IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第三十八話

 

 

 

「………………」

 

 

 シャリシャリシャリ

 

 

「……よし、これでいいか」

 

 

 ラウラは自室で椅子に座り、所持しているアーミーナイフを研いでいた。

 

 

「ふふ、教官に教わったからな。しっかり毎日手入れをしておけと」

 

 

 年相応の純粋な笑顔を浮かべて一人過去を振り返る。

 わずか半年足らずではあったが、織斑 千冬が教官としてドイツ軍に来てからラウラの見る世界に色が灯った。

 彼女に力の使い方を、そして笑うことの楽しさを教わった。

 

 

「……まだ、夜は続くか」

 

 

 トーナメント本番までは一週間以上ある。

 ラウラ個人の復讐を果たす場所にふさわしいとして、そこで見せしめに一夏を殺すことを決意していた。

 

 

「長いな。退屈だ……骨のある遊び相手はいないのか」

 

 

 ラウラはIS部隊隊長であり、ドイツの代表候補生だ。

 その実力は群を抜いて高く、他を寄せ付けない。

 

 

 コンコンコン

 

 

「む、私の部屋にノックだと?」

 

 

 千冬ならば声で呼びかけて居るか居ないかを確認するだろう。

 ラウラに学園で親しいと言える人物はいないので、誰かが部屋を訪ねてくるなど想像もしていなかった。

 

 

 ガチャッ

 

 

「誰だ?」

 

 

「突然すまない、ボーデヴィッヒ。私は同じクラスの篠ノ之 箒だ」

 

 

「貴様は……」

 

 

 以前、箒の顔はアリーナで一度見ている。

 襲撃を先生の呼びかけにより止められた時だ。

 

 

「何の用だ」

 

 

 温厚な態度で迎え入れる気はない。敵意と警戒心を入り混ぜて対応する。

 

 

「お前に頼みたいことがあるんだ」

 

 

「……私に頼み事だと?」

 

 

「ああ」

 

 

 話が長くなると踏んだラウラは箒を部屋に入れる。

 

 

「……此処ではなんだ、部屋に入れ」

 

 

「すまない、お邪魔する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客人ではあるため、茶を淹れ椅子に座る箒の前のテーブルに置く。

 箒が茶を一口含んだ所で話を始める。

 

 

「それで、どういう用件だ」

 

 

「お前はドイツの代表候補生だったな」

 

 

「ああ、そうだが」

 

 

「……私を、鍛えてくれないか」

 

 

「…………なんだと?」

 

 

 思わぬ発言に目をしかめ疑問を浮かべるラウラ。

 

 

「何故だ」

 

 

「強くなりたいんだ」

 

 

「力が欲しいなら、私ではなく他の国の代表候補生達もいるだろう」

 

 

 自身を殺すと宣言してきたのは、フランスの代表候補生。先日叩きのめした二人もイギリスと中国の代表候補生、それも世間で話題になるほどの実力者だ。指導を受けるには十分であろう。

 友好的な雰囲気を放っているとは自分でも思わないラウラは、自分の元へ来るのが単純に疑問であった。

 

 

「彼女達には……頼れない」

 

 

「………………」

 

 

 個人的な人間関係の拗れでもあるのだろうか、そう推測を立てる。

 だが、そんな事はラウラの知った事ではない。

 

 

「私はお前の友を襲った人物だぞ」

 

 

「それでも、今頼れるのはボーデヴィッヒしかいないんだ」

 

 

 箒は、事の重さを知らない。

 一夏に対し悪意を持つ彼女にいい気がしないのは確かだが、それも事情があってのことなのだろうくらいの認識でしかなかった。

 

 

「帰れ。私には関係ないことだ」

 

 

「ッ……どうしても駄目か?」

 

 

「私にはやるべきことがある。それに、お前に指導を振るう義務もない」

 

 

「…………そうか、時間を取らせてすまなかった」

 

 

 ほんの数分で箒は望みを断たれ拒絶されてしまった。

 

 

 暗い顔をして部屋を出て行く箒に、ラウラは目もくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁぁっ!!』

 

 

 違う。

 

 

『面ッ!!』

 

 

 違うんだ。

 

 

『胴ッ!!』

 

 

 私が手に入れたいのは、名誉や称号なんかじゃない。

 

 

『おめでとう、ーーーさん!優勝しちゃうなんて凄いね』

『かっこよかったよ!』

 

 

 みんな、やめてくれ。

 

 

 私の汚れた感情が篭った剣を、褒めないでくれ。

 

 

 

 

『ーーーこれが、今の俺の剣だよ。箒』

 

