綾子†無双   作:はるたか㌠

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「これでよし、と。では、頼んだわよ」

「はっ」

 

 首の入った桶を三つ。

 それを兵士が運んでいく。

 行き先は、都。

 張三姉妹を救う事に決めたとは言え、討ち取ったという証拠が必要だろう、と周瑜の意見で、賊の死体からそれらしく見えるものを選んで……という次第。

 残酷だけど、こうでもしなければ、雪蓮が罰を受ける事になる。

 ……いろいろと、理不尽な時代だよな、全く。

 

「孫策様」

 

 と、そこに袁術からつけられた兵が、やって来た。

 鎧からして、それなりの身分というか、恐らくはまとめ役なのかも。

 

「折り入って、お話したい事があります。お人払いを」

「何かしら。冥琳と蓮華、それに綾子だけ残って。後は下がりなさい」

 

 そう指示してから、雪蓮はその兵に向かって、

 

「悪いけど、この三人は私と一心同体なの。だから、それがダメなら話は聞けないわ」

「……わかりました」

 

 兵士は頷くと、一緒にいた別の兵士に目配せをした。

 そして、布に包まれた何かを取り出し、広げる。

 ……また生首か。

 いい加減見慣れてきた気はするけど、そうは言ってもあまり気持ちのいいものじゃない。

 

「! この者は……まさか!」

 

 普段から冷静な周瑜が、珍しく動揺している。

 

「はっ。袁術様より派遣された、我らの指揮官です」

 

 そう言えばいたな、そんな奴が。

 体のいい目付というか、監視役だったんだろうけど。

 威張り散らすだけで無能な奴だった事もあり、雪蓮以下完全に無視していたけどな。

 

「実は、この戦で、ある密命を帯びていたのです」

「密命とは何だ?」

「……孫策様を、戦闘に紛れて討ち取れ、と」

「何だと、貴様!」

「蓮華、落ち着きなさい! それで?」

 

 兵は臆する様もなく、続ける。

 

「我々兵士は、命令は絶対遵守が当然です。……ですが、こればかりは疑問を禁じ得ませんでした」

「疑問、ね」

「はい。袁術様は気づいておられませんが、今南陽が安泰なのも、袁家が健在なのも、皆孫策様のお働きによるもの。我らはそう思っております」

 

 あたしが思っていたのと同じ事だな。

 袁術は、家柄はいいのかも知れないけど、ただそれに甘んじているだけ。

 血を流し、手を汚し、汗をかいているのは雪蓮たちばかり。

 いいように使い、成果だけを横取りし、自分たちだけがこの世の春を謳歌している。

 その想いは、他の奴も同じだったって訳か。

 

「袁術様は、自分の意のままにならない孫策様を、常々排しようと考えておられたようです。ただ、孫策様には兵こそありませんが、将の方々は皆、一騎当千。それに、成敗するだけの非がありません」

「それで、黄巾党の戦闘にかこつけて……やれやれ、張勲あたりの考えそうな事ね」

「何と卑劣な! 姉様、冥琳。そのような理不尽で失われた兵が、このままでは民が浮かばれません!」

 

 孫権の言葉こそ、まっとうな人間の思考だと思う。

 つか、この場でそれを否定する奴がいたとしたら、頭おかしいな。

 

「孫策様。我ら、もはや袁術様に従うつもりはありません。……この命、いかようにもお使い下さい」

 

 そう言って、頭を下げる兵士達。

 

「張勲は嫌がらせのつもりであったのだろうが、策は裏目に出たようだな」

「ん? どういう事だ、周瑜?」

 

 あたしの問いかけに、髪に手を当てながら答える。

 

「新兵、つまり袁術軍に入って日が浅いという事は、それだけ忠誠心が高くないという事だ。そして老兵は逆に、場数を踏んでいて思慮もあるから、このような非道を見れば愛想を尽かす」

「つまり、あいつらはわざわざ、わたし達の味方を作るような事をしてくれた、そういう事よ」

 

 雪蓮は、頭を下げる兵士の手を取った。

 

「ありがとう。あなた達の命、確かに預かるわ……力を貸して」

「ははっ!」

 

 さて、ここからどうするか。

 一気に選択肢が増えたけど、周瑜あたりはもう考えているんだろうな。

 

