IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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Dの戦士 / 少年は再び手を伸ばす

 

 

 

「どういう事だよ!?ダークネスが消えたって……」

 

『わかんないよ!束さんのデスクの上で保管してたはずなのに、気づいたらなくなってるの!』

 

「(まさか、盗られたとでもいうのか?束さんのラボだぞ。侵入どころか見つけるのも不可能なはずじゃ……)」

 

『とりあえず私はラボの中を探すから!りゅーくんもそっちの周り探して!』

 

「あ、ちょっと!こっちはそれどころじゃ【プツッ ツー ツー】……くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もうSEも残りはない……外したら、アウトだ)」

 

 一撃必中。二発目の零落白夜は発動できない。

 ラウラを飲み込んだ『暮桜』を模したISは、織斑 千冬の乗る機体より一回り大きく黒い。手には一夏の持つ武装の元になった『雪片』がある。

 

「一気に……終わらせるッ!!」

 

 瞬時加速で正面から一気に突っ込む。

 

『…………』

 

「ーーぐぅっ!?」

 

 だが、黒い暮桜からのカウンターを貰い後ろに吹っ飛ぶ一夏。

 

「一夏!?」「大丈夫か!!」

 

「あ、ああ!まだ行ける!」

 

 再び剣を構え直す。

 

「(神経を研ぎ澄ませ。相手の動きを見極めろ!千冬姉の紛い物なんかに、負けるわけにはいかねぇ!!)」

 

「おおおおおおっ!」

 

 再び突撃する。

 

『…………』

 

「ッ」

 

 敵の振りかざした剣を躱す。そして、

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「よし!」「決まったか!?」

 

 相手を正面から、斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃダメだな。

 

 

 こっちのエネルギー不足もそうだが、何より敵さんがタフすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、どうして……」

 

 ラウラの姿が中から現れることはない。

 

「一夏でも、あの巨大なISを完全に斬り裂くのは無理か……!」「そんな……」

 

 全てのエネルギーを消滅させるには、至らなかった。

 

『…………』

 

「や、べぇっ……!!」

 

「一夏!!」「逃げろ、一夏ぁぁ!!」

 

 雪片の剣先が一夏へと向けられる。

 

 そして、剣が振り降ろされたその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーさて、もう二代目も限界っぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の意識は斬撃を食らう前にすっ、と消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もない真っ白な空間。

 

 そこで一夏は、うつ伏せに倒れこんでいた。

 

「…………ぐっ、此処は……?」

 

 意識を取り戻し、身体を起こす。

 

「俺は死んだのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まだお前さんは斬られちゃいねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 背後から一夏に声がかかる。

 

「ッ、誰だ……って、龍也!?」

 

 振り返った一夏の視線の先には、見慣れた親友の姿が。

 だが格好は学園の制服でもISスーツでもなく、黒いマントのような服を着ていた。

 

「違う。俺は『橘 龍也』じゃない」

 

「は?じゃあ一体……」

 

「自己紹介が必要か?『半年近くも俺を使ってた』ってのに、気づかないなんて薄情だな」

 

「使ってた……?どういう……ッ!?」

 

 龍也の姿をした誰かの手元に、一夏も見慣れた『ドライバーとメモリ』が現れる。

 

「こういう事だ」

 

「ダーク、ネス……?」

 

「正解。それじゃ改めてーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はダークネス。『元』俺使いの二代目さん、何卒よろしく頼むぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束様!!」

 

「いっくんから、ダークネス反応……!?」

 

「これは一体……」

 

 IS学園内部アリーナの位置から、ダークネスを発動した通知がモニターに映し出される。

 

「(……どういう事?いっくんが持ち出した?いや、それは無い。

 あーもうわけわかんないよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやいや、メモリが何で人間の姿してんだよ!?」

 

「借り物に決まってんだろ。お前と話すためにマスターの姿を模してるだけだっての」

 

「……じゃあ、ダークネスには個人としての意識があるって事か?」

 

「んー、正確には違うな。簡単に言えば俺とくっついたISとやらのせいで俺の意識が誕生した。

 お前達の世界風に言うならば、ISコアと認識してもらって構わない」

 

 突発的な展開。不思議な事が起きているのだが、今一夏が知りたいのは別の事だ。

 

「……それで、どうして俺を此処に呼んだんだ?」

 

「少し話がしたかった、それだけだ」

 

「話?」

 

「ああ。今のお前が、何の為に戦っているのかを知りたくてな」

 

「今の、俺が?」

 

「人々を救いながらも、以前のお前の戦う理由の根底は復讐にあった。復讐を成し遂げる為に力を、俺を手にする覚悟を決めた」

 

「ッ」

 

「答えろ、織斑一夏。ISを動かしたから、今お前は戦っているに過ぎないのか?お前にとって戦いとは何だ?」

 

「…………」

 

 質問は単純。今の一夏を動かす原動力は何か。

 

「……俺は」

 

 一夏は語る。

 

 

 

 

 

 

「俺にとって戦うことは、自分の中のわがままを満たすことだ」

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、わがままねぇ」

 

「俺は龍也が戻ってきた後、気づいたんだ。復讐なんて物の先には何も無いって」

 

「…………」

 

 ダークネスは黙って聞いている。

 

