IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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少女の孤独を取り払う時

 

 

 

『(……この感覚、久しぶりだ)』

 

 黒い鎧に身を包んだ一夏は少しばかり懐かしさに浸る。

 しかし、悠長にしている時間はない。すぐに頭の中で作戦を立てる。

 

『(零落白夜の分のダメージは確かに入ってる。もう一度正面から斬れば、中からボーデヴィッヒを取り出せるだけの穴ができるはずだ)』

 

 手持ちの武装を確認する。

 白式が装備は刀しか無いため、一夏は銃火器の扱いには慣れていない。

 

『結局は刀一本か……上等だぜ、やってやる』

 

 黒龍刀=斬魔を手に持ち、背中の6枚の羽を羽ばたかせ地から空へと浮かぶ。

 

『俺の戦い方は今も昔もあんまり長期戦向きじゃないんだ。だから今回もーー』

 

 剣先を敵へ向ける。

 

『すぐに終わらせる』

 

『…………!』

 

 交戦意識を確認したのか、黒い暮桜は自ら一夏の方へと突撃してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いた!龍也!」

 

「はぁ、はぁ……ん?どうした、鈴!」

 

 校内を駆け回っていた龍也の元に鈴が走ってくる。どうやら探し回っていたようだ。

 

「い、一夏が……」

 

「ッ、なんかあったのか!?」

 

 鈴の肩を掴み問いかける。

 手遅れになってしまったか、そう嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

 

 

「一夏が、ダークネスになったのよ!!」

 

 

 

「…………な、なにぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 思わずコメディ的なリアクションを取ってしまう龍也。

 まさか親友が使っているとは、思わなかった為だ。

 

「ほ、本当か!?それって!」

 

「こんな時にくだらない嘘つくわけないでしょ!いいから早く来なさい!」

 

「あ、ああ!」

 

 二人でアリーナの方へと戻る。

 

「(おいおい、とんだサプライズしてくれるじゃねぇか一夏。見せてもらうぜ、二代目ダークネスの実力を)」

 

 何故一夏がダークネスを使用しているのかはわからないが、きっとあの男ならばなんとかしてくれると龍也には確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキィンッ、ガキィンッ!

 

『(あんまり違和感は感じないな。これなら、いける!)』

 

 白式の時より更に空を自由自在に素早く飛び回り、敵を翻弄しながら斬撃を与えていく。

 

 と、戦いの最中の一夏の搭乗するダークネスに『通信』が入る。

 

 

 

 

『ちょっと、いっくーーーーーん!?!?!?』

 

 

 

 

『ええっ!?た、束さ……【ブンッ!】うぉっ、危ねぇ!?』

 

『なんでいっくんがダークネスに乗ってるのー!説明してもらうよー!』

 

『ちょ【ブンッ!】ぐっ、今それどころじゃないんですけど……!』

 

 突如聞こえてきた篠ノ之束の声。敵からの攻撃中に驚いてしまった一夏は回避が甘くなり焦る。

 

『ん?あれ……ッ、ちーちゃんの暮桜!?いや、違う。そいつは……!』

 

 束も今の一夏の状況が確認できたのか冷静になり、同時に驚く。

 

『た、ばねさん!これがなんだか分かりますか!?』

 

『Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)。名前の通り過去のモンド・グロッソから部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをコピーして再現、実行するっていう「不細工なシロモノ」だよ。

 今はアラスカ条約で全面的に禁止されてるはずだけど……』

 

『なるほど、だから千冬姉を……!』

 

 シュヴァルツェア・レーゲンを飲み込んだドロドロが暮桜に変化したのもこれで納得がいく。

 

『で、どうしていっくんがそんな物と戦ってるのさ!?』

 

『詳しい話は後です!今は、此奴に飲まれたクラスメイトを助けなきゃいけません!』

 

『ッ……おーけいおーけい。なんとなく把握できてきたよ。

 それじゃ、久しぶりのいっくんダークネスを私がサポートしてあげますか!』

 

『え?』

 

『今から新武装を一つ転送するから、データが送られてきたら展開してねー』

 

 耳元で聞こえる通信先でカタカタカタと凄いスピードでクリック音が響いている。

 

 ガキィンッ!ブゥンッ!

 

『そ、れと、何で俺と通信が取れるんですか!?』

 

『んー?それはね、この前りゅーくんからダークネスを回収した時に色々いじったからだよー。

 主には緊急時の私との連絡手段と、今から送る後付武装のセッティングの為……ポチッとな!』

 

『これは……』

 

『ちゃんと転送されたみたいだね、よかった。それじゃあ早速いってみよー!』

 

『あんまり大差ない気がしますけどね……行きますか!』

 

 一夏が新しい武装を展開する。

 その形状は斬魔より大きく、黒い。

 

『黒龍刀=斬月(こくりゅうとう=ざんげつ)。チビチビ稼いでく斬魔と違って思いっきりぶった斬れるよ!やっちゃえ!』

 

『二刀流か。よし、いくぜ!』

 

 二本の剣を持ち、改めて敵へ突撃していく一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い。寒い。怖い。

 

 

 嫌だ。もう独りは嫌なんだ。

 

 

 誰か、誰か私を。

 

 

 殺してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおっ!!』

 

 確実に一夏が押している状況。

 

『ボーデヴィッヒ!!』

 

 この声が届いているかは分からない。でも一夏は叫ぶ。

 

 

 

『今、助けてやる!!』

 

 

 

 メモリをドライバーから抜き、横のホルダーに挿す。

 

 

 

『『Darkness,Maximum Drive !!』』

 

 

 

