IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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ラウラの過去、一夏の決意

 

 

「……来たか」

 

「これはどういう事だ、ボーデヴィッヒ」

 

「鍛えてやると言っただろう」

 

 箒とラウラ、二人がいるのはアリーナのグラウンドではなく剣道場。

 手に竹刀を持っているわけではない、服装を動きやすいのに替えただけだ。

 

「ISでの訓練ではないのか?」

 

「お前は既に十分な程鍛錬をして身体を作っているようだから、まず私からは生身での戦闘体術を教える。

 戦いにおいての基本能力だ、ISを操縦するに至っても軍仕込みの動きが伴えばそれだけ自由に立ち回れる。ISでの実地訓練はその後だ」

 

「そうか……わかった。宜しく頼む」

 

「ああ。それでは早速だが……始めるぞ」

 

「ーーーーッッ!!」

 

 箒がゾワッ!と身の毛のよだつ威圧感を感じた次にはもう、ラウラの手によって身体を地にねじ伏せられていた。

 

「ぐっ……!」

 

「今、反応できなかったな。

 お前には最初に相手の動きを見極める"目"の力を養ってもらう」

 

「目……?」

 

「観察眼というやつだ。戦いにおいて、相手の動きを見るという行為は戦況をコントロールする鍵になる」

 

 箒の腕を放し立ち上がらせる。

 

「お前には1分間、私の攻撃をかわし続けてもらうぞ。

 避けても受け流しても構わない。一発も貰わなくなったら次のステップに進む」

 

「避けるだけだと?」

 

「嫌なら構わん。その時は私の役目はこれまでだったという事だ」

 

「………………」

 

 箒にもプライドがある。

 だが、今はそんなことに構っている時間はない。

 

「……始めよう。時間が勿体無い」

 

「ふっ、そうでなくてはな。いくぞ」

 

「来いッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

『はーい』

 

 ガチャッ

 

「調子はどうなのよ、龍也」

 

「りゅ〜くん元気にしてるー?」

 

「お、鈴に本音ちゃん。また来てくれたのか」

 

「あんたが暇を持て余してるんじゃないかと思ってね」

 

「きちゃったのだー」

 

 龍也の元へ来た鈴と本音。

 もう何度目かもわからないくらいなので、お見舞いというよりはただの話相手であろう。

 

「ははっ、もう傷は完治してるからな。今日で此処も最後だけど」

 

「……なんだかんだあんたが一番居座ったじゃないの」

 

「りゅ〜くんサボり魔だね〜」

 

「うっ、何も言い返せない……」

 

 未だに病室のベッドの上にいるのは一応怪我として一番重症だったせいか、保健の先生に甘えを許してもらいずっと居座っているからだ。

 

「その様子だと、だいぶ身体が鈍ってるんじゃない?学年別トーナメントまでもう日も無いけど大丈夫なの?」

 

「え?俺出ないけど?」

 

「「えっ」」

 

 思わぬ発言に二人が驚く。

 

「鈴とセシリアと同じでISぶっ壊されちまったからな。

 それに、今から申し込むのも先生方の仕事増やすだけだし迷惑だろ」

 

 今から用紙を貰い、ペアを決めるには時間がないのは事実だ。

 

「えーりゅ〜くんのかっこいい姿みたかったなー」

 

「そ、そうか?

 どうしよっかなー今から申し込んじゃおうかなぁー」

 

「……単純ね」

 

「そんなところも好きだけどねー」

 

 この3人の空間には他を寄せ付けない謎のオーラが出ているらしい。

 食堂では当然、鈴が一組へ来た時の教室で始まった時には周りの生徒は少しやめて欲しいと思っているとかなんとか。

 

 と、他愛もない話をしていると龍也があることを思い出す。

 

「あっ、俺今日までに山田先生に提出しないといけないプリントあったんだ!」

 

「そうなの?」

 

「ああ。俺が怪我してる間に期限が来てた、数学のな」

 

「あぁーあれかぁ」

 

 本音は先日授業で提出した課題を思い出す。

 龍也はその日病室にいたので間に合わなかったのだが、先生のご厚意により期限を延長してもらったのだ。

 

「そういうわけだから、ちょっと行ってくるわ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

「いってらー」

 

 二人に見送られ、部屋を出る。

 プリントは自分の鞄の中にあるため、向かう先は寮室だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(早めに思い出してよかった、急がないと)

 って、あれは……おーい!シャルー!」

 

「ッ!?」

 

「な、なんだよ、そんな顔して」

 

「おにい、ちゃん?」

 

「お、おう。お兄ちゃんですよー」

 

 龍也の呼びかけに凄い形相で振り返ったシャルル。

 その次には猛スピードで近づいてくる。

 

「怪我は大丈夫なの!?お兄ちゃん!」

 

「ああ、もうピンピンしてるよ。ていうか、なんでお見舞い来てくれなかったんだよ、寂しかったんだぜ」

 

「……ごめんね、僕もやらなきゃいけない事があるから」

 

「?そうか。まぁいいんだけど」

 

「……じゃあ、これで。お兄ちゃん」

 

「おう。明日から部屋に戻るから、またな」

 

 龍也は異変に気づかない、ほんの少しの会話では去って行くシャルルの内に秘めた感情に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍也とシャルルが出会った頃、別の場所でも対面する二人の姿があった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 一夏とラウラ、向かい合って互いを見合う。

 

「何の用だ、織斑 一夏」

 

「お前と話がしたい、ボーデヴィッヒ」

 

「私と話だと……?」

 

「ついて来い」

 

「……ふん、いいだろう」

 

 

 

 

 

 場所を中庭に移す。周りに人はいない、二人だけの状況だ。

 