「申し上げます!」

 

 と、そこに駆け込んでくる伝令。

 

「何だ?」

「陳留の刺史、曹操様より使者が参りました」

「曹操?」

 

 皆、顔を見合わせる。

 まだ袁術の食客扱いでしかない雪蓮に比べて、向こうは正式な朝廷の官職を持つ。

 もし、何かの命令をされれば、従わざるを得なくなる……んだよな、きっと。

 

「わかったわ。通して」

「ハッ!」

「では、命あるまで控えています」

 

 兵士達は下がっていく。

 正式ではないとは言え謁見の場、当然だろう。

 ……さて、三国志一の大物登場か。

 この世界の常識からすると……やっぱ、女性なんだろうな。

 そして、案内されてきた、金髪クルクルヘアーの女の子。

 ……うん、やっぱり美人だ。

 雪蓮とはタイプが違うけど、この時代の女性って美人が多いなぁ、ホント。

 それに髪の毛を変わった形に縛った女の子と……何故か、あたしと同じ年ぐらいの男も一緒。

 曹操もそうだけど、この女の子も、全然隙がないな。

 そして、男が来ているのはこの時代の着物ではなく……どこかの学ランにしか見えないもの。

 白く輝く、つまりはポリエステル製という事らしいけど、だとすると、噂通りなのかもな。

 

「会って貰えて嬉しいわ。私は、曹孟徳よ」

「孫伯符よ。にしても、本人がいきなり来る、普通?」

 

 雪蓮の言葉に、曹操はフッと笑って、

 

「たった一晩で、あの黄巾党を壊滅させたのはどんな人物か、この目で見てみたかったの」

「それは光栄ね」

 

 握手をする二人の間に、見えない火花が……気のせいかな?

 

「紹介するわ。こっちは許仲康、そしてこの男は北郷一刀」

 

 許仲康……許チョか。

 曹操の警護役としてついてきたんだろうけど、確かに適任だな。

 北郷ってのは……誰だろう。

 この世界の人間、というには違和感がある……というか、むしろ……。

 名前からして、いろいろとおかしい。

 

「ならこっちも紹介するわ。これが妹の孫仲謀、こっちが周公瑾。あと、そっちが美綴綾子」

 

 と、男が驚いたようにあたしを見る。

 

「どうかしたの、一刀?」

「いや、俺以外に字がない人がいるなんて。なぁ、美綴。一つ、聞いてもいいか?」

「何だ?」

 

 北郷はあたしを窺うように、

 

「美綴も……その、未来から来たのか?」

「……すまん。意味がよくわからないんだが」

 

 顔に出ているかも知れないけど、素知らぬ顔をするしかない。

 あたしが言わないようにしている言葉を、あっさりと口にする奴、油断が出来ない。

 

「あ、いや、名前が日本人みたいだし。それに、雰囲気が何か違うから」

「そうなのか、美綴?」

 

 孫権の言葉に、あたしは大きく頭を振る。

 

「……違うな、多分。少なくとも、あたしはこの男を知らない」

「俺だって初対面さ。でもなぁ……」

 

 まだ何か言いかける北郷を、曹操が遮った。

 

「一刀。今は私と孫策の対面の場よ。控えなさい」

「……わかった」

 

 とりあえず引いてくれたけど、まだ何か言いたそうにしている。

 

「失礼したわ。この北郷は、『天の御遣い』」

「え?」

 

 曹操の言葉に、あたし達は奴を見つめてしまう。

 

「確か、管輅の予言にあったわね。その本人かしら?」

「ええ、流石はよく知っているわね。縁あって、今は私の配下にしているわ」

「そう。でも、何か証拠はあるの?」

 

 雪蓮が挑発するように言うが、曹操は軽く受け流す。

 

「いろいろとあるわ。だから、間違いや嘘ではないわね」

「ふ~ん、随分と自信があるのね。まぁいいわ、用件はそれだけ?」

「いえ、まだあるわ。黄巾党の残党が、南陽の方角に逃げ込んだって情報が入ったの」

 

 そんな話、初めて聞いたな。

 それなら、ここでのんびりしている時間なんてないし、そもそも明命達からは何の報告も来ていない。

 

