IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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あまり重要なことではないのですが、私から質問のようなものがあります。
気になる人はちらっと活動報告を見ていただきたいです。


第三十七話

 

 

 

 

「ただいま、箒」

 

 

 放課後、自室へと帰ってきた一夏は同居人の箒へ声をかける。

 がしかし、返事はない。

 

 

「…………箒?いないのか?」

 

 

 洗面所の方も軽く確認をするが、見当たらない。

 

 

「あれ、先に戻ってると思ったんだけどな」

 

 

 鞄を置きベッドにダイブする。

 そのまま仰向けになり頭の下で手を組む。

 

 

「(どうするかなぁ、ボーデヴィッヒのこと)」

 

 

 もし本当に人気のない場所で一対一にでもなろうものなら、それこそセシリアの言う通り話にもならずそのまま殺されかねない。

 何かしら対策を練る必要があるのだ。

 

 

「(……ていうか、俺寝込みとか襲われないよな?ど、どうする。考えてなかった。

 そうだよ、わざわざ正面からヤる必要なくないか?)」

 

 

 今更気付いたのか、現状に焦る一夏。

 すると、扉の鍵が外された音がして部屋の中に人が入ってくる。

 

 

 一夏は飛び起きる。

 

 

「ッ……!?」

 

 

「……なんだ、そんな驚いた顔をして」

 

 

「あ、ああ、箒か。悪い」

 

 

 入って来たのはルームメイトである箒。

 その様子は顔から見て取れる通り疲れており、一夏同様部屋に入って来てすぐにベッドへうつ伏せに寝転んでしまった。

 

 

「どうした箒?大丈夫か?」

 

 

「……ああ。少し疲れているんだ、気にしないでくれ」

 

 

「何してたんだよ、剣道部は行ってないんだろ?」

 

 

「……ISの訓練だ」

 

 

 箒は放課後、打鉄を借りてアリーナで訓練をしていた。

 

 

「そういや、俺達と一緒にやらないで別にやってるよな箒は」

 

 

「お前達専用機持ちのところにいたところで、私は邪魔でしかない」

 

 

「そんな事ないさ。専用機だとか訓練機だとか、そんなの関係ないだろ」

 

 

「……………」

 

 

 捻くれた言い方をする箒に一夏は疑問を抱く。

 

 

「(どうしたんだ箒、なんか悩んでるみたいだけど)」

 

 

「なあ、一夏」

 

 

「おう。なんだ?」

 

 

 箒が顔を上げ一夏の目を見る。

 

 

「もうすぐ学年別トーナメントがあるな」

 

 

「ああ」

 

 

「もし、私が優勝したら、一つだけお願いを聞いてくれないか?」

 

 

「なんだよ改まって。別にいつでも聞くけど」

 

 

「……それじゃ、ダメなんだ。私は……」

 

 

「箒……」

 

 

 いつに無く真剣な顔で言う箒に、一夏も真剣になる。

 

 

「わかった。でも俺だって負ける気はないぜ」

 

 

「ああ。わかっているさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は恋をしていた。

 一度は離れてしまった、幼馴染に。

 

 

 少女は一般家庭とは程遠い生活を送っていた。

 名を偽り、地方を周り、家族とも別れを余儀なくされた。

 

 

 少女は悩んでいた。

 自分では、恋をしている者に程遠いと。

 

 

 それは力か、或いはもっと別のものか。

 "復讐"という概念を体感していない自分は、彼と同じラインに立てないのか、と。

 

 

「(一夏に想いを告げるためには、私は強くならなくてはならない)」

 

 

 後ろ姿を追いかけることしか出来ない自分に、情けなくなっていた。

 他人から見れば何を悩んでいるのか、と一蹴されるかもしれない。

 

 

「(それでも私は……)」

 

 

 彼を、隣で支えたい。

 身勝手な願いかもしれないけれど。

 

 

「ーーー手段は選べないな、行くか」

 

 

 少女は動き出す。

 

 

 先日転入してきた二人のうちの一人、『銀髪で眼帯をした少女』の元へ。

 彼女が自分の愛する少年へと憎悪を向ける、復讐者とも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー後にこの行動が少年少女達の運命を大きく変えることになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうする鈴。お前がかけるか?」

 

 

「嫌よ。あんたがやりなさい」

 

 

「……はい」

 

 

 今病室には鈴と龍也の二人しかいない。

 そして、束からドイツ軍の連絡先が送られてきたので早速電話をかけようという状況である。

 

 

「(ボーデヴィッヒんとこの部隊の副隊長の連絡先とか、有能すぎんだろ束さん)」

 

 

 元より手に入らない心配はしていなかった。

 寧ろこれだけの事、束からしてみれば朝飯前だろう。

 

 

「ふぅー……よし。かけるぞ」

 

 

「って、ちょっと待った」

 

 

 思わぬ横入りストップに電話を落としそうになる龍也。

 

 

「おいぃぃぃ!?せっかくいいタイミングでいけそうだったのになんで邪魔するんですか!?」

 

 

「あんた、ドイツ語喋れるの?」

 

 

「……日本語通用するだろ?千冬さんもいたとこなんだし、全世界共通語なんだから」

 

 

「……大丈夫かなぁ」

 

 

「そ、そんな事言ってたら始まらねえよ!いいからいくぞ!」

 

 

 入力した番号先に発信する。

 

