているのかもしれない。
そう判断した俺は兄さんに言う。
「何かあったら相談してくれよ。手伝うから」
「私にもね☆」
俺とセラがそう言うと、兄さんは笑みを浮かべて「ありがとう」と答えた。
俺たちがそんな事をやっていると、
「貴様ら、何をしている!召集がかかった筈だぞ!」
年上の悪魔に見つかった。俺たちは謝りながら急ぎ足で集合場所を目指した。
で、集合場所でした話ってのは二天龍の能力の確認だ。
『
『
他にもあるらしいが、俺たちに危険が及びそうなものはこのくらいだそうだ。その他ってのも気になるが今回は大丈夫だろう。
それを考慮したのかはわからないが、一応の作戦はこうだ。
まず悪魔、堕天使、天使の戦力を二分し、それをそれぞれの龍に当てて分断させる。
分断させたら白い方から聖書の神と魔王様四人全員がかりで攻撃して倒すか、封印する。その間残った赤い方は堕天使総督と連携して攻撃していくとのこと。
そして、後は白い方と同じようにするとのこと。
かなり難しい戦いだと思う。まずあの二匹を分散出来るかどうかだ。あの二匹は理由はわからないが常に戦っている。その二匹を分断はかなり難しいだろう。それが失敗しても作戦はあるらしいが、そこまで詳しいことは教えてくれなかった。
俺は息を吐き、軽く伸びをする。今回の戦いは冗談抜きで俺たちの未来がかかってくる。この戦いに勝っても戦争は続き、種が滅びるかもしれない。だが、負けたらそこで終わり。
戦争が終わらないことには、悪魔に未来はない………。
俺が息を吐くと、何かを考えていることに気づいたのか、セラが肩を叩いてきた。
「ねえ、ロイ」
「セラ、左肩はやめてくれ………」
「あ、ごめん!」
俺は少し表情を歪めながらセラに釘を刺した。左肩は動かすことには問題ないが、何かしら衝撃が入ると少し痛む。完全に古傷みたいになってしまった。
俺が軽く左肩を擦りながらセラに訊く。
「で、どうかしたか?真面目な顔して」
「うん。なんか、いいなって思って……」
「………何が?」
俺が訊くと、セラは俺の耳元まで顔を寄せて小声で言ってきた。
「三勢力が手を取り合っていることがよ」
「ッ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で衝撃が走った。三勢力の和解、それが叶えば未来があるかもしれない!
俺は少し興奮したが、すぐにその興奮は冷める。そんな事、ありえない。俺たち悪魔と天使、堕天使がわかりあうなんてこと……。
俺が少し俯いていると、セラが笑顔で言った。
「『場所を考えろ!』って言われそうだけど、私はこれがいいな。三勢力が戦争をしないで手を取り合っている。綺麗事に聞こえると思うけど、これがいつまでも続けばいいのに………」
俺は顔を上げ、セラに笑みを向ける。
「難しいと思うが、これから何百年もすればそうなるかもな」
「なるわよ、きっと」
俺たちがまだ見ぬ未来のことを語り合っていると、
「よし!おまえら、聞こえるな?」
前髪が金、他の髪が黒という独特な髪色の男性堕天使が壇上に立った。
「作戦はさっき聞いた通りだ。で、俺たちは『
『ハッ!』
その男性堕天使の言葉に堕天使は一斉に応答する。絶大なまでのカリスマを発揮しているのが、堕天使総督━━アザゼルだ。
入院中にあのアザゼルが書いたらしいよくわからん紙の束、確か『僕の考えた最強の━━━』何だっけな。まあ、そんなものを読んで退屈を潰していた。
俺がその何かを思い出そうと必死になっていると、アザゼルが嘆息気味に言った。
「おら、悪魔、天使ども。返事はどうした?」
『………ハッ』
何か、そこら中からやる気のないような、ひどく屈辱そうな感じの返事が聞こえてきたんだが。
溜め息混じりに周りを見ていると、ふとアザゼルと目があった。そのアザゼルはイタズラでも思い付いたように笑った。
「まぁ、安心しろ。俺を含めた堕天使幹部ほぼ全員と、『ガブリエルの乳を揉んだ男』もいるからな」
『ッ!』
一気に視線が俺に集まる。あの野郎、今いうことじゃねぇだろ!?
俺が驚愕しながら周りを見渡していると、アザゼルが時計を確認しながら言った。
「よし!行くぞ!」
アザゼルの言葉に様々な応答が飛び、三勢力共同の『二天龍討伐作戦』が開始されたのだった。
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