IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
セシリアが目を覚ます。
「…………んっ、ここは……?」
「起きたか、オルコット」
「織斑、先生?」
保健室のベッドで寝ていたセシリア。
隣には、織斑千冬がいた。
「ここは保健室だ。お前はクラス代表決定戦で織斑に負けてそのまま気を失ったんだ。
全く、あの試合は一般の生徒には見せられないぞ」
「そう、でしたか。………あの!」
セシリアが意を決して千冬に聞こうとする。
だがその前に、千冬が先に口を開いた。
「…………お前の両親が、事故に見せかけて殺されたのは知っている」
「……ッ!………知って、いらしたのですか」
「ああ。……一夏と、話してみるといい。」
「織斑先生は、彼に何があったかご存知で?」
「…………もちろん、知っているさ」
「そう、ですか」
「織斑は先に目を覚ましている。既に部屋に戻ったか、まだどこかをうろついているかはわからないが好きな時に行け」
「はい、ありがとうございます」
病室から出ていった千冬。
一人になったセシリアは考える。
「(わたくしとしたことが、冷静さを欠いてあんな試合を……恥ずかしい限りですわ)」
試合での自分の言動、行為を思い出すセシリア。
「(でも、話さなければいけない。彼と)」
今すぐにでも織斑一夏と話さなくてはいけない。
『ただの一般人』だと思っていた彼は、そうではなかった。
試合中思わず口に出してしまった自分の感情へ、彼は噛み付いてきた。その真意を、知りたい。
そう思ったセシリアは、ベッドから立ち上がり、保健室を後にした。
一夏は中庭にいた。
木の下のベンチに座り、自販機で買った炭酸飲料を飲みながら物思いにふけていた。
「………………」
「ここに、いらしたのですね」
セシリアが、後ろから声をかける。
「!……オルコットか。怪我は大丈夫か?」
「ええ、あれぐらいで怪我をするほど、やわではなくてよ」
「そっか、ならいいんだ」
セシリアが、一夏の隣に腰を下ろす。
「貴方に、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「わたくしとの試合中に、苦しんでいるのはわたくしだけではないとおっしゃいました。あれはつまり、貴方にも……何かを失った過去が、あるのですか?」
「………何かを失った、か。
あるよ、俺にも。お前と同じ、大事な何かを失ったことが」
「…………やはり、そうなのですね」
少しの静寂。一夏は、ぽつりと呟くように口を開いた。
「今から一年前、俺は親友を亡くした。中学生に上がってからずっと一緒にいた、親友を。色々助けてもらったし、いつもみんなと馬鹿騒ぎしてる俺達を見守っててくれてたんだ。 ……そんな奴が、ある日突然殺された」
セシリアは黙って聞いている。
「千冬姉から聞いたんだ。その時一緒にいた、幼馴染と。
最初は千冬姉が何を言ってるのか分からなかった。いや、分かりたくなんかなかった。突然親友と、二度と会えなくなるなんて。そしてそいつは………女性権利団体に、殺されたって」
「……………なん、ですって?」
「表向きには女性の為の暮らしやすい生活支援を求める演説とかを街中でしてるけど、裏ではISに乗れないのをいい事に男が仕切る会社を片っ端から潰しに回って、乗っ取ったり。
他にも、ISの兵力を使って非人道的なこととか、人体実験のモルモットを捕まえてたんだ。どれも詳しく聞いて気分が良くなる話じゃない」
セシリアは唖然とする。
名前は知っていた、日本に来るにあたってIS関連のことを調べている時にちらっと目に入ったからだ。だが、まさか裏でそんなことをしているとは想像も付かなかった。
「そんな奴らと、あいつは一人で戦ってたんだ」
「戦っていた、って………IS相手に、一体どうやって……」
「………戦う方法なら、あったんだ。だから龍也はずっと戦ってた」
「そんな、生身で人間が戦えるわけ………」
セシリアは、はっとする。
聞いたことがある。
自分の住んでいた地域にも伝わっていた、一つの都市伝説を。
「……織斑さん。まさか、まさかとは思いますが、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん?」
「ISが世に普及して数年、世界を飛び回り悪事を働く人々を退治する、街の平和を守る為に戦った一人の戦士がいたという噂……いえ、都市伝説のようなものがありましたわ。その戦士の名は《仮面ライダー》と、言われています。もしや……その人は」
「………ああ。その《仮面ライダー》が、今俺が話した親友のことだ。名前は、『ダークネス』。仮面ライダーダークネスってところか」
「………本当に、実在していたのですね、そんなヒーローが。それに、わたくし達と同い年だなんて」
「いつ、どこからその力を手に入れたのかも分からない。どうして戦っているのかも分からない。もしかしたら俺が出会うより前、小学生の頃から戦っていたのかもしれない」
「何も言ってくれなかったんだ。学校にいる時も、家で遊んでる時も、そんなそぶり一度だって見せやしなかった。だから、悔しかった。悲しかった。辛かった。親友だと思ってた奴に、なんにも頼りにされてなかったことが」
「だから千冬姉から、龍也が死んだって聞いた時は‥‥絶望した。
この世界に。救いのない、この残酷な世界に」
そこで、セシリアは気づく。
「(もしや、この人は)」
「そして、俺は、俺達は、復讐する事に決めた。
あいつを殺した女性権利団体の奴らに。
そうしないと、世界の為に戦ってたあいつが報われないだろ」
「(ーーーわたくしと、同じですのね)」
復讐に囚われた人間であると、気づいてしまった。