 

 prrrrrrr prrrrrrr

 

 

「……出ねえな」

 

 

「なんかやってるんじゃない?それとも知らない番号からは取らないようにしてるとか」

 

 

「あり得そうだな」

 

 

 prrrrrrr prrrrrrr

 

 

 ガチャッ

 

 

「ッ!」

 

 

 

 

『こちらIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼのハルフォーフ大尉だ』

 

 

 

 

「もしもし」

 

 

『……日本人?』

 

 

「突然のお電話すいません。IS学園に在籍している橘と申します」

 

 

 電話を取った相手は、『クラリッサ・ハルフォーフ』。

 シュヴァルツェ・ハーゼでラウラの下についていた、副隊長だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはどういう事でしょうか。軍内でしかこの番号は明かしていないはずですが』

 

 

「緊急で其方に聞きたいことがあったので、とある人物に連絡先を調べてもらいました。

 安心して下さい、軍内の情報等は一切持ち出していません」

 

 

『IS学園の生徒が、随分と思い切った行動をしますね。何をしているのかわかってのことですか?』

 

 

 クラリッサの言い方には棘があった。

 それもそのはず、一生徒が軍の機密番号に電話をかけるなどあってはならない。

 

 

「……承知の上です」

 

 

『……そうですか。それで、どんな要件でしょうか』

 

 

「(ん……?思ったよりあっさりしてるな。助かるけど)

 先日学園に転入して来た、ラウラ・ボーデヴィッヒさんの事についてです」

 

 

『ッ……ラウラ隊長、ですか。隊長が何か?』

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒという人間について、分かることを教えていただきたいと思いまして」

 

 

『……………………』

 

 

 ラウラの名前を出すと、何か心当たりがあるように黙るクラリッサ。

 少し返答に迷うようなそぶりを電話越しに見せる。

 

 

『何故ラウラ隊長のことを、ドイツ軍に直接聞くのですか?わざわざ機密番号を入手してまで』

 

 

「……今、学園では自分の親友とボーデヴィッヒさんが一悶着あって、揉めています。

 その一悶着を収めるためには、彼女を知る必要があると思ったからです」

 

 

「そして、織斑先生から教えてもらいました。先生は元ドイツ軍の教官で、ボーデヴィッヒさんはそこの隊長だと」

 

 

『教官が……?』

 

 

「お願いします、ほんの些細なことでもいいんです。何か彼女について教えていただけることがあるなら」

 

 

「龍也……」

 

 

 頭を下げる勢いの龍也を見て、鈴は気を遣ったのか部屋から出て行く。

 

 

『……橘さんと言いましたね、貴方は織斑教官と親しいのですか?』

 

 

「え?は、はい。中学生の頃からお世話になってますけど……」

 

 

『……わかりました。その言葉を信じます。

 私からは、話せる範囲でラウラ隊長の事をお教えしましょう』

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

『まず、いきなりですが重要なことを一つ。

 

 

 ラウラ隊長はーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーはいっ、確かに受けとりましたよ。織斑君とデュノア"さん"のタッグペアの申請書」

 

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

 

「あ、デュノアさん。学園生活は大丈夫そうですか?」

 

 

「……特に問題はありません」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろす山田先生。

 

 

「そうですか、なら良かったです」

 

 

「…………では」

 

 

 職員室へ学年別トーナメントのペア申請書を提出しに来たシャルル。

 無事に山田先生を用紙を出し終えたシャルルは廊下へと出る。

 

 

 すると、

 

 

「ん?貴様は……」

 

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

 通りすがったラウラと対面した。

 

 

「………………」

 

 

「待ちなよ」

 

 

 顔を見合わせたが、特に気にもとめず横を通ろうとするラウラをシャルルが止める。

 

 

「なんだ。貴様に用は無いぞ」

 

 

「お前になくても僕にはある。今度の学年別トーナメント、出るんでしょ」

 

 

「ああ。観衆の面前で奴を殺す、いい機会だからな」

 

 

「…………そう。それならいい」

 

 

 質問に返答すると興味を無くしたように歩き始めようとするシャルルにラウラが疑問を抱く。

 

 

「止めないのか?貴様の友人が殺されようとしているのだぞ」

 

 

「『関係ないね』。それに、僕には僕でやることがある」

 

 

「やること?」

 

 

「ああ。

 

 ……君を、殺すことだ」

 

 

「………………ほう」

 

 

 面白いものを見つけたように口を歪めるラウラ。

 

 

「私を殺すだと?」

 

 

「僕は一夏とペアを組んだ。君が一夏を殺そうとするなら、その時は僕が一緒にいる」

 

 

「つまり、織斑 一夏を狙う前に貴様と戦えと?」

 

 

「そういう事だね」

 

 

「……くっくっくっ、あはははは!この前の奴の敵討ちというわけか、面白い!」

 

 

 高笑いをするラウラを睨み続けるシャルル。

 

 

「いいだろう。そこまで言うのならば、私を退屈させてくれるなよ」

 

 

「退屈なんてする間も無く、殺してあげるよ」

 

 

「ふん。抜かせ」

 

 

 今度こそラウラは歩き始める。

 その表情には、獰猛な笑みが浮かべられていた。

 

 

 ーーそして、シャルルは去っていくラウラを、殺意の篭った目で見ていた。

 




ラウラについて一歩龍也が先に行きましたね。
箒が何をするかは次の話で。


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