IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第四十六話

 

 

「それでは、こっちのベッドは私が使わせてもらうぞ」

 

「うん」

 

 ラウラがベッドに荷物を置く。

 場所はシャルルと龍也の寮室なのだが、龍也の姿はない。

 

「しかし驚いたぞ。まさかお前が『女』だったなんてな『シャルロット』」

 

「はは……まぁね」

 

 朝のSHRで入学手続きミスで男になってしまったと担任から告げられた事によりシャルロットは女の子として学園に再び入学という形になった。

 

 本人としてもそれは非常に助かることで、これからの日常生活で気を張る必要がなく楽なのだがシャルロットは違う部分に意識は向いていた。

 

「(ああ……お兄ちゃんいなくなっちゃった……)」

 

 部屋の相方である龍也は出て行き同じ男である一夏と同じになってしまった。その為、一夏と同室であった箒も移動せざるを得なくなったのだが本人は寂しそうにしていた。

 

「(ずっと男でいたら一緒の寮室でいられたのかなぁ。はぁ」

 

「どうした?ため息などついて」

 

「な、なんでもないよ。うん」

 

 思わず口に出してしまったシャルロット。

 

 ふとベッドに寝転ぶ。

 

 すんすんすん

 

「(あ、お兄ちゃんの匂い)」

 

 シャルロットが現在使用しているベッドは元は龍也が使用していたもの。ラウラは自分が使っていた方へと誘導し見事ゲットしたのだ。

 

「(うぅ、お兄ちゃん……)」

 

 枕に顔を埋めながら内心唸るように顔をぐりぐりと擦り付ける。

 その際に強く感じる龍也の匂いに寂しさを他所に笑顔になる。

 

「おい、シャルロット」

 

「なに」

 

「お前も兄さんを『兄』と慕っていたな」

 

「……僕の方がずっと前からお兄ちゃんの妹だからね」

 

 先日よりラウラの兄となった某世界最強の弟と天災のお気に入り。

 シャルロットとしてはラウラが『妹』という存在になるのは少し複雑であった。

 

「ふむ、そうか。ならば私に兄さんの事を教えてくれないか?」

 

「えっ?」

 

 ちなみにラウラは一夏を『お兄様』、龍也を『兄さん』と呼ぶ事に決めたようだ。千冬をお姉様と慕っているために弟の一夏は同様の呼び方だとか。

 

「私はほんの数日前に妹になったばかりだからな。まだ何もお兄様と兄さんの事を知らない。

 兄さんだけでも構わない、人物像がわかるような話を聞かせてくれ」

 

「(……そんなキラキラした目で見られたら断れないよ、もう)」

 

 良くも悪くも何事においても純粋なラウラはシャルロットを困らせるには十分だった。

 

 ベッドから身体を起こしラウラの方を向く。

 

「まずお兄ちゃんはとっても優しい人です」

 

「そうだな、私がボコボコにしたにも関わらず快く許してくれたからな」

 

「……う、うん。そうだね」

 

 無自覚なキツい発言に少し引くシャルロット。

 

「困ってる人がいたら女子供問わず助けに行っちゃうようなヒーローみたいな人です。まぁ、女の人のところに行くのはやめて欲しいんだけど」

 

「おお、ヒーローか!流石兄さんだ!」

 

「ふふん、そうでしょ。お兄ちゃんは凄いんだから」

 

 大好きな兄を褒められ少し機嫌がよくなってくる。

 

「でも女の人に近寄られるとすぐにデレデレします。直して欲しいところ第一です」

 

「ふむふむ、そうか。ハニートラップには要注意だな」

 

「んーそういうところはしっかりしてるんだよねお兄ちゃん。篠ノ之博士のところに1年間いたからか公私の使い分けみたいなのがあるみたい」

 

「おお、素晴らしいぞ兄さん。優秀ではないか」

 

「後はねーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとお前とルームメイトだよ。楯無さんじゃなくてよかった」

 

「そんなにあの人キツいのか?」

 

「少なくとも俺らにとっちゃな。護衛とか言ってるけどもうあの人が敵だ」

 

 反対にこちらは男子サイド。一夏の寮室に新しくルームメイトとなった龍也が荷物を持ってやって来た。

 

「はは、まぁ色々と計算高い人そうだったからな」

 

「能力面とか仕事柄は優秀なのには違いないんだけどな、ちょっと抜けてるところが目立つ」

 

「そういうところがある人の方がギャップがあるって言うだろ?」

 

「お、なんだお前。楯無さん気に入ってるのか?」

 

「ち、ちげえよ!」

 

 思わず強めの否定をしてしまう一夏。

 

「まぁそうだよな。(箒いるし)」

 

「ったく……」

 

 ぽりぽりと頭を掻くと、一夏はある事を思い出す。

 

「あ、そうだ。お前にダークネスの事を話さなきゃいけなかったな」

 

「ん?ああ。そういやそうだったな」

 

「今聞くか?」「あいよ」

 

