IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
『それではこれより、クラス代表を決める織斑一夏VSセシリア・オルコットの試合を始める。両者準備はいいか?』
「はい」 「はい」
『よし、それでは試合……始めッ!』
「(ISだからって、負けるわけにはいかねぇ……ッ!)」
試合開始の合図と共に、斬りかかる一夏。
その手に持っているのは、自身の機体に唯一備え付けられている武器【雪片弐型《ゆきひらにがた》】
元より一夏は『ダークネス』の時も剣を主流に戦うので、あまり大差はない為本人は剣だけで十分だと思っていた。何より、《世界最強である姉》と同じスタイルで戦える事に、多少の誇りすら感じていた。
「なかなかに速いですわね、ですけど、それだけでは擦りもしませんわ」
「さすが代表候補生、これくらいじゃ当たってもくれないか……!」
初撃を当てられず、その後の数発も躱されてしまう一夏。
「(落ち着け俺。これはISバトルだ。相手のSEを0にすればいい。相手の隙を伺って、そこに斬り込んでいけば……!)」
「先に言っておきますけれど、隙なんて見せるつもりはなくてよ?」
「なにっ……?ぐあっ!!」
一夏の身体に衝撃が伝わり、地面に倒れこむ。
「(なんだ、一体どこから……!?)」
顔を上げた一夏。その視線の先には、
「さあ、織斑 一夏さん。わたくしの、
《ブルー・ティアーズ》と踊っていただく準備はよろしくて?」
空中に、セシリアを囲むように4基のBT兵器が浮かんでいた。
《ブルー・ティアーズ》
イギリスの第3世代型ISで、射撃をメインとした機体。『スターライトmkIII』といった巨大な特殊ライフルを主力としている。
遠距離戦闘型の機体だが、『インターセプター』といった近接用の武器もある。もちろん、セシリアは即時に展開し応戦することができる。
「(おいおい、まじかよ!がっつり遠距離タイプじゃねーか!)」
剣しか扱うことのできない一夏では、狙撃や射撃等の一定の距離を取って戦うタイプが苦手なことは自分でも分かっていた。
《ダークネス》での戦闘においては、多少なりとも慣れがあり尚且つ立ち回りがしっかりと把握できている為苦戦することは少なかったが、ISとなると話が違う。
初めて乗る機体で思い通りの戦いになるかと言われれば、それは別である。
それからおよそ5分ほど、セシリアの精密な射撃に、一夏は避けることしかできなかった。
「いつまでも逃げていては、試合に勝てませんことよ!」
「よく言うぜ!近寄せる気なんかないくせに……っ!」
大きくSEを削られることはないが、少し擦る度に微量であっても白式のSEは減っていく。
対して、セシリアには一撃も攻撃を当てることができない。
このままでは、差が開く一方であった。
「このままじゃジリ貧になる……どうするか、うわっ⁉︎」
「………………」
射撃が止まる。
「……………ッ、これだから、男は……!」
「……なんだよ、何に怒ってんだよ」
セシリアは呟く。
「…………わたくしは」
そして、セシリアは叫ぶ。
「わたくしはッッッ!!!
貴方のような弱く惨めな男が!!!!
だいっっっっっきらいですわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ISを使える『男』……ッ!それだけの、ただそれだけの男が………!『大切な人を失うことの辛さを知らない腑抜けた男』が!!!!!この世界に入ってくるんじゃないですわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「…………………ッ」
黙る一夏。
だが、一夏には、許せない一言があった。
「………確かに、俺は弱い」
「はあ、はあ……、ふふっ、認めるのですね「ISにおいては、俺は、お前の足元に及ばないかもしれない」……なんですって?」
「そこに言い訳なんてない。確かに俺は、まだISを動かして数日にも満たない初心者だ。それに対してお前は、代表候補生まで上り詰めた、実力者だ。そんなことはわかってる」
「でも……それでも……!」
『大切な人を失うことの辛さを知らない』
セシリアからしたら、自分の過去に何があったかなんて、わかるわけがない。それはこっちも同じだ。
でも、それだけは、一夏は認めるわけにはいかなかった。
「お前だけが!!!!この世界でお前だけが!!!苦しんでると思ってんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
一夏は吠える。
そして、
機体が、剣が、白く光る。
ーーー【白式】《一次移行》ーーー
「(な、んですって……?この男、今まで、初期設定でずっと………!)」
ーーこれは、復讐者二人の、戦い《殺し合い》でもある。
《零落白夜》
一夏の乗る機体、白式の単一仕様能力。
対象のエネルギーをすべてを消滅させることができる、当たれば一撃必中の、まさしくチート級の能力。相手のエネルギー兵器による攻撃を無効化したり、シールドバリアーを切り裂いて相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えることができる。自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもあるが、そんなことは今の一夏には知る由もないのだが。
「(あれは、あの剣にだけは、絶対に触れさせてはなりませんわ!!!!)」
セシリアは、戦いの勘からその能力に無意識に気づきつつあった。
《一撃でも斬らせたら負ける》
根拠はないが、そんな危機感が、頭の中を駆け巡る。
近寄らせまいと、一夏に照準を合わせ撃つ。
だが、当たらない。
「(くっ、動きが良くなった!?この人、本当に素人なのですか……!?)」
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
一夏が素人なのか、答えはNOだ。
セシリアが知る由はないが、一夏は、この1年で少なくない数の実戦経験を積んでいる。
殺らなければ殺られる。そんな状況下で一夏は、戦ってきたのだ。最も、一夏が人殺しをしたことは、なかったが。
「…………はっ!」
セシリアは、自身の周囲の地面にレーザーを撃ち、砂埃を巻き上げた。
そして、近接用の武器《インターセプター》を呼び出す。
先ほど言われた言葉が頭の中を巡る。
「(彼は言った……!《お前だけが苦しんでるわけじゃない》と……!なら………!」
砂埃が、晴れる。
正面から、一夏は突っ込んでくる。
「あなたの覚悟を、苦しみを、このわたくしにぶつけてみなさいな!!!!!!織斑一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「セシリア………オルコットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」」
剣が、交差する。
数分か、はたまた数時間か。
立っている人物は、いなかった。
地面にひれ伏す二人。
一夏にはもう意識はなかった。
意識が消えゆくセシリアが最後に聞いたのは
『セシリア・オルコットのSE残量0。よって、勝者 織斑一夏!』
自身の、敗北の宣告であった。
「(ああ…………わたくしは、負けたのですね)」
そのままセシリアの意識は、ブラックアウトした。
決着を告げるアナウンスをした千冬は眉をひそめながら考えていた。
「(………友を失った一夏に、両親を失ったオルコット。似た者同士、といったところか。)」
「あの、織斑先生。二人は……」
「……山田先生、彼らの事には、触れないであげてください」
「……わかりました。二人を保健室へ連れて行きますね」
「ああ、頼んだ」
アリーナへと向かう山田先生の背中を見送る。
そして千冬は、先ほどの試合を思い出す。
「(オルコットの奴、わざわざ近接武器に変えて、迎え撃つとはな。まだ手詰まりといった場面ではなかったのに。……一夏に、何かを感じたか?)」
一年前、千冬もよく知る一夏の親友が死んだ時、彼女は一夏に声をかけてやることができなかった。
代わりにできたのは、一夏に戦う力を与えることだけ。一夏を、自らの手で闇の世界に落とすことだった。
「(…………私のしてきたことは、本当に正しかったのか?……龍也)」
その問いに答える者は、いなかった。