IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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もう四十話かぁ。まだ書き始めてから1ヶ月ちょっとしか経ってないというのが驚きです(笑)


第四十話

 

 

「明日はトーナメント本番、今日で最後の訓練だ」

 

「ああ」

 

 ラウラと箒はISを纏い、アリーナで向かい合うように立っていた。

 

「私からはお前に最低限の攻撃しかしない。思う存分に斬り込んで来い」

 

「いいのか?それで」

 

「構わないさ。実感したいだろう?己が強くなった事を」

 

「……それもそうだな、今の自分がどの程度戦えるか把握しておこう」

 

「よし、それでは……始めるぞ」

 

 操縦訓練や箒個人の能力アップは既に済ませてある。

 後は、どれだけ本人が力を発揮できるかだ。

 

「はぁぁぁっ!!」「来い、篠ノ之」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、これで修復完了だね」

 

「なんとか間に合いましたね」

 

 ダークネスの装甲の修復を行なっていた束。

 細かい微調整を加えていたらトーナメント前日までかかってしまった。

 

「やっぱり、防御面に問題があるかなぁ。お腹部分の鎧だけじゃなくて、頭部まで破損しちゃうなんて」

 

 一度目は龍也が死にかけたあの日の夜、二度目は今回のラウラによるものだ。

 

「では早速、龍也様の元へ送りましょうか?」

 

「んーいいや。りゅーくん今回のイベント出ないっぽいんだよねー」

 

「そうですか……残念ですね、龍也様のかっこいい姿が見られなくて」

 

「へっ?い、いや、べ、別にそんなの期待してないし……第一、ボコボコにやられちゃうようなりゅーくんなんてかっこよくないもんっ」

 

 頬を染めそっぽを向く束を見てクロエは思う。

 

「(学園から帰って来た日はとてつもない程安心しきった顔をされていたのに……肝心な所で素直ではないんですから、まったく)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラッ

 

「失礼します、織斑先生はいらっしゃいますか?」

 

「ん?なんだ織斑」

 

 職員室の入り口から声を出し千冬を呼ぶ一夏。

 すぐさま反応し一夏の元へ。

 

「……ちょっと、話がしたいんだ」

 

「……わかった。少し待て」

 

 一度教員席へ戻った千冬は、軽く机の上を整理して近くの席の山田先生へ声をかけてから再びドアの前に。

 

「屋上でいいな」「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上へ場所を移した二人。

 

「それで、話とはなんだ」

 

「ボーデヴィッヒと話をしたんだ。あいつの過去の事とか、千冬姉がドイツにいた時の事を」

 

「な、に?ラウラが自分の事を?」

 

 千冬はラウラを誰よりもよく知っているだろう。

 そんな自分の知るラウラが、他人に自身の事情を話すとは思えなかった。

 

「あいつはあいつなりに向き合ってくれたんだ。だから話してくれたんだと思う」

 

「そうか……」

 

 千冬の家族であり、ラウラのターゲットであるからこそ一夏は過去を知る権利があった。

 

「明日のトーナメントで、ボーデヴィッヒは俺を殺すって言ってた」

 

「ッ……」

 

「ーーそして、俺はそれに正面から立ち向かうって決めたんだ」

 

 覚悟を決めた顔をする。

 

「ボーデヴィッヒにとって、千冬姉は血が繋がってなくても大事な『家族』なんだ。でもそれは俺も同じ、だから譲れない。

 本当は戦わないで解決できたらよかったんだけど……今回ばかりは、無理そうかな」

 

「ラウラ……」

 

 自分に対するラウラの思い入れや愛情があったのは自覚しているし、千冬もそれは同じだった。

 しかし、その独占欲は歪んでしまい、弟の友へと手をかけ挙げ句の果てには殺してしまおうとしている。

 

 複雑な内情をしているであろう千冬に、一夏はさらに声をかける。

 

「もし俺が死んだとしても、ボーデヴィッヒを見捨てたり、憎んだりしないであげてくれよ、千冬姉」

 

「馬鹿者、ふざけた事を言うな」

 

「……うん、ごめん。俺らしくなかったね。

 負けるつもりはないから、安心して」

 

「……すまない一夏。お前に任せきりになってしまって」

 

「はは、今更でしょそんなの。ろくに家事もできないんだから俺がやるしか「余計な事を喋るな」……いったぁ!?」

 

「全くお前と言う奴は……」

 

 出席簿は手元にない。よって代わりにチョップが繰り出された。

 

「頼んだぞ一夏。ラウラを、止めてくれ」

 

「ああ。やってやるさ」

 

 龍也に続いて、千冬も一夏に全てを託した。

 今自分がラウラと向き合うべきではないと、ステージに上がるにはまだ早いと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……やっと寮室に戻ってきた」

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

 

「おう、長い間一人にさせちまったな。悪い悪い」

 

 シャルルを自分の近くへ引き寄せ、頭を撫でる龍也。

 気付いているのだろうか、今の二人の容姿は互いに男であるということを。

 