 剣にエネルギーが収束し、光り輝く。

 

 

 

『ーー黒龍、一閃!!』

 

 

 

 掛け声と共に剣を縦に振る。

 

 

 

『…………!』『よしっ!』

 

 

 

 敵は受け止める事ができずに、正面から食らった。

 

 

 

『ッ、いた……!』

 

 斬り裂いた傷口が裂け中に意識を失っているラウラが見える。

 

 引っ張り出そうと手を伸ばすが、

 

『ぐっ、抜けねえ……!』

 

 ラウラが敵の内部から離れない。

 

『っ、いっくん!!』

 

『なっ!』

 

 少しの間引っ張り出そうと格闘していると、ラウラを飲み込んだのと同じドロドロが一夏の身体を覆う。

 

『くっ、そぉ……!』

 

 そのまま抵抗できず、一夏の意識も闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も無い真っ黒な空間。

 そこで一夏は再び目を覚ます。

 

「……また、か」

 

 ダークネスの時と同じ状況。だが今回は見えるものが真反対に不気味な空間。

 

「そうだ、ボーデヴィッヒは……」

 

 恐らくこの場所の何処かにいる。ラウラを探すために一夏は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、ボーデヴィッヒ!」

 

 少ししてから、倒れこんでいるラウラを発見する。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「ん……此処、は?」

 

「よかった、意識が戻った」

 

 ラウラの身体を抱え、起こす。

 

「織斑 一夏……?私は……」

 

「お前は箒と話してる最中に、ISから出てきたドロドロに飲み込まれたんだ」

 

「ッ、そうだ、篠ノ之……!」

 

「大丈夫だ。箒はお前が突き飛ばしたから飲み込まれてないし、傷ついてない」

 

「……そうか」

 

「早く此処を出よう。なんとかして脱出する方法を見つけないと」

 

 立ち上がる一夏。だがラウラは、

 

 

 

 

 

「……私は、いい」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「私は、此処に残る」

 

「何言ってんだよ」

 

「私は多くの人を傷つけた。それに、今更戻ったところで私を必要としている人など、いないさ」

 

 自虐的に言うラウラ。その目は何かを諦めていて、絶望が垣間見える。

 

「なんだよ、それ」

 

「…………」

 

「……ッ、お前は、そんな簡単に諦められる覚悟で俺を殺すなんて言ったのか!!」

 

「すまなかったな。もうそんな気はない」

 

「ちげえだろ!そんな気はないとか、そういう事じゃねえ!!」

 

 胸倉を掴み上げる勢いの一夏。

 そんな一夏とは対照的にラウラは俯いている。

 

 

 

「ーー千冬姉に認められたいんだろ!?」

 

 

 

「…………ッ」

 

「一緒にいたいんだろ?お前は」

 

「……でも」

 

「あーもう!急にうじうじしやがって!ほら、シャキッとしろ!」

 

 ラウラの頬をパチンッ、と軽く押さえつけるように叩く一夏。

 

「むぎゅっ、な、なにをしゅる!」

 

「千冬姉はお前を受け入れてくれる」

 

「ッ、そんなの……」

 

「俺にはわかる。千冬姉は、教え子をそんな簡単に見捨てるような人間じゃない。

 それにずっと心配してたんだぜ?お前の事を」

 

「教官が……?」

 

「血は繋がってないかもしれない。でもきっと千冬姉は、お前を家族だと思ってる」

 

 

 

 

『ドイツ軍の皆は暖かいな、まるで家族を迎え入れてくれるようだ』

 

 

 

 

「か、ぞく……」

 

「だからまだ諦めるには早いぜ。これから先は長い、色んな事がこの学園で待ってる」

 

 一夏がラウラに手を伸ばす。

 

「千冬姉だけじゃない。俺達もお前を受け入れるさ、ボーデヴィッヒ」

 

「……いいのか?私は、また光を浴びて」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 まだ手を取るか迷っているラウラ。

 

「……ったく、往生際の悪い奴だな」

 

「な、何を……!」

 

 中途半端に差し出された手を一夏が掴み引っ張る。

 そのまま駆け出す。

 

 

 

 

「行こうぜ『ラウラ』。千冬姉が、みんなが待ってる」

 

「ッ……ああ。行こう『一夏』」

 

 

 

 

 暗闇しかない空間に、一筋の光が射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、どうなってる?」

 

 アリーナへ辿り着いた龍也達。

 

「あの中に、一夏が……?」

 

 各々心配しながら、動かない巨大なISを見る。

 

 そして、

 

 

 バキバキバキッ!

 

 

『……ふぅ、出てこれたか』

 

「う、私は……」

 

 ヒビが入るように砕け散ったISの中から、ラウラをお姫様抱っこで抱えたダークネス姿の一夏が出てくる。

 

『今はゆっくり寝てろ、ラウラ』

 

「……ああ。そうさせてもらおう」

 

 疲労した様子のラウラは、一夏の声を聞いて安心したのか再び目を閉じる。

 

「一夏!」

 

 龍也達が駆け寄る。

 

「本当に一夏なのか?」

 

『おう』

 

 変身を解除する。

 

「お前……何勝手にダークネス使ってんだよ」

 

「悪いな、ちょいと借りた。後で詳しく話す」

 

「そうしてくれ。とりあえず今は……」

 

 龍也の視線がラウラへ。

 

「ふっ、いい顔して寝てんじゃねえか」

 

「保健室へ連れて行こう。疲労が溜まってる」

 

 一夏の腕で眠るラウラは、年相応の純粋な顔をしていた。

 




そろそろ救済の時間です。
ちーちゃんに早く笑顔を……!

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