「いい度胸だな。人気のない場所で私と対面するなど」

 

「俺は戦いに来たんじゃない。聞きたいことがあるだけだ」

 

「甘いな。そんな事が通用すると思うーーー」

 

「千冬姉とは、どういう関係なんだ」

 

 ピタッ

 

「……何だと?」

 

「聞かせてくれよ、お前のこと。お前が知ってる織斑 千冬って人間のことを」

 

「…………」

 

 立ったままその場で止まるラウラ。

 少し考えるようなそぶりの後、口を開く。

 

「……私にとって、あの人は恩人という言葉では語りきれないほど大きな存在だ」

 

 一夏は黙って耳を傾ける。

 

「今から半年と少し前、周りに比べて身体も小さく、戦闘能力も皆無な私はドイツ軍でも落ちこぼれの存在だった」

 

「努力していたつもりだった。しかし、成果は出ず思うように力を振るえない。全てに絶望しかけていたある日……」

 

「千冬姉が、ドイツに来たのか」

 

「そうだ。あの人が教官として、我がドイツ軍に来たのだ。最初は誰が来るなど興味無かったし何かが変わるとは思えなかった」

 

「だが、私が訓練に嫌気がさし、軍内の人気のない場所で一人佇んでいた……そんな時だった」

 

 

『ここで何をしている。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

「あの人が、私を見つけてくれた。

 普通ならば怒る所を、どうしたんだと話を聞いてくれた。……なんだろうな、その時から不思議と惹かれていたのだろう。すんなりと身の回りを話してしまったよ」

 

「……はは、一番に怒らないなんて千冬姉とは思えないな」

 

 一夏の知らない千冬の姿を聞き、驚きと笑みが出る。

 

「……そこから教官は、私をよく気にかけてくださった。居残り訓練にも付き合っていただいたし、食事や風呂も私と行動を共にしてくれたんだ」

 

「私には家族がいない。だから、あの人から貰った暖かみは、私の宝物なんだ」

 

「家族がいない?それって……」

 

 

 

「ボーデヴィッヒは、普通の人間じゃないんだ」

 

 

 

「え?」「貴様は……!」

 

 会話に横入りしたのは、通りすがった橘 龍也。

 

「悪いな。お前んとこの部隊の副隊長さんから、全て話を聞かせてもらった」

 

「ッ、クラリッサの奴が……?」

 

「どういう事だよ、龍也。ボーデヴィッヒが普通の人間じゃないって」

 

 

 

「……ボーデヴィッヒは、遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベイビー。要は"人造人間"ってやつだ」

 

 

 

「なっ……!」

 

 一夏の顔が驚愕に染まる。ラウラの方へと思わず振り返る。

 

「……そこまで喋ったか。ならば、この"眼"の事も知っているのだろう?」

 

「ISとの適合率を上げるための、ヴォーダンオージェの不適合による後遺症、だろ?」

 

「その通りだ」

 

「……ッ」

 

 ラウラが眼帯を取る。

 その下の目は金色に光り輝いていた。

 

「私は失敗作だ。この目に適合することができず、力を制御することもままならなかった」

 

「そんな……」

 

「同情などするなよ。無駄なことだ」

 

 眼帯を付け直す。

 

「その目を制御するために千冬さんはお前に力の使い方を教えた。そうだろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「……ッ、ならどうして一夏に復讐なんてするんだ!そんな事しても、千冬さんは喜ばないんだぞ!?」

 

「…………」

 

 一度目を閉じたラウラは、再度目を開け龍也を睨みつける。

 

「私はただ、"あの人とずっと一緒に居られればそれだけで他には何もいらない"。

 だから織斑 一夏、お前を消して私があの人の中の一番の存在になる」

 

 一夏の目を見て、はっきりと言い伝える。

 

 

「私の都合で、お前を殺すぞ」

 

 

 言い終えると同時に、歩き始め二人の元から去ろうとするラウラを呼び止める男が一人。

 

「待てよ、ボーデヴィッヒ」

 

「まだ何かあるのか、織斑 一夏」

 

「お前がどういう人間でどんな人生を送ってきたのか、少しだけだけどわかった気がするよ」

 

「…………」

 

 

 

 

「ーー俺はお前を否定しない。本気で殺しにこい」

 

 

 

 

「は?」「一夏、お前何言って……」

 

 一夏は、ラウラにとっての心の拠り所が千冬なのだと分かっていた。

 幼き頃から両親の存在を亡くした自分と同じだったのだ。

 

「でも俺はまだ死ねない。やらなきゃいけない事もたくさんあるし、千冬姉を取られるわけにもいかないからな。

 だから全力で来い。俺はお前を受け止めてやる」

 

 

 

「お前の想いを、俺に全部ぶつけてみろ」

 

 

 

 一夏は、ラウラの覚悟を正面から受け止めると決めた。

 それが例え自分に対して不都合でしかない事でも、向き合わなければならないと信じて。

 

「一夏……お前ってやつは」

 

「……いいだろう。そこまで言うのなら、正々堂々と殺してやる。

 学年別トーナメント、貴様の死に場所にふさわしい舞台だ。そこで待っていろ」

 

「ああ。望むところだ」

 

「………………」

 

 今度こそ去っていくラウラ。

 

「頑張れよ一夏。親友が無様に負けて殺される所なんて、見たくねえからな」

 

「おう。絶対あいつを人殺しになんてさせねえよ」

 

 

 全ての準備は整った。後は物語を、進めるだけだ。

 




決してラウラは悪人ではありません。
ただ、自分の欲しいもの『家族』を手に入れたいという純粋な気持ちで行動しているだけなのです。



さて、次で学年別トーナメント前最後になるかな。

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