 

 ああ、一夏、お前は私より先へ行ったのか。

 

 

 

 

 どうすれば追いつける。

 

 

 どうすれば私は一夏と並び立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ、はぁっ、はぁっ……」

 

 

 一人アリーナの端で打鉄に乗り訓練する箒。

 その様子はとても激しく、目に見えて苦労しているのがわかった。

 

 

 彼女のIS適性値はC、セシリアや鈴達とは値から差がついている。

 ISにおいて適性は非常に重要だ。操縦するにもして、思うように動かせるかが大きく変わってくる。

 

 

「これでは、駄目だ。セシリアや鈴には追いつけない……!」

 

 

 以前のIS実習の授業、山田先生と戦った二人は完全とは言えないが十分に実力を発揮した。

 その時箒は理解せざるを得なかった。彼女達と、自分との間に広がる大きな差を。

 

 

「もう一度だ……!」

 

 

 箒は剣を振るう。

 

 

 彼女の最大の武器、それは持ち前の剣の技術である。

 才能もあるが、長年積み上げてきた努力が生み出した力。

 

 

「(私には、剣しかない。ならばこの道を極めるのみ……!)」

 

 

 迷う事なく己が信じる道を行く。

 その姿は、まさしく日本の武士道であった。

 

 

「ふっ、はっ!」

 

 

 箒は訓練を続ける。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 そんな箒の様子を、少し離れたところから眺める一人の少女がいたことを箒は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

 

『はーい』

 

 

「入るぞ龍也」

 

 

 ガチャッ

 

 

「一夏か。どうした?」

 

 

「どうしたじゃねぇよ。お見舞いくらい来たっていいだろ」

 

 

 後日、先に回復したセシリアと鈴と別れ一人病室になった龍也。

 とは言っても本人の傷も癒えてきており、もうすぐでこの空間ともおさらばだろう。

 

 

「そっか、ありがとな」

 

 

「怪我の具合は?」

 

 

「もう大丈夫だ。身体の痛みも引いてるしな」

 

 

「よかった。みんな心配してるぞ?」

 

 

「何人かは来てくれたよ。本音ちゃんとかな」

 

 

「……シャルルは来たのか?」

 

 

「え?……いや。シャルの奴は来てないな。

 なんかあったのか?」

 

 

「少し様子が変なんだ。お前がボーデヴィッヒにやられた日から」

 

 

 一夏だけでなくクラスのみんなも異変には気付いていたが、あまり触れずにいた。

 

 

「んーあいつ寂しがりやだからなぁ。俺がいなくていじけてんだろ」

 

 

 あはは、と冗談交じりに言う龍也に苦笑する一夏。

 

 

「だからお前が気にかけてやってくれよ、一夏」

 

 

「今更言われなくてもそうするさ、任せとけよ」

 

 

「ふっ、ああ。

 

 ……それで、ボーデヴィッヒの件はどうなってる?」

 

 

「……特には、何も。あれから向こうからの動きはないな」

 

 

「…………そっか」

 

 

 何やら暗い顔をする龍也。

 

 

「龍也?」

 

 

「……なあ、一夏」

 

 

「ん?」

 

 

「………………」

 

 

 何かを言うべきか言わないべきか迷っているのを感じさせる。

 そして、

 

 

「……いや、やっぱなんでもない」

 

 

「おいおい、なんだなんだ」

 

 

 濁す龍也に疑問が湧いてくる。

 

 

「なんでもないっての。

 じゃ、早いけど今日はもう戻れ。もうすぐ先生が診に来る」

 

 

「お、おう。わかった。それじゃあまたな」

 

 

 追い出されるように部屋を出て行く一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頼んだぞ、一夏。ボーデヴィッヒのこと」

 

 

 人のいなくなった病室で一人、何かを親友に託す姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、はっ、はっ、はっ」

 

 

 早朝、学園の外周を走る箒。

 かれこれ30分前後は走っているだろうか。

 

 

 そんな箒の姿を遠くから見つけた生徒が一人。

 

 

「あれは……箒さん?」

 

 

 セシリア・オルコットだ。

 彼女は箒が訓練に明け暮れているのを以前から何度か見かけていた。

 

 

「(しかし、朝からとは精が出ますわね。お身体を崩さなければ良いのですが……)」

 

 

 箒が体調を崩してしまえば、彼は心配するだろう。

 すると、箒が立ち止まり呼吸を整え始めた。

 

 

「(あら、丁度いいですわね。少しわたくしから抑えるように言っておきましょう)」

 

 

 トレーニングのし過ぎではないかと心配ついでに注意をしようとしたその時、

 