「黄巾党征伐は、朝廷の命令だから従わなければならないでしょ。……ましてや、そんな賊が来ているのに何もしていないとあれば、太守としては失格。いいえ、朝廷に対する反逆者ね」

「……あなた、何を考えているの?」

 

 雪蓮だけじゃない、孫策も周瑜も、警戒の眼で曹操を見ている。

 

「あら、そんな怖い顔をしないで欲しいわね。私は事実を言っているだけよ」

「……何が狙いだ、曹操?」

「黄巾党にしろ、何にしろ、民の事を想わない奴らに、統治する資格などない。だったら、よりよい為政者が取って代わればいいだけ。違うかしら?」

「では貴様が、黄巾党討伐を名目に南陽を手中にするとでも言うつもりか!」

「孫権、だったかしら? 貴女は、もう少し視野を広げるべきね。第一、私は朝廷の臣よ、勝手に他の太守の城を奪えると思う?」

「そ、それは……」

「それに、もし私がそのつもりなら、ここにこうして来ていないわ。その間に攻め落とせるもの」

 

 曹操の言葉は揺るぎがない。

 この自信、どっから来るんだ?

 

「欲しいものは必ず手に入れる。でも、それは正々堂々と、それが私の覇道よ」

「なるほどな。でも曹操、その言葉が嘘偽りだったときは?」

「その時は、私の首を刎ねるなり、天下に事実を流布するなり、好きにすればいいわ」

 

 英雄、英雄を知る。

 ……そんな言葉がぴったりだな、このシチュエーション。

 雪蓮は、曹操を真っ直ぐ見据えながら、

 

「では、南陽に向かった残党を討伐する。で、貴女も協力する……でいいのね?」

「そうね。けど、一つ言っておく」

「何かしら?」

「もし、新たな南陽の為政者が、民を守るに値しない者でしかなかった場合。……私は、容赦しないわ」

「ええ。その言葉、覚えておきましょう」

「では、作戦については改めて知らせるわ。私も戻って、準備をするから」

「わかったわ」

 

 颯爽と去っていく、曹操一行。

 北郷の事も気にはなるけど、それ以上にあたしは……曹操という人物に圧倒されていた。

 

「雪蓮。本当にいいのだな?」

「ええ、冥琳。これは借りでもなんでもないんだし、向こうが手を貸してくれるんだったら、ありがたくいただくまでよ」

「雪蓮姉様。やっとこの日が来たのですね……」

「そうよ、蓮華。これでやっと、母様の無念も晴らせるわ……」

 

 孫堅文台。

 会う事は叶わなかったけど、きっと破天荒な人だったんだろう。

 ……あたしだったら、大いに意気投合したかもな。

 その娘の雪蓮が、雌伏の時を終えようとしている。

 

「綾子。この戦いが終わったら、ゆっくり話したいわ」

「ああ……。そうしよう」

 

 雪蓮とあたし、頷き合う。

 

「誰か。皆を集めてくれる?」

「はっ!」

 

 

 

 そして、再び一同集結。

 

「では、曹操軍が南陽に攻めかかり、呼応して動く。基本はこれでよいのじゃな?」

「そうですね~。曹操さんの軍は兵もよく訓練されていますし、将も揃っていますから。まず、袁術さん達に勝ち目はないでしょうねぇ」

「…………」

「綾子。さっきから黙っているけど、どうかしたの?」

 

 目敏いな、雪蓮は。

 

「いや、南陽に残っている兵は、果たして袁術に従うのかな、って」

「どういう事かしら?」

「う~ん、何て言うか。さっきみたいに、実は見限っている奴もいるんじゃないかな、って。兵士って言っても、元は庶人の出、って奴がほとんどだろ? だとすると、袁術の治世に愛想を尽かしている……そんな奴が案外、多いんじゃないかな?」

 

 あたしの言葉に、皆が顔を見合わせる。

 見当外れな事言ったかな、こりゃ。

 

「なるほど。そこに気が回るとは。思春、どう思う?」

「はっ。美綴の意見、一理あるかと。無論、金に釣られている輩も混じっているでしょうが」

「もし味方に出来れば、罪のない民を巻き添えにする事が、最小限で済むかも……姉様!」

「そうね。でも、どうするの? 曹操はすぐにでも動くでしょうし、あまり時間はないわよ」

「さっきの兵に、あたしと菖蒲、出来れば明命を貸して欲しい。大勢で行けば目立つ」

「……危険よ? 一歩間違えば、全員無事では済まないわ」

「雪蓮、孫権が言ったじゃないか。このまま動けば、袁術達は死ぬ必要のない兵士を死地へ駆り出し、最悪の場合は民を盾にしかねない。自分たちさえよければいい連中なんだ、追い詰めればそのぐらいの事は十分あり得る」

