IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
「ん……」
保健室のベッドでラウラは目を覚ます。
「起きたか」
「きょう、かん?」
ラウラが横たわるベッドの隣では、椅子に座っている千冬が。
ゆっくりと身体を起こすラウラ。
「身体の調子はどうだ」
「問題ありません」
「そうか。当分の間は絶対安静だ。わかったな」
「はい」
短いやり取り。
少しの沈黙の後、ラウラが口を開く。
「あの……私は、どうなっていたのですか?」
「……今は、気にするな。お前の体力がしっかりと回復してから全てを話す。それより」
椅子から立ち上がる千冬。
「すまなかった、ラウラ」
「きょ、教官!?何を……」
謝罪の言葉と共にラウラに頭を下げる。
「一夏から聞いた。お前が私を必要としているから、弟の存在を消そうとしていたと」
「ッ、それは……」
「独りにしてすまなかった。許してくれとは言わない、ただ謝らせて欲しい」
「…………」
顔を背けるラウラ。その姿はまるで、見られたくない自分の一面を見られたかの様だった。
「頭を上げてください、教官」
「…………」
千冬が頭を上げると、下を向いたままラウラはぽつりぽつりと語り始める。
「私は貴女に感謝しています」
「私に生き方を教えてくれた。力を、笑顔を与えて頂いた」
「貴女と過ごした半年は、私にとってかけがえのない宝物です」
徐々に声が震えていく。
「……私だけを、見て欲しかった。ハーゼの皆や、ましてや弟でもなく、私だけを」
「貴女とずっと一緒にいられれば、それだけで私は他には何もいらない。でもそれは、私のエゴだとあの黒いナニカに飲まれた後気づきました」
肩が震えだす。
自身の足にかかっている布団を、強く握りしめる。
「私は、貴女の心情のことを何も考えていなかった。自分のことばかりで、勝手な行動を取ってしまいました。ごめん、なさい……」
涙が瞳から溢れ出る。
手の甲の上に、涙が零れ落ちる。
「ラウラ……ッ、馬鹿者」
千冬は泣いているラウラを強く抱きしめる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「もういい、いいんだラウラ。お前が苦しむ必要なんてないんだ」
抱きしめているラウラの頭を撫でながら優しい声で声をかける。
「お前は過ちを犯す前に気づくことができた。それだけで十分立派さ」
「ひっく、ぐすっ、う、ううう」
「ほら、泣くなラウラ。IS部隊の隊長の名まで泣いてしまうぞ。
……はぁ。まったく、仕方のないやつだ」
泣き止ますのを諦め、しばらくはラウラが落ち着くまでこのままにしておこうと決めた。
その時の千冬の顔は、本人も無意識に優しい笑顔をしていた。
「もう大丈夫だな、ラウラ」
「は、はい。申し訳ありません、教官」
「私とお前と仲だ、気にするな。それと此処では私のことは織斑先生と呼べ」
数分後、泣き止んだラウラを離し再び椅子に座る。
「先生、ですか。ふふ、なんだか不思議ですね」
「何もおかしいことはないぞ。ドイツに行く前から既に私は此処で教師だったのだからな」
「……これからは、教師と生徒、か」
自分と千冬の関係を再確認するように小さく呟く。
だが、千冬はその発言を聞き逃さない。
「おいラウラ」
「は、はいっ!」
「教師と生徒などと他人事の関係で満足か?」
「……え?」
「お前は今日から私の妹にする。決定事項だ、異論は認めない」
「…………え、ええっ!?」
「う、ううぅ……」
「お、おい龍也。そろそろその辺にしといた方が……」
「お前は黙ってろ一夏」
「は、はいぃぃ!(こ、こええよ!こんな怒った龍也初めて見たわ!!)」
場所はとある教室。中には龍也、一夏、シャルルの三人しかいない。
だがその様子は、
「お、お兄ちゃん、僕もう足の感覚が……」
「なんだ?反省より自分の足が大事か?」
シャルルが床に正座していて、それを龍也が威圧感MAXな態度で見下していた。
「復讐なんてアホなこと考えやがって全く」
あの後、一夏から詳しく事の顛末を聞いた龍也はシャルルが自分の敵討ちをしようと企んでいた事を知った。
驚愕と言っていいほど驚いた龍也はしばらくの間自分に落ち込んでいたが、急に立ち上がったと思えばシャルルを呼び出し説教を始めた。
「俺が心配してたってのに!この!この!」
「い、いふぁいよおふぃふぁん、やめふぇ〜(い、痛いよお兄ちゃん、やめてぇ〜)」
シャルルのほっぺをそこそこの力でむにーっと引っ張る龍也。
「ふんっ」「あうっ」
ピッ、と指を離す。赤くなった頬を摩るシャルル。
「……ったく、お前に人殺しなんかさせたら、俺はお前の親父に顔向け出来ねえだろうが」