 

「(なっ…………!?)」

 

 

 セシリアが見たもの、それはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ふぅ。あれ、飲み物はどこに……」

 

 

 スタートした場所に帰ってきて走るのを中断する。

 近くに置いたドリンクを飲もうと思い探すと、

 

 

 

 

「ーーー探し物はこれか?」

 

 

「ん?……な、ボーデヴィッヒ!?」

 

 

「………………」

 

 

 手に自らが持ってきたドリンクを持った、ラウラが壁に寄りかかり立っていた。

 

 

「受け取れ」

 

 

「わっ……あ、ありがとう」

 

 

「ふん」

 

 

 ドリンクを投げ渡される。

 キャップを開けゴクゴクゴクと飲み干す姿を、ラウラはじーっと見ている。

 

 

「…………なんだ?」

 

 

 視線に気を取られた箒はラウラに疑問を投げかける。

 

 

「…………何故」

 

 

「ん?」

 

 

「貴様は、何故そこまでして力を欲するのだ」

 

 

「…………え?」

 

 

「私に指導を断られながらも、貴様はISだけでなく心体の訓練も欠かさない。この学園のぬるい生徒達より目に見えて努力の量が違う。

 何故だ?どうしてそこまでして己を磨く」

 

 

 ラウラは、望んで自分から箒の姿を見ていたわけではない。

 だが、たった一度アリーナで箒を見かけた時、周りの人間達とは比べられない程の気迫で訓練をしているのを見た。

 

 

 決してレベルの高い訓練とは言えない。

 しかし、元落ちこぼれだったラウラにはわかった。

 目的のために一心不乱に努力をする、箒はそんな人間であると。

 

 

 そこから度々色々な場所で箒を見ていた。

 剣道場、学校の外周を走る時、何処にいても箒は変わらず努力を怠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之 箒、貴様が力を欲する理由はなんだ」

 

 

 

 

 

 

 ラウラは問う。目の前の少女を突き動かす原因は何なのか。

 

 

 ラウラの真剣な表情から伝わったのか、箒も真面目な顔になる。

 そして、語る。

 

 

「……私は」

 

 

 

 

 

 

「愛する者を自らの手で守れるようになる為に、強くなりたいんだ」

 

 

「ーーーーーーッ」

 

 

「今の私では力不足だ、だから鍛えるしかない。強くなれば私も同じステージに立てるからな」

 

 

 何かを諦めたような、でもそれでいて希望をまだ捨てていない目を見せる箒。

 その姿はまるでーー

 

 

「(半年前の、私より強い女ではないか)」

 

 

 千冬に会う前、ラウラは諦めていた。

 いや、努力を怠っていたわけではない。ただ未来に希望を見出せず心は既に死んでいた。

 

 

 でも箒は違う。今の自分を理解しながらも、前に進むために自分を変えようと努力をしている。

 

 

「す、すまない。柄にもなく恥ずかしいことを言ってしまった。忘れてくれ」

 

 

 ふと我に返り顔を赤くしその場を去ろうとする箒。

 

 

「ーー待て」

 

 

「ん?」

 

 

「………………」

 

 

 箒を呼び止めるラウラ。

 その目は、箒を射抜くように見ている。

 

 

 

 

 

 

「気が変わった。私がお前を鍛えてやる、篠ノ之 箒」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

「ーーーー箒さんッ!!!」

 

 

「せ、セシリア?」

 

 

「イギリスの……」

 

 

「ご無事ですか、箒さん」

 

 

「え?あ、ああ。

 どうしたんだセシリア、いきなり」

 

 

 会話に割り込んできたのはセシリア。

 

 

「…………先程の言葉、忘れるなよ」

 

 

「あっ、ボーデヴィッヒ……」

 

 

 先に去っていくラウラ。

 

 

「……箒さん、ボーデヴィッヒさんと何を話していらしたのですか?」

 

 

「…………い、いやぁ、た、大した話はしてないぞ?うん」

 

 

「…………本当ですわね?」

 

 

「な、なんだ、疑り深いな。本当だ」

 

 

「そう、ですか。なら良いのです」

 

 

 セシリアは箒の身を心配しての発言だったが、本人はーー

 

 

「(き、聞かれてないな?さっきの会話。

 愛する者がなんだとかセシリアに聞かれたのでは今後からかわれ続けてしまうからな……!)」

 

 

 違った意味で、焦っていた。

 




ラウラは箒に対して、自分と似た何かを感じ取るものがあったと認識してくだされば問題ありません。




さあ、箒の教官になったラウラはどうなるのか?

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