 

 あたしは、想いのままをぶつけたつもり。

 奪わずに済む命は奪いたくない。

 ……ちょっとは成長したのかな、あたしも。

 

「あのぉ、確かに説得はいいんですが。成功させる見込み、あるんでしょうか~?」

「ああ。何も全軍を説得しようとは思わないし、一応手は考えている」

 

 全員が押し黙った。

 が、雪蓮が意を決したように、

 

「わかった。あなたに任せましょう。でも、軍は進めるわ。曹操の手を借りるだけ、じゃ孫家の名折れですもの」

「あたしだって、まだ死ぬ気はないから安心しな?」

 

 ニカッと笑って見せた。

 

「よし、明命、菖蒲。行くよ?」

「はいっ!」

「わ、わかりました!」

 

 

 

 

「開門! 孫策よりの急使だ!」

「わかった、今門を開ける」

 

 ギギギギギと頑丈な門が開けられ、あたし達一行は中へ。

 明命と、連れてきた兵がいるのだから怪しまれるところはない。

 

「さて。今、守備隊の責任者はどこにいる?」

「それでしたら、こちらへ」

 

 兵士と共に、城内へ向かう。

 幸い、あたしはほとんど顔を知られていないから、怪しまれる事もないだろうと踏んでいる。

 

「わかった。明命と菖蒲には、別に頼みがある」

「綾子お姉さま。何なりとお命じ下さい」

「綾子様のためです、頑張ります!」

「よし。なら……」

 

 手早く作戦を打ち合わせ、二人はそろぞれの方角へと散っていく。

 

「待たせたね。じゃ、行こうか」

「ハッ!」

 

 

 

「アンタが、守備隊の責任者だね」

「誰だ?」

 

 兵士達の溜まり場に出向いたあたし達。

 

「孫策配下の者だ。時間がないから前置きはしないで話す」

「孫策?」

 

 無論、その名前を知らない訳ではないだろうけど、あからさまに訝しげな顔をされる。

 指揮系統が違う上に、彼らは曲がりなりにも、袁術の直属。

 接点がないのだから、個人的に面識がある訳でもない相手の、しかも配下がいきなりやってくれば、面食らうのも当たり前。

 

「まず、黄巾党は壊滅した。昨日一晩でな」

「な、何だと! 出鱈目を言うな!」

「事実だ。孫策の指揮で、張角も討ち取られた」

 

 兵の言葉に、隊長は頭を振った。

 

「信じられん……。あれだけ手を焼いていた黄巾党が、たったの一晩で」

 

 あたしは構わず続けた、とにかく時間が惜しい。

 

「疑うのなら、後で確かめればいい。それともう一つ」

「ま、まだあるのか?」

「この城に向けて、陳留刺史の曹操が進撃中だ。黄巾党の残党を匿っているという理由でな」

「な、なにぃ?」

「黄巾党の残党、つまりは朝敵って訳。それを庇うのであれば朝敵、という訳さ。そして、その命に従い、孫策も向かっている」

「…………」

 

 あまりの事に、固まっている。

 

「で、アンタはどうする?」

「お、俺は……。兵士だ……戦わないといけない……」

「誰と?」

「き、決まっているだろう……。曹操と、孫策と……」

「勝てると思うか? 一騎当千揃いの両軍相手に」

「お、脅すのか!」

「事実を言っているだけさ。それに、そこまでして命を賭ける存在か、袁術は」

「な、何が言いたい!」

「アンタらが守ろうとするものは何か、それを聞きたいのさ。名家というだけで、民の事を顧みず、贅沢三昧の袁術なのか、それとも力なき民なのか」

「…………」

「袁術に忠誠を誓うのならそれはそれでいい。でも考えて欲しいんだ、元は同じ庶人だった彼らが、袁術のような身勝手極まる奴のために、無為に苦しんでいいなんて、おかしいじゃないか」