 立っていた龍也も新しく自分の物となったベッドに腰をかける。

 

「まずだなーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。ダークネスが個人意識として存在してる、か」

 

「ああ。話が聞きたいって呼び出されたんだ」

 

 ラウラとの戦闘中の出来事を話した一夏。

 

「ふぅん。ここ最近使ってる俺には微塵もそんな気配なかったけどな」

 

 

 

『Darkness,Darkness,Darkness,Darkness』

 

 

 

「連打すんなよ。怒るかもしれないぞ」

 

 メモリを手に持ち音声を連続で鳴らす龍也。

 

「で、話が終わって現実に戻って来た後はダークネスを呼び出して変身したと」

 

「お前がいつもやってるみたいにな。まさかとは思ったけど、念じたらちゃんと出てきた」

 

 

 

 

「ふむふむ、それでそれでー?」

 

 

 

 

「その後はラウラを助けるために束さんと協力してーーって、束さん!?」

 

「はぁーい!みんなのアイドル、篠ノ之束だよ☆」

 

「い、いつから居たんですか!?」

 

「さっきからずっと居たよ?」「気付いてなかったのかお前」

 

「いや、気づく方がおかしいと思うんだけど……」

 

 部屋に侵入していた束。龍也の方は最初から気づいていたようだ。

 

「大体の話は聞かせてもらったよ。まさか、そんな不思議なことがあるなんてねー」

 

「新しいISコアの誕生って事になるんですか?ダークネスは」

 

 龍也が質問する。

 

「どうだろうねぇ。厳密には違うし細かい事を言えば違くないかもしれない。やっぱりまだまだ解析する必要があるね」

 

 束が龍也の手元のメモリを見る。視線に気づいた龍也はそっと手渡す。

 

「また当分の間預かるね。それといっくん、新武装の使い心地はどうだったかな?」

 

「いい感じでしたよ。大きい割に使い易い刀でした」

 

「おっけー。それじゃこのまま採用かなー」

 

「俺はまだ使ってないけどな……」

 

 ダークネスの話をし終える三人。すると、部屋の外からもう一人扉を開けて入ってくる。

 

「もういたのか、束」

 

「遅いよちーちゃん。待ちくたびれちゃったよー」

 

「千冬姉?どうしたんだ?」

 

「ラウラの後処理の話をしておきたくてな。VTシステムのことがある」

 

 壁寄りかかりすぐに話を始める。

 

「結論から言えば、あれはドイツの上層部がラウラの機体に仕込んだものだった」

 

「ちょっとこればかりは私も見逃せないね。あんな紛い物で束さんのISを侮辱するなんて許せないよ」

 

「……ラウラは、大丈夫なんですか?」

 

「私達に任せろ。普段と変わらない日常生活を送れるようにするさ」

 

「ちーちゃんのお気に入りの子らしいからね。まぁそこの所も含めてアフターケアは済ませるよー」

 

「そっか、よかった」

 

 心配事はこれで無くなった。ラウラが無事に学園生活を送れるとわかった二人は安堵する。

 

「ドイツには痛い目も見てもらわなくてな。私の大事な家族に手を出したらどうなるか……ふふふふ」

 

「(うっわ、ドイツ終わったな)」「(千冬さんが怒ったか……まぁ仕方ないよな)」「(ちーちゃんこわっ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと言い忘れていたが、数日前からお前達男子にも大浴場が解禁された」

 

「まじで!?」「よっしゃキター!」

 

「ふふ、よかったねー」

 

「時間帯はまた後で伝えるから焦って行くなよ。女子と鉢合わせにでもなったら知らんぞ」

 

「私でよかったらいつでも一緒に入ってあげ「ふんっ」い、いだいいいいい!!やめてちーちゃん、冗談ですぅぅぅぅ!!!」

 

「はは……」

 

 少ししてから束を解放し、部屋を出て行く旨を伝える。

 

「それではそろそろ私は失礼する。束、お前もすぐに帰れよ」

 

「はーいっ」

 

「ちゃんと洗濯した洋服は仕舞ってよ、千冬姉」

 

「わかってるさ。……それと」

 

「な、なんですか?」

 

 龍也の前に移動して来た千冬。

 

「ふふ、またな龍也」

 

「え?あ、はい」

 

 龍也の頭を撫でてから部屋を出て行く。

 

「ちょ、ちょっとりゅーくん!?今のどういうこと!?」

 

「龍也……お前、年上趣味だったのか」

 

「お、落ち着いて束さん!それと一夏、俺は別に年上好きってわけじゃ……「まさか、ちーちゃんに手を出したの!?私がいるのに、どうしてぇ!?」ああもう!話を聞けぇぇぇぇぇ!!!」

 

「(……部屋出よう。面倒くさいことになりそうだ)」

 

 いち早く心労の危険を感じた一夏は、そっと部屋を出て行った。

 










くっ、ちーちゃんがヒロインみたいになってるぜ……!←

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