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
先ほどまでの怒った様子は消え、少し寂しそうな顔でシャルルの頭を撫でる。
「もうそんなくだらない事考えるなよ」
「うん」
「(よかった、こっちは大丈夫そうだな)」
龍也とシャルルのわだかまりは完全に消え去ったと安心する一夏。
すると、そこに、
ガラガラガラッ
「此処にいたかお前達」
「千冬姉?に、ラウラ……」
一夏達のいる教室に新たに入って来たのは千冬とラウラ。
「もう歩いて平気なのか?」
「あ、ああ。問題ない」
「そっか、よかった」
「…………ッ、織斑 一夏!橘 龍也!」
「な、なんだよいきなり大声出してーーって、ちょっ、何してんだ!?」
「お、おい、ボーデヴィッヒ!?」
名前を呼んだ二人の前で、土下座をし始めるラウラ。
「すまなかった!お前達には、多大な迷惑をかけてしまった。謝って許されることではないと思うが、どうか謝罪を受け入れて欲しい」
「……そんな事するなよ、顔を上げてくれ」
「…………」
顔を上げるラウラ。
「俺も龍也も、もうお前に敵意なんてないよ。な?龍也」
「おう。お前の境遇を聞いといて、お前の気持ちもわからないような薄情な考えはしてねえよ」
「一夏……橘……」
「これからはクラスメイトとして頼むぜ、ラウラ」
一夏から友好の印として手が差し伸べられる。
「……ああ。よろしく頼む」
二度目は自分から、その手を掴み立ち上がった。
「そ、それと、もう一つお前達に頼みがあるのだが」
「ん?なんだ?」
「(……千冬さん、何ニヤニヤしてんだ?)」
突然もじもじし始めるラウラ。その後ろで急にニヤついた笑みを浮かべ始めた千冬に龍也は疑問を抱く。
「すぅー、ふぅー……そ、そのだな!」
一息吐いて意気込む。
「わ、私の家族になってくれないか!?(兄になって欲しい)」
「「か、家族ぅ!?(夫になってくれと勘違い)」」
「ちょ、ちょっと君!いきなり何言ってッ、あ、いたたた、足がまだ……」
「くっくっくっ、そうだ家族だぞ。どうなんだ二人とも?」
「い、いや、そんな唐突に言われても、なあ?」
「あ、ああ」
「ッ……だめなのか?(兄になるのが)」
「え、ええっと……(夫になってしまうのかと勘違い)」
「おい、ラウラを泣かせたらどうなるか……わかっているな?織斑、橘」
ゴゴゴゴ、と一夏と龍也が人生で見た中で最も迫力のある鬼が現れる。
「わ、わかりましたぁ!!俺たち二人、家族になりまぁす!!」
「ちょ、一夏お前!?」
「そんな……お兄ちゃん……」
「ほ、本当か!」
四者四様の反応である。
「ふふ、よかったなラウラ」
「はい!『お姉様』に続いて『お兄様』が二人も増えるなんて……!」
「「「…………え?」」」
「どうしたお前達、家族(妹)が増えたんだぞ。喜べ」
「は、ちょっ、ええ?」
「……なるほどな、家族ってそういうことかよ。騙された」
千冬を睨む龍也。
「なーんだ、そういうことかよかった……って、良くないよ!?お兄ちゃんの『妹』は僕だけなんだよ!?」
「む?お前は『男』ではなかったのか?」
「ぎくっ。い、いや、その……」
わーわーわーと三人は騒ぎ出す。
未だ口うるさく会話している三人を他所に少し離れる龍也。
そのまま空いている窓枠に腕を乗せ風を浴びる。
「(これで一件落着だな。一時はどうなるかと思ったぜ)」
「何を黄昏ているんだ龍也」
「いや、なんかここ数日は大変だったな……って、ちょっ、千冬さん!?」
「大人しくしろ」
近づいてきた千冬は、突如龍也を後ろから抱きしめる。
「ふふ、顔が赤くなっているのが此方からでもわかるぞ。どうした」
「こ、こっちのセリフですよ!どうしちゃったんですか!?」
「あまり大きな声を出すな。皆に気付かれる」
三人は盛り上がっていて、二人の様子に気づいていない。
「……ありがとう、龍也。ラウラのことを知るためにクラリッサへ電話をかけたと一夏から聞いたよ」
「別に感謝されるようなことでもないですよ。俺がしなくちゃいけないと思っただけなんで。束さんにも手伝ってもらいましたし」
「素直に受け取れ。……それと」
より強く抱きしめ、体を近寄せる千冬。
耳元でそっと囁く。
「お前も私の家族になってもらうぞ。勿論、異論は認めない」
言い終えると何事もなかったかのようにすっ、と離れて一夏達の方へと向かう。
「……はは、それってまさか夫の方じゃねえよな?」
ーーーその真意は、龍也には知る術はなかった。
⇒『らうらがかぞくになったよ!やったね!』
最近真面目な話続きだったので可愛いヒロインズを書きたくてうずうずしてます。いちゃいちゃ需要はあるのかな?
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