「……お、俺達に、袁術様を裏切れ、というのか」

「そうさ。でも、それは孫策のためじゃない。民のためだ」

「民のため……」

「孫策なら、己の欲望だけのために民を虐げたりはしない。もし、それが偽りだと思うのなら」

 

 あたしはどっかりと、その場に座る。

 

「この場であたしを討てばいい。覚悟はしている」

「……一つだけ、聞きたい」

「ああ」

「孫策は、何を目指している? 天下か?」

「そこまでは本人に聞いてくれ。ただ、一つだけ言える事がある」

「何だ、一体?」

「孫策は、自らの民を守るためなら、命を賭けて死地に飛び込んでいく。そういう奴だ」

「…………」

 

 沈黙。

 さて、これで失敗したら……ま、そこまでだったって事だ、あたしも。

 ドカドカドカと、兵士達が駆け込んできた。

 

「た、隊長!」

「どうした?」

「こ、この城に向かって軍勢が向かってきます! 旗は曹と……孫!」

「隊長、大変です!」

 

 別の兵士も飛び込んできた。

 

「今度は何だ?」

「反乱です! 街の民が、反乱を起こしました!」

 

 菖蒲、どうやら上手くやってくれたらしい。

 この間まで庶人だった菖蒲なら、民の知り合いも多いだろう、そう踏んで任せてみたんだけど。

 

「隊長!」

 右往左往する兵士達。

「……あんた。名前は」

 

 隊長が、静かに聞いた。

 

「美綴綾子」

「そうか」

 

 そう言うと、隊長は剣を鞘毎引き抜くと、あたしの前で膝をついた。

 

「今は、アンタを信じよう。指示……いや、美綴様、ご指示を!」

「……わかった」

 

 あたしは立ち上がると、

 

「城門を開け、白旗を掲げろ! 曹操と孫策には抵抗するな!」

「…………」

「ぐずぐずするな! これは、隊長の命だ!」

「は、はっ!」

 

 隊長の言葉に、兵士達は直立不動で応える。

 

「あと何人か、一緒に来てくれ」

「ははっ!」

 

 あたしはそのまま、城の奥へと向かう。

 途中で誰何されるかと思っていたけど……どうやら、皆それどころではないようだ。

 そして、謁見の間。

 

「だ、誰じゃ!」

「ひ、控えなさい!」

 

 玉座にいるのは、金髪の小さな女の子。

 そして、隣には小さな帽子を被った、青い髪の女性。

 

「袁術に、張勲だな?」

「わ、妾を呼び捨てにするのか? 無礼じゃぞ!」

 

 この期に及んで……。

 あたしは、怒り心頭だった。

 

「状況がわかっているのか? 貴様ら」

 

 ずかずかと玉座へと向かう。

 

「よ、寄るでない!」

「だ、誰か止めて下さい!」

 

 その声に、近衛の兵士達が飛び込んでくる。

 

「貴様!」

 

 剣を抜き、あたしに斬りかかろうとする近衛兵たち。

 と、その前に、何かが降り立った。

 剣は弾かれ、次々に近衛兵は打ち倒されていく。

 

「綾子お姉さま、ここはお任せを!」

「明命。頼む」

 

 そして、袁術と張勲の前までやって来た。

 二人は抱き合いながら、震えている。

 その頬に一発ずつ、渾身のビンタをくれてやった。

 

「ひゃっ!」

「あうっ!」

 

 そして、二人を、城下を見下ろすテラスみたいな場所へ引きずって行く。

 

「見ろ。貴様らがしてきた事の報いを」

 

 城下は、兵と民衆で溢れかえっていた。

 

「もう、俺たちは袁術には従わないぞ!」

「そうだそうだ! 自分たちだけ贅沢三昧しやがって! 俺達がどれだけ苦しんでいるか!」

「袁術を倒すぞ!」

「応!」

 

 次々に上がる、怨嗟の声。

 そして、袁術に対する非難の嵐。

 

「なななな、七乃。何じゃ、これは……」

「美羽様ぁ……」

「わかったか。もう、お前達に民の上に立つ資格はない」

 

 ガックリとうなだれる二人。

 

「うぉーっ!」

 

 割れんばかりの歓声が、遠くから聞こえる。

 ……片付いたな、どうやら。


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