「人の報いをする為に人を殺した所で、それは結局同じ事の繰り返しなんだ。復讐が渦巻く、負の循環みたいなもんだ」

 

「誰かを妬み、憎み、恨んでも何も変わらない。何かを失うだけだ」

 

「だから復讐するなんて言う奴がいるなら、俺が止める。今はもう一人じゃない。みんながいて、戦える力《IS》もある」

 

 

 

 

 

 

 

「ーー俺の手で救えたり、変えられる人がいるならISでもなんでも戦い続けてやる。

 感謝なんてされなくてもいい。だって救うとか守るっていうのは、俺のわがままだからな」

 

 

 

 

 

 

 

「(……感謝なんてされなくてもいい、か)」

 

 

 

 

 

 

 

『ーー英雄になんてなるつもりはないさ。陰ながら苦しんでる人を救えるきっかけになれれば、それで十分だ。俺は』

 

 

 

 

 

 

 

「(……マスター。あんたと同じなんだな、こいつも)」

 

「だから今はボーデヴィッヒを救いたい。敵だとかそんなのは関係ない。目の前で命が危険に晒されてるのを、見過ごすわけにはいかない」

 

「……じゃあどうする?今のお前さんは、大ピンチ真っ只中だぜ」

 

「そうなんだよなぁ……どうしたもんか」

 

「…………ふっ」

 

 うーん、と頭を悩ませ始める一夏を見て笑うダークネス。

 

「な、なんだよ」

 

「手を貸してやる、二代目」

 

「……え?」

 

 一夏の前へ、ドライバーとメモリが差し出される。

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度だけ、お前と一緒に戦ってやる。あの少女を救う為にな」

 

 

 

 

 

 

 

「ダークネス……いいのか?」

 

「おいおい、そこ渋るとこなのかよ。素直に受け取っておけよ」

 

「でも今の俺が乗れるのか?専用機の黒龍は、龍也のもんだろ?」

 

「『そんなの知るか』。俺が乗せるって言ったら乗せられんだよ」

 

「はは……束さんが聞いたら泣きそうなセリフだな」

 

 どこぞの天災を哀れに思いながら差し出されたドライバーとメモリを受け取る。

 

「よし。それでいい。

 向こうに戻ったら俺を呼び出せ。念じれば手元に現れてやる」

 

「ああ」

 

「じゃあそろそろ意識を戻す」

 

 パチンッ、と指を鳴らすと一夏の意識が朦朧としてくる。

 

「あ、一つ言い忘れてたけど」

 

「な、ん、だよ?」

 

 ふらふらする感覚のまま一夏は尋ねる。

 

「意識が戻ったからと言って攻撃がキャンセルされてるわけじゃねぇ。ちゃんと避けろよ?出ないと死んじまうからな」

 

「な、ちょっーー」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまたな、二代目」

 

 

 

 

 

 

 

 地面に倒れこむような感覚と共に、再び一夏の意識は失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!」

 

 一夏が目を見開く。眼前には、振り下ろされている剣が。

 

「う、おおおおっ!!」

 

 咄嗟の判断。剣を捨てると同時に残されたエネルギーを使い後方に急バックしたため、振り下ろされた剣は宙を斬った。

 

「あ、危ねえ……!」

 

「よかった……」「冷や冷やさせるんじゃない……!」

 

 黒いISから離れた一夏は先ほどまでの状況を思い出す。

 

「(夢じゃねえよな?これで万事休すなんて事になったら洒落にならねえぞ)」

 

 と、少し考えていた一夏はある事に気づく。

 

『…………』

 

「(……なんだ?前の無人機の時と同じで、こっちが行動しなきゃ攻撃してこないのか?)」

 

 正確には剣や銃などの武器を所持している交戦意識がある者に攻撃を開始するのだが、そんな事一夏の知る由ではなかった。

 

「ま、それならそれで好都合だな」

 

 一夏がISを解除する。

 

「ちょっと、一夏!?」「何をしている!死にたいのか!」

 

「シャルル、箒、ここから離れてろ」

 

「一夏……?」

 

 二人に声をかけた一夏は一歩前へ出る。

 

「なあ、ボーデヴィッヒ」

 

 黒いISの方へ、声をかける。

 

「お前はまだ、千冬姉と向き合ってないだろ」

 

 中にいるラウラへ。

 

「俺を殺すとか言う前にやらなきゃいけないことがあるよな」

 

 千冬とラウラを話し合わせること。

 今の当人達に一番必要な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな偽りの力で俺を殺そうとするな。お前自身の力で俺を殺してみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 手元にドライバーと『Darkness』のメモリが現れる。

 

「え、あれって……!?」「龍也のISの待機状態の物か……?」

 

 

 

 

「ふぅ……よし、いくか」

 

 

 

 

 腰にドライバーを装着する。

 

 

 

『『Darkness』』

 

 

 

 押したメモリから機械音が鳴り響く。

 

 

 

 

「ーー変身」

 

 

 

 

 掛け声と共にメモリをドライバーに差し込み、横に倒す。

 

 

 

 

『『Darkness』』

 

 

 

 

 再び機械音が鳴る。

 

 

 黒い鎧が、足元から頭部にかけて展開されていく。

 

 

「なっ、一夏!?」「まさか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は仮面ライダー……ダークネス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は少女を救うために、再び黒い鎧を身に纏った。

 


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