 他人に見られたら完全に誤解ものである。

 

「むぅ、なでなですればなんでも丸く収まると思ってるでしょ」

 

「ぎくっ」

 

 普段であれば嬉しそうに頬を緩めるのだが、今日のシャルルはふんっ、と簡単には受け入れない姿勢を取っていた。

 

「ゆ、許してくれよシャル。この通り!な?」

 

「……じゃあ、今日の夜一緒に寝てくれる?」

 

「え?い、いやぁ、それはちょっと問題があるんじゃ……」

 

「……ふーん、お兄ちゃんは僕の事なんてどうでもいいんだ」

 

「わ、わかったよ!今日だけな、な!」

 

「仕方ないなぁ。じゃあその代わり夜ご飯の学食も奢ってね、お兄ちゃん♪」

 

「ははは……はい。仰せのままに」

 

 策士シャルル・デュノアの尻に敷かれる龍也であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、一人シャワーを浴びるシャルル。

 普段は隠された本当の姿を露わにし、男にしては長い髪の毛から水を滴らせる。

 

「(よかった、お兄ちゃんが帰ってきて)」

 

 久しぶりの龍也との時間を存分に楽しんだ一日だった。

 

「(明日はトーナメント本番か……ふふっ)」

 

 憎き相手を許すつもりはない。宣言通り、公の場でラウラを潰すと心に誓っている。

 

「(あいつをヤるのは一夏、君じゃない。この僕だ)」

 

 染み付いた負の感情は、愛しき人が帰ってきても消えることはない。

 復讐を成し遂げること、それだけが今のシャルルの目に見えているものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜学年別トーナメント当日〜

 

 

「よう、シャルル。今日は宜しく頼むぜ」

 

「うん、頑張ろうね一夏」

 

 ペアである二人は試合開始前に顔を合わせる。

 互いのコンディションを確認し、最善の策を練るだろう。

 

「あんたらはもう準備万端って感じね」

 

「お、鈴にセシリア」

 

「今日はわたくし達は観客席から閲覧していますわ。頑張ってくださいな一夏さん、デュノアさん」

 

「おう」

 

「…………」

 

「シャルル?……あ」

 

 セシリアからの応援の声に反応しないシャルルの見ている方向には、ラウラが一人で座っていた。

 

「気にすんなよ、シャルル。あいつとは俺がやるから」

 

「……僕がやるんだ、邪魔しないでよ一夏」

 

「……え?それってどういうーー「あ、箒さん。此方ですわ」

 

「ここにいたか、みんな」

 

 シャルルとの会話を遮るように、箒が合流する。

 

「あんた最近見なかったけどちゃんと特訓してたんでしょうね?生半可なままじゃ一夏達には勝てないわよ」

 

「ちょっと、鈴さん」

 

「いいんだセシリア。それに、今回は誰にも負けるつもりはないしな」

 

 専用機持ちではない箒に少しきつめの態度で告げる鈴に、制止をかけるセシリア。

 しかしその程度で今の箒は動じたりしない。

 

「……へぇ、いい目するじゃない」「ふふっ、頑張ってくださいね、箒さん」

 

「ああ」

 

「そういや、龍也は何処にいるんだ?」

 

 一夏が近くに姿の見えない親友を探す。

 

「あいつなら先に本音と観客席行ってるわよ。……いつの間にかね」

 

 協定を結んでいるとはいえ、ちょっとしたところで独占する意外とずる賢い本音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろわたくし達は観客席に行きますわ。もうすぐ抽選のペアの発表ですので」

 

「もうそんな時間?じゃ、またね。みんな頑張って」

 

 他愛もない会話をしていると、時間は立ちトーナメント開始時刻に近づく。

 去っていくセシリアと鈴、残った三人はモニターに移る多くの生徒達を見ながら待機する。

 

「そういや箒はタッグの申請してないんだよな」

 

「ああ。私は余り交友関係も深くないしな、運に任せることにしたよ」

 

 誰がペアであっても負ける気はないのが箒だが。

 

 すると、教師から放送を通して生徒達に声がかかる。

 

『それではこれより、学年別トーナメント1年生ペアマッチを始めます。第一試合はーー』

 

 モニターに、初戦を戦う四人の名前が映し出される。

 

「…………え?」

 

 声をあげたのは箒。

 

 

 

『織斑 一夏&シャルル・デュノア VS ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之 箒』

 

 

 

「……早速か、よし」

 

 

 一夏は意気込み、

 

 

「(……余計な手間が省けたね。まさかいきなりとは)」

 

 

 シャルルは内心で組み合わせの運を喜び、

 

 

「……篠ノ之、か」

 

 

 ラウラは『対戦相手の一夏とシャルルの名前ではなく』箒の名前を呟き、

 

 

「ボーデヴィッヒが、私のペア……」

 

 

 箒は、少し呆然とするのだった。

 




やっとここまできた……。
私が書きたかった、一夏シャルラウラ箒の決戦開幕です。

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